屋敷の掌握
少しグロ注意
「ふむ。何処かの大事な部分以外は隠していないメスガキに見習わせたいぐらいには似合ってるな」
「えー?そんなこと言っていざ、アスモちゃんがお清楚なメイド服着たらあっさりと陥落しちゃう雑魚性癖な癖に〜」
「美しい女が着飾った姿に魅入られるのは男の性だからな」
「……」
俺の目の前に嬉しそうな笑顔を浮かべながら、長い髪をクルクルと指で遊んでいるメイド服姿のシュバリエが居る事から分かる通り、無事に彼女を手に入れた俺達は屋敷へと戻り、野暮用を済ませてから数日が経過していた。
コロッセオの支配人だった男が死んでいたし、従業員含め全員が逃げて出していたからシュバリエを連れ帰るのは難しい事ではなく、一応奴隷一人が買える程度の相場の金は置いてきたが、確実にシュバリエの価値には見合っていない。
「相変わらず下半身に支配されてるねぇ。そのうち、ご飯もそっちで食べるんじゃない?」
「俺は化け物か」
「性欲の化け物ではあるよね」
「……」
「首を激しく縦に振るなシュバリエ。まだお前は抱いてないだろう」
じゃあ抱いて?と言わんばかりに首を傾げながらスカートの裾を持ち上げるな。
俺だって早くシュバリエの身体を堪能したいのだが、今の彼女は控えめに言っても従者として連れ回すのに向いていない。
「お前を抱く時は俺の護衛として連れ回せるだけの礼儀作法を身に付けてからだと言っただろう」
ずっと戦いばかりであったシュバリエはどうにも、すぐに武器を振り回そうとする悪癖があるのが屋敷に帰ってくるまでの道中で明らかになった。
例えば──
「……」
「シュバリエ。偶然、馬車の前を通った人を威嚇するな」
──帰り道の途中で馬車の前を不意に横切ろうとした家族に大斧を向けたり。
「……」
「シュバリエ。それは野鳥だ。食料なら十分にあるから離してやれ」
──野営をしている時に何処からともなく、動物を捕まえてきては食べようとしたり。
「……」
「シュバリエ。行商人を睨みつけるな」
──偶然、遭遇した旅の商人──割と胸が大きい女性──を睨みつけたりと言った護衛に適した警戒心とするなら褒めるべき事柄だが、流石に身内以外の全員に一々、武器を構えたり殺気を向けたり野生児全開の行動を取られては貴族として振る舞う必要がある場に連れて行けない。
それを指摘したらめちゃくちゃ嫌そうに顔を顰めたから、俺の女として抱くには礼儀作法を身に付けてからと条件をつけたのだ。
人間、嫌な事でも褒美があれば真剣に取り組むというのは大門寺の記憶が教えてくれたからな。
「ま、アスモちゃんとしてはシュバちゃんがダメダメで居てくれると嬉しいんだけどねぇ?」
またこいつはシュバリエを露骨に挑発する様に俺の首筋を舐める……くすぐったいんだよなぁ。
「……」
「あはっ!」
ジト目になるシュバリエを見て楽しそうに笑うアスモ。
相性が良いのか悪いのか分からないが、アスモだけが俺にべったりしてる状況がシュバリエは嫌みたいだからやる気には繋がっているんだよな。
「少し話が逸れたが、シュバリエには先輩として人を付ける。入れ」
「はい。失礼いたします」
扉を開けて部屋に入って来たのはうちの使用人の中では珍しい純粋にミヒャエル家に忠誠を誓っている一人、御年70歳のメイドであるミリィ・ハーネスだ。
髪こそ白髪が目立つが、凛と立つ姿には年齢を感じさせず、まだまだ現役を張れる生命力に満ちている。
「此方が例の」
「あぁ。喉が潰れていて声を発する事は出来ないが、コロッセオで二つ名を冠する程には出来る奴だ。厳しく、みっちりと仕込んでやってくれ」
「イエス、マイロード」
頭を軽く下げ返事をする姿を見てもやはり、気品に満ちていると言って良いな。
年齢が若ければと思ったが、彼女のあの雰囲気は今まで重ねて来た年月があるからこその良さであって、若い時が俺の趣味とは限らんか。
「……」
「行きますよシュバリエさん」
「……」
「行きますよ?」
「……」
おぉ、あの有無を言わせない態度に流石のシュバリエも頷くしかなかったか。
自分が気圧された事に驚きつつ、ミリィに連行されて行くシュバリエの姿に首根っこを掴まれて、親猫に運ばれる子猫の姿が重なったせいかほっこりとした気分で彼女達を見送る事になった。
「……雑事を済ませたら様子を見に行くか。面白そうだ」
「おっ、良いね!!アスモちゃんも大賛成!!」
「お前はシュバリエを弄りすぎない様にな」
「あはは!!だってシュバちゃんの反応、分かり易くて面白いんだもん」
これはやめる気ないなと思いつつ、彼女らのやり取りは俺としても和むから良いかと諦める。
「さて、じゃあ退屈な時間を始めようか」
極めて面倒ではあるが、今後の事を考えれば早めに取り掛かるに越した事はないし、俺としても目の届く範囲で蛆虫が動き回るというのは不愉快だからな。
「ひ、ひぃぃぃぃ!!!」
どうしてこうなった!?
新しく当主になったのは15歳を迎えたばかりの子供で、しかも当主になった直後にすぐ小さい女を二人も拾ってくる様な色ボケした奴だろ!?
「喚くな蛆虫。存在だけでも鬱陶しいというのに耳障りな声を聴かせるな」
ほんの一瞬、瞬き程度の時間が経っただけで部屋中が気色の悪い触手に満たされてるんだ!?
俺はただ、新しい当主の挨拶だと聞かされて執事長に案内されただけだぞ。
それがなんでこんな地獄みたいな空間に立たされている!?
「全然、状況を理解出来てないって顔だねぇ〜?あははっ!!おにーさん、ただでさえ雑魚なのに頭までよわよわなのぉ?」
「な、なんだと!?」
「あはは!!怒った怒った!!」
なんなんだこのクソガキは……この触手に満たされた空間が怖くないのか?
「ザンキ・ニエル。貴様には俺が不在だった間に、他家のしかもミヒャエル家と政治的な対立を抱えているグレイアス家と通じた疑いがある。これは真実か?」
「ッッ!?」
な、なんでそれがバレてるんだ!?
い、いやそもそも悪魔との契約があるから裏切りなどどうでも良い筈のミヒャエル家当主が今更、素性調査など……
「……どうした。沈黙を貫くなら真実と断じるぞ」
不味い……兎に角、今は目の前のクソガキを言い包めてどうにかこの場を逃げ延びなくては。
どうやって調べたのかはこの際、どうでも良い……わざわざこうやって質問の形を取ってるって事は確固たる証拠を押さえている訳ではない筈だ。
「ち、違いますよ。確かに俺は知り合いがグレイアス家に居ますが、そいつとは単なる友人で。きっと事情をよく知らない人が勘違いを……」
「だそうだぞ。真実か?ウラ・ウォーカー」
「……え?」
その名前と共に顔面蒼白で触手に拘束された女性が現れた事で俺はその場に崩れ落ちた。
だって、彼女は俺の恋人で……ミヒャエル家の情報と共に雇われようと思っていたグレイアス家のメイドなのだから。
「あ……その……」
「話せ」
「あっ……はい。私とザンキは恋人で彼がミヒャエル家の秘密と共にグレイアス家に来るから協力して欲しいと頼まれました。ですから先程の彼の言葉は偽りです……え、あ……なんで私……はなして……」
あいつが今、何かしたのか……?
急に人形みたいに表情の全部が消えたかと思ったら隠さなきゃいけないことをあっさりと話した……ウラが俺を裏切る筈がない……!!
「テメェ!!」
「きゃぁぁぁ!?!?」
あ、れ、?なんか、腹が、あつ、い……
「……裏切り者め」
触手が……腹から伸びて……あぇ?……ウラも……貫いて……
「アスモ」
「うん。これで血は手に入ったから化ける準備は出来たかな」
「そうか。本当に便利だなお前の眷属は」
「そうでしょそうでしょ?もっと褒めてくれて良いんだよぉ?」
薄れゆく意識の中で見えたのは、女の子の頭を撫でるクソガキの姿と彼らの後ろで粘液状のナニカが俺の姿に変わるところだった……
「テケリ・リ」
そんな鈴の音の様な鳴き声が聞こえた気がした。