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不死狩りと舌戦場の軌跡  作者: 暦師走
〈肆章:空ヨリ堕チタ災厄ノ牙〉
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▼考古学研究家ジザベラの日誌01

【暁覚の月22日465年】


また手詰まり。いや、正確には遺跡を新たに発見する事は出来たけど、見つかったのは古代の軍事拠点。

ツウィンヴィルの歴史にまた1つ血塗られた野蛮人の凶行が刻まれる事になった。

発掘者の功績はジェラルドの奴にくれてやった。

人の発掘現場をかっさらうなんて良い商売してるよ、まったく。




【飛火の月7日465年】


情報収集も捗らないし、金も尽きてきた。

「軍の基地だろうが諦めて自分の物として発掘しちゃいなよ」なんてネーベにはよく言われるけど、プライドが邪魔しなかったら、とっくの昔にそうしてたろうな。

仕方がない。またウィザードリングで教鞭に立つしかないか…私の顔を学生たちは覚えてるだろうか。事務職員が1人でも覚えてれば手続きも楽になるんだけど。




【飛火の月36日465年】


問題なく教職に戻れたけど、あくまで日雇い教員。

その分大学に管理費を上納せずに済んでも、嫌がらせかって位、古い講堂をあてがわれた。

学生の半分は立って授業受けてるし、いっそ外で授業やってやろうかコノ野郎。




【飛火の月50日465年】


青空教室は思いのほか高評価。さんさんと輝く太陽の下で参加人数も増えて芝生が見えない。

だからって貰えるお金まで増えるわけではないけど、歴史に興味を持ってくれる学生がいるのは素直に感心できる。

正式に大学の教授にならないかって話がまた職員から上がった――もちろん断った。




【彼岸の月78日465年】


目標額まで先は長いな。その間に大学で資料を調べ放題なのはいいけど、そろそろ腰を落ち着けて教授になれって話が学長からだけじゃなく、学生からも寄せられた。

人気だから、なんて言われても研究成果を一部発表して、学生が少しでも歴史的好奇心を持ってもらえればって心掛けてるだけ何だけどな。

それはそうと流石に寒くて講義を室内に移したけど、増えた分の学生でもはや難民窟状態。

廊下でも立ち聞きしてるから大声で話す羽目になった。




【彼岸の月87日465年】


また在籍する教授に絡まれた。


「学生が講義中に関係のない資料を読んでいて迷惑だ」


なんて、眠くなるような授業を教えてる方が悪いと思うけどな。

それに小遣い稼ぎに自分で執筆した書籍を“教科書”と称して、無理やり学生に買わせてる教授陣が多くて気に喰わない。

自分が教えた事をそのまま試験で書け、何て暗記テストも良い所。

その程度の話に未来ある若者の時間を“講義”で無駄にするなら、最初から書籍を読ませてレポートでも書かせればいいんだ。

どうも学問への興味を抱かせる事よりも、自分と世間の考えを押し付ける教授が多い。

何よりも私の歴史の授業以外で学生が集まってるのは魔術伝達学と死霊術教典。

文字で書いた知識じゃなくて、実践的な事を学びたいって言うのが、学生の動きを見れば分かるもんだけどね。

必修科目だからって胡坐を掻いてれば、学生の心も離れてしまうものさ。




【飛火の月21日466年】


今日学食でひっそり食べてたら学生に囲まれて、危うくその場で講義を始めそうになった。

でもそんな中で、1人が興味深い質問を投げてくれた。


「先生。どうして発掘にそんな熱心に打ち込んでるんですか?」


それは故郷が略奪で成り立った鉄と血の街だから、なんて口が裂けても言えなかった。

出土するのは軍事的拠点の役割を果たす遺跡ばかり。

襲撃したのは大きな町から小さな村まで。中には奪った品の目録や大量の処刑された人骨まで出てきた事がある。

“ツウィンヴィル”なんて名も、かつて2つだった街が殺し合って統合された事からついたって言われる悪趣味な物。

いくら豪華に着飾って、金に物を言わせて“ウィザードリング”から購入した商品で生活を豊かに見せても、野蛮人の末裔である事に変わりはない。

だからそんな血塗られた歴史を塗り替えるような、文化や教養の証を見つけたいと思った。

殺し合いや戦闘訓練だけじゃなく、子供に読み書きを教えたり、スポーツで互いに競い合ったり、お祭りや催し。素朴な物でいい。普通の街として栄えていた一面を自己満だとしても、私が見つけたい物はその程度のもの。

爺様も、父さん母さんも、私を育ててくれた故郷が殺し好きの末裔だなんて言われるのは嫌だ。

死んだ爺様には「過去から目を背けてはいかん」なんて言われたけどね……それとも割った花瓶を隠した時に言われたんだっけ。

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