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43 手を取り合う領民(1)


ポテポテ・・。 ぽてぽて・・。


漸くポニーの引く馬車がルドウィン町に着いた頃には、ルドウィン町の郵便局の裏にある集荷場に、主だった住民が集まっていた。


そこには既に、マイクもポドワンも到着していた。


ルコントの領民には全て、レティシアの叔父がこの領地を乗っ取ろうとしていることは通達済みだ。


これも、ポニーがゆっくりとヤニクを運んでくれたお陰である。


広くはない郵便局の集荷場だったが、案内されたヤニクは、とてもいい気分だった。


集まった人々が笑顔で待っていたからだ。

実際には上辺だけの微笑みで、目は誰一人笑っていない。

だが、この勘違いは以前レティシアから屋敷の従業員を全て奪った記憶が、成功体験としてヤニクの自信になっているのだ。

なので、今回もルコントの領民全てが、自分に付き従うのだと信じて疑わない。


「良く、集まってくれた。私はこのルコントの正式な領主となるはずだったヤニク・ワトー男爵である。お前達がレティシアという無能な小娘の下で、苦労をしていると知って、助けに来てやったのだ。ありがたく思え」


レティシアの叔父だから、少しは彼女に似ているのだろうか?と思っていたが、レティシアの美しい容姿とは正反対で、似ているところは一つもない。

しかも、あれほど庶民に寄り添い優しさを見せるレティシアに比べて、この横柄な態度に驚いた。

あまりの違いに人々が一斉にざわつく。

そんな中、ジョージが手を挙げた。


「ふむ、お前らのような庶民が私と話せる身分でないことは分かっていると思うが、今日は許してやろう。なんだ? 話せ」


(レティー様はお前より上の伯爵だが、気軽に話してくれるぞ!!)

誰もが憤る。

その中ジョージが、感情を殺して話した。

「今このルコントは急上昇で発展してきている。ワトー男爵様はここから、もっと発展をさせてくださるので?」


ジョージはレティシアが一緒になって作ってくれたこの町を誇りに思っている。

これほど発展した領地、お前ごときにこれ以上なにも出来ないだろう?と、ヤニクに無能を露呈させるつもりで質問をした。


だが、意外にもヤニクはこの町をもっとスケールの大きな街に作り替えて大儲けをするという。


「私がいれば、この町はさらに大きく発展するだろう」


「それは、どういった案ですか?」


「簡単だ。この街の全てをピンクに塗るのだ!!」


「「「ピ、ピンク?」」」


住民全てから、すっとんきょうな声が漏れた?


「この町の壁をピンクに塗り変えて、全て娼館にするのだ。ここは王都からも良い具合に離れているからその手の客も集まるだろう。それに、ここにはいい女も多い。儲かるぞ」


ヤニクの爛れた目が向いたのは、喫茶店経営者のノリーとその娘のクロエだ。


ノリーは娘のクロエを隠すように、自分がズイッと前に出る。


だが、この案に憤りを感じたのは彼女達だけではない。

今、健全に遊びに来ている観光客の期待を裏切ることになるのだ。

それに、あんなに頑張ってくれたレティシアを思い出すと、そんな案を出された事が、屈辱でならない。

怒りで皆が押し黙る。


だが、ヤニクはまともな人なら読めるこの沈黙を、皆が自分を尊敬しての静寂と受け取った。

恐るべきKYである。


「私の経営能力に驚愕したようだな。お前達は小娘に仕えていたが、これからは私がお前らの領主になってやれる。しかし、今のままではレティシアが領主だ」


当たり前だろう!! 今もこれからも領主はレティー様だ。


領民の心の声が聞こえていたならば、大声量だったはず。


「小娘からの支配が嫌ならば、お前達が動けば良いのだ」


「・・・ん?」

ヤニクの言っている事が分からず、皆が同じ角度に首を傾げる。


「分からないのか? ほら、考えろ!!」


ヤニクにしてみれば、自ら言ってしまえば捕まった時に『ヤニクに命令された』と証拠になり、自分の逃げ道がなくなる。

ここまで言えば、自分に賛同した男の一人や二人が挙手をし、『私が()ります』と言うだろうと安易に考えていた。


しかし、いくら待っても誰も何も言わない。

いや、領民は本当に分からないのだ。


「ええい、察しの悪い奴らだな。小娘を追い出すのは実質無理だ。だが、小娘がいなくなればいいのだ。ほら、どうすればいい? 良く考えろ」

ヤニクは壁をドンドンと叩き訴える。


「・・・・」

ここで、漸くヤニクが言いたい言葉を理解した領民が数人いた。

無論、分かったとしてもそのような事を、ルコントの領民が言う訳がない。


(なんと阿呆な奴らだ。ここまで言ってもまだ分からないとは)

苛立つヤニクはヒントを与えるつもりで、一文字を声に出して言う。

「誰か一人でいいのだ・・。そのレティシアをこ・・・」


「「「こ?」」」

領民がヤニクの言葉を復唱する。


察しの悪い領民にイライラしながら、もう一声追加したヤニク。

「だから!! ころ・・」


「「「ころ?」」」


「むむむむ、ここまで言っても分からぬとは。だから・・レティシアを殺せばこの領地は私の物になるのだ」


一瞬で郵便局の集荷場が凍り付く。


一番、『怒』の冷気を放っているのはマイクだ。

孫のように大事にしているレティーお嬢を殺すだと?


マイクの腰をジョージが押さえていなければ、ヤニクは殴り殺されていただろう。


「落ち着け」とマイクに言っているジョージでさえ、怒りで顔を真っ赤にしていた。


いや、ここに居る全ての者が怒りを堪えていたのだが、ヤニクは気が付いていない。

頭の中の脳みそはミジンコクラスの大きさだ。

なんせこの時彼は、このルドウィン町がピンクに塗られ、美しい女達に囲まれる自分を想像していたのだから。


ヤニクが領民を見れば、4人の男が手を上げている。


「俺たちはこの領地を大切に思っている」


「おお、そうか!!やってくれるか」

ヤニクは大喜びだが、決して彼らは『する』とは言っていない。


挙手したのは、マイク、ポドワン、ジョージ、ホテルのフロントマネージャーのコーリンの4人。


ポドワンは「マイクさんはお年寄りだ。この件からは降りてもらう」と言ったが、マイクが譲らない。


「誰が年寄りだ。お前達には負けん」


ヤニクが、大柄で足が遅い爺さんならば、捨て駒にぴったりだとほくそ笑む。


「いやいや、やる気があるのは結構だ。お前も参加しろ」


ヤニクが顎を撫でながら、自分の采配に酔いしれていた。

マイクは、この男がレティシアを傷つけようものなら、容赦なく叩きのめすという意気込みで参加を決意したのだ。


溢れる殺気が、自分に向けられているとも知らず、ご満悦のヤニクはホテルの総支配人のフレイムに、一番良い部屋に通せと無茶をいい、ホクホク顔で、「今後の指示を待っていろ」と言い残しその場を去った。


ヤニクが居なくなると、コーリンが怒鳴る。

「街をピンクに塗れだぁ? こちとら、爽やかに笑う笑顔の練習をどれだけレティー様にさせられたと思ってんだ。ここまでの努力を無に出来るかってんだ!!」


マックスナルトの店主、マックスもいつもの笑顔は消し去っている。

「聞いた話、あいつの領地じゃ、庶民に高い税金を掛けて、払えなくなったら即娼館に売られるって聞いたぜ。それに幼い子は下働きに出されて、その給料を盗んでやがるんだ」


喫茶店のノリーは、青ざめた娘のクロエを抱き締めている。

「あの、エロ親父はこの領地の全ての娘を狙うだろうね」


「きっとそうなるな。オルネラ村に行った時、俺の妹を見て舌舐めずりをしていたからな」

ケントの言葉に、ポドワンが壁を殴る。

「俺の妻に、手出しさせるものか。その前に殺してやる」


ジョージはさらにヒートアップしていた。

「俺の娘をそんな嫌らしい目で見ていただと?!! 目ん玉をくり抜いてやるぜ!!」


立ち上がった二人はお互いの顔を見て、気まずそうに座る。

そう、この二人の関係は義理の親子。

しかし、オルネラ村とルドウィン町の仲が悪すぎて初めて顔を会わせたのだった。


マイクがゆっくりと皆の顔を見ながら立ち上がる。


「皆は分かっているのか? 貴族とは多かれ少なかれあのような態度で接してくる。だが、このルコントの領主様はどうだ? 若いが経営能力は抜群、そして何よりも領地に住む我々の事を考えてくれるような領主は、レティー様以外にいるか?」


誰もが首を横に振る。


「では、決まりだ。今回の事でもうすぐ帰ってくるレティー様をオルネラ村とルドウィン町とは連携し、守るのだ!!」


「おー!!」 「やってやるゼ!」

「まかせとけ!!」

一斉に椅子を後ろに倒して立ち上がり、全員が雄叫びを上げたのだった。


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