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34 リズが住み込むまで


リズは15の時から王宮で働いていた。

仕事が早く、よく気が付くのですぐに王妃の侍女として働くようになる。

そして、エルエストが生まれると、侍女長に昇格し、そのまま王子宮に入ったエルエストの侍女長となる。


だが、二人目の子供を出産後、王子宮を辞職した。

娘のケイトの体が弱かった事が理由である。


王子宮を離れていたリズを、突然エルエストが訪ねて来たのだ。

驚くリズに「大切な女の子が出来た。その女の子の屋敷で侍女として働いてもらえないだろうか」と直々に言って来たのだ。


王子がこれまで沢山の女性がすり寄って来ても、女性を嫌って素っ気ない態度を取っていたのは有名だ。

王子は女嫌いなのかも、と思っていたのに、レティシアへの入れ込み具合が急変過ぎて、リズはレティシアを不審に思う。


(ははん。その女、どうやら我が純真な王子を誑かしたな)


そう決めつけたリズは、悪い女を見定め、それに引っ掛かったエルエストの目を覚まさねばならないと決意する。


そこで、「すぐにその伯爵家に行きましょう」と返事をした。

リズの魂胆を知らないエルエストは「ありがたい。では頼んだ」と言って簡単にその女の屋敷の住所と状況を話して帰っていった。


伯爵家の家の状況を聞いていたリズは推測する。

屋敷に誰も使用人がいないなんて、考えられない。

これは、その女が使用人を虐めていたのだろう。

使用人を虐めすぎて全て出ていかれた。

そして、それを隠してエルエストに泣きついた。


そう考えれば辻褄が合う。


(王子は人を見る目は持っていると思っていたが、やはり女に騙されてしまったか・・)


少しがっかりしたが、姉のような存在の私が、その女の正体を見破り告げれば、すぐに恋の熱も冷める。

否、無理にでも冷却してやろう。


リズは意気込んで、ルコント伯爵の屋敷に乗り込んだ。


出てきたのは、泥だらけのオーバーオールの少女。

使用人は誰もいないと聞いていたのに、こんなかわいい子が残っていたのか。


驚きつつも名乗るリズに、その少女は「遠いところありがとうございます」と親切に屋敷を案内してくれた。


そして、散らかった食堂?らしき部屋に入るとどうぞお座りくださいと、唯一物が置かれていない椅子に座らせてくれる。

そして、この領地の特産品という『ルコント・ソーダ』という不思議な飲み物を持って来てくれた。


「まあ、何て不思議な味なの?しかもこの喉にシュワシュワする喉ごしが面白いわ」


飲み物の感想をいうと、その少女は嬉しそうにもう一杯今度は、赤黒い飲み物を持ってきた。


「こちらも我が(・・)領地の飲み物で、『ルッコーラ』といいます」


(うん?この子、今『我が領地』って言った?)

ここで漸く、その女の子を見直した。

服は・・・あれだが、態度には品がある。


「あの、失礼ですが・・・あなたは?」


「ああ、ごめんなさい。私ったらまだ名乗ってませんでしたね。私がここの領主、レティシア・ルコントです」


「な、何て事!! 領主様に飲み物を入れていただくなんて、申し訳ございませんでした」

リズは椅子から立ち上がり、頭を下げる。


「いえいえ、名乗ってなかった私が悪いんです。どうぞ、頭を上げてください」

レティシアが、頭を下げるリズの下に潜り込んで肩を抱き上げるので、頭を上げるしかない。


「あの、この散らかった状況を見て、お手上げだと思われたなら、遠慮なくお帰りくださってもいいですよ。流石にうんざりされるでしょ?」


この部屋に入った時に、高飛車な貴族の令嬢に『この部屋をさっさと掃除なさい』と命令されるのだなと思っていた。

が、この惨状を恥ずかしそうに、無理なら帰っていいですよと領主様がリズを慮って先に言ってくれている。


なんだか、熱い感情・・・使命感と責任感と人情とが入り交じった複雑な思いが湧いた。

「いえ、遣り甲斐がありますわ。先ずはここの書類の山を一旦別の部屋に移動させてから、この部屋を掃除していきます」


エルエストから引き受けた仕事だ。それに、目の下に隈を作ったレティシアに、きちんとした場所で食事をしてもらいたい。働き者の侍女長のやる気が復活した。


2階の部屋を見て間取りを確かめ、1階の階段奥の部屋から、掃除道具を探して食堂に戻ってくると、レティシアがせっせと書類を片付けている。


「ルコント様がしなくてもいいです。掃除などは侍女の私に任せて下さい」

慌てて、レティシアの手から書類を取るが、反対に今度は横にあった雑巾を取られてしまった。


「一人よりも二人でやれば、早く終わります。それと、この領地では皆は私の事をレティーと呼んでくれますので、リズさんもそう呼んで下さい」


「・・では、レティー様とお呼びします」


伯爵様を愛称で呼んでもいいのだろうか?と戸惑いつつ言われた通りにする。


そして、レティシアが迷うことなくバケツに手を突っ込んで雑巾を洗うのを呆然と見ていた。


その手付きは慣れたもので、力強く捻って雑巾を絞る。


王子宮で、行儀見習いの貴族の娘が侍女としてやってくるが、雑巾など触れようともしない。


役に立たないお嬢様方がすることは、王子の後を金魚の糞のようについて回る、それだけだ。

うっかり掃除道具が体に触れたならば、『汚いわ!!』と大騒ぎするのみ。


それが普通なのだ。


ルコント伯爵もそのような女の一人だと思っていれば、違った。


それらの違うとは全く別次元の違い方だ。


あまりにも手際よく掃除をするので、驚きのあまりレティシアを見ていたら「やはり、この汚さが嫌になりましたか?」と首を傾け困った顔を向けられた。


「いえ、そうではなく・・・。あまりの手際の良さに驚いていただけです」


「それなら、良かった。所で、さっき紹介状を見たところ、お子さまが二人いらっしゃるのね? そのお子様は今はどちらに?」


「今日は知り合いに預けてます」


領主となった女の根性の悪いところを暴いたら、すぐに辞めるつもりだったが、レティシアを一人にしたくないという思いが芽生えていた。


(そうだ・・。息子はまだしも、ケイトはまだ小さい・・。どうしようか・・・)


と悩んだ時、レティシアが「ここに連れてきてもいいですよ。ここなら何かあった時にすぐに気がつくし、部屋も沢山余っています」と言ってくれた。


「しかし、そんなに甘えては・・」


「いいえ、私ももうずっと一人で暮らしていて、今貴女とおしゃべりしていて気がついたの。楽しいって。だから是非連れてきて・・・でも通いが大変ならば・・・」

レティシアは是非にここで働いて欲しいと願ったが、無理強いは出来ない。


レティシアの言葉が言い終わらない内に、「では、住み込みでお願いします」とリズが体を乗り出して答えた。


「あっでも、旦那さんはいいのかしら?」

「単身赴任をさせます!!」


さらにリズが体をの乗り出し答えた。


という経緯で、リズと子供共々、住み込みとなったのである。



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