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皇帝

「ようこそ。テロスミラへ!皆さんはこれからのドラグノヴァを背負っていく人材。どうかこの学園に在籍する四年間の間に、より良い学びと繋がりを得られると良いですね!」


 帝国内の全ての貴族の子息達を集めるなら、もっと大勢いるかと思ったがざっと数えて六十人ぐらいか。

 まぁ、そう都合よく毎年全ての貴族が16歳となる子供を作っている訳ないか。


「私はリィーン・スクリア。四年間よろしくお願いしますね!」


「……貴族が通う学園の教師にしては表裏の無さそうな笑顔だな」


「だねぇ。顔立ちも可愛らしいし、アスモちゃんちょっとつまみ食いしたくなるかも!」


「お前な……」


 色欲らしいと言えばらしいが公言するな。

 見ろ、お前の隣に座ってる同じ従者の生徒が驚いた目でお前とリィーン教諭を交互に見てるぞ。

 室内の中に階段上になって設置されている机と椅子の最前列に座っている為、そこまで多くの人間がアスモの言葉を聞いてないとは言え屋敷の時の様に不都合な相手をスワンプマンに置き換えるという力技は使えないのだから不用意な発言は少なくして貰いたいところだ。


「私の挨拶はこれくらいにして少しだけこの学園の方針を説明しますね。皆さん、受付で貰った学生証を取り出してください」


 手のひらに収まるくらいの黒色の学生証取り出す。

 周囲を少し見た感じ、赤が少しと橙や黄の色が多い辺りこの席順の意図が透けて見えてきたな。


「皆さんが当たり前の様に使っている魔力ですが、大きく分けて二つの分類がある事はご存知ですね。今、私達の周囲に空気と同様に漂う『環境魔力』と皆さんの心臓を中心に生成される『生命魔力』、この学生証はその生命魔力によって色が変化する仕組みとなっています」


 『環境魔力』と『生命魔力』……リィーン教諭の説明では別物の様に聞こえるが、恐らく俺達貴族に正確に説明する必要はないと判断して簡潔にしたのだろうな。

 厳密に言えば両者は性質の違いこそあれど同じだ。

 なにせ、俺達は環境魔力を呼吸と同じ様に取り込み、それを心臓が身体に適した魔力──『生命魔力』へと変換し蓄える。

 俗に言う魔力切れと言う症状はこの蓄えていた生命魔力が尽きる事を指す……そう考えれば、俺の魔力がアスモに注がれてはいるがこうして学生証に色を示す程度には生命魔力として残っていると言えるか。


「アスモ」


「オススメはしないよぉ?夜に美味しく食べてるとは言え、絶えずアスモちゃんに注がれてるものが不足すれば容赦なく命を貰うから」


「悪魔らしいな」


「でしょ!!えっへへ!!」


 黒色を示す程にごく僅かな魔力すら丁寧に使わなければならないと思うと、少々頭痛がするがまぁ良いだろう。


「つまり皆さんの学生証の色と今の席が分かりやすく力の差を示している訳ですね。ですが、それはあくまで一時的なものです!!この学園で存分に学び努力をすれば今の色からもっと上の色まで目指す事が出来ますから安心してくださいね」


 おっと、少しばかり聞き逃したがやはりこの席順の意図はそれだったか。

 学生証の色もそうだが、一目見て分かる自分の優位性というものに随分と拘りがある学園だ、貴族らしいと言えばそれまでだが。


「リィーン先生」


「はい……ッッ、分かりました」


 あの男は受付を担当していたジュリアンだったか。

 何を伝えたのかは分からないが、今までの笑顔が嘘の様に一気に強張った表情に変わったなリィーン教諭。


「えー、皆さん。落ち着いてください。只今、第98代皇帝ゼフィロス様が次代を担う皆さんへ激励のお言葉を届けるべくご来訪頂いたとの事です。皆さん、くれぐれも無礼のない様に」


 ほぅ……皇帝自ら挨拶に来るとは知らなかったな。

 教室全体の空気が一気に引き締まり、静かになった影響だろうか蚊の鳴く様な声を聞き取った。


「……父上」


 あぁ、なるほどな。

 継承権第五位が居るから、より特別な演出を選んだという訳か。


「皇帝陛下!!ご入来!!」


 扉が勢いよく開かれるのと同時に見上げるほどの大男が、手入れの行き届いた白髪を靡かせながら入って来る。

 皇帝の覇気と言うべきか、この場にいる全員がただ歩き教壇へと向かっている彼を食い入る様に見つめある者はごくりと唾を飲み込み、ある者は今までの気怠そうな態度から一転、棒でも入っているんじゃないかという硬直を見せる。


「──余は皇帝である」


 威厳と圧に満ちた声は言葉にせずとも、発した者が皇帝であると示す。


「貴様らは貴族であり、余の手足となり帝国の為に働き余の血として命を捧げる立場にある。故にこそ、余は優秀な存在を求めよう。荒れ果てた大地であろうとも余が命じれば緑豊かな大地に、幾万の敵兵であろうとも余が命じれば討ち滅ぼす。貴様らに期待するは余の命を必ず遂行する駒である事だ」


 ……実に皇帝らしい傲慢な在り方だな。

 演説の仕方というのは当たり前のように染み付いているのだろう、俺達一人一人の顔を見ながら語ってはいるがアレはただ見ているだけで人として捉えてはいない目だ。


「競え争え。人の進化はその闘争の先にある。欲するものがあるのならなんであろうと喰らい尽くせ。遍く業の全てをその腹に収め込む者を余は臣下として求めている……クイントゥス、それは貴様も例外ではないぞ」


「ッッ……分かっています父上」


「で、あるか」


 息子に釘を刺した一連で皇帝の紫色の瞳が俺へと向けられた。

 

「──己の欲を自覚しておる者もいる様だな。良い、その欲を何処までも突き詰め余へと届かせてみせよ」


 暴風と錯覚する様な魔力が俺へとぶつけられ、理解した──()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 それがどの様な悪魔であるかは分からないが、こうも分かりやすく挑発された上で当てられた魔力の重さに屈しているのは俺のプライドが許せん。


「……!!」


 それに何よりも魔力をぶつけられた事を理解し、俺を守る様に皇帝を睨みつけているシュバリエに格好悪い姿を見せたくないからな。


「はっ」


 彼女の肩を掴み、落ち着かせてから腕を組み鼻で笑ってみせれば、周りが皇帝に対して不敬であると慌てた様子を見せるが、そんなものは知ったことではないな。


「ふはは。で、あるか。良い、その蛮勇を余は認めよう──急くが良い次代の我が手足、血肉達よ。時は既に動き始めておる」


 そう締め括り、ゼフィロス皇帝は護衛と共に教室を出て行った。

 

「「「「……」」」」


 残された者達、リィーン教諭も含めて俺の元に視線が集まるがそんなものは無視し、俺を守ろうとしてくれた褒美としてシュバリエの頭を撫でてやる。


「……♪」


「ふっ、お前は分かりやすいなシュバリエ」


 少しの間、俺と俺に撫でられて満足そうに目を細めるシュバリエを観察するという奇妙な時間が流れたのは言うまでもないだろう。


「父上が誰かを期待するだと……クソッ」


「(……ただの変態という訳ではないということですかね。従者に鼻を伸ばしている姿からは到底、想像出来ませんが)」


 何か意味ありげな視線が混ざっていたが、それも同じく俺が知ったことではない。

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