03 前途多難
商店からの帰路。
レティシアは俯きながら歩いていた。
問題が山積みだ。
父であるロジェ・ルコント伯爵の領地経営能力はゼロだった。
この誰もいない屋敷で、まったりすごそうと思っていたが、そうはいかない。
なぜならば、この領地はすぐに破綻するからだ。
そうなれば、その責任をとらざるを得ない。
くううう。お父様・・愛の逃避行ではなく、逃げたな。
可愛い一人娘を捨てて、何を一人で恋愛を楽しんでいるのだ!!
埃っぽい道をトボトボ歩きながら、拳ほどの石を拾う。
そして思いっきり投げた。
「お父様の・・あほたれぇぇ!!」
思いっきり投げても誰にも当たらない。
人がいない。
すなわち、経済が回らない。
だから、税収も少ない・・・。
そして、我が家にお金がない。
あら、ないない尽くし。
こんな誰もいない領地だからか、盗賊も出ない。
うふ、治安はいいじゃない。
レティシア渾身のポジティブシンキング。
だがすぐに、虚しさに肩が下がりきった。
つまりは、盗賊が見向きもしない領地なのだ。
屋敷に帰り着き、門を潜ると違和感を感じた。
もう一度外に出る。中に入る。
外に出る。
そして首を捻る。
小石を拾い、屋敷に向かって投げると・・、なんと弾かれた。
「凄いわ・・。この屋敷ったら防御魔法付きだったのね」
レティシアは、自分で魔法を掛けたとは露にも思わず、屋敷に入った。
父の書斎でこの領地に関する帳簿や、書類を探し回る。
そして3時間後・・・。
「ぬおおお! まったり過ごすつもりが・・。こんな赤字経営の領地じゃ無理ぃぃぃ」
持っていた報告書をバサッと放り投げて、床に寝転んだ。
汚いとかマナーとか誰にも言われないのはありがたいが、この危機的状況は嬉しくない。
「・・・お腹すいた」
むっくり起き上がり、リビングに置いたパンを取りだし、ソファーにごろんと寝そべりながら食べる。
「このパン、パッサパサ・・・。味がない・・・。美味しくない」
ソファーに座り直し、じっとパンを見た。
「この領地、詰んでるわ」
まったり生活どころか、寝てもいられないほどの窮地。
もしかして・・・、早急に動かないといけないのでは?
社畜精神が蘇る。
レティシアは立ち上がり、叫ぶ。
「改革!! しかも先に意識改革が必要だわ」
でも、なんにせよ、まずレティシアが領主として認められたという、証しが届かなければ何も出来ない。
つまりはそれまで・・・。
「ご飯食べようっと!!」
パサパサのパンを咥えて、再び寝転んだ。
まずは準備が必要だ。
レティシアはこの生活に不便を感じていた。
屋敷が広すぎるのだ。
由緒ある伯爵の屋敷ならば、お城のような屋敷も存在する。
それに比べるとかなり狭い方なのだが、レティシアが一人で暮らすには広すぎる。
玄関入って、右に40畳のリビング、廊下を挟んで食堂が30畳。
さらに食堂の奥には調理場。食物庫、使用人の部屋が4部屋。
さらに2階も主人の部屋や書斎。子供部屋に客室。執事執務室などもある。つまり部屋が多数あるのだ。
レティシアは2階にあった自分の子供部屋からベッドマットを引きずりながら、階段から落とす。
そして、1階の食堂に運ぶ。
リビングのソファーとローテーブルも食堂に運ぶ。そして不必要なダイニングテーブルと椅子はリビングへ。
「ふふふ、これぞ快適ワンルームよ!!」
食堂に全てを詰め込み、極力動かなくて済むようにひとつの部屋に集約するのだ。
合理的だわ。
しかも・・・。
一人暮らしなら憧れる、広々ワンルームの出来上がりだ。
「快適・・・。板張りの上にふかふか絨毯を敷いて、どこでも寝れるし、もちろんソファーでも、ベッドでも」
前世で出来なかった、のんきにごろごろ三昧をしたかった。
だが、食べる物を確保が先決である。
そのために花壇を潰して畑を作った。
お花を見ているだけではお腹は膨らまない。
毎日は忙しく過ぎた。
馬は放し飼いにしている。賢い馬で時間になると、厩舎に帰っている。
その厩舎の馬に餌や水を運んだりしているとあっという間に時間が過ぎる。
父が残した帳簿を見たり、領地の特産を考えたりと、毎日を過ごしていた。
ある日、郵便受けではなく、敷地の中にペッと捨てられるように届けられた手紙を見つける。
慌てて拾いにいくと、それは王様の横顔が印刷された封筒だった。
伸びすぎた雑草の上に落ちたから良かったが、泥の中に落ちていたら、一大事だ。
「まったくもう!!郵便物もまともに届けられないのかしら・・・。」
げんなりしながら屋敷に入る。
そして自室・・・。ワンルームと化した食堂に入り封を切る。
封筒には、待ちに待った『繰上勅書』が入っていた。
これで爵位の生前移譲が認められたことになったのだ。
無事に父ロジェ・ルコントから娘であるレティシア・ルコントへ爵位継承が成立。
レティシアはただの貴族のお嬢様ではなく、レティシア・ルコント伯爵となったのだ。
普通ならば12歳の少女への爵位引き継ぎは、無理がある。
しかし、王家に申請が届いた時点で、協力する親戚や使用人がいる場合は許可される。
そして、それを確かめるために現地調査のために役人が視察を行い、問題ないと判断された時点で、漸く繰越勅書が発行される。
だが、ここでミラクルが起こった。
現在王宮は、役員の人手不足により猫の手も借りたいくらいに忙しい。
そんな時、年に二度の決算日の最中に、レティシアの書類が紛れ込んだ。
よくある爵位の引き継ぎだと、サインされ、次の課へ。
あれよあれよで、国王の机上へ。
そして、重要書類ではない方の箱に入れられ、あっさりサイン。
そして、前代未聞の後ろ楯なしの少女伯爵が出来上がった。
「よしよし、これで第一歩を踏み出したわ」
そして、人生初の領地の視察巡りを行う。
以前は屋敷に近い町に出掛けたが、今日は隅々まで見て回ろうと考えていた。
それには馬が便利なのだが、レティシアは馬に乗れない。
じっくりと見回ると、歩いてだと1日じゃ回れないし・・・。
毎日、餌をあげているおかげか、とても懐いてくれている。・・・だが、馬の背中までは高過ぎる。
鞍はあるが重いし届かないし・・つまり一人では、鞍すら馬の背中に乗せられない。
「ねえ、しゃがんでくれない?」
試しに馬に頼んでみる。
「ヒヒン?」
うん、無理よね。
そんな都合の良い事が起こるわけがなかった。
馬はのんびり草を食んで、尻尾をパタパタ。
徒歩か・・・。
一回の投稿に文字数が多かったり、少なかったりと、ばらつきますがご了承くださいませ。