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高校生男子による怪異探訪  作者: 沢満
六章.鬼
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21.真相

サブタイ通りなので途中で切るのもなんだと、また結構な長さになってます。話をコンパクトに纏めるにはどうしたらいいものか。

「切欠……ていうか、最初にあれ?って思ったのは夏祭りん時なんだ」


 今年の夏祭り、俺と美樹本と桧山とで繰り出したその最中に、偶々俺と朝日が話している所を桧山は見掛けた。仲良さそうに話す俺たちを見てそこで桧山はふと思ったそうだ。いいなと。


「なんか、二人が笑って話してるのを見て、凄くいいな、羨ましいなって思った。なんでだかは分かんなかった。楽しそうだからかなって思って、でもそれなら話に交ざればいいのに、俺、どうしてか一歩も動けなくて、それでただ見てるしかなかったんだ」


 突然湧いた自分の感情が理解出来ずに戸惑った桧山は、結局その時は俺と朝日が離れるまでずっと黙って見続けていたそうだ。

 早々に別れたあとははっと我に返って人混みに紛れ、そして何食わぬ顔をして戻ってきたと。実際あの後も暫くは三人で食休みなんてしてたしな。思えばこの時の桧山もどこか元気ないというか、気もそぞろだった気がする。


 桧山本人は一時の不調かな?くらいに受け止めていたようだ。夏祭りも終われば忘れる。そんな程度のものだと思ったのに、でも違った。

 家に帰ってからも、夜寝入る頃も、そして翌日になっても俺を羨む気持ちは残り続けた。そう、桧山はその時になって俺を羨ましく思ってることを自覚した。 

 なんでそんなことを思うのかは分からない。ただ浮かぶのは俺と朝日の仲が良さそうな画ばかりだった。


 二人並ぶ画が頭を離れなくて思い描く度に羨ましいという感情を抱いていれば、次第にその中にちょっと嫌悪が混ざるようになった。

 本当にちょっとのモヤモヤだったらしい。桧山としても悩みとも言えそうにないちょっとした気掛かりとどう向き合うべきか、悩んだ結果サッカーに打ち込むことで自分の中から追い出そうと企てた。


「その頃俺いろいろ迷惑掛けてただろ? それの詫びも入れて、真面目にサッカーに打ち込もうって思ったんだ。走ってる時は走ってることしか考えないから丁度いいと思って。やってみたら上手くいったんだ。多分頭の隅っこくらいにしか残ってなかったんじゃないかな? 夏休み終わる頃くらいは本当になんも気にしてなかった。でも、新学期始まって永野と顔合わせて、そしたらぶわって忘れてたの全部出て来た」


 桧山としても戸惑ったそうだ。俺の顔を見て話すことが出来ず、無理して見ようとすれば朝日との画を思い出してしまう。自分でも訳が分からない衝動が胸の内に存在していて、だからこそ、俺相手には以前のような態度を取れなくなっていた。

 自分で自分の心が把握出来なくて戸惑っている内に、七不思議の報告会が開催され朝日とも再会する運びとなった。夏祭り以来に会えた朝日を見て、桧山は本当に自身の心というものが分からなくなったそうだ。


「いいなって。朝日が真っ直ぐ見てる永野がやっぱり凄く羨ましかった。それだけじゃなくて、俺が永野だったらとか、俺こそあんな笑顔向けてもらいたいだとか、他の奴に、笑い掛けるのやだなとか、そんなよく分かんない考えばっか浮かんできて、俺これ駄目な奴だってそん時気付いたんだ。多分人に向けちゃいけない感情なんだ。だって、だって俺永野を嫌だなんて思っちゃったんだよ。友だちなのに……」


 信じ難いことを口にするといった感じに桧山の語尾が陰る。話に上った当人としても、真正面から嫌悪を示されるのは心に来るものはあった。今は俺の感情なんて気にしてる場合でもないが。


 とにかく、そうして桧山は自分の抱えるものは悪いものだと悩むようになってしまった。

 桧山の情動は他の人間からすれば察するのも簡単な分かり易いものだった。他人を羨ましいなんて思うのは自分も同じような立場にありたいと願う欲から来ている。桧山はその点を全く理解しようとしなかったが、それが原因で中々に拗れた事態へと発展してしまった訳だ。


「訳分かんなくて、永野とも話せなくて、どうしようって思った時に、誰かに聞けばいいんじゃないか?って思った。美樹本にもよく勉強で分かんない所とか聞いてたから、自分で分かんないなら誰かに聞けばいいやって」


 そこで白羽の矢が立ったのが先輩だ。なんで美樹本に行かなかったかと言うとどうにも相談し辛かったそうだ。


「まぁ、気持ちは分からなくもないね」


「勉強とはまたジャンルも違う話だしね。無自覚だったみたいだけどどこかでは察してたのかな?」


 桧山への共感の声が上がる。美樹本の指摘通り、桧山も無意識では自身の感情も察していたのかも。恋愛相談とか恥ずかしくて友だちには中々切り出せないものだろうし。

 それで、親しくはあるが理性的で頭も良く、また秘密なども守ってくれそうな先輩を桧山は相談相手に選んだ。俺たちとも共通の知り合いだからな。明瞭に説明するってのが苦手な桧山としては、ある程度事情を把握してくれていた方が話し易くもあったんだろう。


 相談し、そしてあとは先輩からも聞いた通り。桧山は照魔鏡を渡され、そしてそこからいろいろと思惑が狂っていってしまった。


「鏡を見たら、俺の顔が歪んで見えて……。嘘だって、信じられなくて、だから一人で確認しようと……」


「それで向かったのがあの公園か」


 聞けばこくりと頷かれる。なんだってあんな場所で。そりゃ日中以外は人も寄り付かないだろうけど、それでも屋外だぞ。


「なんで自宅とかじゃなかったの?」


「……家で見ようとしたんだ。でも、家には母さんもいるし気になって。それで俺、夜にランニングも時々してるから、人がいないあそこなら大丈夫かなって……」


 余程自分の内面に歪みを見付けたのがショックだったみたいだな。思い切りのいいこいつがここまで躊躇いを見せるなんて相当だ。


「ランニングの途中で公園に寄って、その日はあんま明るくなかったけど街灯の下なら充分明るかったから、俺腹括って鏡覗いたんだ。永野と朝日のこと考えながら。そしたら……」


 そこで言い辛そうに桧山は言い淀む。きっとそこで見てしまったんだろう。躊躇う桧山の代わりに先輩があとを引き継いだ。


「そしたら、鏡の中には鬼が映ってしまったんだね?」


 こくりと頷きだけが返る。先輩の問いに答えながらも桧山の腕がゆっくりと自分の体を抱き締めるように回った。桧山は視線を斜めに落としながら、ゆっくりと、声を振り絞るようにして話し出した。


「か、鏡の中にはすんごい怖い顔をした鬼がいた。びっくりした。だって鬼って昔話の中にしかいないし、それがなんで鏡の中にいるのか、本当意味分かんなかった。それで、これなんだろって思った時に、あ、これ自分の顔じゃんって分かって、凄く、凄くぞっとした」


 その時の感覚を思い出したか、桧山は自分の体をぎゅっと強く抱き締めた。美樹本が心配そうな目を向ける。桧山はただ自分の気持ちを知りたかっただけなのに、感情ではなく自分の中に鬼を見付けてしまった。

 その衝撃ってのはどれほどのものだったんだろうか。少なくとも桧山は鬼となった自身を罰だと言うくらいには忌避していた。


「嘘だ、そう思ってもう一度よく見てみたんだ。でもやっぱり映ってるのは鬼だった。凄い目付きで俺のこと見返してて、なんだか今直ぐにでも鏡から出て来そうで、だから俺、怖くなって、それで思わず鏡を投げたんだ。池に向かって、思いっ切り」


 咄嗟のことだったんだろうな。後先とか考えられなくて、ただ鏡を視界に収めたくないという一心で動いたのが簡単に想像出来た。


「投げたあと、あ、やっちゃったって冷静になった。だって先輩からの借り物だし。怖かったけどちゃんと返さなきゃと思って池に入って探したんだ。でも夜で月明かりもなくて落ちた所も大体の場所しか分かんなくて、その日は結局途中で諦めて帰った。今度は日のある内に探そうと思って」


 それで翌日、早朝から公園に行ってみたが見付からず、夕方にも探しに行ったが、そこで池に入るなと注意されたと。

 宮杜が言ってた生徒ってやっぱり桧山かよ。まぁほぼ確信を得ていたから驚きもそんなにないが。

 そして、注意されて逃げ出して、それならと目立たないように捜索時間を夜へと移した。


「夜なら暗いから分からないかなと思って、口にライト咥えて手元照らしながら水ん中探したんだ。まぁ、月がさ、段々明るくなってきてたから結構探し易くはあった。頑張って池の底掻き回して鏡ないかなって探してたんだけど……」


 持ち直していた桧山の声がまた暗く沈む。何かあったのか?


「探して、二日目くらい? その日は空も晴れてて星も見えてた。月も三日月よりは太くてその分明るくて、これなら今日で見付かるかなって思って池に入って下見たら、そこに、そこに、鬼がいたんだ」


 当時のことを思い出したのか声が震えていた。

 足下に鬼。一瞬鬼が池の中にいたのかと思ったが、でも多分そうじゃないんだろう。思い出すのは鬼に転じる前の桧山。水面に映った奴の顔が何故か鬼になっていたあの場面だ。


「俺の服着た俺を見上げる鬼だった。今度は直ぐに分かった。これ俺だって」


 揺らぐ水面に鬼となった自分の姿が映し出された。どうして鬼として映るのかは分からない。ただ、桧山はそれが自分だって直ぐに理解したらしい。


「驚いて、体も動かせなくて固まってたらどんどんはっきり見えてくるようになったんだ。二本の角も悪い目付きも口から飛び出した牙も。首を振ったら鬼も首振ってた。だから俺、自分が鬼になったんだって思った。今池に突っ立ってる自分は人じゃなくて鬼の顔してるんだって……。もう訳分かんなくて鬼の顔見返すしかなかったんだけど、そこで悲鳴が聞こえてきてさ」


 思考が停止しているような中でも桧山はどうにか声に反応した。聞こえた方へ顔を向けると、柵の向こうから桧山を指差して叫ぶ人間がいたそうだ。驚いた様子で後ずさりしながら、それでも指を突き出してそいつは叫んだ。「鬼がいる!」と。


「俺本当に鬼だった。だって鬼だって言われたし。それで慌てて逃げ出した。このままだと拙いって思って。夢中だったから全然気にしてなかったけど、俺の足凄く速くなってたんじゃないかな? だって鬼の噂って多分それ俺のことだし」


 軽く笑って桧山は言い放った。快活に笑うこいつには似合わない自嘲を含んだ笑みだ。つまり、突然に聞かれるようになった公園の鬼の出所は桧山であったらしい。


「……タイミングとしては、そうだろうな」


「俺すんごくびっくりして暫く池に行けなかった。また目撃されたらどうしよう、鬼になったらどうしようって。家に着く頃には人間に戻ってたけど、でも次鬼になってまた人間に戻れるかどうかなんて分かんないじゃん。だから、凄く怖くて、どうしようってなってたら鬼の噂が広まってるって聞いて凄くびっくりした。先輩も嵩原も調べたいって言うからどうしようかと思った」


 だろうな。まさか自分が原因だとか言えるはずもないか。説明するとなると鬼に変じた理由まで明かさないといけないから。


「そこからは、うん、俺、多分ずっとうじうじしてたと思う。本当のこと皆に話さなきゃって思ってて。でも決心着かなくてさ。知られたくないけど話さない訳にもいかない。だって、俺以外にも鬼が出ちゃったから」


 そうだ。鬼は確認しただけでも三回姿を現している。一回目は噂の元となった桧山。二回目は俺たちが目の前で目撃した。そして三回目はどこぞのカップルが遭遇し広くネットにも拡散されることとなった。

 それで騒ぎは大きくなったんだよな。公園にも鬼を撮影しようと人が集まってきて諍いの類も起きた。まぁ、それは無理矢理取材を行おうとした人間が悪いだけのことだから桧山の責任でもなんでもないが。


「俺の所為だ。俺が照魔鏡を池に投げちゃって、それで俺みたいに鬼になる人が出て来たんだ。永野が襲われて、俺とんでもないことしちゃったって思った。このままだと誰かが怪我するかもしれないって。そしたら、それ俺の所為じゃん? ますます皆に言い出せなくなった」


「で、でも桧山、僕たちに本当のことを明かそうとしたじゃない。あの時言おうとしてたのって噂についてなんでしょ? 桧山はちゃんと、真実を話そうとしてたよ」


「でも結局言えてない。怖かった。俺の所為だって知られるのもだけど、でも一番は、皆に嫌われるのが怖かった。鬼になんてなったら絶対嫌われる。昔話でも皆そうじゃん。鬼は乱暴で自分勝手の嫌われ者だった。なら俺もそうなるんじゃないかって思って、だから何も言えなくなった」


 そう告げる桧山は悄然と肩を縮めて俯いている。鬼という騒動の種を蒔いた責任と、それから鬼になってしまった自分への嫌悪。桧山の口を重くさせていたのはこの二つが理由か。

 俺の顔を見て話すのを止めたのも、切欠が俺への言い様のない感情だからだろう。間違ってもお前の所為で!なんて責任転嫁な考えを抱けない桧山だったから、一人で抱え込み続けるしかなかったのかもな。


「……それから君は、また夜間の捜索を再開したんだね? 公園に詰める人々の間で噂されていた池を浚う少年は桧山君、君に間違いはないと」


「……はい。多分俺です」


「これまでの話を聞けば君が責任を感じ、鬼の発生元であろう照魔鏡をどうにか池から引き揚げようとしたのは分かる。事態がより混迷となるのを嫌って自らの手で解決しようとしたんだろう? 君は君で事態の打開に動いている。ならばそう自分を責めるな。君なりに己のなしたことに向き合っていたのだから」


「……そんな、そんな立派な感じじゃないです。俺どうしようもなかったんですよ。皆とも向き合えなくて、それに、部活も……」


 はっと美樹本が反応する。現在のサッカー部での桧山の立場は濱田から聞かされているからな。どうしたものかと美樹本と一緒に視線を彷徨わせていると嵩原があっさりと口を開いた。


「そう言えば亨、ここ最近部活も無断で休んでるそうだね」


「! えっ!? なんで……!?」


「なんで知ってるのかって? 濱田がね、教えてくれたんだよ。何かあったのか知らないかって相談されてね。てっきり鏡の捜索に時間充ててるのかと思ってたけど、でも夕方には亨いなかったよね。他に理由でもあるのかな?」


 ズバズバ聞きにいくが、でも確かに公園に桧山の姿はなくて夜になってからやって来たよな。鏡の捜索以外に何かやることがあったんだろうか。


「……理由って言うか、俺鏡で鬼見てから全然サッカーにも集中出来なくなってたんだ。いろんなことが気になって身なんて入らなくて。ネットに鬼の画像が載ってからは本当に駄目だった。俺サッカーやってていいのかな、早く鏡見付けないと駄目なんじゃないのかなって。そっちばっか気になってミスも一杯しちゃって、そしたらさ、先輩とか後輩にさ、もう部活来なくていいって言われたりして……」


 濱田も言ってた一部の部員か。桧山は濁らせているが以前から八つ当たり染みた嫌がらせはされていたそうだし、流石にそれが嫌になって部活にも顔を出さなくなったのか?


「何それ!? 桧山は思い悩んでいるのに!」


「いや、これは俺が悪いんだ。誰にも何も言わなくて、それで勝手に調子崩してんだから自己管理が出来てないってだけの話なんだ。スポーツ界じゃ本人が自分のこと管理するのなんて常識だし。それにさっぱりいいプレー出来てなかったのも事実だし」


 憤る美樹本にもふるふる首を振って自分の非を認める。そんなストイックというのか、何かあれば内省に向かう性質もあって絡まれたりしたんじゃなんて邪推も頭に浮かんだ。流石に穿ち過ぎているか。


「そこまで言われても俺踏ん切りなんて付かなかった。ずっとどうしようどうしようって迷ってるだけでさ。でもあの時、屋上で皆に話してくれって迫られて、それで永野が自分は身を引くって言った時に、俺どうしようもなく自分がかっこ悪く思えてさ。それでやっと腹括れた。鏡を見付けて鬼がもう現れたりしないようにして、それから皆に全部話そうって決めたんだ。それまで部活も皆とも距離置いて自分を追い込んだ。がむしゃらになればきっと鏡だって見付けられるってそう思って……」


 ああ。やっぱり桧山は桧山だなって思った。部活を休んだのは逃避からだと思ったのに、真実は自分への発破を掛けるためだったか。

 桧山は体力的にも精神的にもタフな人間だ。俺たちがどうしようって話を聞けずにもたついている最中も、こいつは一人で戦っていた訳か。


「不器用なことしてたんだ。それだと自分の立場を更に悪くしちゃうだろうに」


「うん。皆には心配掛けたと思う。でも、俺が出来るけじめってそれくらいしかないと思ったから……」


 嵩原が遠慮なく告げたように非常に不器用な立ち回りだ。だが、それがとても桧山らしい。


「……それからは皆も知ってる通りだ。池に入ってんの見られて、鏡探してるのだって、俺が噂の原因だってこともバレて、それで、それで俺、鬼になって……、永野を……」


 あとは俺たちも見聞きしたことだ。実際に鬼に変じて暴走。自分を本物の鬼だと信じ込んでいた桧山のそれを否定して元に戻した。


「……察するに、亨は真人を襲ったのかな?」


「あ、嵩原はいなかったっけ。まぁ、そうだね。でも桧山は永野を傷付けたりしなかった。見た目は鬼に変わっていたけど、中身はちゃんと桧山のままで、永野を傷付けないようにって必死に抗ってたんだよ」


「ピンピンしてる真人を見れば何もなかったのは分かるよ。俺が合流したのは亨が落ち着いたそのあとかな? 鬼になった亨を止めるのは大変そうだけど、だからってあんな服ビリビリにするのはどうかと思うよ?」


「それはそれで理由があるんだけどね」


 そしてそのあとは慌てて撤収を果たし今ここに全員がいると。正に怒濤な夜だったな。思い返せば噂が発生してから今日まで十日くらい? 長いような短いような、忙しい日々だった気がする。


「……最後まで話してくれてありがとう。言い難いことだってあっただろうに、よく話してくれたね、桧山君」


「……ううん。いいんです。だって俺の所為だし。俺が鏡を投げたりしなかったら鬼の噂だって流れることもなかった。それかもっと早く皆に本当のことを言えていたら……」


 先輩の労いの言葉にも桧山はしゅんとして首を振る。自責の念に駆られているな。素直に自分の気持ちとか俺たちに語ってきたのはその所為もあるのか。


「まぁ、今更たらればを語った所でどうしようもないよ。それよりもだ、亨の話を聞いて改めて照魔鏡が今回の騒動の原因である可能性が高まりましたね。会長さんとしてはこれ、どうしようって考えてます?」


「む……。やはり回収するのが一番だろう。映る者を鬼に変える力は照魔鏡のものであると言える。ならば鏡を池から引き揚げてしまえばこれ以上被害が出ることもあるまい」


「やっぱりそれが最適ですか? そうなるとどうにか池を浚って探し出さないと。この場合立ち入り許可は市役所の方に求めればいいんでしょうか」


「うむ、それなんだが……」


 歯切れの悪い先輩の言うことには、どうやら公園への立ち入りそのものが一時的に禁止させられてしまったのだとか。


「え……っ」


「あ、『ついに』って感じですね」


「まぁ、元より近頃は騒がしくなっていた所に、一昨日のことが止めになってしまったようでな。木々に残る破壊の痕なども問題視されて暫く立ち入り禁止措置が取られてしまったのだよ。なので許可を取る処か公園自体入れない」


 やれやれと首を振る。今朝方発表されたらしい。異例とも思える素早い対応はそれだけ緊急性を感じたからか。


「お、俺の所為で……」


「ど、ドンマイ」


「問題視されるほどに暴れたってこと? 鬼になると凶暴性が増すのかな?」


「木の破壊もそうだが、元より夜間に忍んで写真撮影を行おうとする不審者が出没していたことが立ち入り禁止へ踏み切った主因であるとのことだ。遠かれ不審者を弾き出すために公園の封鎖はなされていたと思うよ」


 俺たちが罠に引っ掛けた時もそこそこに待機してる人間はいたからなぁ。公園の封鎖聞いてあの鉄面皮な宮杜の顔が脳裏に過ぎった。


「恐らく今回の騒動が鎮まるまでは公園が解放されることもないのではないだろうか」


「……」


「え、えっと、ほら! 考えようによっては人が立ち入らないんだから鬼になっちゃうこともないんじゃないかな! 結果オーライ?!」


「そうかもね。人自体寄らないなら鬼が生まれることもないでしょ。あくまでこれまで目撃されてきたのは人が鬼になった姿なんだろうし、むしろそれ狙って立ち入り禁止措置を決めたとか?」


「え、それだと僕らのことも疑われてない?」


「流石に鏡の影響云々までは辿り着けないと思うけど。でも、騒ぎが治まるまで、か」


 くくっと嵩原の奴が唐突に黒い笑い声を上げてきた。笑う要素どこかにあった?


「ともかく、暫く鏡の捜索は中止だな。許可が下りないならまだしも、立ち入り自体禁止となればやりようがない」


「……」


「桧山、元気出して。なんなら一緒に役所の方に説明しに行こうか? それでどうにか鏡の捜索だけでも許可もらえるように頑張る?」


「信じてもらえるかなぁ? 鬼に扮してイタズラしていたとかならともかく、人を鬼に変えちゃう鏡があるんですって訴えた所で取り合ってもらえるとは思えないけど」


 嵩原の言い分も尤もだな。照魔鏡云々であの騒動のタネになった画像も実は本物なんです!とかいい大人が真面目に取るとは思えない。


「桧山君、今回君に鏡を渡した者として私も責任を感じている。この騒動がきちんとした形で決着が付くよう、私も君と一緒に奮闘していく所存だ。だから決して自分の一人の所為だと責任を負ったりしないでくれよ。一緒にどうすればいいのかをこれから考えていこう」


「……先輩……」


 見かねてか先輩が力強く共闘の旨を告げた。そこでそう責任を背負うのか。先輩からしたって善意が元だろうに。

 桧山一人に全てを背負わすのを嫌ったんだと思うけど、実際、責任を果たすとなればどんな結末になるかは分からないのに。


「ぼ、僕のことも頼ってよね! もう何も言わずに一人でどうにかしようとはしないで!」


「その結果が現状だからねぇ。事の解決を図ろうとして反対に余計に引っ掻き回すとかあるあるだってことを、亨も今回のことで学んだとは思うけど」


「嵩原! 言い方きつい!」


 美樹本も桧山に寄り添うことを宣言した。何も話してもらえないと気に病んでいたあいつなら納得の覚悟だ。美樹本も先輩同様、今度こそ桧山を助けられるようにと腹を決めているんだろうな。


 責任。責任か。桧山は自分が切欠となって今回の騒動を引き起こしたことの責任を、先輩は更にその元となる切欠を生んでしまったことの責任を果たそうとしている。

 だとしたら俺は? 桧山が悩む切欠となって、その上で追い込む一助となった俺が果たすべき責任は? 

 俺だけが涼しい顔をしてなんら報いることもせずにいる訳にはいかないだろう。それをすれば、俺は桧山とも先輩とも今後顔を合わせることが出来なくなる。


 責任、か。俺はどうやって自分の責任を果たすべきなんだろうか。



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