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01 叔父様、少し黙って下さらない?

書籍化決定!


松田このみは、目の前で唾を飛ばして叫んでいる男を、呆けた顔で見ていた。


ふと、思い出す。

自分が、さっきまで父の突然の失踪で泣いていたレティシア・ルコントだと。

5歳の時にレティシアの母は若い男と駆け落ち。

そして、今また父までもが隣国の貴族女性と恋仲になり、領地も何もかも放りだして愛の逃避行へ。

親に置き去りにされた悲しみのレティシアに、ペンを振りまわし真っ赤な顔で怒鳴っているのは、叔父のヤニク・ワトー男爵だ。


彼は父の弟で、自分をレティシアの後見人に任命しろと、父を失い泣いているレティシアに、脅しをかけている真っ最中。


「いいからここにお前のサインを書け!!」


この国では11歳を過ぎると後見人は不要で自分の身の振り方を決められる。

つまり、父のロジェ・ルコント伯爵の全財産がレティシア・ルコントへと相続されたのだ。


自分が12歳で本当に良かった。でないと、今ごろは問答無用で、この傲慢な叔父がレティシアの後見人となり、全てを奪われていただろう。


急に泣き止み冷静になったレティシアにヤニクは、更に勢いをつけ顔を近付けて罵る。


「お前のような役立たずな子供が、ルコント家の領地を運営できるわけがないだろう。たった一人でどうするんだ?!!」


(ああ、本当に唾が臭いわ)

レティシアは眉をひそめて叔父と名乗る男を見た。


(ホント嫌だ。お父様より5歳も若いというのに、デップリ太って手も洗っていないのか、爪の中も汚れている)


レティシア自身も、前世は人の事など言えたもんじゃないほど、汚れた部屋に住んでいた。

だけど、自分の事は『棚にあげる主義』である。



松田このみ、27歳。

根っからの社畜。

店舗開業支援会社勤務。

クライアントのニーズに合わせた立地から店舗、改装、商品構成、開店準備、オープンまで手配する会社で常にトップの成績を独走。


手掛けた店舗は花屋、雑貨屋、ペンション、カラオケ、レストラン等々。

彼女がプロデュースした店は好調な売り上げを見せ、クライアントからは絶大な信頼を得ていた。


「松田課長、坂下様から内装の壁紙を変更したいとお電話があり、15時に来店したいとの事ですが・・」

「じゃあ、15時にショールームにご案内できるように予約を入れといて」


会社では完璧主義者。

しかし、その実態は家に帰れば、穴のあいたトレーナーに、髪は無造作にゴムで一つにくくる。

そのトレーナーもここ2週間、洗ってない。そんなことなど日常茶飯事。


食事は基本インスタントラーメン。

万年床の布団に、倒れるように眠り土日も資料作りを趣味としている。


クールビューティと思われていたが、ものは言いようだ。単に表情筋を動かすのも面倒だっただけなのだ。仕事以外は全てが面倒臭がりなので、恋愛なんぞは生まれてこの方したいと思った事もない。


そう究極の社畜プラス干物女。

すでにカラカラに干からびて、もう7月だと言うのに未だにこたつを片付けられないでいる程だ。


あの日も缶ビールのフタを開けて、邪魔になったこたつを足で部屋の角に追いやり、ごろんと寝っ転がった。


そこまでは覚えている。

そして、次に起きた時には臭い唾が舞っている現場だった。


「ああ、そうだわ。さっきまで本当に悲しかった。女にだらしがないけれど、優しかった父がいなくなったと聞いたところなのに・・。悲しむ間もなく『サインしろ』と喚き散らす叔父に泣かされて・・」


ぶつぶつと呟きながら、爪を噛む姪を気味悪がり、今度は優しげな声で諭すように書類を出すヤニク。


「お前一人では、生きていくことも出来ないんだぞ。屋敷の使用人は全て、私の屋敷で雇う事になったのだから」


微笑む叔父の顔には、勝ち誇った蔑む色が隠れず滲み出ていた。


(そうね、前世を思い出していなければ、子供のレティシアが一人で生きていくなんて無理だったわ。ふふふ、でもね。中身は大人なのよ。

ああ、言ってみたい台詞が!!

『見た目は◯◯、頭脳は・・』)


やってみたかったが、諦める。

このような緊迫した場面でやっちゃうと、『は?』とドン引きされちゃうだろう。


それにしても・・・。とレティシアは使用人達の顔を一人一人確認した。

皆、レティシアと目が合わないように俯くか、顔を逸らす。


すでに、使用人は全て買収されている。

つまり、この屋敷に残ってレティシアを手伝ってくれそうな者はいないというわけだ。


まあ、これは仕方ない、とレティシアは諦める。

良識ある大人なら、この先こんな子供を主人として雇われるなんて、不安しかないだろう。

一人として残らないのか・・。


道理でヤニクが意地の悪い嗤いを浮かべている訳だ。


これはこれでいいかも。

レティシアは吹っ切った。

この機会に、お一人様を満喫できるのでは?と目を輝かせる。


先ほどまで頼りなげに泣いていた子供が、瞳に強気な光を宿したのだ。ヤニクは背筋に嫌な寒気を覚えた。

「子供が領地の管理を出来ると思っているのか? 遊びじゃないんだぞ!!」


再びヤニクは怒号混じりの脅迫に切り替えて書類をレティシアの顔近くに突きつけた。


「ええ、ヤニク叔父様。領地の経営が子供のお遊びで出来る事ではないと理解していますわ。だからこそ、私がやらなければならないと気がつきましたの」


凛とした佇まいで、ヤニクから突きつけられた書類を奪う。

「おい、こら!! その書類を返せ」

サインを迫った用紙は2枚あった。

その奪った書類には、一部金箔が貼られており、しかも現在のラシュレー王国の国王の横顔の印刷入りだ。


でも見るのはそこではない。

そこに書かれた内容ををじっと読む。

ふむふむ・・。

なんじゃこれぇぇぇ?


この書類はヤニクを後見人に指名するものではない。

父の財産を全て放棄し、伯爵家をヤニクに譲渡するものだ。

しかも、もう一枚にはレティシアを知らない貴族に嫁がせると書いてあるではないか!!!

もしくは、王子宮で働きその給料を全てヤニクに渡すとあった。


まさに、理不尽極まりない内容ではないか。

あまりの事に手が震えるレティシアを見て、ヤニクが訝しげに眉をひそめた。


「おまえ・・・まさか字を読めるのか?」


焦っているヤニクに、こっちが驚く。

「何を言っているの? 字が読めるなんてそんなの当たり前・・・」

ここで、レティシアの日常を思い出した。


母はいない。

父は恋愛に忙しく、娘に家庭教師をつけることもなく放置。

字を習っていないと、使用人から聞いた叔父は、それなら適当に騙して書類にサインをさせてしまおうと、考えていたようだ。


あれ?

レティシアが頭を抱えて悩む。

習ってもいないのに、字が読めるぞ。

その事に驚愕しつつ、これが転生者のなんか分からないギフトっぽいやつか?と妙に納得。


さらにレティシアはもう一つ、真実に気がついた。


あれあれ?

この書類の内容に見覚えがあった。

それもその筈。

前世で読んだ小説の内容と、全く同じだったのだ。



久しぶりの投稿です~

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(*´∇`)

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