第五話「星詠みを狙う者」
――後日、私は例の少年を連れて職員室で担任であるミスリア先生を呼び、面談室に足を踏み込んだ。そこで迷子の少年を拾い、自分の居室で保護している事を報告した。いくらミスリア先生でも少しは驚くと思っていたが、案の定眉間にシワを寄せて悩んでいた。
「なるほどねぇ……確かにここはアルスタリア学院の関係者しか入れない。なのに、部外者であるこの子がたった一人で学院内のベンチに座っていた……と」
「昨日の放課後にたまたま見たんですよ〜。色々試したんだけど、びくとも反応しなくて……でも、目線は常に私の方を見ていたんですよ!」
「凪ちゃんの存在は認識してるって事だよね。でも何一つ喋らなければ身体も動く気配すらしなかった……と。う〜ん……これはしばらく様子見るしか無いかなぁ」
目の前に置いてある机に左肘をかけながら、ミスリア先生は諦めたような口調で私にそう言う。これに関しては私も同意見だ。
「そうですよねぇ。でも部屋に一人にしておくわけにもいきませんし、私もほぼ毎日部屋を留守にするのでどのように保護しようかと……」
「そうだねぇ……とりあえずこの子は私が預かっておくよ。この子の安全を守る意味では、学園内なら私が一番、でしょ?」
「そうですね……じゃあお願いします!」
ミスリア先生はこの学園で唯一『禁忌魔法』を扱える選ばれし存在。もし学園内でこの子の命を狙う不審者が現れたとしても、先生なら絶対守ってくれる。
そう信じて私はミスリア先生に少年を預け、面談室を後にする。
「――やばっ、あと2分で授業5分前じゃん! 先生に怒られちゃう〜!!」
時刻は午前9時になろうとしていた。今日もまた退屈な座学ラッシュのスケジュールが私を待ち受けている。ま、寝るけど。だってこれからやる回復魔術の講義だって魔法が使えない私には無駄な知識でしか無いんだもん。
「ふわぁ……って、あくびしてる場合じゃなかった! 急げぇーー!!!」
眠気にやられていた脳を呼び起こすように思い切り両手で頬を叩き、講義教室まで全速力で走った。
その後どのような始末になったかはご想像の通りである。
◇
東京都葛飾区――
まだ人々はそれぞれ仕事に励む午前10時頃。店内どころか駐車場にさえ人気を感じない、とあるコンビニに一人の男が煙草を吸いながら電話をかけていた。
「……俺だ」
『――例のガキは見つけたか?』
「んな簡単に見つかるわけねぇだろ。だからお前らが東京全区域に部下を配備したんだろうが。それともお前らの部下は相当無能なのか?」
『生意気な口だな。まぁいい……とにかく仕事はきっちりやってくれよ?』
「それに値するギャラをちゃんと用意してくれよ。じゃねぇと……分かってるよな?」
『おっかないこった。ちゃんと用意してやるから安心しろ。なんせ今回のターゲットはちっちゃいガキンチョだが中身は大物だからな。やってくれたら報酬は億単位は下らないぞ』
「へぇ……そいつはやべぇな。この俺も仕事する気が湧いてきたってもんだ」
『普段からそうしてくれれば助かるんだがな』
ブチッ―――
「ちっ、いちいちうぜぇな。誰のおかげで今までの依頼全部果たしてると思ってんだ。ま、俺もそれでギャラ貰ってるから奴の前ではんな事言わねぇけどよ」
最後の言葉に男は舌打ちしながら携帯を閉じ、右ポケットに入れ込んだ。そのまま右手をポケットに突っ込んだまま、男はコンビニの中へと入っていく。
「『星詠み』……星と語り未来を予知する者、か。確かに高くギャラ取れそうだな」