序章。まだ何も始まりません。
初投稿です。どうかお手柔らかに。
こんなはずではなかった――
そう思ったとき、目の前の虎が大きく口を開いた。
グチャリ
グロテスクな音とともに、神崎竜の意識は消え果てた。
「じゃ、行ってくる」
「竜待って!」
姉の美月が、パタパタと走ってくる。
「はい、お守り。近くの神社でもらってきたの」
美月の手には、小さな石が握られていた。
いわゆるパワーストーンでも、キラキラした宝石でもない、ただのねずみ色の石。
「……恥ずかしいからやめて」
竜は美月をあしらって、玄関を飛び出した。
「これだからスピリチュアルは嫌いなんだ」
ため息をつきながら、高校へ向かう。
いつから姉はあんなふうになってしまったのか。
1年前に両親は事故で他界、親戚とはもともと疎遠で誰も面倒を見てくれなかった。
ただ、当時竜は16歳、美月は19歳で、どうにか2人だけでも生きていけるのが幸いだった。
美月は一見して、普通のOLだ。
まだ高校生である竜の面倒を見て、生活費を稼いでくれている。
しかし、最近はスピリチュアルにハマり、大半のお金と時間を「お祈り」に捧げている。
「『お祈り』で幸せになれるわけないじゃん」
「それはどうかな?」
柊架純が答えた。
「柊、いつからいたんだ」
「スピリチュアルが嫌いとかなんとか」
「もっと早く声かけろよ……」
「だって神埼、めちゃくちゃ思い悩んでるっぽかったから」
「……」
「ま、いいけどさ。お姉さんと喧嘩したなら、話聞くよ?」
「よくわかったな」
「他にないでしょ。だって、あんたの家……」
そこまで話して、架純は気まずそうな顔をして俯いた。
いわゆる「地雷」を踏んでしまったのではないか。
ちらりと竜を見ると、いつも通り何を考えているかわからない表情をしている。
黙ったまま歩く2人。
いつの間にか高校に着いていたようで、周りの音がうるさく感じる。
「なんかごめんね。じゃ、また――」
「あのさ、放課後空いてる?」
「えっ」
「話したいことがある」
目を輝かせた架純は、とびきりの笑顔で答えた。
「うん!」
壬神社は、近所でも有名な観光地だ。
広大な敷地に、豊かな自然。
最近は神主や巫女を養成する学校まで開いているらしい。
なぜこんなに人気なのか、その理由は神様にあたった。
全国でも珍しい、動物の「虎」を奉っているのだ。
虎の獰猛さを讃えて勝負運アップ、黄色と黒の模様から金運アップ、商売繁盛、虎のように強くなりたい、健康運アップ、虎のような強い異性と出会いたい、恋愛運アップ……など、なんでもありだ。
本当にご利益があるかどうかは謎だが、人気の神社は忙しいのだ。
「――24時に、架純を生贄にする」




