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キセキみたいな初恋~負けず嫌い令嬢は猫耳王子をモフりたい~  作者: 壱邑なお


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6/9

好きなひとに「好き」って言われるキセキ

 廊下の先にあるキッチンの扉まで走り、コンコンッ、そっとノックする。

「まぁっ、シア!? やっぱり来ちゃったのね!――ちょうど今、片付いたとこよ」

 がちゃりと開いたドアの向こうには、シアの髪に一瞬目を見開いて、苦笑するジャッキー。


 部屋の奥手には、うめき声を上げて床に転がる、3人組の犯人と。

 その手足を縛る、ジャッキーの仲間らしい男性2人。

 そして傍らに立つ、王子の姿が。


「皆さんご無事で、良かったですね!」

 後を追って来たアンナの声に、ほっとうなずいたとき、



「くそっ――罠にかけやがったな!」

 手首に仕込んだナイフで、縄を切った犯人の一人が、取り押さえようとする手を振り切って、ドアの方に向かって来た。

「あぶないっ!」

 叫んだシアを見て、動揺する犯人の顔。

 すばやく振り返る、ジャッキー。


「プロイベーレ!」

『止まれ』と鋭い声で、呪文を唱えたとほぼ同時に、

 ナイフを構えた犯人の手首に、びしりと、鉄の棒が振り下ろされた。


「痛っ……!」

 顔をゆがませたまま固まる犯人を、フードの奥の瞳が、冷たく見据える。

「甘く見るな」

 火かき棒を剣のように構えた、黒いマント姿の王子殿下。


『まるで、「魔女モネ」の騎士様みたい……!』

 シアがドキドキ胸を高鳴らせていると、顔を上げた殿下と目が合って。

 そのまま、無言でらされた。


「殿下……?」

 首を傾げたシアに、目も合わさないまま。

 眉をひそめて、低い声で。

「居間から出ないように、言ったはずだ」

 クラレンス王子が、びしりと叱咤しったした。



 事件の直後、『強盗事件発生!』と、屋敷のある一帯が大騒ぎになり。

 待たせていたリドル家の御者ぎょしゃが、心配して迎えに来て。

 慌ただしく、シアとアンナは帰宅した。


『殿下が怒ったのは、当たり前。言いつけを守らなかった、わたしが悪いの』

 なのにショックで、頭が真っ白になって。

 目も合わせてくれない事に、カッとなって。

 『負けず嫌い』が口をふさいで――素直に『ごめんなさい』が言えなかった。



 追い討ちをかけるように、お母様からお小言と、『一週間の外出禁止』を言い渡されて。

 翌日こっそりアンナが、様子を見に行ったジャッキーの家は、

「ノックしても誰も出なくて、『貸家』の張り紙が」

「えっ……じゃあ、もう会えないの? ジャッキーにも――殿下にも?」


 しょんぼり落ちたシアの肩を、

「きっとまた、会えますよ!」

 昨日のお返しのように、アンナが優しくさすった。



 まるで不良品のパズルみたいに、あちこち隙間が空いた胸。

 こぼれ落ちる『会いたい』と後悔を抱えて、ぼんやりとシアは『外出禁止』の日々を過ごしていた。


 心配した執事や従僕たちが、

「キャンディです」「クッキーです」「子猫ですよ!」

 と次々『お見舞い』を寄越しても、からっぽの心はいだまま。


 子ネコの耳にそっと触れるとき、『みゃあ』と見上げて来る、金色の瞳を見下ろしたとき。

 夜空に瞬く星を、見上げたときだけ……


 心が動く。

 会いたい。

 クラレンス殿下に。


「お嬢様、やっぱり――殿下のことを?」

 ためらうようにアンナに聞かれて、やっと気が付いた。



「そっか……これが、『好き』なんだ? これが『初恋』?」

 でもエマやレイラが言ってたみたいに、キュンキュン楽しい気持ちにはなれない。

 だって、

「殿下が好きな人は、わたしじゃない」


 言う事を聞かずに、怒られた。

 素直に謝れなくて、きっと嫌われた。


「殿下が好きなのは、たぶんジャッキー」

 あんなに綺麗で優しくて、カッコいいご令嬢――初めて会った。

 きっと誰もが、一目で好きになる。


 いくら頑張っても出しゃばっても。

 恋に、『負けず嫌い』は通用しない。


「好きなひとに『好き』って言われるって、そんな簡単じゃない。

 まるで、キセキみたいな事なんだね……?」

 子ネコの耳にそっとつぶやきながら、シアはため息を、いくつも飲み込んだ。



 あの騒ぎから1週間が経ち、『外出禁止』が解けた水曜日の朝。

「アンナ――いたっ、お腹が痛いの! 『水曜会』、今日はお休みする」

 ベッドの中からシアは、『仮病』を訴えた。


 水曜会に行ったら、『恋のお相手』について、皆に話さなくちゃだし。

『クラレンス王子に失恋しました』なんて、絶対言えないし。

『ほーら、やっぱりウソでしたのね! お子ちゃまのシアちゃん?』って、ルシンダが勝ち誇るし……!


「ズル休みはいけません! ほらっ、『負けず嫌い』なアレクシア様は、どこに行ったんですか?」

「どっか遠いとこ。お月様の裏側とか……」

「あらあら――それじゃあ今すぐ、帰って来て頂かないと!」


 にんまりと笑った侍女が、公爵令嬢がくるまっていた毛布を、えいっとばかりにはぎ取った。


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