事件の真相・怒った理由
侍女とメイド達に、ドレスを着せられ髪をセットされて。
気が付いたら――金糸の刺繍入り白いドレスを、ふんわり身にまとい。
花とリボンで飾った白い帽子を、ハーフアップに結った淡いピンクの髪に乗せた――アレクシア・リドル公爵令嬢が、出来上がっていた。
「あれっ――いつもの勉強会なのに、何でこんなに気合入れたの?」
目をぱちくりさせているシアに、
「それは着いての、お楽しみです」
アンナがにこりと、部屋の扉を開けた。
「今日は特別に、お迎え付きですよ!」
アンナと一緒に、豪華な馬車に乗り込むと、中で待っていたのは、
「おはよう、シア! 今日はウィッグ無しね。その髪もドレスも、とってもステキよ!」
「ジャッキー――! もう会えないかと思ってた!」
シンプルなグリーンのドレスに、白いショール姿のジャッキー。
編み込んだ金髪には、金色の飾り櫛がひとつ。
飾り気のほとんど無い姿なのに、輝くように美しい。
「ジャッキーこそ、すっごくキレイ……!」
アンナたちが頑張って、着飾ってくれても。
『やっぱり、かなわない』
ツキンと痛む胸を笑顔で隠して、再会を喜び合って。
事件の真相もやっと、話してもらえた。
「じゃあ、レディ・ベラはあの時、キッチンにいなかったの!?」
「そうよ。ベラは二階の客間で、ぬくぬくお昼寝中。
籠に入ってたのは、ただの『ぬいぐるみ』」
「ぬいぐるみ……!?」
「わたしの使い魔、ハヤブサのダニーと仲間二人が、見張り役だったの」
誘拐されたベラを、怪しい商会から助け出した後、尾行されているのに気付いて。
わざとお客様を、引き連れて帰り。
一人になった時に主犯格たちが、ベラを取り戻しに来るのを予測して。
「一味を一網打尽にしようと、罠をしかけたってワケ!」
数年前から『使い魔探偵』ことMIFが追っている、『使い魔連続誘拐事件』。
犯罪組織の一角を捕らえたジャッキーが、にんまりと揺らした羽根型ピアス。
そこから使い魔が得意そうに、緑色の羽の先を、ちょこんと出した。
「でも、あなた方や殿下にまで、危険な目に会わすつもりは無かったの。
本当にごめんなさい!
『襲撃は夜になってから。客人がいたら帰るまで待つ』が、『小悪党のセオリー』なのに!」
ジャッキーが、申し訳なさそうに謝罪する。
「そんな事、気にしないで! そういえば、わたしとアンナが入れ替わってたって、いつ気付いたの?」
シアが尋ねると、
「わたしが『ジャクリーヌ・コリンズ』としか名乗らなかったのに、すぐ『レディ・コリンズ』って呼んだでしょ?
他国の貴族リストまでとっさに思い出すには、小さい頃からの訓練が必要だわ」
にこりと、使い魔探偵は笑った。
「あらっ……『水曜会』の部屋はあちらでは?」
「いえ本日は、こちらにどうぞ」
馬車が王宮に到着し、宮殿の侍従がシア達を案内したのは、
赤いバラや青いデルフィニウム、白いニワトコの花が咲き誇る、王宮の中庭に立つガゼボ。
一行に気付いた青年が、少し緊張した顔で立ち上がる。
金糸をあしらったネイビーブルーの軍服に、オフホワイトのマント。
そして銀の髪の間から猫耳が覗く、まるで『妖精の騎士』のようなクラレンス王子。
「リドル公爵令嬢……! ジャッキーにアンナも、よく来てくれたね!」
「クラレンス殿下……」
逃げ出したい気持を『負けず嫌い』で、ぐっと押さえたシアが、優雅にカーテシーをしてから。
「殿下の言いつけを破ったこと、本当に申し訳ございませんでした! 怒られたのも当然ですわ」
目を伏せて謝罪すると、
「いや、わたしの方こそ――あの場にいた全員が、犯人まで。
髪をほどいたシアに見とれていた事に、つい苛立ってしまって」
右手で口元を覆った殿下が気まずそうに、思いがけない事情を告げた。
「『見とれて』?」
きょとんと首を傾げるシアの横で、
「あーっ、やっぱり! いきなり殿下が怒ったのには、そんな理由も?」
「嫉妬された訳ですね!」
納得したように頷くジャッキーとアンナ。
『嫉妬』? って、誰が誰に?
今度は反対方向に、首を傾げながら、
「殿下は、わたしがリドル公爵令嬢だと、いつ?」
シアが尋ねると、
「『東洋の茶芸師』なんて知識を身につけているのは、貴族の令嬢でも滅多にいない――だろ、アレクシア?」
悪戯っぽい顔で答えた殿下が、片目をつぶる。
「つっ次からは、言葉に気を付けますわ」
どきりとしながら、何とか返事を返した。
『アレクシア』
名前を呼ばれた。
『アレクシア』
それだけで、こんなに嬉しい。
まるで心に、羽根が生えたみたいに……!
「こほんっ……殿下、良い雰囲気の所、申し訳ありませんが。
わたしの助手はもう、来ておりますか?」
ジャッキーが、咳払いの後で問いかける。
「あっ、うん! つい先ほど、調査が終わったらしい」
「調査って?」
尋ねたシアに左手を差し出しながら、右手で自分の頭を指して。
「裏庭にこの『猫耳』の、鍵があったんだ」