20話 味方
オリジナルの動植物や設定、専門用語等は後書きにまとめますので、気になった方はぜひ読んでみてください。
また、気になる言葉などございましたら、追加いたしますのでコメントなどお気軽にして下さい!
「――これにその指定された場所が書かれているというわけか・・・」
ロウは羊皮紙を開き始める。
「マリアさんとダリウスさんに、何かあった時はその場所へ行けと」
「・・・そうか、あの2人ならソイル家に加担するのは納得・・・おいおい――まさか・・・!知らなかった・・・あの人がこの近くに身を潜めているなんて・・・」
ロウは隅々まで読み通し「なるほどな」と何度か頷いて、立ち上がると壁のヴィスカム王国周辺地図を指差し、羊皮紙に書かれた場所を示した。
「この広大な森には中央に跨る大河がある。一応それが隣国との国境になっているんだが、広大さ故にヴィスカム王国が現状完全に統治出来ていない事と、魔獣が稀に出没する危険がある事から、普段なら帝国騎士団の警備部隊が周辺を巡回している。だが今は例の事件の関係で、変わって俺達騎導部隊の管轄になっている」
ロウは羊皮紙を折り目通りに折り直し、ジオラスに返すと鎧兜を手に取る。
「俺がここに居たのも何かの縁、少しだけ手を貸してやる。今後動きやすい様に森から1番近いリドヤ町へ案内しよう」
「――そんな・・・バレたら貴方も」
ロウは鎧兜を装着し白々しくジオラスへ言葉を返す。
「――バレる?何を言ってるんだ?――ロザレスさん、俺はあんた達を目的の町まで案内するだけだぜ?」
鎧兜で分からないはずの表情、その声からは少し悪知恵を働かせそうな元冒険者の顔をしているのが見て取れた。
「ようこそヴィスカム王国へ」
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――同刻、マンチニール城 一階大廊下
騎導部隊上級二等マリア・ライラックは四柱聖剣ニル・ソニア=オベイロンとの対談を終え、部屋を後にし、古めかしい甲冑が等間隔にずらりと並ぶ、弓張り月の明かりが灯る廊下を1人歩いていた。
――ソニア様ですら何も・・・騎士団の要とも言っていいバルサ様を簡単に切り捨てる判断をした帝王に違和感しか感じない。事件のあったランスラスカで騎士選抜を続行するのも・・・
マリアは急遽、上級一等代理として選ばれ、現状を打開しようとは試みてはいるが、騎導部隊は立場的に八方塞がりで下手に動けず、この騒動の黒幕を捜索することは困難だった。
最後にバルサ様から承った手紙に応じ、ジオラス・ソイルと会ったが彼自身は少しも戦えそうな素振りはなかった。
エセンはどうやってかアイツを退けたみたいだけど、ヴィスカムまで速くても後2日は掛かるはず・・・無事に辿り着けるかどうか。
様々なことで頭を悩ませながら、城外へ向かっていると不意に声を掛けられる。
「随分とぉ、長いお話をされていた様で」
――うわぁ、厄介な奴・・・
古めかしい甲冑の間に1人、マリアの左肩から下がるマントやガルドと同じ上級二等の証である紋章が入った蒼黒い外套を羽織り、そして自信のある豊満な胸を張り、下から支えるかの様に腕を組む女性が、窓際に寄りかかっていた。
対魔部隊上級二等ラヴラニー・ドルテニア
「――えぇ・・・騎導部隊の今後に関わりますので」
「そうよねぇ・・・このままいけばマリアちゃんが実質、騎導部隊上級一等だものねぇ」
「・・・何が言いたいのかしら?」
「別にぃ?親子揃って上級一等なんて凄いじゃない?――と、思ってぇ」
「――ハッキリ言ったらどう?」
「そんなに睨まないでよぉ、私はライラック家がソイル家を陥れようとしてる。なんて事ぉ、これっぽっちも思って無いわぁ」
本当はそうとしか思っていない事を、どこか嬉しそうに上から目線でラヴラニーはライラック家自体を煽る。
「私の・・・私達一族を侮辱するかドルテニア・・・!」
マリアのライラック家特有の紅い瞳が自身の魔導力に反応し、月明かりの薄暗い廊下の中、淡く灯る。
「あぁん・・・だからその眼で睨まないでよぉ・・・ゾクゾクしちゃう・・・///」
「またふざけた事を口走ってみなさい、帝国騎士としてではなく"マリア・ライラック"として貴女を斬るわ」
「怖いこと言わないでよぉ・・・あとぉダリウス君にもよろしく言っといてね」
マリアは最後まで聞かず視線を前に向け、静かにその場を立ち去る。
その態度に何故かとても嬉しそうな表情をするラヴラニー・ドルテニアはマリアの後ろ姿を舐めるように眺めた。
――いつ見てもほんとぉにあの眼は最高ねぇ・・・ウフフ
でも良かったぁ少なくともマリアちゃんは敵じゃないみたいだしぃ、次はガルド君を突っついてみようかなぁ
火照った頬に手を添えながらマリアとは逆方向へ歩き出し、帝国の一大事を楽しんでいる彼女は不気味な笑い声を廊下に響かせ、闇へ消えていくのであった。
用語まとめ
【ライラック家】
マンチニール帝国騎士団設立当時から上級騎士に名を連ねている名家。どの世代の騎士団名簿を切り取ったとしてもライラック家の名が存在し、現在では帝都防衛部隊上級一等フライル・ライラック、その娘騎導部隊上級二等マリア・ライラックが上級の序列に名を残している。




