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皆、五歳になる  3

 私は宰相の言葉に耳を疑った。

 

「……いまも? 今、現在?」

 こくん、と宰相(タニーザ)が首を縦に振る。

「わたしはいっちゃんのちからになりたくていまのしごとしてたから」

「ぼくだって!」

 騎士団長(ニッキ)が顔を真っ赤にして立ち上がった。

 

「ぼくだって、おうひさまをまもるおしごとだから、きしだんにはいったんだもん! がんばったもん!」

「ぼくもずっといちよちゃんのことすきだよ」

 お腹に乗せた白いのを撫でながら副所長(リオーガ)が言う。

 

「そうしぇでんかは、ぼくたちがけっこんしてないのふしぎじゃなかったの?」

「……」

 

 なる、ほど? 誰が誰を想っていても、はたまたその逆でも。口に出せないなら心は自由。自由なんだけども! 立場、立場がね!

 

 思わず母上を見れば、母上はキョトンとしていた。

『ギ○ールの野菜』で呼び出したかのような副所長は、ふふふっと笑った。

 この副所長、幼児時代は悪役チックだけど、あれがあざとオジサンになるのか……。

 

「あとは『かふ』もいちよちゃんのことすきだったんだよ」

「えっ!?」

 カフって、叔父上じゃないか!

「カフって叔父……、カフ伯が?」

 叔父もか。

 確かに母上と叔父は戸籍上での姉弟だ。叔父は養子だから。

 遠い親類なので血は繋がってはいるだろうが、従姉弟よりも遠く薄い。恋愛感情を抱いてもおかしくはない。

 

 いや、母上モテモテじゃないか!?

 こんなことある?

 

 肉に埋もれて線のようになった細い瞳で見上げてくる副所長に屈んで目線をあわせる。

「みんな、いちよちゃんのことがすきだよ。まだまだほかにもいるよ」

「……ええー、まだいるのか……」

 思わず天を仰いでしまう。

 

 母上は確かに美しい方だ。だが比類なきとまではいかないはずだ。

 しかも皆それぞれ好みがあるだろうに。

 

「でんか、みためなんてさいしょだけです」

 私の心を読んだように騎士団長がへにゃりと眉を下げて言う。

 

「ひとの『だいいちいんしょう』はたしかにみためできまりますが、そのあとは『こころ』です

 私の考えが聞こえたかのように宰相は困ったように言う。

 

「でんかは『こい』におちたことないのかな」

 私の痛いところを突いてくる副所長が白いののお腹を撫でながら言う。

 

「ミキュッ」

 白いのは撫でられながら長い尻尾をパタパタさせながら鳴いた。

 

 あ、そんな鳴き声なんだね、君。

 

「いっちゃんはみんながすきだよ?」

 黙って聞いていた母上は、不思議そうに言う。

 

 あ、天然か。天然だなこれ。

 え、母上ってあざと天然、激ニブヒロイン力発揮しちゃう人なのか~。

 

 案の定幼児()たちは母上の周りに群がってやいのやいの言っている。

 自分が一番母上を想っているとか、気付いて欲しいとかそういう内容だ。

 

 取っ組み合いしだした彼らから逃れた白いのが私の手に巻き付いてきた。

 なるほど、もこもこふわふわの蛇みたいな体にくりくりの目玉と小さな耳が付いている。うむ、可愛らしい。

 さわさわとその毛並みを堪能しつつ、幼児たちの様子を見ることにする。

 

 喧嘩は止めなければならないが、子供同士のソレは余程でない限り止めない方が良いとライテ(侍女頭)が言っていた。

 

『子供同士で解決する機会を奪うのは良くないと思うんですよね。例え殴り合いになってもそこで痛みを知るわけです。それで痛かったなら相手も同じだけ痛かったのだ、謝りなさい。そして例え幼子(おさなご)であろうとも、力で人に言うことを聞かせることの難しさを教えるのが私の役目ですから』

 

 確か、アレはアクタと些細な喧嘩をした時だったろうか――。

 

「皆様いい加減になさいませ」

 回想に入ろうとする私を現実が引き戻した。

「……ってアクタ様から緊急連絡を受けて慌てて来てみれば何なんだ、これは」

 

 振り返ればそこには私の叔父であるカフ伯爵が眉を顰めて立っていた。

 黒髪に一筋白髪が混じり、気難しく正直苦手ではある。公には身分の差もあり話すことも少ない。

「ソウシェ殿下、一体この子供たちは――」

「かふ!」

「あ、え、あ? え? あ、ね……姉さん?」

「わあ、かふひさしぶり!」

 しどろもどろになった伯爵に母上はえへへ、と小さく手を振る。

 

「……殿下、これは――姉さ……んんっ! 王妃様の仕業ですか」

「……えっ!? すぐ分かったんですか」

「殿下、私に対して丁寧すぎ、です」

「……あ、ああ、えっと、うん」

 あれ? 砕けすぎかな? まあいい。

 母上はタタッと走っていつの間にか終わった喧嘩の後を見に行った。

 白いふわふわは私の腕に巻きついたまま。寝ているのかな。ふふふ、あったかい。

 

 意識が飛んでいたが、カフ伯爵に引き戻される。

「殿下とは普段交流がありませんからね」

「距離感が難しい」

「お互い様です。に、してもコイツら――いえ、彼らまでどうして」

「みんな、小さくなりたかったらしい」

「……理解が、ちょっと」

 

 だよね、わかる。

「事の発端は母上だ。今朝起きたら幼児になっていた」

「……あ、まあ姉……王妃様なのはわかります。昔からこういう滅茶苦茶な薬を作ることが生き甲斐の方でしたので」

「私としては母上が滅茶苦茶なのはどうにも信じられないんだが、そのようだ」

「殿下が生まれる前……いや、陛下がお倒れになるまでは割とまだハチャメチャだったんですが」

 

 滅茶苦茶でハチャメチャな王妃って破天荒すぎないか?

 これまで見てきた母上とのギャップに思わず笑みが零れる。

 そうか、これが本来の母上かあ。

 

 チビッ子どもはなんだ、積み木遊びか、あれ。

 箱を重ね始めてる、危なくないかな?

【カフ】

38歳・伯爵・王妃の義弟

ヤンデレブラックだがヤンデレてはいない。

子供の頃からありがちで順当なシスコン。

妻子持ち。


イメカラ:ヤンデレブラック

⭐️黒髪黒目→今は白髪有


       * * * * *




お久しぶり更新ですみません。

今後も息抜き作品のためゆるゆるやっていきますがお許しください。


そして先日初感想頂きました!

はちゃめちゃ嬉しいです、ひそかに応援してくださってる方もありがとうございます!

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