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32 ゴルフで賭けをしよう


兄弟が仲良く牽制し合いながら、パターゴルフ場に着いた。


アレイト妃もシルフィナ王妃も、ドルト伯爵夫人も、動きやすいドレスに着替えてヤル気満々だ。


「この木の棒・・パターという棒で小さなボールを打って、転がしながらあの小さな穴に入れるのね?」

シルフィナ王妃が、レティシアに尋ねている。


「では順番を決めましょう」と仕切っているのはドルト伯爵夫人だ。

『初めて』と名の付くものは、なんでも体験したい。その彼女はこの競技が楽しみでならないようで、ワクワクして芝生を一番乗り。


だが、その感じ、アレイト妃も一緒のようだ。

アレイト妃は元々体を動かす事が大好きなのだろう。


競うとなったら、我が子にも勝ちたいと言い出し、結局王子も参戦することになった。


そしてドルト夫人が、『一位の人のお願いを最下位の人が叶える』と言う罰ゲームを発案。


この提案にレティシアは呑気に、「流石はドルト夫人ですわ。よりゴルフのプレイが楽しめますね」と言っていたが、まさか一スタッフの自分がプレイヤーとして参加するとは思っていなかったのだ。


「まあ、ルコント卿も一緒にプレイされるのですよ。さあ、これを持って楽しみましょう!!」


ドルト夫人の勢いに押されて、レティシアはパターを受け取ってしまった。

まあ、自分は経験がある。他の5人は初心者だ。だから最下位になるはずがない。

と、レティシアは油断していたのだ。


それこそ初めは、経験のあるレティシアが優位だったが、それも3ホールまでだった。


その後、要領を掴んだエルエストがパターでなんとホールインワンを連発。


そして、終わってみれば一位はエルエスト、二位はアレイト妃、三位にハリー、四位ドルト夫人、五位にシルフィナ王妃。最下位はレティシアだった。


「楽しかったわ。今日は体を沢山動かせて本当にすっきりしたわ」

元気溌剌なアレイト妃は、すっかり体は回復している。


それに比べ、レティシアは最下位になり力なく項垂れていた。

初心者の人達に負けてしまった衝撃もある。

しかし何と言ってもショックなのは、エルエストが妙に目をギラギラと滾らせているのが怖くて仕方ないからだ。


「じゃあ、トップの俺の願いを聞いて貰おうかな」


意地悪そうな瞳をキラキラ輝かせているのだから、嫌な予感しかしない。

何を言われるのか戦々恐々とし、エルエストの願いが簡単でありますようにとレティシアは祈るばかり。


「休みも兼ねて、一週間俺の専属侍女になって貰おう」


ひーぃぃぃぃぃ。

やはり、レティシアを王宮の侍女にと固執するのは、小説の流れに呑み込まれているのか?

「・・・ちょっと待って下さい。私にはこの領地ですることが山ほどあるのです。ここを離れるわけにはいきませんわ!」


「それは大丈夫だよ」

隣からハリーが答える。

ハリーの方を振り向くと、こちらも悪戯が成功した時の子供のような顔をしていた。

「仕事が溜まったなら、私達兄弟が手分けしてその業務を助けるから。一週間離れてもすぐに取り戻せるさ」


「それよりも、先ずレティーの侍女をなんとか先に手配しよう。心当たりがあるから任せといてくれ。その者が領地に何かあればすぐに連絡をくれるだろう。だから、侍女が来て落ち着いたら、王子宮に呼ぶからね」

後ろでご満悦のエルエストが、付け足した。


レティシアはため息をつき、諦める。ここは潔く負けを認めた。

勝負に負けたからには、罰ゲームを受けるしかないと。



◇□ ◇□


王子二人は、ドルト夫人が罰ゲームを言い出した時から、こっそり計画を立てた。

それは、パターゴルフの勝負に、どちらかが一位になり、最下位になるだろうレティシアを勝った方の専属侍女になって貰うというものだった。


「兄上、どっちが勝っても負けても、恨みなしですよ」


「わかっているよ。それより私の母が一位になる可能性が高いことが怖いんだ」

そう、アレイト妃は昔から運動神経が抜群で、このような競技はすぐにコツを覚えて勝ってしまうのだ。


途中経過では、まさかのアレイト妃の一位で、二人の王子が大いに焦っていた。


疲れているレティシアが精細を欠いて、最下位になるのはわかっていたが、このままでは全く面白くない罰ゲームとなってしまう。


ハリーと接戦になるだろうと思っていたが、ハリーのボールが運悪くレティシアのボールに当たったために大きくコースから逸れてしまったのだ。

これによってエルエストと差がついてしまったのだ。


そして、結果はエルエストが勝って、レティシアを一週間傍に置ける権利はもぎ取ったのだった。



その五日後、アレイト妃の体調もすっかりよくなり、ストレスも発散出来て顔色はこのルコント領にきた時とは全く別人のようだ。


「ルコント卿、長きにわたり本当にお世話になりました。あなたがこの領地に誘ってくれたお陰で、あの王宮を外から見ることが出来ましたの。あの中にいては見えることのない歪み。その歪みに真っ正面からぶつかって、いつの間にか、こちらまで歪んでいたことを知らなかったの」


王宮の中にある『愛宝殿』。

あの存在が歪みなのだ。


今までアレイト妃に押し付けていた『愛宝殿』にお住まいの方達のヒステリーに、今は国王陛下が直に対処していると聞く。

今までなら、「愛宝殿の者達の要望を聞いてやってくれ」とアレイト妃に丸投げすればよかったのだが、その妃殿下がいないのだ。


いなくなって漸く、いかに愛宝殿の方々が我が儘放題なのかを知った。


そして、どれ程アレイト妃に甘えていたかを痛感したのだ。


国王陛下も愛宝殿の愛人達のふるまいや、その多すぎる要求を知ったことで、愛人を甘やかすだけではいけないと認識したようだ。


そして、アレイト妃も愛人達を律する立場に自分がいるのだと認識し、これからは我が儘な行いをする者には、国王陛下に直談判して退去願う事も辞さない強い態度に出ると、胸を張る。


また、シルフィナ王妃は姉のように慕っていたアレイトが病気になったことで、これからはその重荷を自分も分かち合いたいと申し出た。

そして、この二人の絆がさらに深まったのだった。


「シルフィナ王妃殿下、アレイト妃殿下、また、いつでもお立ち寄りください」


二人がこのルコントの地で長く逗留していることは他の貴族に知れ渡った。

しかも、両妃殿下がマックスナルトに寄って、ハンバーガーを御嘉納にあずかり話題になった。それでハンバーガーは瞬く間に有名になる。


そして、その時両妃殿下は馬車でお立ち寄りになったのだ。


これぞまさしく『ドライブスルー』じゃない?


王族の警備の都合上、新しいウエスタンなルドウィン町は、まだオープンしていないが、多くの客が来るだろう。


両妃殿下の馬車を見ながら、レティシアは明日からの開業に胸を躍らせていた。




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