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幕間:領地の立て直しを始めよう

最近、暑すぎませんかね?

 ミヒャエル家の所領の多くは開拓が進み、農地が多く広がっている為、基本的には食に困らない。

 しかし、繁栄を約束された悪魔との契約に依存していたせいか採れる作物の多くを税として回収したり、帝国内での商業に回したりなどをしていた為、今目の前に起きる弊害は分かりやすい破綻であった。


「領主様……今年は例年よりも不作で。どうにか商品はかき集めましたが……」


「ふむ」


 まぁ、こうして早々に報告に来てくれた者が居ただけでも救いか。

 広い領地の全てを監視するのは到底不可能、今までが平気だったからと全ての村々で報告が行われなければ早々に終わっていた。


「一先ず我が家に貯蓄されている食料を振る舞う。村長、お前は俺の部下達と共に村に戻り周囲の村々にこれを広めろ。食うに困ればミヒャエル家が一時的に食事を用意するとな」


「よ、よろしいのですか!?」


「あぁ。但しあくまで一時的だ。それと一週間後に村を訪れるから、農業に詳しい者達を集めておけ」


「は、はい。ありがとうございます領主様!!」


「……それと一応、まだ代行だ」


 とっとと、当主の代を代わりたいところなのだが皇帝はお忙しいらしいからな。

 それにあと半年もあれば俺は16となり、首都にある貴族学園へと通うことになるのだからその時に謁見し、正式に継ぐ形にしても華があって良いだろう。

 

「分かりました!!では私はお先に戻っております」


 村長というのはもっと爺さんなものかと思っていたが、存外に若い男性だったな。

 凄まじい勢いで部屋を出て行ったが、部下達を連れて行くことを忘れていないだろうな?


「ガリウス様」


「執事長か。手配の方は?」


「ザンキを中心に配置は済んでおります」


「そうか。やはり裏切り者を成り代わらせておいて正解だったな」


 我が家の求心力の低さを嘆くべきか、悪魔の願いを叶える強さに驚愕するべきか分からんが、実に屋敷の使用人の約半数が他家と通じていたり俺を謀殺しようと企んでいた。

 まぁ、全員、アスモの眷属である粘液状の生命体が成り代わっているからもう問題はないのだが。


「全くですな」


「ふん。お前が一番、念入りに俺を殺そうとしていたのによく言う。ディートハルト」


 したり顔で同意してるが、この蛇顔の男が一番危険であった。

 執事長として我が家の闇に深く触れていたせいか、悪魔の力を崇拝しており親父殿が死に財政や農地の悪化が起きたのを知ると俺が正しく継承しなかった事を見抜き、容赦なく殺そうとしてきたからな。


「えぇ。ですが貴方も人が悪いですよ。あの様な力を継承しているのならもっと早く教えて下されば良かったのに」


 まぁ、こんな感じでとっくに正気なんて失っているから、俺が触手を見せたり粘液生物を従えている光景を見せたらあっさりと陥落した訳だが。

 今、この屋敷で人間として活動出来る者達はミリィの様に忠誠を誓う者かディートハルトの様に狂っているかのどちらかだ。


「そんなものは俺の自由だ。ディートハルト」


「はい。シュバリエさんを呼んできますね」


 こっちが言いたい事を勝手に汲んでくれるから優秀ではある……これで狂っていなければ何も言う事はないんだがな。

 部屋からディートハルトが出て行くと、俺の影の中からアスモが出てきて当たり前の様に膝の上に座り込んでくる。


「やっと居なくなったー!ねぇ、ガリウスぅ?アスモちゃん、あの男の視線が気持ち悪いからサクッとしてくれると嬉しいんだけどなぁ?夜もご奉仕頑張っちゃうよぉ?」


「…………………駄目だ。アレでも一応、使える人間だ」


「むぅ。でもまぁ、すっごいアスモちゃんのご奉仕と悩んでくれたから我慢してあげるねガリウス♪」


 定期的にお互いを貪り食らっては、腰が砕け散るアスモが提案してくるご奉仕だぞ?ディートハルトの命と比べれば、圧倒的に優先したいところなのだがこの屋敷の人間を減らし過ぎるのは悪手だ。

 あの粘液生物に成り代わって貰った人間……そうだな、『スワンプマン』と呼称するか。

 スワンプマン達は基本的にはその人間と全く同じに振る舞うのだが、それは過去の再生であり今現在の行動ではない。

 

 大門寺の記憶にある言葉で表現するなら『マニュアル』人間なのだ。

 過去に例がない事が起きると固まるという欠点があり、その状態となった時に命令する人間が必要でディートハルトは残念なことに長く執事長を務めているから優秀という。


「スワンプマン達がもう少し融通効くならな」


「アレの名前?個性的だねぇ。まっ、それは仕方がないよ。だって、あいつらは所詮、偽物だもん」


「そうだな」


 アスモと話しているとコンコンと扉がノックされ、シュバリエが入ってくる。

 ミリィの練習の成果がしっかりと出ており、拾ってきたばかりとは比べ物にならないお淑やかな所作を見せる彼女。


「よし。シュバリエ、今度の視察に着いてこい」


「……」


 満開の花の様に笑顔を浮かべるシュバリエにここ最近の後始末で荒んでいた心が癒されていくのを感じた。










「ふむ。どうやら俺が最後の様だな」


 木製の扉を開けるとガタイの良い男達が四人と、恐らく村長達と思われる老人が三人集まっていた。

 屋敷に比べれば狭いこの空間にこうも男が集まるとむさ苦しいな……


「おぉ。よく来てくださいました当主代行様!!言われた通り、近くの村々で農業に詳しい者達とその村長達を集めておきました」


「貴方様が……先の食事の提供、どれ程の言葉を尽くしても感謝しきれず」


「その手の話は良い。それと俺は手っ取り早い会話を好む。お前達、今回の不作の原因はなんだ?」


 恭しく礼をしようとしてくるのを手で止め、男達の方へと視線を向ければ連中は驚いた様に視線を合わせたあと、一人が前に出てくる。


「無礼を承知で申し上げるのであれば、多くの税と商品として農業を行なった結果、土地の栄養が足りなくなったのかと」


「ツチイお前……!!」


「村長。これはどれだけ隠そうとしても無理だってオラ達の間で判断したことだ」


「だからって」


「……ふむ。やはりか」


「「「「……」」」」


 なんだ?急に静かになったなこいつら。

 まぁ、良いか。

 とっとと話を進めるとしよう。


「税の方は下げる。明らかにズレているとは俺も考えていたところだ。だが、商品として流通させている方は俺の一存では難しい。いきなり流通させている数を絞れば他家にどんな口出しをされるか分からん」


 皇帝が武力以外重きを置かない弊害と言うべきか、公平性は正直言って全くない。

 多くの農地を抱えているミヒャエル家が農産品の元締めとなっているのが分かりやすいだろう……不足が起きればその責任は一気に俺に集まると言う訳だ。


「少しずつだが流通量が加減出来るように調整するし、食事の提供もしよう。その間、お前達は休ませる畑と働かせる畑をしっかりと選び肥料を撒き土地の力を回復させる事に勤しめ。そして、それを広く知らせろ」


「……それならなんとか出来るかもしれませんね」


「何を甘い事を言っている」


「え?」


「自らで解決出来ないと判断し俺を頼った。そして、俺が出向いたのだから《《かもしれない》》など許さん。そうだな……来年に成果が望めなければ我が家が生じた負債の責任を取らせるとしようか」


 あくまで俺が面倒を見るのは緊急処置でしかない。

 自らが動かなくても食事が与えられると分かり、怠けられては本末転倒だからな。


「そ、それは……」


「なんだ?ツチイとやら。先ほど、自信満々に俺に対し意見をし村長らの言葉を遮っておきながら、自信がないと言うつもりか。ふん。甘えるな!!領主代行を動かせば、あとは事態が勝手に解決すると思ったのか?」


「ッッ」


 気まずそうに目を逸らしたあたり、本当にそう考えていたのか。

 大門寺の知識から引っ張り出してきた農業の方法で確かな効果がある事を俺は知っているが、こいつらはそれを知らん以上自信が無いというのは理解してやろう。

 だが、全て俺に甘えるつもりなのは許せんな。


「苦しい現状を変えるのは他人では無い。己だ。俺は当主代行としての務めを果たす。その分の働きをお前らもしろと言っているんだ」


 この場の全員を睨みつける。

 村長共は視線を逸らしたが、若い連中は皆、怯みつつも俺の視線から逃げなかった。


「お、俺やります!!必ず今まで以上の成果を出してみせましょう!!」


「そうだな!!代行様と言えど、こんな子供に発破かけられちゃ、男が廃るってもんよ!!」


「やるぞぉぉぉぉ!!!」


「も、申し訳ありません代行!!こいつらちょっと言葉が」


「良い。折角出したやる気を削ぐほど、俺も野暮では無い」


 まぁ、ガタイの良い連中が騒ぎながら肩を抱き合ってる姿はむさ苦しい事この上ないのだが……今夜はシュバリエとアスモに存分に癒される事にするか。

幕間感覚で時折、領地経営話を挟む予定です。ちょっとしたリアリティ感を楽しんでいただけると嬉しいです。

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