表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/9

恋の始まりは公園から?

「それで……シアお嬢様?」

「なぁに、アンナ?」

「『初恋の生まれる場所』っていったい、どこなんですか?」

 リドル公爵家の紋章が扉に付いた、小型の馬車の中で。

 公爵令嬢付きの侍女アンナが、内心の動揺を隠しながら、静かにたずねる。


 お嬢様の『負けず嫌い』から始まる『脳内暴走』に振り回されるのは、もう慣れっこ。

 後は、

『公爵家の名を表に出さず、出来るだけ被害を最小限に、留めることですぞ!』

 脳内でげきを飛ばすルパート執事に、アンナは深くうなずいた。



「そうね――第一候補は『王立公園』!」

「公園……?」

「ほら『魔女モネ』の舞台で、風に飛ばされた姫君の帽子を、騎士様が魔法を使ってキャッチした――恋の始まりが『公園』だったの!」

「なるほど……でも今は午後の3時過ぎ、そろそろお茶の時間です。 

 貴族のご令息方が、乗馬や散歩に来られるのは、普通午前中ですよね?」

 思いつきで暴走しがちなシアをたしなめるように、2歳年上のしっかり者の侍女が指摘する。


「さすがアンナ! 舞踏会で意気投合した2人が、翌朝『偶然』再会出来るように。

『王立公園に出かけるなら午前中』が、社交界暗黙のルールなのよ」

「でしたらなおさら、もう誰もいらっしゃらないのでは?」

「そっ、それは分からないわ! 『魔女モネ』の騎士様みたいな、ちょっとへそ曲がりでとびきりのイケメンが、たまたま散策している可能性だって――とりあえず、行くわよ!」

 広い王立公園の入口で馬車を降り、レンガが敷かれた道沿いに、中央の大きな噴水に向かって歩き出した公爵令嬢と侍女。


 シアは一目で正体が分かるピンクの髪を、黒髪を編み込んだウィッグで、すっぽり隠し。

 水曜会から帰って着替えた、普段着のグレーのドレスに、とりあえず必須アイテムのシンプルな帽子を、ぎゅっと被っただけという、地味な出で立ち。

 明るい栗色の髪をハーフアップに結った、濃い緑色のドレス姿のアンナの方が、ずっと人目をく。

「ふふっ――この変装だと、まるでアンナの方がお嬢様みたいね?」

 楽しそうに笑うシアに、

「ちょ――ご冗談でも、やめてください!」

 慌てて、たしなめるアンナ。


 その時

「あーっ! 待って、待って! レディ・ベラ……!」

 焦って叫ぶ女性の声を蹴散らすように、大きな白い毛玉が。

 レンガの道の向こう側から、すっ飛んで来た。



「あっ、そこのレディ達! 危ないからけてーっ!」

 心配そうな声を、かけられた途端。

 避けるとは逆に、ぱっとグレーのスカートを広げ、毛玉の正面にしゃがみ込んだシア。

「おいで、ネコちゃんっ……!」

 ポケットから出した紙袋を、カサカサ振ってみせると

「にゃーんっ!」

 まん丸な青い目を輝かせた、巨大な白ネコが、スカートの上に飛び乗って来た。


「いい子ね……? レディ・ベラ?」

 優しく声を掛けながら、従僕から貰った『カリカリ』の残りを、てのひらに乗せて差し出す。

 ざらりとした舌でカリカリをすくい、はぐはぐ夢中で食べ始めた瞬間、もふもふの身体をすばやく抱きしめた。

「確保――!」

「お見事です!」

『あの足跡、落ちるかしら?』

 点々と付いた、シアのスカートの汚れを気にしながら、アンナはパチパチと拍手を送った。



「まさか、捕まえてくれるなんて……ほんっと助かったわ、ありがとう!」

 白ネコを追いかけて来た女性が、顔周りに垂れた金髪をかき上げて、ほっとしたように笑った。


 年の頃は20歳前後。

 黒い幅広のパンツと揃いの、金の縁取りが付いたショートジャケット、スタンドカラーの白いシャツにモスグリーンの幅広ネクタイを身に着け。

 高い位置でハーフアップに縛った、波打つ金髪。

 その軍服にも似た装いが、きりっとした雰囲気に良く似合っている。


「お役に立てて、良かったです!」

「みゃおうっ……(おやつ、もっとちょうだい)!」


 にこりと笑うシアから、抗議の声を上げるネコを受け取り、ラタン製のキャリーバックにぎゅっと押し込んだ女性が、ぱんぱんと両手を払いながら

「よかったら、お礼にお茶はいかが? 公園を抜けた先に、仮住まいがあるの。

 他にご予定が無ければ、ぜひ!」

 緑の瞳をにっこりと細めて、熱心に誘って来た。


「わぁっ、いいんですか!?」

 青い瞳を輝かせたシアの、灰色のドレスの袖をちょっと引いて、

「ここに来た理由、お忘れですか? 今の出会い方も、完全にお嬢様が『騎士様』ポジです!」

 当初の目的『初恋と出会う』を、すっかり忘れている公爵令嬢を、小声でいさめる侍女。

「騎士様ポジ……確かに! でも、お茶会は楽しそう――ですよね、『アンナお嬢様』!?」

 悪戯をたくらむ目をした公爵令嬢が、にんまりと呼びかけた。


「は?」

「あらっ、どちらのご令嬢かしら?」

 きょとんとする侍女と、楽し気に首を傾げた女性。


「こちらは、リドル公爵家令嬢のアンナ様……!」

 右手で『侍女』を指しながら、にっこりとシアが告げる。

 ぽかんと、口を開けたアンナの横で、

「そしてわたしは、お嬢様付きの侍女、シアと申します」

 本物の公爵令嬢は、しれっと挨拶をした。



「まぁっ、公爵令嬢でいらっしゃいますか!

 失礼しました。

 わたしはエバーランド王国から参りました、ジャクリーヌ・コリンズと申します」

 幅広のパンツを摘み、カーテシーの真似事をした女性が。


「ジャッキーと、お呼びください」

 右耳の羽根型のピアスを揺らして、にこりと笑った。


ジャッキーは、「迷子の『使い魔』探してます」の一番人気キャラです。

合わせて読んで頂けると嬉しいです♪

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] やっぱりジャッキー姉さんだったーーー!! 詠みながら「まさかこのお方は……!」ってドキドキしていました✨ シアの初恋の人に相応しい!(おい)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ