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『銀の暴君』

 ガリウスが住む『大ドラグノヴァ帝国』は大陸全土を支配下に治める巨大な帝国である。

 遥か昔、神話の時代に剣一本で巨大な黒龍を討ち倒したという誰も信じない夢物語を信じた『ハインツ・ドラグ』──後のドラグノヴァ帝国、初代皇帝となる男──が武力を用いて隣接する他の貴族達の領土を侵略したのがこの大帝国の始まりだ。


「……」


「ガルル」


 そんな始まりを持つためか常に大盛況な巨大な円形状の建物である『コロッセオ』の中央。

 固められた砂の地面に立つのは、左目を隠す様に銀色の髪を伸ばす日焼けした少女でその身体には無数の傷跡が刻まれているのだが、手に持つ身の丈以上の大斧を軽々しく担ぐ姿は、悲壮感よりも強い生命力を感じさせる。

 そんな彼女と向かい合うのは、この日の為に餌の数を調整され空腹状態からダラダラと涎を垂らす『虎』で血走った瞳は獲物と定めた彼女を睨みつけている。


「こぇぇ……でも、良いぞ!!やっちまえ!!」


「無敗伝説を終わらせてやれ!!」


「俺はあんたが勝つ事に全財産を賭けてるぞ!!『銀の暴君』!!」


 コロッセオに足を運び、目の前のショーに歓声をあげる者達は思い思いの言葉を発するが、そこには当然の様に()()()()()()()()()()()

 それも当然の事で、彼女は所謂、奴隷と呼ばれる立場で同じ人間ではあるものの娯楽として消費される単なる『商品』なのだから。


「……」


 しかし、少女には全く恐怖心はなかった。

 目の前の虎を前にしても彼女は大斧を構え、虎の出方を伺う余裕すら見せている。

 やがて、観客の熱に堪える事が出来なくなった飢えた虎が少女に向かって飛び掛かった。


「ガァァァ!!」


 肉食の獣として自然界を生きる虎は、自然界から隔絶した街に住む事を選んだ人間よりも遥かに屈強な筋肉を持つ為、その瞬間最高速度は時速75kmとも言われている。

 成人男性が何人も集まっても運ぶ事が出来ない重さを、たった一匹で10m 以上運ぶ事が出来る筋力から繰り出される鋭い鉤爪はこのコロッセオでも数多くの奴隷達を引き裂いてきた事からわかる通り、少女に直撃すれば一溜まりもない。


「……」


 ()()()()()()()()()

 大斧を持っているとは思えない軽い身のこなしで、虎の鉤爪を避けた少女は大斧を無防備に曝け出した首筋へと振り下ろす。


「……」


 勝者はただ一人。

 虎の肉体から噴き出す血の雨をものともせず、一撃で切断した虎の頭部を掴み上げるとそれを周囲へと示す様に掲げた──一際、大きな歓声が響き渡ったのは言うまでもないだろう。







「ぐっ……流石に腰が痛いな」


「あはは!アスモちゃんと丸一日、貪り合って腰痛程度で済んでるのがおかしいって自覚あるぅ?」


 なんだ俺は精と一緒に命でも吸われていたとか言うのか?

 仮にそうであったとしても、俺の色欲が満たされていない以上アスモが俺を殺すことなどあり得ないのだからこれ以上考える必要はないな。


「親父殿の公務の幾つかは俺が引き受けられるが、顔出しが必要なものは不可能だな。アスモのせいで一日遅れてしまったが、親父殿は病気を患ったと周知させる必要があるな」


「自分もノリノリだった癖にぃ〜♪」


「……それはお前自身を指して言ってるのか?」


「あはっ!エッチ!!」


 機嫌良さそうにアスモがベッドの淵で足をプラプラと揺らしているのを目の保養にしながら、幾つかの書類仕事を捌いていく。

 親父殿の仕事を時折、手伝っていたから大概は理解して片付ける事が出来るがふむ、やはり『繁栄』という悪魔の加護を失った以上、見直さなければならない箇所が多いな。


「全く、悪魔の力というのは恐ろしいな」


 例を一つ挙げるなら、明らかに税として取り上げる金や食物のバランスが悪い……なんだ8:2の分配は、おかしいだろ。

 これでは農家の者達が餓死をしてしまう筈なのだが、上手く領地経営が回っていた辺り悪魔の力で魚や野生動物が増えたりしていたんだろうな。


「ふむ。奴隷か」


 書類を捌いていく中で、先日執り行われたコロッセオでの結果報告書が目に止まった。

 この国は武力で成り上がった影響か、暴力を肯定的に考える者達が多く、弱い者が悪いという風潮だ。

 大門寺の記憶のせいでどうにも慣れない感覚だが、貴族として強者の側に立っているのもあって俺自身はさほど気に留めていない。


「うん?奴隷の身分にガリウスが欲する様な人がいるのかい?」


 いつの間にか横に立っていたアスモが俺の書類を覗き込みながら、当たり前の様に膝の上に座る。

 

「さぁな。親父殿が生きているうちは俺に購入権など無かったから碌に調べてもいない」


 何故か親父殿が奴隷を購入させなかったからな。

 まぁ、女の奴隷でも買い与えられていれば即座に使っていただろうからその判断は正しかったが。


「じゃあ良い機会だし見てみたら?アスモちゃんもちょっと見てみたいし!」


「お前は奴隷の暗い顔が見たいだけだろ」


「あはっ!」


 可愛く笑っても誤魔化せてないぞ悪趣味な奴め。

 だがまぁ、アスモが言うことも一利あるし、今後の事を考えれば護衛として使える奴隷が居ても良いとは思っていた。


「……む」


 報告書ついでに、我が領地で運営されている奴隷達の顔写真を見続けていると一人、興味が唆られる女が居た。

 奴隷という立場が故に、写真に写る者達は皆、アスモが喜ぶ様な辛気臭い顔をしている者達ばかりなのだがこの女は強い意志と生命力を感じさせる黄金色の瞳を有しており、左目を隠す様に伸ばされている銀の髪も手入れをすれば宝石の様に輝くだろうと思える。


「無敗を誇る『銀の暴君』の二つ名を持つ奴隷。名を『シュバリエ』か」


「……えー?こんな見窄らしい奴が気になるの?ガリウスってば悪趣味〜。それよりもほら、こっちのシスター気取りの癖に辛気臭い顔をしてる子の方が良いって!!」


「そいつはどう見ても地雷だろ。なんだ売り文句が『虚空と会話出来ます』って売るつもりあるのか?」


「神様〜どうか哀れなる私をお救いください〜って祈ってるんでしょ?こういう子から信仰心を奪うのが楽しいんだよぉ?」


「……考えるだけはしておく」


 アスモの機嫌が悪くなったら買い与えることにしようと決め、シュバリエが何処のコロッセオに居るか覚え立ち上がる。


「此処から馬車で三日程か。腰の休憩にちょうど良いな。行くぞアスモ」


「ちぇ、結局その子を見に行くんだねぇ」


 部屋の隅で待機していた使用人に馬車を呼ぶ様に命じ、外行きの格好へと着替える。

 勿論、アスモにツノと尻尾を隠す様に命じるのも忘れずに。


「失望させてくれるなよ?シュバリエ」

みんなが好きな女の子の属性はなんでしょう?

私はお嬢様タイプが好きです。

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