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皆、五歳になる  5

「畏れながら、殿下」

 伯爵(カフ)が渋い顔でやや頭を下げて話し掛けてきた。

 

「王妃様……いえ、我が義姉(あね)上はそのような愚か……いや、短絡的……あ、いえ。そそっかしい……」

「ちょっとそれ不敬入る雰囲気」

  「……ええと。そそっかしくおっちょこちょいなところはありますが、考え無しにやらかす事はございません――多分」

 

 やらかすって何。ねえ今小さく多分、って言ったよね。

 

「ですので、この事態は義姉上にとって不測であったと思われます……おそらくは」

「……まあ、皆若返るのは不測の事態だろうね」

「にしても。今後を考えれば、突然の主要人物の総辞職劇しかありますまい」

「それは避けたい……! せめて第一騎士団辺りはごまかしたい!!」

 

 くまさん……いや団長(ニッキ)率いる第一騎士団は暑苦しいのが多いから、仕事の中心である王妃(ははうえ)の不在に団長までいなくなるとなれば……むさ苦しいのが攻めてくるな。怖いな。

 

 宰相執務室のメンバーは宰相(タニーザ)がいないことに大喜びするだろう。あそこはブラック企業みたいな場になっているから、頭をハラチュに代えて――いやあハラチュ大丈夫かなあー。でもそれ以外の官僚候補がなあ。

 

 卒業したらハラチュが宰相候補で補佐という名の雑用係として入る予定だったはずだ。あっ! 宰相補佐がいるか! 補佐にこのままで問題ないか聞いてみよう。問題だらけだろうけど。

 

 研究所はまあ所長がいるから副所長(リオーガ)がいなくてもまあ大丈夫だな。

 

 ――問題は私か!!! やるしかない、公務。がんばる。

 

「殿下、顔色がひどいですよ」

「|やらなきゃいけないこと《隠蔽工作》が多すぎて」

 思わず顔を覆う。

 

 母上モテすぎなんだよ。

 

 義弟の……私にとっては義叔父であるカフまでも。

 さっきの副所長の言う「年齢差」も幼児となった母上と結婚できるよう同年代になった、ということだろう。

 

 このままだと母上約5歳(実年齢40歳)、頑張ってあと10年待ったとして。

 うん、皆おじいちゃんだもんね!? 下手したら母上が新しい恋を見つけちゃう可能性もあるしね。

 

 だけどそれはあくまでも元に戻らなければ、の話だ。

 王妃である母上に戻ったら、彼らはまた主と臣下の関係に戻るわけで。

 

 やっぱ王妃嫌だった?

 

 仕事内容ではなくそっち(恋愛的)の意味で。

 普通の未亡人なら遊んでても文句言わないからなあ。王族ってだけでスキャンダラスになるんだよね……。

 

 しかし、まさかあのメンバーの中に好きな人がいるのだろうか……複雑だ……。

 

「殿下、困った顔と嫌な顔を繰り返すのはやめた方が宜しいかと思います」

「気を付けるよ」

 取り繕えないほど顔に出るのはホント許してくれ。

 どんどん母上を慕う男が増殖していくんだ。息子としてはやむなしだろう、大目に見てくれ。

 

 ちびっ子どもはと言えばこっちの気も知らず、着々と積み木で秘密基地を作り上げている。

 

 あいつらあのままにして大丈夫なんだろうか。だいぶ幼児化が進んでるとはいえ、中身はいいオッサンたちだぞ、しかも拗らせた、独身の。

 

「カフ、母上を中身いい歳した大人の男たちの中に放置していていいのだろうか」

「――は? ……あ。それは、だめ、でしょうね?」

 カフと顔を見合わせると、2人で積み木の山へ突進した。

 

「あっだめ!」

「せっかくつんだのに」

「たかくしたのに!」

 見た目ちびっ子たちほんともう心も完全幼児になっちゃったの!?

 わあわあ怒られてお兄さん辛いよ。

 とりあえず母は無事だ。男たちは積み木>母だった、良かった。

 

「とにかく! ここには遊びにきたわけじゃない! みんなもういい歳した大人だった頃を思い出すんだ! 今君たちがどういう状態なのか分からないが、子供の心に引っ張られないように」

 

「……うわああん! でんかおこったあああ」

 団長がうるうると大きな瞳に涙を溜め泣き出す。

「言ったそばから泣くのはやめて」

 

「わたしはきをつけます! でもたかくしたのをくずしたのはあやまってください!」

 宰相が不貞腐れながら言う。

「遊びのほうに引っ張られてるよね!?」

 

「いいじゃん、もーこのまんまこどものまんまで」

 副所長は動くのがめんどくさいのか、座ったまんまでのんびり言う。

「君はもうどうなの?」

 

「そーしぇもあそぼ?」

「いっちゃん! いっちゃんはお願いですから大人に戻ってきて下さい! 記憶を頼りにしたいんですから、何か戻るためのヒントでいいので思い出してください」

「んー?」

 母上は小首を傾げて私を見上げる。

 可愛いけれど泣きたいですよ、あなたの息子は。

 

「大体ここでみんな小さくなったんですから、せめて原因になった薬をですね――」

「も、ないよ」

 副所長が腹の上の白いのをモフりながら言う。

「……ない?」

「みんなでのんでからっぽ」

「容器は」

「しらなーい」

「りお、なげてたよね?」

「わたしはみてないよ」

「いっちゃんもみてない」

 

 がくり、と膝から崩れ落ちる私の隣で伯爵が口を開く。

「ではなぜ私に聞いた。私も戻ると言ったらどうするつもりだったんだ」

 伯爵が眉根を寄せ、呆れを声に滲ませる。

 副所長は肉に埋もれながら小首を傾げる。


「かふがほんきなら、つくるつもりだったよ、ぼく」

 

 そうかよ作れるのかよ……。













お久しぶりです。

本年もこちらはまったりゆっくり更新ですがよろしくお願いします。

カフ伯爵がいっちゃんのことを呼ぶ際に『姉さん』とか『姉上』になってたと思いますが『義姉上』が正解です。

訂正は後日┏(ε:)و ̑̑



読んでくださってありがとうございます。

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