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母、五歳になる  5

 ノロノロとなんとか学校へ行く用意をして、同じく学校の制服を着ているアクタと共に馬車に乗り込む。

 

「ソウシェ様、あんたなんてしおしおした顔してんですか」

「そーしぇ、げんきだして! がっこたのしいなんだよ?」

「楽しいかなあ」

「今日の午前と午後のティータイムは自由時間にしましょう、だからしっかりしてください」

「わっ、あくたあのね、やまいちごのけーきがいい! がっこのおちゃのときね、やまいちごのけーきたべるのすき」

「んじゃ王妃様のリクエストでやまいちごのケーキにしますか」

 

 ――ん?

 

「は……母上?」

 顔を上げれば、目の前にはアクタに抱っこされ膝の上で足をぷらぷらさせている小さな母上の姿が。

 起きたんかーい。あんな熟睡してたのに。

 

「えっ、しかもそれどういうことです!?」

 

 母上、学校の制服を着用している。えっ? この短時間で? どうやって!? 誰が!?

 

「なあ、アクタ」

「なんすか」

「『王妃陛下の現状は王城内のみ』って話ではなかったか?」

「まあ、そっすね」

「たにーはいいっていったもん」

「言ったもん、って母上え~」

「ソウシェ様、ばば……じゃない、ライテさんからも宜しくって。とりあえず俺が王妃サマの面倒見る感じです」

 

 アクタ、今ババアって言いかけなかったか……?

 

「あくた、よろしく!」

「いやいやいや? 宰相にしろライテにしろ何で母上のこととなると突然ポンコツ化するんだ!? 無理だろ!?」

「あー、ソウシェ様。とりあえず王妃サマの……」

 

 母上がくいくいとアクタの袖を引く。ん? とアクタかが優しく微笑む。

 

 お前そんな顔できたのか、恐い。

 アレだな、普段は誰彼構わず触れるもの皆傷付けるナイフのような男が、雨の日に捨て猫を……

 

「何ですかその妄想。使い古された大昔のネタみたいな。しかも俺別にそういう不良(ワル)なキャラじゃないんで……で、王妃サマどうしました?」

 

 おっとまた声に出ていたか。

 

「いっちゃんよ、いっちゃん。わたしね、イチヨだからいっちゃん」

 母上がアクタを上目遣いで見ながら言う。

 アクタがぐう、と呻いて片手で顔を覆った。

 

 珍しい、やり込められた(?)レアアクタだ。

 

「いっちゃんだよ、そーしぇも。はい、せーの」

「……!?!?!?」

「はい、せーのっ」

「いっちゃん!」

「ははう……いっちゃん!」

「さんはいっ」

「いっちゃん!」

「いっちゃん!」

「いえーい」

「いっちゃん!」

「いっちゃん!」

 

 その後学校に着くまでいっちゃんコールの練習をさせられた。

 

 

       * * * * *

 

 

 とりあえず、母上――いっちゃんは母上の遠縁の子ということ、学校には母上の実家の伯爵家を継いだ義弟の息子……母上から見ると甥っ子、私にすれば血縁関係の薄い従弟も通っているが事後報告と言うことになったらしい。

 

 適当すぎるだろ! と憤りたかったが、母上が学校で持っていた研究室が未だ現役で残されていて(ろくでもない研究記録を封印してある、が正しい)、そこでヒントとなる記録を探したいとのこと。

 

 まして幼児化の副作用なのか話し方も幼児化してしまっているし、いつこれまでの記憶が消えてしまうかも危ぶまれている。

 

 母上の記憶が消えてしまうと私のことも忘れてしまうのだろうか。

 私の覚えている限り、母上はずっと『王妃』だった。父上が亡くなっても涙ひとつこぼさず、真っ直ぐ前を向いていた。

 

 他愛ない会話した記憶もない。叱られた記憶もない。

 母上がいっちゃんになったことで初めてこんなに話した。

 姿も幼児(ちびっこ)だからか、これまでと違って気負いもせず緊張感もない。

 

 私とアクタで母上を挟んで手を持つ。母上は楽しそうにぽーんして、ぽーん! と無邪気に笑っている。

 

 アクタと私で、ぽーん、と言いながら母上を軽く持ち上げるように前へ少し飛ばしてやる。

 

 昼前なので一般的な学生たちはみな授業中だ。

 私は公務を持つ王族のため、必修科目と選択授業のみ。アクタは一つ歳上だが私と同じ授業選択をしている。

 だから学校へは好きなように通っていいことになっている。もちろん好きなようにとは、単位を落とさない常識の範囲内で、だ。

 

 キャッキャしながら校内を歩いていると、後ろから声をかけられた。

「ソウシェ殿下、隠し子ですか? 意外とやりますね」

 

「……ハラチュか」

 振り返れば、青い髪に眼鏡というタニーザ宰相そっくりのハラチュがニヤニヤしながら立っていた。

 見た目は宰相そっくりだが、血縁関係としては宰相の甥にあたり、彼の養子でもある。

 

 宰相は『結婚<仕事』・『王家への忠誠<家庭』を理解できるのであればという結婚の条件を掲げていて、当然未婚のままだ。

 

 美丈夫なため、過去には我こそはと手を挙げた女性はいたが、全て返り討ち(?)にして見事未婚を達成している。

 公爵家の後継者は必要なため、周りも散々結婚を薦めたが、血の問題なら弟がいる! と、弟の息子を養子にした強者だ。

 

 ハラチュのこの青い髪、青い瞳、怜悧なイメージにぴったりの眼鏡。

 さぞ性質も宰相に似ていると思うだろうが、こいつは違う。――なぜなら……。

 

「わっ、何、君可愛いね? あと十年したらお兄さんとお付き合いしない?」

「やです」

 

 ――こういう奴だからだ。

 ハラチュはしゃがんで目線を母上に合わせる。

「ええ、何、めちゃめちゃ可愛ういい。将来絶対美人じゃん。確定じゃん。どっかで見たような顔してるけど、殿下の子じゃないならアクタの子?」

 にこにしながら話すハラチュにアクタは蔑んだ目で言う。

 

「俺たちはお前と違うわ」

「ええー、俺だって失敗しないよー、ちゃんとしてる」

 

 ……ハラチュはクールでお堅い見た目に反してかなりチャラい。

【ハラチュ】

16歳・宰相の養子(タニーザの弟の子)

タニーザと血縁なだけあって見た目だけはクール。

成績は学年トップの女好き。

イメカラ:クールな遊び人風青

⭐️青髪青瞳



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