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高校生男子による怪異探訪  作者: 沢満
六章.鬼
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22.帰ってきた日常

 土日と挟み新たな一週間が始まる。先週は正に怒濤の連続で、事態が二転三転と動きに動いたのだがその分最大の懸念は払拭された。桧山が以前のように笑顔でいるようになったんだ。それだけで苦労した甲斐もあったと思える。


 まだ残る懸念、鬼の噂はどうするべきか。噂の根っこの断ち方は明確だとしても一度流れた噂を完全に消すことはそう簡単じゃない。

 俺もうんうん頭を悩ませていたのだが、週明け二日目の本日、顔を見るなり美樹本が勢い込んで教えてくれた。


「これ! これ見てよ! 噂凄いことになってる!」


 見せられたのは一つの画像。日もとっぷり暮れたどこかの道路。街灯もなく明かりが乏しい中で撮られた写真は、それでも中央に捉えた被写体を鮮明に写し出していた。


 頭から足先まで真っ黒な装いの背の高い人間。後ろ姿であってその顔は見えないのだが、写真の表題には『鬼の正体!?』などと分かり易く被写体がなんなのか教えてくれていた。


「あ、これ嵩原の……」


「そう! それでね、これ、足元見て!」


 指で示されるのに画像の下、背を向けて逃走している様子の鬼(嵩原)の足元を見ると、そこはフラッシュの明かりに照らされて闇夜の中でもくっきりと物が写し出されていた。

 幾つものローラーが連なる青色のローラースケート、それがはっきり鬼の足元にあった。


「……マジで履いて逃げてたのかよ……」


「引くのは分かるんだけどね、でもそうじゃないんだ! 写真撮った人がこれについて言及してるの!」


「え?」


 画像に付属してる記事を確認してみれば、この画像は最近噂になっている鬼のその正体を写したものだとある。闇夜に紛れて逃走するその鬼は、写真にある通りにローラースケートなど履いて全力でどこかへ姿を消したとも。

 噂で語られるような風のような足の速さの、その理屈はローラースケートだった!とかなんだそれと言った結論をぶちかましていた。


「大分前のアイドルか?」


「そのツッコミは僕ら世代には通じないと思うけど。ともかく、この画像で完全に鬼の噂は誰かのイタズラって方向に舵切っちゃったみたい。もう誰も本物だなんて騒いでないよ」


「え?」


 ああ、そりゃこんながっつり車輪写ったらタネも仕掛けもクソもないが。……いや、それってつまりは俺たち的には万々歳なのでは?


「本物の鬼だって言うならこんな靴履いたりしないからね。他にも幾つか同じような画像がアップされててね、公園で目撃された鬼は皆この人間のイタズラだったのではないかって今はそっちに話題が移っちゃってる。完全に流れが決まっちゃったよね? これならもう噂も拡散しない処か、勝手に立ち消えそうじゃない?」


「ああ、そうだな……」


 なんとも、呆気ない終幕があったもんだ。噂の消滅は時間に任せるしかないかと思っていたのに。

 これなら案外公園の立ち入り禁止措置もそう時間も経たず解除されていたかもな。そう考え付いた時にふと脳裏に過ぎる姿があった。嵩原の奴、確か意味深に笑ってなかったっけ。


「……なぁ、美樹本」


「何? それにしても、嵩原もこれ大丈夫かな? 何枚も写真撮られたりして足が着いたりしないかなぁ?」


「そこなんだけど、これ、嵩原わざと見付かるようにしたとか考えられないか?」


 ピタリと美樹本の口が閉じる。暫く熟考した後、ぎぎぎとぎこちなくこちらに振り向いた。


「……何? イタズラだったと分かるようにってこと?」


「あいつ、噂の終息云々で黒い笑いなんてしてただろ。こうなることが分かってたんじゃねぇの? わざとローラースケートなんか履いてる所を写真に撮らせたとか」


「……有り得そうだね」


 美樹本は嫌そうな顔で俺の意見を肯定する。鬼のマスクは出来も良く簡単には偽物だとは分からないだろうけど、ローラースケートは流石に誤魔化しようもない。写真でも映像でも撮られてしまえば一発で悪戯となるよな。


「……嵩原ならやりそうだなぁー」


「そうだよなぁ……」


 器用にさり気なく罠を張ることを得意とするあいつだ。多くの人間を手玉に取って騙したとしても何もおかしくない。桧山が噂の原因だって知ってたから尚のこと引っ掻き回そうとしたとか? それは良い目で見過ぎているか?


「うん、まぁ、おかげで騒動も沈静化するだろうし、噂もこれ以上は広まらないでしょ。隠蔽以外の何者でもないけど嵩原はいい仕事をしたって思っとこ」


 画像を眺める美樹本の目は虚無を写していた。喜ばしいことだけども素直に喜べない、真実を知る者としてそんな複雑な感情を抱いているようだ。


 見たくないと言わんばかりに画像を消した美樹本がはぁと一つため息を吐いた。


「これであとは鏡さえどうにかなったら、もう本当に鬼を恐れることはないんだけどね……」


「そうだな」


 憂いを帯びて呟く美樹本に端的に返事をした所でバタバタという落ち着きのない足音が廊下から聞こえてきた。

 今日は遅刻もなく間に合ったようだな。直ぐに元気良く教室に飛び込んでくるだろう奴の姿を思い浮かべながら、ポケットの中の物を軽く撫でた。




 あっという間に時間は過ぎて放課後。なんらの心配事もない学生生活ってのは本当に特筆すべきこともないんだなぁと改めて実感する。ちょっと前まではいろいろと心労が重なっていた美樹本も今日はご機嫌に弁当食べてたしな。


 何も予定のない放課後というのも久しぶりな気がする。噂の検証だ、桧山の行方だとあくせくしていた日々がもう遠く感じられた。これぞ平和ボケかと大仰に捉えてみるが、でも実は予定はあるんだよな。人の減った教室からそそくさと退散して一旦外へと出る。

 校庭へと向かい目的の人間を探す。ボールも転がってりゃユニホーム着た人間も見掛けるから今日はやってるはず……。


「お、いた」


 思い思いにボールを蹴ってる野郎の中から見知った顔を見付け出す。楽しげにパス練している所を悪いが、大きく声を上げて呼び寄せた。


「桧山!」


 名を呼べばくるりと短髪頭が振り向いた。こっちの姿を視界に収めて、一瞬驚いたかと思えば笑顔でブンブン手を振ってくる。一緒に練習していた部員もなんだなんだと見てきてるな。

 これ以上目立つのもなんなんで、手振りでこっち来いと示すと何事かやり取りを交わして桧山がてーっと走ってきた。やっぱ足速いな。


「なんだ! どうした永野! お前が部活に来るとか珍しいな!」


 部活中に呼び出したってのに嫌な顔の一つもせずに桧山は楽しそうに笑う。いつものような感嘆詞たっぷりの話し方に苦笑が出るが、そう長く引き留める訳にもいかないのでさっさと本題に出た。


「悪いな、部活中に邪魔して。ちょっと用があってな、数分でいいから付き合ってくれないか?」


「ん? 用? もう直ぐ全体練習始まるから校庭からは離れられないんだけど……」


「いや、そこらの影ででもいいんだ。ちょっと、あんまり人目には付きたくなくてな」


 校庭からも校舎からも丸見えなんでここでは少々やり辛い。きちんとどんな用事なのかを告げるべきかとも思ったのだが、ここでそれを明かすのも憚られるためになんとも曖昧な言い訳ばかりが口から出てしまう。

 これじゃ桧山も困るかなと、また日を改めるかと思った所でその当人がにかっと笑った。


「おう。分かった。ちょっと五分くらい外してくるって伝えてくるから待ってて!」


「あ、おい!」


 止める間もなく桧山は来た時と同じようにたーっと校庭まで走っていって、そして数舜のやり取りでまたこっちに戻ってくる。

 あれ、話聞いてたの濱田か? 見知った顔の奴が「早く戻れよー!」なんて叫んで見送ってる。あいつにも悪いことしただろうか。


「オッケーだ永野! でもあんま時間ない!」


「ああ、大丈夫だ。直ぐに済ませるから」


 とりあえず移動だ。場所は……、体育館裏でいいか。近いし、人目もそんなにないし。




 で、男二人で日陰が落ちる体育館裏に来た。体育館の方からは掛け声やら床鳴らす音やら響いてくるけど外は誰もいなくて静かなもんだ。部室棟は見えるがやっぱりそっちにも人影は見えない。


「どした永野? 俺体育館裏に呼び出してどうすんの?」


「いや、ちょっと渡したい物があるだけなんだ。直ぐ終わる」


 よく考えたら体育館裏って喧嘩か告白かの定番な舞台だったな。ま、俺と桧山だとどっちも縁遠いなと思いながら、ポケットから目的の物を取り出して桧山に差し出した。手の平に収まるくらいの丸い物体を見せ付ける。


「? なんだそれ……」


 途中まで呟いた桧山の声が途切れて、次いで目を真ん丸にして驚いた。


「!? えっ!? 永野! これ……っ!?」


「お前が落とした物に間違いないか?」


「っう、うん……!」


 驚きのあまりに言葉に詰まる桧山へ、差し出した小さな手鏡をんっと押し付ける。こいつは噂の元凶にして桧山を散々に悩ませた照魔鏡、それだ。


「……な、なんで永野がこれ……」


 唖然と鏡を受け取った桧山が聞いてくる。まぁ、いきなり現物が出てきたらそりゃ驚くか。散々探して見付からなかったもんだし。


「探してきた」


「え!? さ、探したって、池に行ったのかよ!?」


「池に沈んでるんだからそりゃ行くだろ。人目を忍んで夜探したんだ。立ち入り禁止がされていたからむしろ今は探し易かったな」


 本当公園に侵入するのはそう難しくなかった。見張りでも着いてるかなと思えばただ看板とロープ張ってるだけで警備ガバガバだった。他に人もいないとなって人目を気にせず探せる分捗ったとも言える。


「……な、なんで永野がそんなこと……」


「いや、今回のあれこれって俺あんまり動いてなかったなと思って。他の奴らと比べたらあとあと文句とか出るかもしれないと思って一働きしてきた。これで懸念事項は完全に取っ払えたよな? 俺もせっつかれなくて済む」


 やれやれとわざとらしく肩を竦めてやる。俺だけ働いてなかったってのは本当。先輩は言わずもがな、美樹本だって必死に説得しようと動いてた。嵩原は囮役を買って出て桧山と会話する機会を生み出した。俺だけ何もしていない。だから鏡見付けるくらいが多分丁度良かった。


「……」


「用ってのはこれだけだ。鏡も無事……、実は無事じゃないんだが、それでも回収出来たのには間違いないし、いいよな?」


「……ん? え?」


 こちらの言葉になんのことかと首を傾げる桧山にちょいちょいと鏡を突いて知らせる。手の平に収まるサイズの丸い鏡、アジア的な装飾の施された枠が囲うその肝心の鏡面部分は、バキバキに割れてしまって歪な破片しか残っていない。


「あれ!?」


「いや何、池の底の石にでもぶつかったのか拾い上げた時にはもうこうなってた。これでもう誰かを鬼として映らせることもないから安心……って訳にはいかないか?」


 食い入る桧山に苦しい言い訳をするもやっぱり駄目だろうか。だってこれ借り物なんだよな。先輩に怒られるだろうか?


「……」


「……あー、うん。先輩に返す時は俺が同行するか、もしくは俺が回収して割ったと言ってくれたらいい。それくらいは責任を果たす」


「永野!」


 喋ってる途中で強く名前呼ばれてビクーッと体が跳ねた。流石に桧山も怒るか!と身構えれば、予想とは違って目の前には歓喜に沸く顔が。


「あんがとな! 俺の代わりに探してくれたんだな! すっげー嬉しい!」


 にかーと眩しいほどの笑顔なんて浮かべて喜んでる。宝物みたいに元照魔鏡を両手で抱えて心底嬉しいんだと全身で伝えてくる。これが犬なら全力で尻尾振ってるだろう桧山の態度に、なんとも居たたまれない気持ちになってきた。


「あ、ああ、うん。壊れてるけどいいのか?」


「それはしゃーない! むしろ映らない方が俺にとっては都合いいし! 先輩にはちゃんと謝る!」


「……そうか。ならちゃんと俺が持ってきてその時から割れてるってことにするんだぞ。自分の所為には絶対にすんじゃねぇぞ」


「えぇ? それだと永野が怒られるぞ」


「それが正しいんだよ。嵩原からも言われてたろ。お前は今回いろいろ我慢し過ぎだって。誰が何やったくらい正しく伝えて正当な評価されるようにしろ。悪いことしてないなら堂々とそれを主張するんだ、いいな?」


「むー。永野は俺のために見付けてくれたんだから怒らせたくないのに」


「あのな……」


 そう言う掛け値なしの自分以外への気遣いなんだか信頼なんだかが、今回桧山を孤立させる要因にもなったんだろうに。

 まぁ、止めろと言われて変われるとも思えないけど。桧山はもうこういう人間なんだろう。


「とにかくそう言うことだから。鏡はもう戻ってきたんだし気にせずサッカーに打ち込めよ? 大会だって近いんだしな。ま、部活の邪魔しといて言うことでもないだろうけど。じゃ、俺はこれで」


「あ」


 説明やらで時間を取ってしまいもう五分も経っただろうか。とりあえずこちらの用件は済んだのでさっさと桧山を帰そうと踵を返した、ら。何かに気付いたみたいに声を上げる桧山に踏み出した脚をついそこで止めてしまった。


「ん? 何かあった」


「言ってなかったな。俺レギュラーから外されたから」


「はっ!?」


 あっけらかんととんでもないこと言い放ったぞ。本当けろっと何事もない感じの顔してるけど、それ、結構重大事だろ!?


「そ、な、マジか!?」


「マジマジ。サボってたのがやっぱ拙かった。顧問に怒られて外されちった」


 へへ、と気まずげ、というより恥ずかしげに語る桧山に悲壮感はさっぱりない。大会予選も近いこの時期にレギュラーじゃなくなることの拙さを理解してない訳でもあるまいに。


「それは……!」


「ま、仕方ないよな。練習にも出てなかったんだ、真面目に大会目指してる他の奴らだって俺がレギュラーなの納得いかないだろうし。俺だって勝手に練習サボってるのいたら駄目だろ!って思うし」


 本当に大して気にも止めてないようだ。むしろ自分への処遇を真っ当なものとして受け止めている。なんでそんな冷静なんだ? お前はそれでいいのかよ?


「でも、お前だって真面目に向き合おうとしたのに……」


「俺なんも言ってないからそれ知らないし。それにそんな悪い立場でもないぞ? これからの練習態度によっては戻すって言われたし。だからまぁ、ちょっとした罰だな! やる気あるならより励め!ってことだ」


「だったらこうして呼び出すの本当拙くない? え? 俺これヤバいことしたんじゃ」


 濱田が必死に叫んでたのもこの事情あってのことじゃないのか? 呑気に話ししてる場合じゃねぇや!


「戻れ! もう話終わったから! さっさと練習行け!」


「え? 多分五分まであと三十秒はある」


「こんな時ばっか時間守ろうとすんじゃねぇ遅刻常習犯!」


 桧山の背中をぐいぐい押して校庭に向かわせる。こいつの足なら十秒掛かるかなってくらいだから充分間に合いはするだろうが、だからって当初の文言守る必要もないだろって!


「別にまだ余裕あんだけどなー。お前に報告したいことが他にもあんだけど」


「だったらさっさとしろ。そして速やかに練習に戻れ」


「永野、美樹本っぽい言い方すんのな」


 ケラケラ笑う桧山に血管が額に浮く。背中蹴飛ばしてやろうか。こちらの苛つきも気付いてない様子の桧山が前を向きながら更にあっさりと告白した。


「俺さ、朝日に告白してフラれてきた」


「……は?」


 今度こそ、今度こそ体が固まった。ぴしりと石化したみたいに立ち止まった俺を置いてちんたら歩いていた桧山は、数歩先でピタリと止まって振り返る。俺の顔を見るなりイタズラが成功したガキみたいにししっと笑い声を上げた。


「中途半端に抱えてるから迷ったりしたんだ。だからいっそのこと当たって砕けようって思って盛大に砕けてきた! おかげで凄いスッキリした!」


「……? ……??」


 もう桧山が何を言ってるのか分からない。晴れた青空みたいな笑顔を唖然と見るしかない。

 何々? なんなの? こいつなんでこうも爽やかに失恋談なんて語れるの? と言うか行動速くない? まだ諸々から一週間も経ってないんだけど??


「だからお前も俺理由に朝日フるなんてことは止めろよ」


 混乱の渦に呑み込まれていた思考が続く桧山の言葉にはっと正常さを取り戻す。慌てて桧山を見れば、奴は緩く笑みなんて浮かべてこちらを見ていた。


「あ、やっぱそんなこと考えてたな」


「なん……」


「止めろよ? それだと俺凄くカッコ悪いじゃん。俺は俺、お前はお前だろ。俺へのアシストとか思ってんならそれ違うからな」


 むっすぅと不機嫌そうに眉根なんて寄せて言ってくる。なんで読まれた? いや、それよりもでもそれは。


「俺とか関係なしにさ、朝日のことだけ考えて決めてやってくれよ。それならどうなったって朝日も納得出来るだろうし」


 真剣な声で、表情で桧山は言う。なんでそんな風に言える。あんなに悩ましく羨ましく思っていたんじゃないのか。それなのにどうして自分を蔑ろにするようなこと口に出来るんだよ。


「……お前は、それでいいのか」


 言うべきじゃない呟きが溢れる。あまり頭も回っていなかったが、流石にこれは拙いと正気が一気に戻る。

 はっとなって口を押さえるが、こちらが謝るより先に快活な声が一切を一蹴した。


「いいに決まってるだろ! やっぱ好きとか嫌いとかって話は本人が決めないとな!」


 あっさりと、至極あっさりと桧山はなんの憂いもなく断言した。無理してるんじゃないか、気持ちを隠してるんじゃないか、そう思っても俺から見える桧山にそんな影は一ミリだって窺えない。心を映す鏡も割れた。奴の手の中に収まった鏡はもう奴の顔だって映せない。


「それに俺結局朝日も永野も皆も好きなんだなって今回分かった。だからぶっちゃけあんまショックもないんだな。どっちかと言うとやっぱりかーって気持ちの方が強い」


「なんだそれ……」


「だから永野は気にしないで朝日のこと見てやれよ。その方が俺も嬉しい。どうせなら好きな奴には笑ってて欲しいからさ!」


 力なく答えを返せば更なる追撃が桧山からなされる。もう意味が分からない。なんなんだこいつ。なんでそんな結論に至れるんだ。普通ならもっと悲しむ所じゃないのか?

 でも、納得いかない面はあるけど、これが奴の本心なんだってのは疑いなく信じられる。だってこうして謎の応援を仕掛けてくる桧山の顔は、もうどうしようもないほどご機嫌な笑顔なんだ。


 真に心の底から朝日が笑うことだけを願ってる。こいつは馬鹿が頭に付くほどの脳天気な、そしてお人好しな人間なんだ。


「お、流石にもうヤバそうだな。それじゃ永野、また明日な! 鏡本当にありがとう! マジ嬉しい!」


「ああ……、うん……。いやそれはいいんだけど……」


「じゃーなー!」


 ブンブン手を振って走り出したかと思えば直ぐにトップスピード上げて桧山は体育館の向こうへと消えていった。加速が半端ない。あの足の速さだけでもそう簡単にレギュラーからは外したくないよなとどうでもいいことを考える。


 残されたのは半ば放心状態の俺一人。未だ疑問符は頭の中をぐるぐる回っているが、でも桧山が納得したならいいか。いいのか? なんとも飛び抜けた結論出したあいつに結局何も言えなかったと呆然と立ち竦む。


「ふふ……。これぞ青春という奴かな?」


 なので背後から声が聞こえてきて非常にビックリした。軽く数センチは跳ねたんじゃないか? ばっと振り向けばそこに、黒い髪を靡かせた蘆屋先輩その人が立っていた。



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