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06 幽霊も寝るのね


わざわざ、遠いところ(?)から先祖が駆けつけてくれたのだ。


「ありがたいです。では、早速地図を見て教えて下さい」


幽霊は夜しか出てこれないだろう。教えてもらうチャンスは今しかない。


レティシアは慌てて、テーブルに地図を広げた。


「マイクという方の曾祖父が、この辺にため池があったと言ってたらしいのですが、わかりますか?」


腕を組んで考えるアンソニー。


『暗くてわかんない。灯りをつけてよ』


灯りをつけたら、消えちゃわない?と心配するレティシアに、アンソニーが『早く』と催促する。


レティシアが意を決して、「えいや」と灯りをつける。

アンソニー君は?と振り返ると、ちゃんといた。

しかも、さっきよりもはっきりと見える。


幽霊って、明るいところが苦手じゃないのねと感心した。


まじまじとアンソニーを見ていたが、大切な事を思い出した。

水路だ。


再び地図を見せる。

アンソニーがじっと地図を見つめていたが、なにかを思い出したのかハッとして顔を上げる。


「ため池か、水路の場所を思い出せましたか?」

期待に胸弾ませ、レティシアはアンソニーが地図を指すのを待っていた。


『そう言えば・・怖くて水関係の場所に近付かなくて、ため池の場所・・・わからないや・・・それに水路には蓋がされてたから全く知らないんだった』


「・・・・・。」


役立たなぁぁい!!


「じゃあ、いいです。明日も早いんで、寝ます」


『ねえ、ちょっと待ってよ。もうちょっとお話しようよ』

アンソニーのお願いより、一秒でも早く眠りたかった。

ブーブーと文句を言うのを無視して、レティシアが灯りを消して、さっさとベッドに戻る。

この世界に電気はない。

灯りをつけるには、魔石が必要なのだ。

魔石は高くはないが、お金がないレティシアには勿体ない。


魔石の無駄遣いだったとすぐに灯りを消した。


『ねえ、悪かったよ。何も知らなくて・・でも、僕のせいで子孫が苦しんでるから助けたいって思ったんだよ』


まあ、悪い子ではないのだ。


ただ親切心で出てきたのだから、そんなに邪険に扱うのは、悪かったなと反省した。しかも、どう見ても幼いではないか。

こんなに幼くして亡くなったのなら、場所を知らなくても仕方ない。


レティシアはアンソニーへの態度を反省した。


「アンソニー君は私を心配して出てきてくれたんだよね。なのに、ごめんね。また明日探しに行くから何か思い出したら、教えてくれるとありがたいな」


その言葉に、アンソニーの顔がパァーと綻んだ。


『うん、思い出せたらすぐに言うね』


「じゃあ、おやすみ」

『おやすみぃ』


疲れきっていたレティシアは、すぐに寝息を立ててぐっすり眠った。





朝目覚めると、昨夜の事は夢だったのかと思ったが、どうやら本当にご先祖様に会ったようだ。

テーブルの上には、二人で見ていた地図が広げてあったし・・。

何より、アンソニー君がソファーで微睡んでいる。


幽霊って朝になれば消えるんじゃないの?


それに幽霊が朝寝するってどういうこと?


まあ、不可思議な現象に頭を悩ます時間はない。

「アンソニー君、起きて下さい。何か手掛かりになることを思い出してくれました?」


揺すって起こそうと思ったが、スカッと手が空を切る。


うん、やはり幽霊さんには触れないのね。

ここは自分の知っている幽霊の認識通りだ。

レティシアはアンソニーを起こさず、軽い朝食を済ませて、屋敷を出た。


庭園の隅っこにある物置小屋から、大きなシャベルを引っ張りだして、パンと飲み物を持って出掛ける。





今日は川が地下に流れ込んでいるところから、掘り返して行けば、川の行方を辿れるのではと思ったのだ。だが、すぐに見失う。


しかも、シャベル一つでなんて、地面を掘れない。突き刺さりもしない。


山の地面の固さを舐めていた。


やっぱり、マイクが言っていた『ため池』を探してそこから探そうか?


山の地面の固さと、木の根っこに邪魔されて、早くも心が折れた。


レティシアは、マイクの家の前を通って、昨日教えてもらった場所を目指した。


ちょうど、その姿をマイクは窓から見ていたが、声をかけることなく見送った。

「見つかるかどうかわからないんだ、すぐに諦めるだろう」

レティシアが見えなくなってから、マイクは自分の畑に向かった。

マイクの家も、その他の家も、共同の井戸から水を汲んでは畑に撒いているのだ。この重労働を何代も続けてきたのだ。


地面を掘っても水は出ないというのは、分かっている。それは、マイクの父も祖父も水源を探したが、どこにもなかったからだ。


マイクは今日も諦めたように、共同の井戸に向かう。



◇□ ◇□


レティシアは乾いた大地を懸命に掘っていた。

固いが山の土よりは掘りやすい。


ある程度掘って、それらしき痕跡がなければ、次に掘り進める。


レティシアが空を見上げると、お日様が真上にあった。


「ああ、もうお昼だ。腹ごしらえをしよう。それに喉もカラカラだし」


朝一に訪れた川の水を水筒に汲んでいたので、それをごくごくと飲む。

「ぷはー」

少し元気が出る。体に溜まっていた疲れが軽減した。


ハムを挟んだパンを食べながら、午前中に掘ったところを見る。

あちらこちらにレティシアが頑張った証がそのまま残っていた。


「落とし穴を掘ってるみたいだわ」

ふふふ、と笑うと急にレティシアの座っている場所に大きな影が出来た。


「あれ? 急に雲が広がったの?」


上を見る。

急に日陰が出来た理由は予想外だった。

マイクである。

昨日と同じく不機嫌そうな顔だが、その手にはレティシアの背丈ほどの大きなシャベルが握られている。


そして、レティシアが元気なのを確認すると、レティシアが掘っていた付近から少し離れた場所を掘り出した。


その一回の掻き出し量は、レティシアの比ではない。

ドサッ。ドサッ。すぐに土の山が出来上がる。


そして、次の場所を掘っていく。

ただひたすらに、黙々と。


その姿に、レティシアの疲れも吹っ飛ぶ。

負けじと土を掘り返し始めた。



二人で日が傾くまで地面を掘ったが、ため池の場所はわからなかった。


マイクがレティシアに声をかける。

「おい、今日はこれくらいにして、明日少し離れた場所を探そう」


『明日?』

レティシアはマイクの言葉を心で復唱。

「・・・それって、マイクさん。明日も一緒に探してくれるの?」

レティシアの瞳が大きく開き、マイクの返事を待っている。


「ああ、一緒に探そう」


「あ、あ、ありがとう~!!」

レティシアの感謝で見開いた瞳に、マイクの『へ』の字の口が少し上がった。


「ふっ。早く帰らんと暗くなるぞ」


うおお、今笑ってくれたよね。


ため池は見つからなかったけれど、これだけで、もうやり遂げた気持ちになってしまった。


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