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55 天から人材が送られてくる?



ルコントの領主は領民のために大きな病院を作り、しかも、その病院は身分関係なく平等に診てくれる。

その寛大な心に人々は、レティシアを女神と称しているが、その事を本人は知らないでいた。


病院に行くと、人々が儀式のように両手を合わせ、目を瞑るのを不思議に思っていた。

レティシアは何をしているのだろう?と、今まで通り質素な服装で見回っている。

領主だとばれると、病気の人に気を遣わせてしまうのではと、レティシアなりの配慮だった。


しかし、レティシアが通るとある庶民の親子がヒソヒソと話す。


「ほら、ご覧。あれがこの地を治めるルコント伯爵様だ。でも、あの質素なお姿は仮の姿で、本当は女神様なのだよ」

そう、いつの間にかレティシアは、領主よりもワンランクもツーランクもアップした存在になっていた。



王国にある、庶民のための病院。

その差別なく診察する病院の料金も、他の領地の病院からすれば、とても良心的な金額なのだ。


これも、ルコント領が観光事業で潤っているのと、税金を食い物にする貴族が、レティシアしかいないお陰である。


他の領地では、どんな医療でも、診察を受ければ高額な金額を要求される。

つまり病気になった庶民は、通りかかる薬師を待つしかないものだと思っていた。そんな庶民にとって、この病院は自分達を助けてくれる、唯一無二のものだ。


すぐに領立ルコント病院は国中に広まり、病に苦しむ多くの人々がここを目指し訪れている。

そこでレティシアは、王都からのルコントの22滝や、ルドウィン町に来る観光客用の定期便の他に、ルコント病院へ直通の定期馬車を出すことにした。


開業以来、毎日ひっきりなしに病院には患者が訪れているが、その病院に治癒魔法の医師も増えて初日ほどの混雑はない。


それは医療に関わりを持ちたいと思っていた魔法量の多い少ないに関わらず、多くの治癒魔法士がやってきて従事し始めたためである。


即戦力になる者はそのまま現場へ。

まだ実践的でない者は、一旦は医療学校へ入学してもらい、そこで技術を磨いてもらうことになった。



癒しが必要な人はルコントの滝があるオルネラ村へ。

目一杯遊びたい者は、ウェスタンなルドウィン町へ。

そして、治療が必要な者はルコント病院へ。


それぞれ必要なところへ、この小さな領地に多くの者が目的別に訪れている。



こうなると、レティシアは寝る暇もない程に、忙しい毎日を過ごしていた。

早く、自分の仕事を手伝ってくれる人間を雇わないと、この世でも過労死が決定事項。


しかし、有能な人物が降って湧いて出てくれるなんて、あるわけがない。

と思っていたら、なんと、二人の有能な男が現れた。まるで、神に道案内されたようにここに辿りついたというのだ。

一人目の男は名前をダルミアンといい、25歳。どこかの役所らしき所で働いていたが、気がついたら屋敷前にいたという。


では、ダルミアンに会った経緯から。

レティシアがオルネラ村に行こうと、屋敷の門を出るとき、彼は突っ立っていた。


ダルミアンは生気の無い顔で、ワイシャツのボタンが引きちぎられ、さらに裸足で、浅い息をして今にも倒れそうだった。


そんな男に警戒しながらも、レティシアは用心深く声を掛ける。

「おはようございます。あなた、この屋敷に用事があるのかしら?」

瞳孔が開いた狂気を感じる男に、レティシアは安全な結界の内側から声をかけた。


「私の、名前は・・・ダル・・ミアン?」

自分の名前すらわかっていない不気味なこの男を、結界の内側に入れる訳もなく、さらにレティシアは、男に詳しく尋ねた。

「ここに来たのは、誰かに言われて来たのかしら?」


「あの人・・・が・・? あの人って誰だろう?」

これも、レティシアの疑問文を疑問で返された。

しかも、斜め上どころか、遥かにぶっとんでいる。

これはもしかして、記憶喪失?


レティシアが迷わず結界の内側から出て、ダルミアンの手を引いた。

レティシアが怖いのか、男はピクッと拒否の反応を見せたが、一瞬だった。

手を握ると大人しくついてくる。

大人の男なのだが、その様子は捨てられた子犬のように従順だった。


悪い人には見えない。

案の定、結界はすんなり通れた。

通れたということは、レティシアに悪意の無い証拠である。


今日の予定を変更して、オルネラ村にはいかず、ダルミアンを優先させた。

ダルミアンのシャツは、使い物にならないくらいにあちらこちらが破れていて、ボタンもほとんどない。

リズに頼んで、落ち着くように温かいスープを用意させると、カップを両手で包み込むように持ち、背を丸めて飲む。


「えーと、あなたの名前はダルミアンでいいのかしら?」

「・・・はい。そう思います」

「なぜ、この屋敷に来ていたのかしら?」

「わからない・・・。今までどこにいたのか、これからどこに行こうとしていたのかも・・」

名前は分かったが、ダルミアンはその他の記憶は皆無。

手がかりの所持品もなく、暫く屋敷で身柄を保護することにした。


状況的に誰かに追われて逃げて来たと見て間違いない。しかも彼は誠実で真面目そうなのだ。つまり彼は悪い奴から追われているとレティシアは結論付けた。


始めダルミアンは、レティシア達が忙しそうにしているのを見ているだけだったのだが、書類を見るとてきぱきと仕事をこなすようになった。

一目見ると、書類の不備を指摘し、それに付随する資料を見つけてくれる。


すぐにルコントになくてはならない存在になった。


(きっと神様が、今度こそこの世界では過労死するんじゃないぞと、人材を天界から派遣してくれたのかも)とレティシアは都合良く考える。

そして、そうこうしているとすぐに二人目が天界から遣わされた。


その男は薬草畑で見つかった。

男は薬草を引き抜き、「これも違う・・・ああ、見つからない」と呟く様が不気味で、誰も近寄らず遠巻きで見ていたそうだ。

だが、お腹が空いたのか、男が大事な薬草を食べ始めたところで、薬師が総出で取り押さえたそうだ。


そして、領主であるレティシアに報告され、引っ張ってこられた。


その時には、男は空腹で声も出せず屋敷の玄関の冷たいタイルの上に座り込んでいる。


レティシアは質問をする前に、よれよれの男に食べ物を与えた。


男はパンを受けとると、囓ることなく手でパンを小さくちぎって、口に入れる。

その仕草で彼が貴族だと分かった。

しかも、着ている上着は泥でどろどろだが、絹糸を使った刺繍が施されていて、かなり高価な物だと素人目でも見分けがつく代物。


少しお腹が満たされ、落ち着いたのを見計らって、レティシアが質問をした。

まずは名前だ。

だが、この男も先のダルミアンと同じく、妙に辿々しく自分の名前を答える。


「私の名前・・・、えーっと、フィリー? フィリベルト? いやフィリ・・バス?」

またもや、語尾を上げて聞き返された。


「では、薬草の畑で何を探していたの?」

この男が草を探していたという報告は受けている。

しかし、それも忘れてしまったのか、フィリーは首を傾げた。

「何を・・・。私は何をしていたのでしょう?」


レティシアはため息が出そうになる。また、領地内で記憶喪失の男が出てきたのだ。

ダルミアンは誰かに追われているようだったので、未だに彼の手掛かりがつかめずにいるのに、また一人増えてしまった。


頭を抱えていたが、彼、フィリーもまた有能な人材だった。


彼は非常に計算が早く、会計能力が非常に高い。きっとどこかの領地管理を任されていたに違いない。

と、勝手に分析。


彼のように領地管理能力が高いとなれば、どこかの貴族の長男で既に管理を任されているはず。

であれば、行方不明の貴族の子息を探せばすぐに見つかると思っていたが、実際には捜査は難航した。


なぜなら、貴族の子供数は前世よりも圧倒的に多いからだ。妻以外にも多くの妾を有している外道な貴族の多いこと。

それに妻の数に比例する子供の数。

子供が10人なんて普通なのだ。


しかも、家出する放蕩息子に親も放置状態。行方不明者を探すというのは、至難の技だと気がつかされた。


と、いったところで、フィリーもレティシアの屋敷にて現在会計として働いている。

使用人も増えて来たので、屋敷の隣に、ちょうど建物を増築していたところだった。

なのでそこを彼らの居住スペースとした。


レティシアの元に、天から人材派遣されたような優秀な人物を得たことは、本当にありがたい。

自分で人材を探すなんて手間も掛けずに、面接もせずにここまでの人材を見つけてくるなんて、神様は素晴らしいヘッドハンターだわ。

神様、今度は領地経営について、更なる展開を話し合える人物を下さい、と祈るレティシアだった。

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