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23 第一、第二王子が揃い踏み


ラスボスのハリー第一王子の出現に、呼吸が止まるレティシア。


彼女は青ざめた顔に、精一杯の微笑みを作り、頭を深々と下げる。


「所で、君は初めまして・・だよね?王宮のパーティーでも会ったことはないよね?」


「初めてお目にかかります、ハリー第一王子殿下。私はレティシア・ルコントと申します。このような格好で、王子宮に立ち入った事をお許し下さい」


クスッと笑う第一王子のハリーに、ムスッと不機嫌になるエルエスト。


「気にしないでいいから、エルエストのわがままに付き合ってあげて。もう待てないみたいだから」


微笑む優しげな雰囲気は、レティシアの嫉妬心を利用して、ヒロインに毒を盛るように唆した残忍な王子の面影は一切ない。


「あ、あ、兄上。余計なことを言わないでよ」

慌てたエルエストが、レティシアを引っ張って自分が住まう建物に連れていった。


微笑ましく見送るハリー。

その瞳に歪んだ思想は見られない。

振り返りつつハリーを見たレティシアは、小説のハリーの言葉を思い出そうとしていた。


あともう少しで記憶の断片に手が掛かりそうになったところ、侍女2人に身ぐるみ剥がされ、手がかりを見失ってしまった。


「さあ、私達にお任せくだされば、お嬢様の荒れたお肌は真珠の輝きを取り戻せますよ」

何やらもふもふした固まりを手に、ニヤリと笑う侍女二人にソフトタッチで洗い上げられる。


(――思い出せそうだったのに・・・それより・・気持ちいいいいーー)

すっかり侍女二人による最高エステ体験を堪能し、考えることを全面に放棄してしまった。


そして、用意されていたドレスに仰天する。

大小様々な緑、黄緑、深緑のモチーフの花の刺繍を繋げたドレス。

一つ一つが素晴らしい刺繍のこのドレス。

いったいくらするのだろう?


じっと凝視していると、侍女に急かされた。


「こちらをお召しください」


「え? 私の服は?」


「あの汚れた服は、洗濯中ですので今はこのドレスしかございません」


汚いオーバーオールに執着するレティシアに、困り顔で侍女達が高価なドレスとアクセサリーを持って迫って来るではないか。


これは大人しく、この状況を受け入れるしかなさそうだと観念して、ドレスに袖を通した。


髪にもたくさんの小花のアクセサリーが付けられていく。


ピアスは真緑な宝石。

この緑で統一されている感じが、不安でしかない。


着飾った自分を姿見で見たレティシアは、驚いた。

「すごい・・・。きれい・・・。あなた方は魔法を使えるのね」

まるでアイドルのように、可愛く変身しているではないか。


「そんな賛辞を頂けて嬉しいですわ」

侍女達が誇らしそうに胸を張る。


自分の美しくなった姿を、覗き込み見ているレティシアの後ろで、コホンと咳払いが聞こえた。


振り向けば、着飾ったエルエストがいた。


「ああ、俺の思った通り、レティーには緑が似合うよ」


キラキラした笑顔のエルエストの瞳は、緑だった。


これ、小説で読んだ気がする、とその先の文章を思い出す。


初めて男爵の娘を連れて来た時に、嫉妬したレティシアが偶然を装ってヒロインのドレスに飲み物をぶっ掛ける。その後、エルエストがヒロインに着替えを用意するのだ。


それが真緑のドレス。


(・・・。これかぁぁ。でも、これを私が着ていいのかな?)

少々不安ではあるが、これでヒロインに意地悪をしなくても良さそうだと安心する。


これほど着飾って、どこに行くのだろう?


貴族の「しきたり」が分からないレティシアは、エルエストも礼装姿だと気が回らない。


再び先ほどの玄関ホールまで連れてこられ、馬車に乗せられても分からない。


だが、流石に王子宮から出てさらに大きな宮殿に着いた時には、どこに来てしまったのか理解した。


「ここは、陛下のいらっしゃる王宮・・・」

小説でもレティシアが踏み入ることすら出来なかった場所である。


「言っただろう。両親にも紹介するって」

無邪気を装い微笑む王子は、その腹黒さが浮き彫りになる。


「確かに両親ですが、そこは両陛下と言って下されば、私も来なかったのに・・・」

恨めし気な目を向けると、さっと逸らす辺り、確信犯だ。


「そんなに緊張することないよ」

安心させるように手を繋いでくるのだが、それが余計に不安にさせた。

しかも、ぶつぶつと何か言っているが、聞こえないから怖い。

「可愛くしすぎたのは不味かったかな? ちょっと親父は、女好きだから可愛くしすぎて不安だけど、流石に息子の想い人を取らないだろうし、ロリコンでもないしな・・親に会わせたら、そういう事だよな・・・」


『女好き』というキーワードを拾ったレティシアに小説の一部が文字となって浮かんできた。


そうだ! 側妃と王妃が仲が良かったのは単に年が離れていただけではなく、国王の女好きのせいで、次から次と入ってくる愛人達のせいで手を取り合って助け合っていたんだった。


レティシアは王子宮のさらに離れた場所にある、愛人のための『愛宝殿』と呼ばれる建物の存在を思い出す。


前世の感覚を持ったまま、国王に拝謁すると、トンデモなくスケベなおっさんとしか見られない。

だが、とても誠実な政治を行っている王様なんだ・・・けどな・・。

そう、思いつつ玉座の間に通された。

入った途端に、空気が張り詰める。


「エルエストよ、護衛も付けずに外泊はこれっきりにしなさい。お前はこの国の第二王子だ。いかなる時も油断してはならんのだ」


隣をチラッと見ると国王の言葉を真摯に受け止めているのかエルエストは「ご心配をお掛けしたこと、深く反省します」と頭を下げた。


「まあ、堅苦しい説教はこれまでにして、お前が連れて来たその令嬢の紹介をしてくれ」


急に国王の目がレティシアに向いたため、一気に緊張をする。それと同時に隣のエルエストも緊張しているのが分かった。

「彼女は・・前に、申請があったかと思いますがルコント家を生前移譲したレティシア・ルコント伯爵です」


「ふむ、そうか。噂には聞いていたが本当に12歳で継いで見事に領地を立て直していると聞いている。・・・だが、私が聞きたいのはそういうことではない」

国王陛下はお茶目なウィンクを息子に送り、質問の仕方を変えてきた。

「ともすれば、女性を毛嫌いしているお前だぞ。そのお前が連れて来たのだから、気になるだろう。ルコント伯爵は、お前にとってどういう存在なのかな?」


「彼女は・・・」

そう言うとチラリとレティシアを見て言い淀むエルエスト。


そこにダークブラウンの髪の毛を腰まで伸ばし、知性溢れる黒い瞳の妖艶なる美女が、エルエストに助け船を出した。


「オーラフ陛下、息子を困らせてどうするのです? ここは見守るところですよ?」


国王陛下を窘めることが出来るこの美しい女性は、ハリー第一王子の母君、アレイト側妃だ。


しゅんとするオーラフ国王が、残念そうにレティシアに声を掛ける。

「ルコント伯爵は、領地で辛いことはないか? あれば王子宮に留まっても良いのだぞ。それは息子も望んでおろう」


隣のエルエストの顔が真っ赤になっている。だが、レティシアはエルエストを気にする余裕などない。

ここに残るなんて、死に近付きそうで、なんとしてもお断りしたい。

レティシアの持てる全ての語彙を総浚いで、断り文句を探す。


「ありがたいお言葉です。ですが、今私は、領地の経営を始め、領民とふれあい、生き甲斐を感じています。我が領地がこのラシュレー王国のお荷物と言われないよう、益々邁進するつもりです」


「うーむ・・そうか。無理強いは出来ぬ。では、ルコント伯爵の手腕に期待しているぞ」


帰っても良しの許可をもらい、安堵するレティシア。

その横であからさまに萎れているエルエスト。

両極端な二人に、苦笑いのアレイト妃は、その若い背中を見送った。


レティシアは、息子以外の王子にも優しい気遣いを見せるアレイト妃に好感を持った。

今、この王宮には問題は見当たらない。

それに、ハリーとエルエストは非常に良い関係だった。


どうしてハリーはラスボスになってしまったのか?

小説を思い出せず、モヤモヤするレティシアに試練は続く。


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