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14 ルコントのソーダ


レティシアの叔父であるヤニク・ワトー男爵は、レティシアから全てを奪い、さらにはその先のレティシアが手にするお金、つまりはレティシアが王子宮で働く給料さえ搾取しようと思っていたが、敢えなく失敗。


文字も読めない小娘など、騙すのは赤子の手を捻るよりも簡単だ!!

と意気揚々とルコントに乗り込んだ。

だが結果は返り討ちにあい、フルボッコ。

たったの1レニーも奪えなかったことを、未だに腹立たしく思っていた。


だが、諦めてはいない。


テップリ太った腹を揺すりながら、ぶつくさと文句を言いながら歩いている。

今日は人事の役人に呼び出されて、王子宮に来ていた。


「全く役人って言うのは、せっかちでいかん。しかもすぐに呼び出す。呼べば、ほいほい来ると思われているのもムカつくのだ」


ぶつくさと文句を言っていたが、目的のドアの前でコホンと咳払いをして、顔をにこやかに作り変える。


そうして、呼び出された先の人事課のドアをノックした。

中から、甲高い声で返事があり、ヤニクは、腰を低くし揉み手をしながら入る。


「ヤニクさん、先日連れてくると仰っていた伯爵令嬢は、まだですか?」

痩せた頬に、気難しそうな線の細い男性が、じろりと見る。


彼の名前はパスカル。

王子宮だけでなく、全ての人事を任されている優秀な文官である。


「すみません。すぐに連れてくるつもりだったのですが、母親や父親が帰ってくるのではと期待して、屋敷で待っているのです。私としても連れて来たいのですが、彼女の心情を考慮して心穏やかになるのを待っているのです。ですからもう少しお待ちいただけませんか?」

悲しげに困った顔を作るヤニク。


「まあ、そういう事情ならば、もう少しお待ちしましょう。ですが待って半年です。王宮で働きたいという貴族子女は、沢山いるのをお忘れなきよう、お願いしますよ」


パスカルにピシリと期限を言い渡されてしまった。



ヤニクは頭を下げたまま、人事課のドアを閉め部屋を出る。


そのまま笑顔で廊下を歩き、角を曲がったところでスンと無表情に変えた。


「全く強情な娘だ。普通王子宮で仕事が出来ると言えば、大喜びで飛び付くだろう。一人で領地に残ったところで領民にも馬鹿にされ、いずれ泣きついてくるのは目に見えているわ。全く小賢しい」


早く、ルコントの領地を我が物にして、あの赤字の領地を他の貴族に売ってしまおうと考えているヤニク。

それにはレティシアは邪魔でしかない。


「まあ、もう半年、待たずに音を上げるだろう。それまで待つか」


レティシアが泣きついて来たらどうしてやろう。

それを考えると、今度はひとりでに頬が緩んだ。


「ははは、そのときが楽しみだ」



ヤニクが通りすぎた後、その側で王子宮のトップである、第二王子エルエスト・ラシュレーがヤニクの独り言を聞いていた。


「ふーん、俺達がいる王子宮で働くのを嫌がる女がいるのか・・」

少し興味が湧く。

だが、すぐに思い直した。


「どの女も、俺の顔を見るなり、きゃーきゃーと騒がしい。まあ、どうせその女も同じだろう。半年後にここに来たら、騒がしい女が一人増えるだけだ」


エルエストは踵を返し、自室に戻って行った。


◇□ ◇□


こんな事が王宮で起こっていたとは知る由もないレティシアは、次のミッションに取り組んでいた。


次の課題はサイダーの瓶作りだ。ラムネ瓶として、瓶の中にビー玉が入っている、あの独特な形を作りたいのだが、難航している。


ケントに紹介してもらったガラス職人の親方グレコに、絵で書いたものを試作してもらったが、上手く作れない。


ビー玉の大きさが足りずに、吹き出したり、中に入ったビー玉を飲む時にじゃまにならないように止める窪みが機能せず、最後まで飲めなかったり・・・。


しかし、失敗の繰り返しでも前進しているのだ。


今日もガラス工房にやってきたレティシアに、グレコが何も言わずにサイダーの瓶を渡した。


「もしかして、完成したの?」


ニヤリと笑うケントとグレコ。それに奥にはマイクも座っている。


グレコが顎でクイクイと開けろと促した。


「では、開けるよ」


マイクが木で作ってくれたビー玉を押す、玉押しを上に乗せて掌で押した。


ポンとビー玉が瓶の下に落ち、シュワワワと弾ける音がした。

「では、早速・・」

レティシアは瓶に口を付けて、一口。


「美味しい!! しかも冷たい、それに、炭酸が強め!! ハードサイダーなのにまろやかでいい。それに爽やかぁぁぁ!!」


三人は満足そうにレティシアが、飲み干すのを眺めている。


「レティーお嬢に教えてもらった作り方で作ったんだよ。甘くて美味しいだろ?」

マイクがほくほく顔だ。


「見てください」

ケントが新しい瓶を持って、マイクの作ったサイダーを入れると、炭酸の作用で、一気にビー玉が上に浮いて瓶を蓋した。


「このようにビー玉のサイズもバッチリです」

グレコとケントも鼻高々だ。


「これをハイキング客に売るのよ。そうね、この飲み物の名前は・・・『プシュっと爽やかシュワワ水』ってどう?」


「「・・・・・」」

グレコとマイクが生暖かい目で見てくる。


「レティー様は、壊滅的にネーミングセンスがないようで・・・」

ケントが失礼な事を言ってくる。


「確かに私は・・・」

前世の店舗開発で、お客様から店の名前を考えてくれませんか?と言われ披露した途端に、そこにいた全員に頭を抱えられた経験はある。


「ん?」

もしかして、そう言うことだったの?

生まれ変わって初めて知る真実。


「じゃあ、ケントさんは名前の候補はあるの?」


苦笑いしているケントに、レティシアはほっぺを膨らませてツンツンしながら言う。


「そうですね、このルコント領を知ってもらうためには、この領地を入れた方がいいでしょう?」


みんながふんふんと頷いているのを確認して、ケントが名前を発表する。


「『ルコント・ソーダ』とかどうです?」

ガラス工房の皆さんが、一斉に拍手している。

「何故『ソーダ』という名前を?」

ケントはもしかして、転生者なのか?


疑うレティシアに、

「爽やかな語感を感じて、何となくかな?」

とソーダよりも爽やかに笑うケント。


負けた・・・。

『ソーダ』は知っていた言葉だったのに、ケントのインスピレーションに負けた。


しょんぼりするレティシアに、マイクが寄り添う。


「ワシは、シュワワ水も良かったと思うよ」


マイクさんが慰めてくれる。

うう、マイクさんが優しい。よし、頑張ろう。

マイクの労りで頑張れる気がした。

「では、それで決定です。では、マイクさん、グレコさん、サイダー作りをよろしくお願いします。ケントさんは、あのコート山の看板とお客様に配る滝の名前を書いた地図の用意をお願いします」


みんなの力を合わせて、すぐに山開きよ!!


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