キセキみたいな初恋の相手
「セッキ……なの? 可愛いーっ!」
「しあーっ!」
駆け寄った小さな身体を抱きしめる、公爵令嬢。
セッキも嬉しそうに、両手でぎゅっと抱き付いた。
「ダニー! あなたの魔法、最高よ!」
「だろっ――!?」
同じくぴょんっと抱きついたジャッキーに、がははと笑うダニエル。
そして
「これはまさに、数年後の未来! 愛する妻にそっくりな愛娘――夢のような幸せ家族!」
じーんと右手を胸に当て、感動に浸るクラレンス王子の横で
「そういう妄想は、きちんとプロポーズをされてから、にしてくださいませ」
コホンとアンナが、ツッコミを入れた。
「ごめんなさい。今、『おまじない』解くね?」
クラレンス王子の前で。
両手を祈りの形に組んだセッキが、耳慣れない言葉をモゴモゴ唱えると。
王子の頭から『猫耳』が、サラッと……まるで幻の様に、流れて消えた。
「やった! ありがとう、セッキ!」
銀髪をかき上げた王子が、明るい笑顔を見せる。
「おめでとうございます、殿下!」
「良かったですね!」
口々に皆がお祝いした後で、
「そういえば、どうしてわたしには、『おまじない』してくれなかったの?」
ふと尋ねたシアに
「だってシアには、猫耳あるでしょ? 今日は帽子で隠してるの?」
きょとんと答えるセッキ。
「そっか、あの時は『猫耳付き髪飾り』を! くっ……ネコの仮装をしてたばかりに、本物の『猫耳』が生えるチャンスを逃すなんて!」
悔しそうな公爵令嬢に、くふっと王子が吹き出して。
「とりあえず、遊ぼうか? 7年分!」
セッキとシアに、笑顔で両手を差し出した。
ひとしきり、追いかけっこや花輪作りをして、皆で遊んでから。
「せっき……ずっと、しあたちと、いっしょにいたい」
ぽつりと、少女の姿をした石像が呟く。
「この魔法はあと、どれだけ持つんだ?」
こっそり尋ねた王子に、ダニーの答えは、
「うーん、30分ってとこかな?」
「うそっ! そんなに早く!?」
シアが両手で、口元を押さえた。
「大丈夫! セッキには元々、強い魔力がある。
この魔法もすぐに、自分で使える様になるよ!」
ウィンクしたダニーに、目を輝かせるセッキ。
「ほんと!?」
「ほんとだ。ほら、俺の両手を握ってみて? 魔力が流れるのが、分かるかな?」
「うんっ!」
即席の『魔法教室』を皆で見守りながら、ジャッキーがふと王子に尋ねた。
「そもそもセッキの『住まい』が、こんな寂しい場所じゃ、かわいそう! もっといい設置場所は、ないんですか?」
「そうだな……」
唇に指を当てて、考え込んでいたクラレンス殿下が、授業の合間に呼びかけた。
「セッキ――わたしと一緒に来ないか?」
「いっしょに?」
きょとんと首を傾げた、猫耳の精霊。
「うん。『辺境伯領』ってとこ。国境のすっごい田舎だけど、山や森があって。鹿やウサギやリスが、屋敷の庭にも遊びに来るんだ」
「しかとうさぎ? りすも?」
「うん」
「しあは? しあもくる?」
瞳を輝かせた無邪気な問いかけに、
「待ってて、頼んでみる」
優しく答えた王子が少し緊張した顔で、隣にいるシアに向き直った。
「シア――いや、アレクシア・リドル公爵令嬢。
フォーサイス辺境伯領に、来ていただけますか?
わたしの、妻として」
「えっ――妻!?」
いきなりのプロポーズに、目を丸くするシア。
「もちろん、今すぐじゃなく。ホントはすぐにでも連れ去りたいけど。
シアが半年後に社交界デビューした時に、婚約発表。それから――」
「ちょっと待って、殿下!」
「肝心なひと言を、まだ言ってらっしゃいません!」
ぶつぶつと先走るクラレンスに、ジャッキーとアンナが、ここぞとばかりに口を挟む。
「そうだった……!」
さっと片膝を付いた王子殿下が、呆然と立つ公爵令嬢の左手を取る。
「好きだよ、アレクシア――7年前に出会った時からずっと」
優しく見上げて来る、変わらない、金色の瞳と銀の髪。
「わたしもです――クラレンス」
迷わず答えれば、
「シア……!」
笑顔で立ち上がった殿下がぎゅっと、初恋の公爵令嬢を抱きしめる。
「やった――!」
「おめでとう!」
「おめでとうございます!」
「おめでとー!」
見守っていた4人から、歓声が上がった。
その30分程後、『水曜会』の授業が終わった令嬢たちは、昼食用の部屋に移動していた。
「シア、今日はお休みだったわね」
「体調が悪いのかしら? 後でお見舞いに行ってみましょ!」
エマとレイアの会話に、
「あーら! ずる休みじゃなくって!?」
ぐいぐい割って入ったルシンダが鼻で笑ったとき、周りの令嬢たちが、ざわめき出した。
窓から皆が見下ろす先には、裏庭の方から手を繋いで、弾むように歩いて来る、背の高い銀髪の軍人と、淡いピンク色の髪を風になびかせる令嬢。
「あっ! あれ、シアじゃない!?」
「手を繋いでる殿方――あの銀の髪は、クラレンス王子殿下よ!」
「何ですってぇ……!?」
宮殿の窓に鈴なりになった令嬢たちの前で、いきなり強く吹いた風に、シアの帽子がふわりと飛ぶ。
軽く片手を伸ばしてキャッチした銀髪の王子が、観客たちをちらりと見て、公爵令嬢に何事かささやく。
ほんわり染まったシアの頬にそっとキスをしてから、クラレンス殿下は白い帽子を優しくかぶせた。
「きゃーっ! あれって、『魔女モネ』の名場面!」
「まるで本物の、騎士様と姫君みたい!」
「そんなっ、こんな事あるわけ――これは夢! 悪夢よっ!」
キーッと悔しがる、ライバル令嬢が見下ろす先で。
「皆が騒いでるけど……シア、妖精の騎士とわたし、どちらがカッコいいかな?」
と悪戯っぽく、尋ねて来た婚約者に。
「もちろん、クリス殿下に決まってます。
このわたし――アレクシア・リドルの、初恋の方ですから!」
キセキみたいな初恋の相手を、クレマチスのような青い瞳で見上げて。
負けず嫌いの公爵令嬢は、幸せそうに笑った。
『キセキみたいな初恋』完結しました。
8話の予定でしたが、最終話が長くなってしまい、全9話に。
いつもより行動力のあるヒロインとツンデレヒーローの恋を、楽しんで頂けたら幸せです♪
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