第13話
山間部を流れる川――
「流れは穏やか。はっ……は……幅はおよそ10mと思われます、えっと、私の概算では。ひ、ひ、非常に透き通っています。あまり深くはなさそうです。ろ過機を、つつつか、つか使えば問題なく飲めるかと思います。周辺に、ぃ、いい、ぃい、い………異常はありません」
双眼鏡を目に当てながら、えいらが報告する。その額に、汗がにじむ。
尾根には、太陽の光が遠慮なく降り注いだ。標高がそれなりなので、かなり快適な気温であるが、陽射しが強烈であるため体は温まる。
「報告ありがとう」
小隊長が、アイの指導のもと鳥を捌きながら、ねぎらう。2羽のそれらは、ボウガンで撃ち落としたものだ。
緊張感はと言えば、既に無かった。テントは、隠れるための物なのに、両側にある入口をオープンにして、開放感を重視する始末だ。その中では、あおめがコイルガンを鼻歌交じりに整備している。
彼女たちの計画としてはこうだ。夜になったらまた下山をする。ちょうど彼女たちの先を行くようにして東へ川は流れているので、川辺からつかず離れず、山間を縫うようにして進んでいく。アイによれば、そのうちに小規模な村落があったところに着くそうだ。人の痕跡が残っていないにしても、そこを足掛かりにしてもっと大きな町のあった場所へも行けよう。
3人は、わずかながらの鳥肉といつもの缶詰を味わい、腹を満たした。そうしたら、夜までおねんねの時間だ。涼しいテントに寝転がった。
「えいら?」
どこだと左右を見たら、すぐに見つかった。入口のところで、双眼鏡を覗き込んでいた。
「どうしたえいら、もうテントに戻っていいぞ。昼飯の後は、夜まで寝るぞ」
「も、もう少しだけ見てていいですか? た、楽しくて……」
「ああ、そうだったのか。なら好きにすればいい。何か面白いのがあったら、私たちにも教えてくれ」
「イケメン見つけたら教えてねー」
あおめが目を閉じたまま、心地よさそうな顔をして言った。
「そ、それはいないと思うけど――ん? あれ?」
何かに気がついた彼女が、たいそう驚いた様子なので、あおめがパチッと目を開けて、体を起こす。
「え? ほんとにいたの? 人喰い巨人界隈ではイケメンの可能性があるとかじゃないよね」
しかし、えいらはそれに答えることもなく、驚きの声を上げ続けた。
「えっ? で、でも……えっ?」
「どうした。何があった。敵対的存在の可能性があるか? どんなやつだ? こちらに気がついているか? 何をしている? 何体いる?」
さっきまで眠たそうにしていた小隊長が、一気に気を張り詰めさせて、えいら一等兵に問いかける。
当の本人は、そうした緊迫感も無く、ただただ驚きに包まれているばかりであった。やがて、目に貼りつけていた双眼鏡をゆっくりと下ろし、呆然と報告した。
「い……い…………いっ家が、あります。向こうの山のところ」
「家? 遺跡か?」
「違います…………」
遺跡でない? 2人は途端に彼女の言おうとしていることが分からなくなってしまった。答えを知るには、えいらが喋るのを待たなければならなかった。
草がサァーっと音を立てたかと思うと、山を一気に駆け下っていくような風が吹いて、えいらの髪を舞い上げる。それは後ろから吹いたので、ブロンドの髪が、彼女の横顔を隠すようにしてなびいた。
風が落ち着いて、再び静かになる。
その時を待っていたかのように、彼女は口を開いた。
「――――人が……います」
風が吹いた。さっきよりも、ずっとずっと、強い風だった。彼女たちを、今にも吹き飛ばしそうだった。




