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不死狩りと舌戦場の軌跡  作者: 暦師走
〈参章:廂ノ王ト小麦色ノ姫〉
39/84

▼見習い青年兵の日記3

【467年/暁覚の月/69日】


最近はずっと雨が続いて憂鬱だ。

山賊の出没や街中での揉め事は減るけれど、外回りの恐怖が尋常じゃない。


雨の音で活発になったリザレクトが街近辺に近付いたり、最悪豪雨で前が見えずに突然バッタリ出くわしたり、下手すれば地面に倒れてて足首を掴まれるなんて事もあるらしい。


おまけに雨の日に出没する山賊は食べるものに困ってて、死に物狂いで襲ってくるんだとか。



幸い遭遇経験はないけど、そんな日が来たら果たして対処できるんだろうか。

見張りと訓練ばかりで実戦を積んでるわけじゃないから何とも言えない。


いっそレンジャーに転職して鍛えるのもありかなって思ったけど、隊からしてみれば首輪の着いたゴロツキって認識らしくて、話だけ聞きに行こうと思ったけどやめといた。

昔、感染したレンジャーを街に引き入れたのが原因で、いまだに確執があるらしい。



そういえば門番をしてた先輩たちが、レンジャーのマライヤさんと会ったんだって。

リザレクト対策演習で見た綺麗な人って印象しかないけど、鎧の人に負けない気迫が凄くて、目も合わせられなかった。


そんな彼女がびしょ濡れで亡霊みたいに歩いてたから、リザレクトだと思って剣を向けたら、一瞬で3人とも叩きのめされたって酒飲みながら怒ってた。

少なくとも感染してる心配はないだろうけど、ギルドとますます溝が深まった感じ…。




【467年/暁覚の月/70日】


今日は市場警備の日。

ようやく雨が上がったと言っても、街の上はどんより曇り空。


たまにお婆さんが「若いのに頑張ってるわね」ってくれる果物が唯一の救いだよ。



地平線にも暗雲が立ち込めてるけど、街の人たちはここぞとばかりに洗濯物を干してる。

また雨が降る前に乾かすつもりらしい。


晴れると良いな。




【467年/暁覚の月/71日】


市場を巡回していたら肉屋のおじさんに呼び止められた。

最近マライヤさんが顔を出さないのが心配らしくて、様子を見てきてほしいって。


町に戻ってまだ数日しか経ってないし、疲れてるだけだと思うけど、何でも休んだ所を見た事がないから逆に不安だとか。


住人の安否確認は衛兵の務めだし、一応ギルドでも確認したけど全然来てないみたいで、受付の人にまでお願いされる羽目になった。

差し入れの肉を押し付けられて、住所も教えられて――断るに断れない状況になったのは否めなくとも、訪ねるのが嫌なわけじゃない。


ギルドの受付で聞いた話だと、レンジャー屈指の実力者‘双剣の乙女マライヤ’さん。

彼女に会う口実が出来た事はむしろ喜ぶべきで、あわよくば強さの秘訣とか訓練方法を学ばせてもらおう。




【467年/暁覚の月/72日】


非番の先輩と交代してもらって、いざ訪問。

隊服だと近所の目があるから私服で行ってみたけど、何度かノックしてようやく扉を開けてくれた時は……言葉を失ったよ。


もう何日も寝てないのか、目のクマも酷くて顔色も悪い。

彼女の顔にも‘関わりたくない’って描いてあったけど、負けずに住人やギルドが心配してる事を伝えて、差し入れを渡そうとしても「そうか」「すまない」。

最後には「食欲がないんだ。君が食べてくれ」って追い返されそうになった。


たかが衛兵だし、本当ならそこで「お気をつけて」って引き返すべきだったのに、気付いたら扉を押さえてマライヤさんの家に入ってた。

彼女も驚いてて、正直自分でもびっくりした。


何であんな事したんだろうって思い返してたら、ずいぶん昔に村のリザレクト被害で子供を亡くした近所のおばさんの顔が浮かんだんだ。

大丈夫じゃないのは分かってても誰もが「大丈夫?」って声をかけて、頷く位しか出来なかったおばさん……2日後に自殺した、あの時の雰囲気を感じたんだろうな。


勢いで入ってしまったのは気まずかったけど、室内はもの凄く広くて、流石活躍してるレンジャーは違いますね!って言おうとしたら。


「前の住人の家具がそのまま置いてあるだけだ」


って釘を刺されたみたいになって、何も言えなくなった。


声に力はないけど、見つめてくる瞳は迷惑極まりないって物語ってる。

肉を置いて「さよなら」って逃げ出さないのが精一杯でも、来たからには責務は果たすつもりだった。


食事も満足に摂ってないようだから台所を借りて、肉を燻製にして日持ちするようにしたし、溜まった洗濯物もまとめてクリーニング屋さんに持って帰った。


別れ際に「迷惑をかけた」なんて言われたけど、衛兵の義務として当然です!って返したらニコッって……冷静に考えたら女の人の家に許可もなく上がり込んでた。



熱がまだ引かない…。




【467年/暁覚の月/73日】


お昼休みに市場で買った果物を持って、緊張しながらノックすると扉はすぐに開いた。


「また君だと思ったよ」って呆れられたけど、昨日より少し顔色が良くなった気がする。

燻製はさっそく食べてくれたらしい。


おかげで心までポカポカになったのに、終業間近に降ってきた雨で、身体が芯まで凍えそう。


寒いから帰りますって言えないのが衛兵の辛いところなのに、追い打ちをかけるように明日は外回り。

これでまた雨だったら隊服がもうないんだけど、どうしよう。

ストーブの横で乾かしたくとも順番待ちだし、風邪で寝込んだら給料が引かれる。


隊舎は諦めて別の場所で焚火でもして乾かそうかな。




【467年/暁覚の月/74日】


…手、手が震える。


寒いからじゃない。むしろ風呂上がりみたいにポッカポカなのに、隊舎に戻ってから震えっぱなしだ。



今日もやっぱり雨で、それも外回りで1番長い巡回ルートを歩かされて死ぬかと思った。

あんな状態で戦闘に入ったら瞬殺される。


なんでボクがこんな目に、って思ったらこの前非番の先輩に代わってもらったからで。

なんでこんな事を、って考えたら衛兵になって強くなるためだったはずなんだけど、精神修行の一環になるのかな。



ってそんな事は今はいいんだよ!

今日、ずぶ濡れで、帰りに!同じくずぶ濡れで街道を歩いてたマライヤさんに会ったんだよ!

「よく会うな」って、顔に雨を滴らせて、服はスケスケで~~~~~~~~~~~~…その後はもう色々必死で大変だった。


家まで送ったら招待されて「乾かしていけ」って。

白湯を飲みながら暖炉の傍で服も身体も乾かして、裸じゃ寒いからって服まで貸してもらって。


言い回しもだけどマライヤさん、漢気ありすぎるよ。

服も少しブカブカだし、男としての自信なくしそう。

でも隣に座り込んだマライヤさんから甘い香りがして、暖炉に照らされた腕とか足とか、顔とか唇とか、瞳とか………。



結局服も生乾きのまま、雨の中逃げてきちゃった。

明日早いからって慌てて飛び出してしまって、男としてというより、人としてダメだったと思う。



書いてたら冷静になってきた。

指の震えも問題なし…マライヤさんの話、聞いた方がよかったんだろうか。

そんな雰囲気だったし、そもそも雨の中なんで佇んでたんだろうって聞きたかったし。

何なら服が透けてた時に、スッゴイ綺麗な形の身体に古傷みたいなのも見えたし……。



――マライヤさん、泣いて見えたのは気のせいかな。




【467年/暁覚の月/75日】


何から書こう……色々ありすぎてもう…。



昨日のモヤモヤが抜けきらないまま、見張り塔の任についてると先輩たちに「晴れの陽気に惚けてやがる」って笑われた時は、本当にそうである事を願ったよ。


そんな白昼夢も先輩たちが騒ぎだして、突然弓矢が配られた事であっという間に吹き飛んだ。

「賊が来たぞー!」って叫ぶから、いよいよ――というより衛兵になって初めての戦闘だと気合を入れてたら、山に続く街道から巨大な男がこっちに向かってきた。



――鎧の人だった。



だから「おーい!」って声をかけたら先輩たちに怒られたけど、後ろからハーモニィちゃんが不思議そうに顔を出したから、警戒も解けて駆け寄ったんだよ。


もう、相変わらず大きいのなんのって。

近付くと首が痛む位見上げなきゃだけど、いくら話しかけてもやっぱり会話してくれない。

ハーモニィちゃんにも「だーれ?」って忘れられてるし、久しぶりの再会と街まで連れてきてくれたお礼を言いたかったのに、昨日のマライヤさんの件まで思い出して午前中はちょっぴり切なかった。


鎧の人を噂でしか聞いてなかった先輩たちは「見張っとけ」ってビクビクしながら任を解いてくれて、とりあえず今日は同行しつつハーモニィちゃんに癒してもらう事にした。

……でもあの体格で両手斧を片手武器みたいに、それも抜き身で持ち歩いてたら誰だって怖いよね。


街の視線を浴びながら、ひとまず宿に連れてこうとしたら「ハーモニィ!?」って聞き覚えのある声に飛び上がった。

振り向いたらマライヤさんが道の反対側で呆然と立ってて、前に洗濯屋に出した服を抱え込んだまま、真っすぐ鎧の人まで向かってくるとハーモニィちゃんも「剣のおねーちゃん!」って笑顔を浮かべてた。


なに、知り合いだったの?



今度はボクが驚いて絶句してるとマライヤさんがボクに気付いて、洗濯物の感謝と「昨夜はちゃんと乾かせたか?」って心配された。

反射的にその場で謝罪しそうになったのを堪えて「何も問題ないです」って伝えたら、「この2人はギルドメンバーに登録されているから、街の行き来に問題はないはずだぞ?」って怪訝そうに返された。


誤解がないように2人と知り合った経緯に加えて見張り塔での話をしたら、口に手を当てて思いっきり笑ってた。

ハーモニィちゃんの愛くるしさは何物にも変えられないけど、マライヤさんの笑顔もクールで可愛かったなぁ…。




…なに書いてんだろ。

そのあと「街で何してるんだ?」とか「仕事は終わったのか?」とか色々尋ねてたけど、当然対応するのはハーモニィちゃん。

その間も鎧の人は黙ってマライヤさんの事ずっと見てて、たまにボクをジロって見てきて…もぅ本当に何考えてるんだろ。


結局ハーモニィちゃんも終始「?」って感じだから、どうであれ休んでけって話になって、マライヤさん家で泊まる事になった。


何故かボク含めて。



燻製と洗濯のお礼って言われたけど、ハーモニィちゃんの「レディのお誘いはことわっちゃダメなんだよ!」が決め手になって、マライヤさんにも腕を引っ張られてズルズルそのままお泊り会。


ハーモニィちゃんは家に着くと新しい匂いからか、頻りに周囲を嗅いでいて、あちこち冒険してる彼女をマライヤさんが後ろから追って見守ってた。

目が見えないのに本当よく動き回るよね。


それよりも鎧の人は本ッッ当に何も話さないよね!

男の会話でもしようと思ったら顔は向けてくれるんだけど、返答がなくて言葉が詰まるとそっぽ向いちゃうし…ガン無視してるわけじゃないよね?

言葉が通じなくて元々寡黙なだけだよね?



…また1つ自信がなくなりそうになる。

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