初恋と出会える場所
新連載スタートしました!
今回は短めの全8話(予定)、毎日更新します♪
(全9話になりました)
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17歳の公爵令嬢、アレクシア・リドルことシアは、焦っていた。
「早く――早く『初恋』の相手を、見つけなくちゃ!」
事の起こりは、ここワイルデン王国で今、大ヒット中の舞台劇。
姫君と妖精の騎士の、種族を越えたラブロマンスと、呪いを解くカギを巡るサスペンスに、魔女の一味と対決するアクション。
ハラハラドキドキの大人気演目、『魔女の呪いとアネモネの誓い』。
両親と一緒に先日、舞台を見たシアも、もちろん夢中になり。
同じく観劇済の友人たちと、王宮での昼食会の席で盛り上がっていた。
社交界デビューを半年後に控えた貴族の令嬢たちが、宮中での決まり事や礼儀作法等を学ぶため、毎週水曜日に集まる『水曜会』。
午前中の座学の後には、昼食を取りながら毎回、お喋りに花を咲かせる。
「すっごく面白かったわね! 敵を森に誘い込んで、一人ずつ仕留める方法とか! 魔法を盾で跳ね返す、クライマックスとか! それにあの、『ネコのおまじない』!」
淡いピンク色の髪を揺らして、きりっとしたつり目がちの、青い瞳を輝かせる公爵令嬢に、
「シアったら! もちろん、そこも良かったけど――『魔女モネ』は、何といっても『ロマンス』でしょ?」
呆れたように、伯爵令嬢のエマが返す。
「そうそう、妖精の騎士様が『必ずあなたを救い出す』って誓い通りに、姫君を助けに来たとこ! もぉ、うっとりしちゃった!」
ぽわんと頬を染めた、子爵令嬢のレイラも口を挟む。
「わかるー! わたしもあんな風に、ぎゅっと抱きしめられたら……」
『きゃーっ!』と興奮して、両手を握り合った友人2人に、首を傾げながらシアは尋ねた。
「ねぇ、エマもレイラも――ひょっとして、好きな方がいるの?」
「えっ……当然よね?」
「わたし達、もう17歳だし! 今はまだ、片思い中だけど」
「わたしも――でも『今頃あのひと、何してるのかな?』って思うだけで、キュンってなるの!」
「わかるーっ!」
盛り上がる会話を聞いて、『2人共、いつの間に!?』とショックを受ける公爵令嬢。
「えっと、シアは?」
「好きなひと、いないの?」
不思議そうに尋ねて来る、友人たちの声。
それに続いて
「なんですってぇ! この年で、好きな殿方の一人もいないなんて、信じられないわ……!
ひょっとしてぇ、初恋もまだなのかしらー!?」
ここぞとばかりに声を張り上げたのは、日頃からシアをライバル視している、侯爵令嬢のルシンダ。
あざけるように、くすりと紫の瞳を細めた、黒髪の令嬢に。
「もっ、もちろんいるわよっ……! いるに決まってるでしょ!?」
『負けず嫌い』な公爵令嬢は、右手でピンクの髪をさっと払い、ばばーん!と言い切った。
「はぁっ……何であんな嘘、吐いちゃったんだろ」
『じゃあ来週の水曜会で、相手がどなたなのか、教えてね!』
『恋バナで、盛り上がりましょ!』
『わたくしもぜひ、詳しくお聞きしたいわ!』
楽しそうな友人たち&にんまり笑ったルシンダに、『もちろんよ!』と自信満々に返した、30分前の自分をどついてあげたい。
恋愛対象の『好きなひと』なんて……この17年間、いた事すらないのに!
仕方ない。
『負けず嫌い』は、リドル公爵家の家訓。
それは、他人はもちろん自分の弱さにも負けない、『自負心』を持つという事。
「もし王家や他国に嫁ぐことになっても。日々の積み重ねが、必ずあなたを助けてくれるわ!」
と母の方針の元、政治経済や他国の情勢に護身術など。
普通の令嬢はノータッチの科目もみっちり学び、淑女に相応しい教養も、きっちり身に着けて来た。
国中の、どの令嬢にも負けない、自信と誇りを胸に。
なのに……
「ぬかったわ。わたしは恋愛科目だけは、まったくの素人」
かくなる上は、
「来週の水曜日までに、『初恋』の相手を見つければ――そしたら、嘘じゃなくなるわよねっ?」
アレクシアはぐっと、拳を握りしめた。
とりあえず『恋のお相手』を探して、公爵邸の中をぐるりと巡ってみる事に。
「シアお嬢様? 何か御用でしょうか?」
訝し気に尋ねて来たのは、父より少し年上の執事。
背も高いし仕事も出来る、きりっとしたイケメンだけど。
『さすがに、お父様より年上は、守備範囲外!』
次に見つけたのは……
「お嬢様、ルナと子猫たちだったら、温室でお昼寝してましたよ!」
と料理長特製のネコ用おやつ、『カリカリ』の小袋や。
「さては、小腹が空いちゃったんですね? ばあやさんにはナイショですよ?」
とキャンディの小袋を、目を細めてこっそり渡してくる――シアがまだ、10歳位に見えてるらしい――小さい頃から遊んでくれた従僕たち。
「ダメだわ、対象者ゼロ!」
「みゃあ!」
おやつを貰って大満足の母ネコを撫でまわし、5匹の子ネコとじゃれ合いながら。
レモン味のキャンディを口の中で転がして、公爵令嬢は眉根を寄せた。
「もう、『初恋はネコでした』って事に……いえ、ダメよ!」
そもそも、こんな手近で妥協しようなんて……アレクシア・リドルの名が、すたるってものよね!
「お嬢様? 何かまた、脳内暴走する案件が……?」
心配顔で様子を伺っていた執事が、恐る恐る尋ねて来る。
「失礼ね――脳内暴走なんてしてないわよ! とりあえず、出かけて来るわ!」
「どちらにです!? 場合によってはこのルパートが、『地獄の果て』までお供を!」
「そんな、物騒なとこじゃないわ」
クスリと笑ったシアは、銃の形にした右手を執事の左胸に向け、ばーん!とウインクひとつ。
「初恋と、出会える場所よ……!」