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猫耳は正義!

「かわいいーっ……!」

 心の中でつぶやいたつもりの感想を、シアは思い切り叫んでいた。


「はっ……いえ! とっても良く出来た、素敵な『ケモ耳』ですこと!

 仮装パーティでも一番人気、間違いなしですわ!」

 それを取りつくろう様に、『淑女の社交界ルール』の例文通りの言葉を、あわてて続ける。


「『かわいい』……? 気持ち悪い、じゃなくて?」

「えっ? もちろん『可愛い』です! 猫耳は正義ですから!」

 きょとんとしながら、力強く肯定すると

「じゃあ――これに、さわれる?」

 ためらう様に問いかけて。

 ソファに座ったシアの横で片膝を付き、うつむいて頭を向ける王子殿下。

「えっ、よろしいんですか? 本当に!?」

「許すっ――!」


 わくわくと差し出した右手で、銀色の毛に覆われた耳に、そっと触れる。

「わぁっ……ふわふわ! まるで本物みたい! それに、温かい?」

 ほんのりと、体温が感じられる指先に、首を傾げて。

 付け根から耳の先まで、ふぁさりと撫でてみる。

「つっ――!」

 途端に真っ赤になった、王子の頬と、耳の内側。


「えっ――まさか! この耳、本当に生えて……?」

「その、まさかだっ!」

 赤く染まった顔を、きっと上げて、クラレンス王子が答えた。



 その時、金の瞳と青い瞳が至近距離で、かちりと出会う。

『何てキレイ……うちのネコ、ルナにそっくり』

 くふっと、思わず目を細めたシアに、

「変わらないな? その――『クレマチスの瞳』」

 そっと、王子殿下がささやいた。

「えっ……? 変わらない?」

 シアがぱちりと、目を見開いたとき、


「お待たせしました!……あら、珍しい! 殿下がご自分から、その耳を見せるなんて!」

 ばーんっ!と勢いよくドアが開き、にぎやかにジャッキーが入って来た。



「えっ、耳?――ひゃっ!」

 驚いたアンナが取り落としそうになった、ビスケットやフルーツケーキが乗ったお盆を、

「おっと――だいじょぶ、アンナ!?」

 ソファからさっと手を伸ばした、シアが受け止めたり。

 クラレンス王子が、「『様』を忘れてる」と、小声でつぶやいたり。



 騒ぎがひと段落した後、皆で囲んだお茶のテーブル。

 アンナが入れた紅茶を、ひと口飲んで。

「うん、さすが――東洋の『茶芸師』にも負けない味だ!」

 くすりと笑った王子に、

「「ちゃげいし?」」

 首を傾げるジャッキーとアンナ。


 こほん!とシアが、咳払いをひとつ。

「それで、殿下? そのスィートでキュートな猫耳が生えたのは、一体……『いつどこで、どうやって』ですの?」

 できればも一度、あの極上ふわふわなお耳をモフりたい――!

 うずうずする手を押さえて、公爵令嬢はたずねた。

「半月前だ。朝目が覚めたら、いきなり生えていた」

 ぽつりと、沈んだ声で答える殿下。


「いきなり!? なんてうらやま――いえ、不思議な! 何か予兆はありませんでした?

 例えば、雨に濡れた捨て猫を拾ったり、馬車にひかれそうな子猫を身体を張って助けたり!」

『原因が分かったら、ぜひとも自分も試したい!』と意気込むシアに、

「何もなかった……先日そこの、使い魔探偵殿にも見て貰ったんだが、理由が全く分からない」

 王子は力なく、首を振った。


「これは魔法じゃないのよ。おそらく東洋の『まじない』」

 近所のパン屋で買っておいたというフルーツケーキを、もぐもぐ食べながら、ジャッキーが答える。

「『まじない』?」

 首を傾げるシアに

「そう。だからわたしには、解き方が分からないって。先日王宮に呼ばれた時に、ご説明したんだけど」

 深くため息を吐くジャッキー。


「そう言われても、こちらも引き下がれない! 一刻も早くこの耳を、元に戻したいいんだ!

 そちらの部署に、その『まじない』に詳しい人材がいないか、問い合わせてくれないか? 

 頼む――!」

 必死の口調で、クラレンス王子は懇願こんがんした。



「殿下は、どうしてその耳を元に戻したいんですか? そんなにステキですのに」

 心底不思議そうに、首を傾げたシアに

「どうしてって――このままだと、人前にも出られないし。

 例えばそのっ……きゅ、求婚することだって」

 目の縁を赤く染め、もごもごと口ごもる王子殿下。

 そんな2人を、にんまりと見つめていたジャッキーが、口を開いた。


「そういえば『おまじないに詳しい人材』に――心当たりが、ひとり」

「ホントか!?」

「えぇ、知り合いに――」

 と言いかけた時、



 がたんっ!

 キッチンの方から、怪しい物音と

「カッ、カッ、カッ……!」

 警告するような鳥の鳴き声が。


「ちょ、早いってば――!」

 がちゃりとカップを置いたジャッキーが、焦った顔で立ち上がった。


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