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【外界100日目(晴れ)】
娘の護衛に任を移された。
遊具の如く甲冑の上を這われる事もあれば、妖女用の篭に2人して飛び込む事もある。
何が楽しいのか理解に苦しむが、座っているだけで食事が提供されるならば、贅沢な仕事と謂ゑよう。
【外界101日目(曇り)】
雇用主が街の外へ出かけた事で、自由行動の許可を得た。
早速街へ繰り出せば、妖女の嗅覚が1軒の果実屋へと導き、まずは屈む必要のない扉や天井に及第点。
さらに頭上から吊るした編み篭には果実が載せられ、景色まで訪れる者を楽しませてくれる。
店主と思しき青年には試食すら勧められ、製品もこの上なく美味。
しばらくは通い詰める事になるだろう。
【外界102日目(晴れ)】
雇用主はまだ戻ってきていないらしい。
果実屋の購入品も妖女から給仕へと渡り、提供される甘味の質が大幅に向上した。
彼女のささやかな功績も、今回ばかりは認めざるを得ないだろう。
【外界103日目(晴れ)】
[――…ないしょないしょだよ?]
妖女の手引きにより、護衛対象の娘を果実屋へ連れて行く事になった。
口元に指を当てる所作を見るに、本来であれば規約違反なのだろう。
だが果実屋の発見や甘味向上の功績を鑑み、要望に応えないわけにもいかない。
娘を妖女ごと篭に押し込み、いざ到着すると珍しそうに周囲を見回す間に、果実の選別に勤しんだ。
それから会計を済ませようとしたが、恐らく陳列棚を足場に篭を抜け出したのだろう。
気付けば店主が娘と会話し、“隠密任務”の失敗を知るに至る。
普段より多めに果実を買い込んでおいたが、今後は青年の動向を監視していく。
【外界104日目(雨)】
雇用主が帰投したものの、どうやら体調が優れないらしい。
屋敷に戻るとすぐに自室へ篭もってしまったが、恐らく旅先で悪い物でも口にしたのだろう。
だが屋敷に引き連れてきた物は、それだけではなかったようだ――。
【外界104日目(雨) - 追記】
夜間に不穏な気配を感じ、娘の部屋から哨戒に繰り出した矢先。
影から飛び出した黒装束を、咄嗟にその場で捻じ伏せてしまった。
他にも身を潜めていた一団を次々始末し、内1人を殴り飛ばした先で、興味深い物を発見する。
砕けた壁を潜れば、部屋は宝物庫だったのか。
様々な装飾品が置かれていたが、中でも注意を引いたのは、中央の台に飾られた“大鉈”。
多少は錆びついていたものの、重量に硬度。
刃渡りや切れ味。
いずれも申し分ない大刀だったが、この部屋は常に鍵が掛かっていたように思ふ。
盗人の手助けをした気分に陥るも、回り込んでみれば扉が普通に開いていた。
大鉈の傍には黒焦げの死体も倒れており、今がまさに非常事態。
手段を問わず、賊を排除する事が求められるだろう。
新たな装備を遺憾なく振り回し、残党を悉く成敗していったが、恐ろしいほど手に良く馴染む。
周囲に悲鳴や鮮血が迸り、妖女を娘に預けてきたのは正解だったようだ。