表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/15

魔物とて子供

昨日、投稿忘れてました()

『キィィィ』


 己が予定よりも早く生まれてしまった事はずっと聞こえ続けていた鼓動が途絶えた事で知っている。

 『母』の記憶を引き継いではいないが、ずっと感じていた『母』の匂いを濃く纏う奴が亡き骸を食い破って出てきた己に気付かずに背を向けていたから復讐も兼ねて、ずっと腹のうちをぐるぐると五月蝿いモノを吐き出した。


「……!!」


 勘の鋭い奴だ。

 手に持っていた物で己が吐き出したモノを防いで、吹っ飛んだけど死んでいない。

 じゃあ、殺さなきゃ──そう考えた瞬間、己が吐き出したモノを遥かに超える力を感じ取って其方に視線を向ければ堂々と座っている奴とさっきの奴よりも小さい奴が己を見ていた。


『キィィィ!!』


 己を見下すその視線が鬱陶しいから殺そうと決めた。








「ほぅ」


 目の前でヒビの入った魔力障壁を一部砕き、俺の頭を鷲掴みにしようと迫るのを全く姿勢を変えずに見つめる。


「ひぃぃぃ!!」


 何やら肉が騒いでいるが、この魔物の狙いが狙っているのは俺だという事に気がついていないのだろうか。

 仮にも遜った相手が危険に晒されているのだから、少しくらいは身を挺して守るぐらいの素振りを見せるべきだと思うがまぁ良いだろう──そんな殊勝な真似をしていたら今頃、全身穴だらけになっていただろうからな。


「やはり便利だな。お前の眷属」


「でしょ?まぁ、ちょっとねちっこくてすぐに頭をおかしくさせちゃうのが欠点なんだけどねぇ」


「敢えて用途は聞かないでおこう」


 魔物の腕を絡め取り、完全に動きを封じているテラテラと光る触手は親父殿を殺した時と同じモノだ。

 軽く脳内でイメージするだけで動いてくれるのだから、アスモはああ言っているが何か褒美でも用意した方が良いだろうか。


『キィィィ……』


「俺を忌々しそうに睨むのは勝手だが猿。来るぞ、暴君が」


「……」


 触手を緩めるのと同時にシュバリエが凄まじい勢いで横から魔物を襲い、魔力障壁を破壊しながら吹き飛ばしていく。

 あいつが魔物の本体であるなら、先程と同じで切断はされていないだろうが体格がかなり小さくなった事で吹き飛びやすくなったのだろうな。


「……」


「何やら疑われている気がするが、アレは知らん。そこの肉の不手際だろうよ」


 ジトっと見るなシュバリエ。

 目標をお前から俺に変えたのは恐らく、魔力に反応してだろうがそもそも魔物として現れた方には関与していない。


「まぁ良いか。おい、成金とやら」


「カ、カネナリです!」


「何処で見つけてきた?」


 魔物が生まれるには魔力を多分に含んだ空気や食べ物が必要だと考えられているのだが、それだけ魔力が多いと優れた武具になり得る鉱石や、不思議な効果を持つ植物や水、果てには魔法の才能が開花するなど人間にとっての恩恵も多い。

 どうせ俺の可能性は全てアスモに消化されるが、領主として使える物が増えるメリットを逃す手はない。


「帝国のな、南部地方に広がる森とだけ聞いてますぅぅ!!」


「チッ、俺の所領外か」


 帝国は無駄に広い為、大きな括りで場所を示す際は今の成金の様に帝国のナンタラと表現し、詳細に説明する場合はミヒャエル領のナンタラと続く。

 つまり、あの魔物は俺の所領で生まれた奴ではないという事だ。

 こいつ、本当にそこそこの金を持っている様だな。


「これで分かっただろう。俺はただ観戦に来ただけだシュバリエ」


「……」


 うん?まだ怪訝な目を向けているな。

 魔物との関与を疑われているんだと思ったが、この感じからして違うらしい。


『キッ!!』


「っと呑気なお喋りは一旦ここまでか」


 足を組み直し再び、背もたれに背中を預けシュバリエに顎で魔物の相手をしろと示す。

 

「……」


「俺は自衛しかしないぞ」


「……」


「あはっ!ガリウスってば凄い呆れられた目で見られてるかわいそう〜」


 そんなものは知らん。

 俺の目的に魔物の討伐は含まれていないからな。


「……」


『キィィィ!!』


 大斧が静かに振るわれ、再び俺へと飛びかかろうとしていた魔物をコロッセオの中央へと吹き飛ばすシュバリエは、チラリと俺を見てから魔物を追いかける。

 品定めは好きにしろって感じの目だったな。


『キィィア!!』


 シュバリエへの怒りを示すかの様に大口を開け、牙を見せながら威嚇する魔物だが当然、彼女は全く怯む様子なく大斧を片手で構えてながら歩いて近づく。

 そんな彼女を見て漸く、俺を狙っている暇などないと悟ったのか大きく息を吸い込み、お腹を大きくする魔物。


「生まれたばっかりだから魔力の使い方を模索してるって感じかなぁ?」


「ふむ」


『──!!!!』


 そう言えば母親だった奴も空間を震わせる程度には咆哮していたかと、自分の目の前に触手を幾つも重ね合わせながら思い出す。

 全方位に展開されている魔力障壁が小気味の良い音を立てて割れていくのを考えれば、初撃のアレは魔力で指向性を持たせた咆哮だった訳だ。

 自身が発する咆哮に魔力を宿らせ、『音』そのものを武器に転じるか……仕組みが分かれば単純だが、それ故に破壊力が凄まじいな。


「あ、が……」


 単なる音ならば精々、鼓膜が破れ難聴になる程度で済むが魔力を宿している事で耳から入った音は脳を破壊する衝撃波になるのはすぐそこで血の涙を流し、崩れ落ちた成金を見ればよく分かる。

 ただ、俺の様に触手で覆うなどして音の直撃を受けなければ耳鳴りがする程度には抑えられる様だな。


「アスモ。戦いはどうなっている?」


「んっとねぇ……シュバリエちゃんがすっごい顰めっ面しながら両耳を自分の手で塞いでる。あの感じからして空気を吸い込んだ時点で攻撃を察していたのかな?」


「大した危機察知能力だな」


 触手を通して震えが止まったのを確認してから引っ込ませれば、音響攻撃が不発に終わった魔物がシュバリエへと襲いかかっていた。

 小さな身体を活かし、左右に跳ね回りながら殴りかかる魔物の動きにシュバリエは反応しきれないのか、防戦一方となっている。


「……いや、先程のダメージか」


 両手で耳を押さえる事で脳が破壊されるのは防げたが、あのデカい大斧が災いしたのか動きが鈍る程度には脳を揺さぶられたと考える方が今までのシュバリエの動きからして妥当だな。

 あの猿もどきの魔物がそこまで読んでいたのかは分からないが、彼女が脳の揺れを抑えるまでに有効打を与えられれば奴の勝ちだ。


「……」


 それを理解しているのかシュバリエも、攻めるチャンスを見出しても迂闊に攻めず守りに徹しているが、見えていない左目側の反応が遅れている。

 どうにか抗えているのは今まで培った経験からくる技量が魔物を上回っているからだろう。


「さて、この不利をどう覆す?」


 相手の一撃が母親となっていた奴より軽いとは言え、その分連撃と小回りがよく効く。

 シュバリエの身体が小さいから大斧は彼女の身を守るに足り得ているとは言え、大きさと重さはかなりの物だろうから左目のハンデも相まって確実性に欠ける。


『キィィィ!!』


 動き回る速度が一段と速くなったな。

 足回りに力んだ様子は無い事から察するに魔力による強化か。


「……」


 先程の時点で大斧を盾にし防ぐのはギリギリだったのだから、向こうの速度が上がれば守りが間に合わずシュバリエ自身が身体を動かさなければ避けきるのが難しくなるのは当然。

 急所である頭部と心臓部辺りはどうにか身体を動かしているが、そろそろ限界が来るだろうな。


『キィィィ!!』


「……」


 受けに回った大斧をすり抜け、魔物の拳がシュバリエの腹部に当たり、彼女が大きく吹き飛び地面へと転がる。

 苦しそうにしている辺り、ダメージは相当のものと考えて良いだろう。


『キッキッキッ!!』


 喜びの声を上げ倒れ、呼吸の乱れているシュバリエへと近づく魔物は彼女の長い銀髪を掴み上げ顔を持ち上げると、嘲笑う様に苦しげな顔を見て悦に浸っている。

 自分の母を殺し、獲物を仕留める邪魔をしてくれたシュバリエを倒したのだからああやって悦びたくなる気持ちは分かるが……残念だったな。

 そのまま俺にシュバリエの顔が見えない様に殺せばこんな気は起きなかったというのに。


『キキッ!?』


「ククッ。その状況でなお、絶望に染まらぬ顔。気に入ったぞシュバリエ」


 立ち上がりコロッセオへと足を踏み入れる。

 今までずっと様子を見ていた俺が邪魔してきた事に驚いた魔物が、シュバリエを守る様に蠢いている触手を忌々しそうに睨みつけている。


「来い。遊んでやろう」


 俺の女を傷つけた対価はその命で払ってもらうぞ猿。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ