11話 目覚め
オリジナルの動植物や設定、専門用語等は後書きにまとめますので、気になった方はぜひ読んでみてください。
また、気になる言葉などございましたら、追加いたしますのでコメントなどお気軽にして下さい！
ガルドの見上げた先には凍気を放つ巨大な圧が押し寄せている。
不完全とは言えその技を使えるとは・・・
ガルドは少し目を細める。
再びガルドの周囲の空気が重くなり、ガルドを囲う凍てついた壁が、押しつぶされる様に崩壊していく。
ガルドはエセンの持つ銀獅子と同じ様に、漆黒の剣の柄頭に刻まれた濡羽巨蟹の金属彫刻を淡く光らせ、深紅に染めていく。
「魔唱剣の使用者はその剣を熟知、研鑽し、剣導術と魔導術、そして己の魔導力によってその剣本来の力を引き出す・・・」
漆黒の剣は鞘と刃が無い。故に護りの剣。
上から降り注ぐ巨大な圧を剣の腹で受けるように横へ向け、上に構えた。
深紅に染まった濡羽巨蟹は漆黒の剣身の輪郭を紅く擦る。
濡羽巨蟹の鎧兜
巨大な蒼黒い甲羅が突如現れ、ガルドを覆い尽くした。
上空の凍てついた巨大な圧は、その甲羅をかみ砕くかの様に圧し潰そうとする。
「お前は、ジオラスが俺を超えると言ったか？」
巨大な圧は爆風と共に、周囲と甲羅を凍てつかせたが傷一つ付けることは出来なかった。
「そんな・・・・・・」
エセンは全てを出し切りガルドの元へ落ちていく。
「才能も魔唱剣も持たず、何も熟知、研鑽せず、剣導術と魔導術の努力すら怠っている」
ガルドは憤怒の形相をエセンへ向ける。
「――そんな奴が・・・誰かを超える？」
甲羅は徐々に全身を表し始め、その姿は蜘蛛にも似た蒼黒い巨蟹。
落下してくるエセンはもう身動き一つできなかった。
濡羽巨蟹はゆっくりと上を向き、巨大な骨が軋む様な音を立てながら大顎を開く。
「終わりだエセン」
ジオラス様・・・奥様・・・申し訳ありません・・・何一つ果たせぬまま・・・
大旦那様・・・私も同じ所へ行けたら・・・嬉しい・・・
エセンは瞼を閉じ、諦めた・・・・・・
その刹那
瞼の裏から一筋の光が見え、瞼を開くと大樹が眩く輝き、光の柱となって空と辺りを照らし、そして時間の流れを緩やかにした。
この戦いによって傷ついたもの、吹き飛ばされたもの、その全てを癒すように柔らかな光が包み込んだ。
濡羽巨蟹は大顎を閉じ大樹を見詰める。
『あぁ・・・あのお方が戻ってきた・・・』
誰かも分からない声がどこからか聴こえる。
「声！？どこから・・・」
『お懐かしい・・・我々は争うべきではない筈だ・・・そうだろう？』
「――銀獅子・・・？」
麓の屋敷を見守り続けてきたであろう大樹の記憶が、過去へ遡る様に声となってここにいる全員に語り掛ける。
『――そんな奴が・・・誰かを超える？』
『貴方を・・・ジオラス様は超えていくでしょう』
『メルテム！大丈夫！？』
『ジオラス・ソイル様、ありがとうございます。我が身とこの剣はあなた様に・・・』
『・・・エセン、この剣を！』
『行ってらっしゃいませ』
『見せかけでも良いのです』
『エセンが一緒に来てくれるから大丈夫だと思うけど』
『おはようございますジオラス様！起きてください！朝ですよ！！』
『乾杯！！』
『いつもこれくらい手の込んだ料理を作るべき』
「なんだ・・・これは」
「私たちの声・・・？」
『では・・・行ってくる・・・エセンよジオラスを頼んだ』
『私は平気よ！すぐに見習いなんて終わらせるんだから！』
「旦那様・・・！？ ミネザ様・・・！？」
『俺はもう何も失いたくはない・・・だから全てを・・・』
『ガルドよ・・・儂はな・・・この大樹を見つけるために、世界を冒険したのじゃよ』
「ラベナル様・・・・・・」
エセンは聞き覚えのある優しい声に自然と涙が流れた。そして孤児だった幼い頃と同じ様に、ゆっくりと暖かく心地よい芝生に抱かれた。
「うっとうしい声だ・・・濡羽巨蟹なぜ震える？」
この大樹の麓で過ごして来たであろう人々の過去の声が断片的に、この場に居る光に包まれた者達の脳裏に優しく響く。
『・・・本当に・・・ありがとう・・・・・・・・・・』
『私もアルメニア様とこの剣を・・・ここで・・・ずっと・・・』
大樹の根は光り輝き、意識もなく立ち尽くすジオラスを照らした。
意識のない少年――そして、とあるの剣士の意識は1000年の時を超え今再び
――――目覚める。
用語まとめ
【濡羽巨蟹】
ガルド・ソイルが所有している魔唄剣。
守りの力に特化しており、無数にある見えない障壁（濡羽巨蟹の脱皮した甲羅）はこの剣の能力の１つである。
元々鞘と刃があったのかは定かではないが、ガルド曰く護りの剣らしい。
