13話 騎士と剣士
今回は後書きに用語まとめはありません。
気になる言葉など有りましたらお気軽にコメントして下さい!よろしくお願いします!
クスィレスの守護樹木は徐々に光を失っていき元の姿に戻りつつあった。
屋敷から3人の帝国騎士が出てくると屋敷前の光景に驚く。
「あれはまさか!?ガルド様の濡羽巨蟹!?」
「俺、初めて見ましたよ・・・なんて巨大な」
「・・・ここへ来た時こんなに美しい芝生が生えていたか?でもちょうど良い、ここへキュイル二等を一度寝かせましょう」
あの光と声を見聞きしてから、濡羽巨蟹が動かぬ・・・屋敷で何かが・・・
「お前達、屋敷の中はどうした?」
声を掛けられたグリブとサバトは、ガルドの元へ駆け付け、素早く跪き報告をする。
「ガルド様、申し訳ございません。ご覧の通り警備部隊下級二等キュイルがやられました。それも一撃でです!」
「そうか・・・お前たちの鷹獅子を呼び戻し、サバトはキュイルを連れて行け、グリブは今起こった現象を帝王様と四柱聖剣、騎導部隊を除いた各上級一等へ報告しろ」
「御意!」
2人は声を合わせ返事をし、即座に行動に移る。サバトは呼笛を吹き鷹獅子を呼び戻す。
遠くで待機していた3匹の鷹獅子が呼笛の音を聞きつけ少し警戒しつつ駆け足で戻ってくる。
負傷した1人を鷹獅子の胴体に縛りつけ、2人の帝国騎士が撤退を始める。
その時、大樹を見つめ、微動だにしなかった濡羽巨蟹は突如動き始め、その長く強固な足を折りたたんでいく、その姿はまるで先程のガルドへ跪いた帝国騎士達の様。
「濡羽巨蟹・・・何を」
すると古屋敷の扉が開き、中央に1人の子供と、その両脇に女中の姿が見えた。
「・・・?!メルテム!ルズガル!無事だったのね・・・?良かった・・・でも・・・あの装備は・・・」
ジオラス様??
治療は基本的にエセンが行っていた為、うまく手当てのできない二人は、とりあえずの頭部の止血と、何度も殴られていたからか、ジオラスの頭の上から顔、首元まで包帯でぐるぐる巻きにしていた。
アルメニアは見たことのある巨大な蟹を見て嬉しくなり駆け寄る。
「濡羽巨蟹!?やはり君だったか!」
こいつ濡羽巨蟹を知っている?
女中ではキュイルは愚か、他の2人ですら相手にする事はできないだろう・・・ではこの子供がキュイルをやったとでも言うのか?
「――貴方が今の濡羽巨蟹の所有者・・・・・・なるほど・・・このような姿で申し訳ありません。先程治療して頂いたのですが中々独特な方法でして・・・」
不気味な子供は何故か濡羽巨蟹の方へ視線を向ける
「そうですか・・・ありがとうございます。濡羽巨蟹」
突然、何も解いていないのにも関わらず濡羽巨蟹が消失していく。
「これは・・・?!何をした?」
「話をしただけです・・・私は随分と遠くへ来てしまったようですね・・・」
こいつは一体何だ?
それにその姿・・・顔の包帯より、その軽鎧を見ていると、かつての自分を観ている様で・・・
ガルドは今まで経験した事のない、不安、焦り、嫌悪、それらが混じった様な不快な感覚に襲われる。
「貴方にも立場があるとは思いますが・・・引いて下さい」
魔導力を込めても濡羽巨蟹が一切反応しない・・・奴は魔唱剣を封じる力を有している?
・・・危険だ、ここで確実に仕留める。
ガルドは不気味な子供に自らの感情を振り払うかの様に、漆黒の剣を思い切り叩き込む。
しかし振るった先には突如として子供の全身と同等の大きさの塊が現れ、途轍もなく固い物同士が打つかる音を響かせながら、2人は互いの武器で押し合う。
――武器を背負っていたか・・・
だが、俺と純粋な力だけで押し合えるとは・・・
「何っ!?」
アルメニアは墓標でガルドを押し切り、振り払うことでガルドに距離を取らせ、説得を続ける。
「今の貴方では私と戦うことはできない・・・帝国騎士団 帝都防衛部隊上級二等 ガルド・ソイル・・・」
ガルドの入り混じった不快な感覚が、誰かも分からない子供の言葉を聴く度に増していく。
帝王様に俺は誓った・・・騎士として、帝国の脅威となる全てを・・・・・・家族をも
この不快な感覚の所為なのか?
揺るがぬ誇りを、感情を、信念を、突如として現れたこの子供に一瞬にして揺るがされてしまった。
「お前は、何だ・・・?!」
ガルドの不快感を具現化したかのように威圧が放たれ、周囲は押し潰れ、ひれ伏していく。
どちらに転んでもこの子の身体が耐えられない・・・
致し方ない。
アルメニアは左手に持つ墓標を地面に突き立て、ジオラスに眠る力を引き出そうと、未だ使われていない全身の魔力線を魔導力で無理矢理こじ開ける。
するとガルドとは対照的にジオラスの周囲の落ち葉や花弁が舞い上がり、そしてガルドの威圧と交わると、威圧は解かれるように懐柔し、周囲の草花は崇める様に首を上げていく。
「・・・私は、アルメニア・ロード・ロザレス。 今は亡き国の剣士です」




