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ちょうど冬が終わり、春がやってきた時、詩織は心臓の手術をした。東京の大きな病院に詩織は転院した。僕は週末の時間を利用して詩織に会いに行った。
手術は無事終わり、詩織はしばらくの間入院していた。僕がお見舞いに行くと、詩織はドアを開けた。
「体調はどう?」
「悪くないよ。手術がうまくいったみたい」
僕は手に持っていたシュークリームの箱をテーブルの上に置いた。
「いつもシュークリームだね」
詩織はそう言って笑った。
「退院はできそうなの?」
「このまま三か月、何事もなく心臓が動き続ければ、退院できる。そうしたら今度は本当に、普通に生活できるようになるよ」
「そうなるといいね」
シュークリームを口に運ぶと上品な甘みがした。窓の外には住宅が見え、子供たちが歩いていた。詩織はシュークリームをおいしそうに食べている。僕はなんとなく将来のことを考えていた。
「もし病気がよくなったらカレー屋でもやる?」
僕はそう言うと詩織は笑った。
「私は大学の修士号を持っているし、大学生の時に教員免許を取ったから、高校で生物学の教師をやろうと思って」
「いいね。でも詩織は研究の才能があったと思うよ」
「そんなことないよ。圭介君の方が講師になったわけだし、優秀だったと思うよ」
僕らは病室の中でそんな話をした。