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母、五歳になる  3

 第一騎士団長ニッキはおろおろとしていて、着いてきた騎士たちはこちらに向かって必死に頭を下げている。

 

 大丈夫大丈夫、と私が彼らに対し片手を上げてジェスチャーしたことで安心した顔をする。

 

「ニッキ、実は母はここに」

 訝しげな顔でこちらを見たニッキは、ようやく私の腕に幼女が抱かれているのに気付いた。

 

 小さな声で失礼します、と彼は私の背後に回る。

 

「わっ……ワぁ――」

「でかい声を出すな、イチヨ様が起きてしまう」

 宰相が団長の口を両手で塞いだ。

 

『可愛いですね』

 団長が宰相の手を外して私に口パクで伝えてきた。

 目がきらきらと輝いていて笑顔がすごい。

 

 笑顔が、何て言うか、破壊力がある。可愛い女性の笑顔の破壊力とは真逆の。これからとって食われそうな感じの。

 

 とりあえず執務室へ向かうため歩みを進めるが、背後に宰相と団長が何やら牽制しあいながらぎゅうぎゅう詰まって歩いている上、私の背中(厳密には母上のつむじ辺りだろうか)に視線を感じるのもウザ……気になる。

 

 隣を歩くアクタが小声で話しかけてきた。

 

「宰相サマって青じゃないですか」

「まあ、髪も目の色も青いな」

「騎士団長サマは赤じゃないですか」

「確かに赤髪だし赤っぽい茶色の目だな」

「王妃サマって黄色いですよね」

「まあ、他国から黄玉(トパーズ)って言われるくらいだしな」

 

 母の二つ名に「レガリアの黄玉(トパーズ)」がある。女性を花や宝石に例えるのは大陸のどこにでもある褒め言葉ではあるが、母の場合「替えなき」と更に付く。

 これは「あなた以外にはいませんよ」と言う最上級の褒め言葉だ。

 

 それはそれは美しい黄玉(トパーズ)の瞳と輝く黄金色の髪の持ち主だから。

 

「王様って何色でしたっけ」

「私と同じ……」

 私は言い淀む。あまり好きではない言われ方だが、そうでない言い方をすると。

 

「う、薄ぼんやりした薄茶の髪と瞳だ」

「……薄ぼんやり……薄茶……」

 アクタは私の髪と顔を見て笑いを噛み殺すように言う。

 

「お前普段ハッキリ言って傷を抉るくせに、曖昧にしても傷を抉ってくるのは何なんだ」

「ロイヤルミルクティー色ですね」

「……ああ」

 

 このミルクティー色と呼ばれるのは何とも言えない気持ちになる。

 幼少期(ちびっ子)の頃ならともかく、成人近い16歳になってもそう言われるのはこう……。

 

 いや、ミルクティーが悪いわけではない。あれは甘くて良い飲み物だ。しかも私たち王族の場合、ロイヤルが付く。

 

 そんなロイヤルなミルクティーは、作り方だって手が掛かっていてミルクから紅茶をじっくり煮出し……いや、今はそんなことはいい。

 

 とにかく可愛らしい呼び方にこう、抵抗があると言うか? そういうお年頃と言うか?

 

 ベージュと言う呼び方もあるが、あれよりはやや濃いんだ。うすぼんやりした色なんだ。

 

 私が心の中で必死にうすぼんやりを連呼していると、アクタが言う。

「あと3色くらいあると勢揃いですね」

「何が」

「物語であるじゃないですか。カラフルな人たちが織り成す恋愛模様」

「物語ってアクタお前そんなの読んでるのか……」

「中々面白いですよ、口説き文句にトリハダ立つような台詞言って欲しい女性は多いんだなーとか、ああヤンデレが人気なんだなーとか」

「トリハダ……ヤンデレ……」

「ソウシェ様はヤンデレ似合わないですよね。どうせそのまま王子なんですから。たまには婚約者様に王子様然として壁ドンとか床ドンとか肘ドンとかやってみたらいいですよ」

「ドンが多すぎやしないか。床ドンに至っては婦女暴行で捕まりそうな予感だが」

 

 などとくだらないことを言い合っている内に執務室に着いてしまった。

 扉が開けられ中に入ると、既に官僚が5人座っていた。

 

 こんな早い内から大変だ。王城勤めはブラックなのではないだろうか。

 

 宰相が私を母上の席に座らせ、彼も自分の席に着く。

 団長は私の背後にアクタと共に控える。騎士団員たちも並ぶ。

 普段なら執務中は団長だけが護衛として付いて、彼らは鍛練だの何だのなのだが、今朝は猛進する団長を押し止めるため付いてきたのでこのままいてもらう。

 

 そして官僚たちはと言えば目を見開いていた。動揺が見て取れるが、流石執務室付きの宰相が育てた官僚たちだ。声を一切上げない。

 私が幼女(母上)を抱き抱えていることと言い、団長がニヤニヤ――にこにこしているのも珍しく、不安になるのだろう。

 

「うむ、そのまま静かに」

 

 宰相が話し始めると、彼らに緊張感が漲った。

「……本日王妃様は執務が出来ないだろうと思われる。なぜなら、ソウシェ殿下の腕の中でこうしてお休み中であるからだ」

 

 官僚たちの視線が一気に私と母上に注がれる。そして、と宰相が続けると、彼らは宰相に視線を戻す。

 

 何なのこれ軍隊なの? 騎士団より統制取れてやしませんか?

 

「王妃様がいつ元に戻られるかは不明で未定だ。少しだけ会話して頂けたが、まだしっかりと受け答えされていて受け答えには問題ない。だがソウシェ殿下のお言葉によると、昨晩はまだ王妃様らしくおられたらしい。一晩でずいぶん幼児化が進まれたそうだ」

 

 一人の官僚が手を挙げた。宰相が頷くと彼はおずおずと口を開いた。

 

「恐れながら、それではこれから執務はどうなさるのでしょうか。ソウシェ殿下は次期王とはいえまだ学生の身でいらっしゃいます」

「そうだな」

 宰相が同意する。

「王妃様がこのまま執務に携われるのでしょうか」

「緊急な案件はなかったはずだな?」

 

 別の官僚が頷いた。

「他国との会議や招待はございません。仮にあったとしてもソウシェ殿下とご婚約者のサノア侯爵令嬢様で十分代理は務めて頂けます。但し王妃様をご病気となされば見舞いが……対応は大変なので……」

 

 遠い目をしだした彼に、宰相が頷く。

「ああ、分かる。王妃様の現状は王城内に留めておくのが良いだろう。ソウシェ殿下は次期王でいらっしゃるのだから、引き継ぎだとか勉強で誤魔化せる」

 

 官僚たちが皆頷いたのを見て、宰相は続ける。

「だがこのままと言うわけには行かぬ。魔法薬研究所に連絡を入れて副所長を呼べ」

 

「ええ……」

 酷く嫌そうな野太い声が私の背後から小さく聞こえた。

【アクタ】

17歳・ソウシェの従者で王弟の息子なので従兄・めんどくさがり・王位継承権有り。

ソウシェの一つ上だが学校の学年は同じ。

イメカラ:ダルい系茶

⭐️茶色の癖髪と瞳 

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