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母、五歳になる  1

ゆるゆるよろしくお願いします。

 それはいつもと変わらぬある朝のことだった。

 

 私――このレガリア国王太子ソウシェ――は朝露に濡れた緑美しいテラスで優雅に珈琲の馥郁(ふくいく)たる香りを楽しみ、カップに口を付けようとした、その時だ。

 

「そーしぇ! おはよ!」

「……ええと?」

 五歳くらいの幼女がすたすたとやって来て、私に挨拶をして目の前の椅子に座る。

 

 どこの子だ……どこかで見たような……。

 私の侍従であるアクタを見ると疑わしげな顔で私を見ていた。

 口パクで何か言っている。

『オ マ エ ノ コ カ』

 ……お前の子か……?

 そんなわけないだろうがっ! 思わず立ち上がろうとしたその時、向かいの幼女が小首を傾げて言った。

 

「ままですよ! あなたのまま、イチヨです」

「……は? ――ええええええええ!????」

 

 優雅とは程遠い私の叫びがテラスを突き抜け庭園に響き渡った。

 

 

       * * * * *

 

 

「わあーきれー」

「どうしたらいいんだ……」

 ねだられるまま、母上を腕に抱いて庭園の薔薇を見せてやっている。

 

 母である王妃イチヨは年齢四十。

 社交界においては淑女の憧れ。

 気高き王妃を守るは騎士の誉れ。

 他国からはレガリアに替えなき黄玉(トパーズ)ありとまで呼ばれた母イチヨ。

 

 王である父が若くして病に倒れ逝去後、ずっと王の代わりにこの国の顔として立ってきた尊敬する母だ。

 

 それが……

「なんでこんなちっちゃく……」

「んー、しっぱいした」

 テーブルに戻り座り直すと、母……幼女……母上は侍女が注いだ野菜ジュースを一口飲んで「にがっ」と言って渋い顔をした。

 

 甘味ないからねその野菜ジュース。

 母は美容と健康のため苦味の強い野菜を主としたジュースを毎朝飲んでいたが、幼女になったら味覚も幼女らしくなってしまったらしい。

 

 長年母に仕えている侍女曰く、昨日寝る前になにやら怪しげな薬を作って飲んだのだと言う。

「……え、待て。それって失敗なのか? むしろすごいの作り出したのではないか?」

「しっぱい、もどれないもん」

「……嘘だろ」

 

 侍女が失礼ながら、と口を開いた。

「王妃様はお休みになる前はまだ姿は幼くとも王妃様でございました。目覚められた時にはもう口調が昔のイチヨ様にお戻りになっておられました。記憶は薄れておられませんが、どんどんその、当時のお可愛らしいあの頃の――」

 言いながら侍女はにこにこと母上を撫でる。この侍女は母上が実家から連れてきた者だ。母上の小さい頃もよく知っている。

 

「……そうか」

「おなかすいた」

「……そうか」

 私は頭を抱えた。侍女はいそいそと「お嬢様のお好きな蜂蜜ケーキをお持ちしますね」と言って厨房へ向かってしまった。

 

 そうか、母上は甘党だったか……。新たな一面を発見した。

 当の母上と言えば、アクタに抱っこをねだっている。

 あ、アクタ満更でもなさそうだな。

 アイツ幼女好き(ロリコン)だったか……。

 

「ソウシェ様、俺幼女好き(ロリコン)じゃないですからね」

「お、そうか」

 母上は抱っこが好きな甘えん坊というこれも新たな発見を。

「あまえんぼじゃないからね」

「おおお」

 アクタにしろ母上にしろ私の心の声が聞こえるのか?

 

「それにしても母上、何を作ろうとして失敗したのですか」

 気を取り直して尋ねると、母上はうーんと一所懸命思い出そうとする。

「わすれた、わかんない、でもしっぱい」

 

 えっ、『記憶は薄れていません』ってさっき言ってたよね、これはまずいのでは?

 

 非常にまずい。

 まだ王として立つには心許ないんだ私は。母上にもっと教わらねばならないのに……。

 いや、母上の状況を城の皆に知らせる方が先だ。

 あああ、まだ自信がない……!

 

 私の頭に小さな手が乗った。

「よしよし、だいじょぶよ」

「母上……」

「幼女に慰められる王子様ってのも新鮮ですね」

 アクタがうんうんと頭を振る。

 

 私はテーブルに突っ伏した。

 

 

       * * * * *

 

 

 母上は小さな蜂蜜ケーキを完食して侍女に『偉いですねイチヨ様、お残しされませんでした! 良くできました!』と誉めちぎられた後、私に抱っこをねだる。

 

 母上の午前の執務にはまだ時間がある。

 私も昼前には学校へ行かねばならない。

 一人にしておくには心配すぎるので、せめて宰相や騎士団長たちには伝えておかないと。

 

「母上、宰相の所に行きましょう」

 母上は早起きして、蜂蜜ケーキを食したせいか目がとろんとしてきていた。

 まずい、寝そうだ。

「ん、いく」

 

 よいしょ、と抱え直すと後ろから声を掛けられた。

「ソウシェ様、お早いですね」

 

 目的の第一臣下発見だよ、発見されたのはこっちだけど。

 宰相のタニーザ公爵。父や母とは幼馴染みだ。未だ独身ではあるが、後継として弟の息子を養子にしている。

 

「おはよ、たにー」

 

 母上が私の腕の中から宰相に挨拶をした。

 途端、カッと宰相の目が大きく開いた、怖い!

 

「王妃様? イチヨ……様?」

「ん、もどったみたい」

「……なんて……お可愛らしい……」

 

 ん?

 

「イチヨ様こんなにお小さかったですかね? 私の記憶力も衰えたようで、この頃を覚えておりません」

 

 待て、何だそのデレデレした顔は。

【ソウシェ】

16歳・王子様・母親が完璧すぎて自信なし

イメカラ:優しい王子様キャラの薄茶

⭐️ロイヤルミルクティー色の髪と瞳 


【イチヨ】

40歳・王妃様・レガリアの黄玉(トパーズ)とか二つ名が多い 若い頃はやんちゃでいたずら好きの元伯爵令嬢。

イメカラ:自由奔放キャラの黄

⭐️黄金色の金髪と黄色い瞳 


       * * * * *


読んでくださってありがとうございます。

息抜きなのでゆっくり更新予定です。


推敲しているつもりですが、どうしても甘くなります。プレビュー見て誤字脱字や余計な言葉など発見するのでちょいちょい修正は入ります。

改稿=誤字脱字修正なので大幅な物語の改稿はどの作品であってもしていません。


※誤字脱字報告ありがとうございます!助かります!





©️桜江-2022

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[良い点] 異世界で母親が幼女に若返るという設定に引き込まれました! 今後、この設定が物語にどのように影響していくのか期待大です
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