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41 叔父の欲深い計画(1)


時は遡る。

これは、レティシアがまだ王子宮にいる時に起こった話である。



ヤニク・ワトー男爵は、ルコント領に向かう馬車が、王都の町から出ていることに驚いていた。

王都から少し外れた庶民の町からではあるが、ルコント領に向かう定期馬車があったのだ。


普通に考えれば、それくらいルコント領に行き来する人が増えたと分かるのだが、物事を深く勘案する能力を持たないヤニクは、この後に起こる出来事にもこのように何事にも浅慮な行動をしていくのだった。


(なんだ? いつの間にこのような馬車便が出来たのだ? まあ、ルコントに行くのは不便だったし、なぜこのように馬車ができたのかは知らないが、丁度良いぞ。ルコントが私のものになったら行き来も増えるしな)と深く考えもせずに乗車する。


そして、ルコントに着いたヤニクは馬車から降りてすぐに我が目を疑う事になった。

ヤニクが見たものは、賑わいを見せるルドウィンの町。

当初、馬車が行き先を間違えて、違う領地に来たのではないかと思ったほどだった。


「これは一体どういうことだ? あれほど(すた)れていたのに・・この変わりようは・・?」


以前訪れた時、人のいない商店は薄汚れていて、店内に入るのも躊躇うほどだった。

その時の領地には行き交う人も居ず、ただ砂ぼこりが舞う暗い町だったはずだ。


だが、今は異国に来たような建物が並び、観光客さえも変わった服を着て行き来しているではないか。

数店舗しかなかった店は、大通りを挟んでずらっと並んでいる。

しかも、物珍しい物ばかりでどの店も客で溢れていた。


初めて都会に出てきた田舎者のように、左右を交互にキョロキョロしながら見て回る。


すると店の中から声を掛けられた。

「そこの旦那様、ウエスタンなルドウィン町は初めてのようですね。是非、ジーンズに着替えてカウボーイスタイルに変身して下さいよ」


そこの店主は大柄な男性で、にこにこと笑みを浮かべて接客をする。


(ここの領地の人間が、笑うなんてビックリだ)


「ほら、旦那様ならこのウエスタンシャツとか似合いますよ」


にこにことシャツを広げられても、ヤニクにはお金がない。


「いや、私は結構だ」

庶民に自分がお金を持たない貧乏人だと思われたくなくて、横柄にしっしと追い払った。

素早く身を翻し、さっさと店を離れた。


暫く歩くと今度は、肉の焼けるいい匂いが食欲をそそる。

ふらふらとそのステーキ屋の看板を見る。

だが、メニューの価格を見て一歩下がった。

懐の寂しいヤニクは諦めて、少し歩いた先にあったハンバーガーと書かれた店に入った。


パンにミンチ肉を挟んだ斬新な食べ物。それに喉がシュワシュワする不思議な飲み物。


店内は入れ替わりが激しく、外のテーブルにも多くの観光客がハンバーガーとやらを頬張っている。


「女性だというのに、あんなに大口を開けて食べるなど恥ずかしいとは思わないのか?」

横目で罵りながら、自分も大きく口を開けて食べた。


急激に発展した街並みを、ぶらつきながら見て回る。

それにしても、どこも客で溢れているではないかと、感心する。


(この領地の変化はきっと平民達が考えたのだろう。ここを俺の物にすれば大金が手に入るな。この領地を売るのは止めにして、俺が領主になった方がよさそうだ)


勝手な事を呟きながら、パン屋にふらりと入ってレティシアの事を聞いてみることにした。


「いらっしゃいませ」

ドスの聞いた男の声が店内に響く。

だが、顔を見るとやはり笑顔だ。


ヤニクは偉そうな貴族の顔を作って、パン屋の店主に近付いた。

「私は近々この領地の領主になるヤニク・ワトーと言う者だ。少しレティシア・ルコントの事で尋ねたいのだが、いいかね?」


パン屋の店主、ジョージの眉にぐいっと力が入ったが、すぐに戻る。


「レ・・ルコント伯爵様の事ですね?はい分かりました。聞きたいこととは何でしょうか?」


怪しいと感じたジョージはすぐにレティー様呼びではなく『ルコント伯爵様』に変えた。

そして、用事で北部のオルネラ村から帰っていたケントに目で合図する。


いつもは相手が平民だと横柄な態度になるヤニク。だが、ここは重要な仕事(暗殺)を頼む為に少しにこやかに話を切り出した。


「君達もあんな幼い領主の元で、ここをこれほど盛り立てて来たのは並々ならぬ苦労があったのだろう?私はあれの叔父にあたるのだが、本来ここは私の物だったのだよ。君達も、大人である私が領主になれば安心ではないか?」


こいつは一体何を言ってやがるんだ?

ジョージとケントの顔から愛想笑いが消える。

二人の間の空気が、怒りでひりついているがヤニクは気がつかない。

何せ何の能力もなく、小銭を数えることしか出来ない男にそれを察する事は無理だろう。


しかも、その沈黙をどうやったらそう思ったのかは理解できないが、自分の言葉に感銘を受けたのだと勘違い。

さらに調子に乗ったヤニクが、演説じみた事を言い出す。


「あんな子供に命令をされて、税金を支払うなんて屈辱だろう。言わなくても分かるぞ。私には君達の気持ちは分かっている。私はあの小娘から君達を解放する方法を知っているのだ。是非私に力を貸してくれないか?」


ジョージが拳を握り、ケントに見せる。

《一発殴ってもいいか?》と。


ケントが目を閉じ、少し横に首を振る。

《やめとけ》


声には出さないが、二人の意見は一致した。

(こいつの目的と計画をしっかりと見定めよう)

そして、アイコンタクトだけで二人は結論を出した。

最終的にレティシアの叔父と名乗る胡散臭い人物を、ケントが監視することになった。


ケントはこの危険人物のヤニクの顔を領地全てに知らせるために、オルネラ村にも連れていくように仕向ける。

指名手配書の代わりに、実物を見せるのと、時間稼ぎ作戦だ。


長い演説のようなヤニクの自慢話が終わると、ケントがすぐに行動に移す。

「それでしたら、是非北部の村に行ってオルネラ村の連中にも話をしてやってください。すご~く興味を持って聞いてくれますよ」


「おお、そうか。農村の奴らは食べ物もなく困っているだろうから、私の手足となって働いてくれそうだな」


上機嫌のヤニクを、ジョージが気が付かれないように後ろで睨んでいる。


振り向いたヤニクは、パッと表情を変えて笑顔に戻したジョージに、もう一つ尋ねた。


「小娘は今、王子宮に行っているが、どうして侍女の仕事をしているのだ?」


「ああ、それは王子宮に行ってもらわないと・・(レティー様が全然休んでくれないので)大変なんです」


「ああ、そういうことか。ククク。そうだと思ったぞ!!やはりな」と何を勘違いしたのかヤニクが笑う。

きっと領民に追い出されたのだと、高笑いしているのだろう。

だが、勘違いしてもらってる方が、この貴族を騙しやすい。


ジョージはそのままヤニクを勘違いさせたまま、下品な笑いをさせておくことにした。


「それでは、私がオルネラ村に案内するので、移動して下さい」

ケントが口許だけの微笑みを見せて、ヤニクを村に案内する。


ケントは小さな馬車に、子供用のポニー数頭を繋ぐ。


「こんな馬しかないのか? 私は急いでいると言うのに・・・」


「すいませ~ん。今は乗馬体験のお客様で一杯で、これしか残っていないんですよー」


ケントはしらっと嘘をつく。

「仕方ないな。我慢してやろう」

ヤニクは腕組をした腕を指でトントン叩く。


ポニーの馬車はポテポテと歩く。

ポテポテ・・ポテポテ・・・・


苛立ちが、貧乏ゆすりに変わる。

ポテポテ・・ポテポテ・・

・・・・。


「ええい!! これだったら歩く方が速いわ!!」


「それじゃあ、降りて歩きますか?」

ケントがポニーの馬車を止める。


「何を止めているんだ。歩くわけがないだろう。早く出せ!!」


「はいはい」


ケントは再び、ゆっくりと馬車を優雅に歩かせた。

(これが一般のお貴族様ってやつか。庶民を全て見下した態度で、威張り散らす。あー殴りてえ)

この男がルコント領を治めるようになったら、きっとここの暮らしは地獄のようになる。

そんなことは絶対にさせないと、ケントはゆっくりとポニーを歩かせた。


ケントがのんびりと北に向かっている時、パン屋のジョージが早馬で逸早くオルネラ村に到着。

そして、マイクやポドワンに声をかけ、村人を集合させていた。


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