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雪よ、降レ!  作者: りっか(監修/訳=Yuki.)
第1巻
12/40

第12話


「まもなく日の出です」


 アイが小さな音量で告げた。それとともに、夜空がわずかに白みはじめていることに気がついた。


 星々が薄れゆく。輝く明けの明星ひとつ。変わらずそこにあるのだけれど、主役はもうじき彼らじゃなくなる。この尾根より高いのが向こうにあるが、その奥側が底光りをはじめて、光が漏れだしてきていた。徐々に手前の方に向かって、空の色を塗り替えていく。黒かったのが、紺色に。紺だったのが、薄い青に。そして、白く燃えるかのような、淡い黄色。

 

 

「――ねえ。2人とも」


「どうしたんすか?」


 急にしんみりした調子の小隊長に驚いて、両隣の女の子たちは、そろってその顔を見た。

 彼女は、なんと言うべきか考えているようだった。日が昇りゆく稜線を、一筋に見つめながら、きっと、色々な言葉が頭を巡ったに違いない――


「――ありがとう」


 ただそう述べるに留めたその顔は、どこまでもまっすぐ東に向いていた。


 他の2人も、そうすることにした。


 世界は、広い。これほどの高みから、あんなに遠くの輝きを、あれほど眩しい光を、かつて地下で見たことがあっただろうか。暗がりで泣いていたあの頃の自分に、教えてやりたいと思った。

 

 さて、いよいよ、あまりにもまばゆいので直視できなくなる。光の向こう側に、太陽の真ん丸な輪郭がぼうっと浮かび上がる。光が、彼女たちの顔に、真正面からぶつかった。目が痛い。できることならば、瞬きもしないで、ずっとその目に輝きを注いでいたかった。


「……太陽や」


 あおめがぽつりと呟く。


「太陽や」


 すっくと立ちあがった。体や頭にまとわりつく重いのを脱ぎ捨てて、ぜんぶ草の上に転がした。ブーツも脱ぎすてて、裸足になった。


「太陽や!」


 それこそは、地面の下にずっと埋められていた体が、求めていたものだった。感じたことのない喜びが湧いて湧いて止まらないので、ついには抑えきれなくなって、叫んだ。飛び跳ねた。駆けた。


「太陽や! 太陽や! 全部タダや! 誰も独り占めできひん、みんなの太陽やあ!」


「おい、あまり調子に乗ると危ないぞ。って、えいらまで……」


 仕方がないので、小隊長もそれに加わった。

 足の裏に(じか)に感じる、草と土。肌に浴びる、陽射し。空を自由に駆ける鳥。あまりにも贅沢だった。


「やーっ!」


 えいらの腹から出た声が、太陽に向かって飛ぶ。山の上にいたら、とりあえず何か叫びたくなるのは人間に共通であるようだ。あおめも、「うおー!」とか「あぁー!」とか大音声(だいおんじょう)を上げて、わずかに返ってくるこだまを楽しんでいる。

 最初は躊躇していた小隊長も、仕方がないからそれに参加して、いつしか3人で同時に叫ぶようになっていた。

 いつもは規律にうるさい小隊長も、なにも咎めなかった。きっと、しわの数だけ歳を取っている老兵たちだって、同じことをするに違いなかったから。


 せーの――


「やっほー!!!」


 どこまでも、どこまでも自分たちの声が飛んでいくのが、面白かった。


 ひとしきり叫んだあと、自然と3人で笑い合った。なにが可笑しいかは分からなかったけれど、勝手に笑えてきたのだから、仕方がない。楽しい、というのはそういうことだった。


「息抜きはストレスを緩和するのに必要ですが、油断はしないようにしてくださいね」


 アイが、それまでと変わらない位置に滞空しながら、忠告する。


「はーい」


 そういえば、と思い出して、装備を再び着けはじめる兵士たち。けれど、重いアーマーやベストは、最後まで草に寝転がったまま。今だけは、お日様が優先だから仕方がない。そう、仕方がないのだ。


 地底人たちは、夜明けを知った。

 

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