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高校生男子による怪異探訪  作者: 沢満
六章.鬼
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2.夏休みの宿題

 夏休みの間のあれこれに翻弄された九月一日。

 明けて次の日ともなれば、気持ちの切り換えも大多数の生徒は問題なく行えている。もう連続して十回以上繰り返していれば慣れたものだ。夏休みへの未練や新たな単元への不安はあれども、それはそれとして戻ってきた日常へと思考は嫌でもシフトする。

 どれだけ学校やだなと思っていても、いざ始まってしまえば条件反射の如く校舎に収まってしまうのはそれこそが学生の倣いと言うか、なんと言うか。


 夏休みの宿題の提出も恙なく終了し、ミニテストの類も順次済まされていく中、さぁたっぷり六限詰まった日常が帰ってくるぞやだーとか思っていたのだけど実はまだ宿題は残されていた。主に美樹本関係で。


「それで今日の放課後なんだけど、皆大丈夫?」


 新学期開始の翌日の昼、朝から続く授業に気力体力を削られていれば美樹本から窺うように訊ねられた。話は単純なもので、また美樹本の部活関係だ。


「問題ない」


「こっちも。流石に事前連絡されてればね」


「おうよ。今日は大丈夫だぞ」


 次々に了承が返ってきて美樹本はほっと安堵の息を吐く。なんでも、蘆屋先輩から本日の放課後集まって欲しいと連絡があったらしい。


「助かるよ。急に報告会がやりたいってきた時は皆集まってくれるかなって心配になったよ」


 美樹本が溢したように、用件とはいつぞや行った七不思議検証の報告会を行うといったことだった。あの一月と半ほど前に行った我が上蔵高校の七不思議の検証、あれの纏めを参加者全員集めて行いたいと一週間ほど前に美樹本は打診されたらしい。


「なんだって今更やるのか」


「本当なら登校日にでもやりたかったそうなんだけどね。見学会の準備で忙しかったし、他校生を大量に招いている時にあまりオカルト的な活動をするのも誤解を招くって駒津先生からNG出てたらしいんだ。だから機会を窺ってたら新学期にまでズレ込んじゃったって。直接関係のない部活動で夏休みにまで呼び付けるのは遠慮したんじゃないかな、会長は変な所で遠慮するし」


 顧問自ら活動自粛を言い渡す部活ってなんだ。まぁ、英断だとは思うけど。

 それでこんな二学期にまで遅れたと。そこはもうちょっと図々しく夏休み中に予定立ててもよかったんじゃないだろうか。ぶっちゃけ記憶に残ってるか定かじゃないんだけど。


「確かに登校日は忙しかったけどね。ま、あとで報告会はやりたいって会長さんも言ってたし、無事に開けてよかったんじゃない? これで学校への報告も纏まる感じかな?」


「そうだね。内容は冊子に纏めて学校に提出するらしいよ。一応草稿として纏めた物は予め学校側に提出しておきたいって。その、一応監査が必要な話もあるからって」


 小さな声で濁す内容に自然とこちらも口を噤んでしまう。表に出すべきじゃない話。言われてそんなものもあったなと思い返す。


「……学校側の対応って、そこの所どうなんだ?」


「さぁ……。ただ会長は悪いようにはならないって笑って言ってたから、多分大丈夫なんじゃないかな?」


 元は学校側が秘匿したものだ。先輩が問題ないと言うならやっぱり情報は制限していく方向になるのだろうか。恐らくはその方がいいんだろうな。


「その辺りの口裏合わせも目的だったりするかな?」


「どうだろうね。まぁ、そんな感じだから。皆よろしくね」


 改めて美樹本が念を押してくる。七不思議の検証は嵩原なんかが普段行っている趣味の探究とかでなく、オカ研の正式な活動証明課題であるからそりゃ慎重にもならざるを得ない。

 オカ研なんて継ぐ気もないと以前言っていた美樹本であっても、自身の行動一つで一同好会の存亡が決まるとあっては無責任な振る舞いなんて出来ないんだろうな。こいつ根は本当真面目だし。


 こちらももう首を突っ込んだあとであり、今更梯子を外すような真似はしないけど、でも本音はちょっと行きたくないんだよなぁ。あの先輩の呼び出しと聞くとどうしてもいい予感がしないんだ。

 一時疎遠となった原因であるマスコミも真っ青な尋常じゃない聞き取りが自分の中で尾を引いてる。どうにも苦手意識が芽生えてしまっていた。先輩の人柄はそう問題があるものじゃないって理解してるんだけど。


 乗り気ではないが、でも参加しない訳にはいかない。まぁ、今日だけのことだ。最悪は嵩原当たりを贄として捧げればどうにかなるだろう。俺たち四人の中では一番馬が合うに違いないんだ。話が盛り上がっている内に逃げ出せば……?


 そこまで考えてふと何かを忘れているような気がした。なんだろう、何か違和感が……。もやもやとした気掛かりが胸の内に湧いてくるが、昼休みの間にそれが晴れることはなかった。




 放課後。あの気掛かりがなんだったのかは部室棟に向かうとなったその時に解明した。


「七不思議の報告会とか、今更な感じよね」


「あはは……。夏休み前日にやったんだよね。もうそんなに経ったんだね」


 ホームルームの終わりに伴い、一路オカ研部室へ行くぞとなった際に二岡&能井さんペアも同道すると合流した。そう言えばいたなぁ。となると当然あと一人も参加する訳で。


「お久しぶりです!」


 部室棟前で朝日とも落ち合った。一年がたった一人で二年生徒に付き添うという形なのに怯んだ様子も見せない。むしろ、にぱぁといい笑顔を浮かべてらっしゃる。


「そう言えばこの七人で検証してたか」


「何? 忘れてたの?」


「もう一月半も前のことだぞ。ぽろっと記憶が落っこちてても仕方ないだろ」


 増えたなぁと感慨深く呟けば二岡に目敏く拾われた。馬鹿にしたように訊ねられるのについ言い返す。


「まぁ、時間は経っちゃってるよね。正直、皆七不思議の時のことって覚えてる?」


「う、うーん。素直に言うと自信はないかなぁ」


「えっと、私もその、きちんと覚えているとはあまり」


「ふざけた内容であったことはまだ記憶にも残ってるわね。細かい出来事なんかは流石に忘れてると思うけど、でも誰と一緒に回ったかくらいは覚えてるわよ」


「おい」


 当て擦ってないと気がすまないのかこいつ。能井さんも朝日も記憶にないと自信なさそうに答える。時間が経ってるから仕方ない。

 一応、レポートは提出済みだから最悪は自分の文章読みながら記憶を掘り起こしていけばどうにかはなるだろ。


「やっぱりそうなるよね。桧山は? ちょっと怪しいけど……」


「……へ?」


 苦笑しながら美樹本は桧山へと視線を向ける。美樹本も素直な評価を口にするが、対して桧山はと言えば話し掛けられたことに驚いたように目を瞬かせていた。ん? 話を聞いてなかったのか?


「いや、へ、じゃなくて。桧山は七不思議の時のこと覚えてるの?」


「七……、お、おう! えっと、なんかガシャンって鳴ってた?」


「また限定的で瞬間的な記憶だね。どこをどう回ったとか、怪談の順番とかは覚えてる?」


「順番? えーっと、最初美術室で、次は図書室……だったっけ? それで、次は倉庫? 階段? あ、嵩原が女子トイレ入ってわくわくしてたのは覚えてるぞ」


「はい亨ー。ステイ、ステイねー。余所様から誤解受けそうなことを大声で堂々と言わないのー」


 悩ましげに眉間にシワを寄せたあと、あっと声を上げて告げる桧山に瞬時に嵩原がストップを掛けた。そんなこともあったっけね。事実はもうちょっと事情があるんだけど、端折った内容はそんな違ってもないな。


「報告会ともなるとやっぱり細かい進行だとかの確認は入るかしら? だとしたら少し大変かも」


「提出したレポートがあるし、恐らくはそれを元にした擦り合わせっていうのが本旨になるんじゃないかな? 会長さんだって間が空いたことは理解してるだろうし、俺たちの記憶を搾り上げるみたいなことまでは求めないと思うけど」


 困った感じで溢す二岡へすかさず嵩原はフォローを入れる。桧山へ苦言を呈していたとは思えない見事な変わり身だ。

 先輩への考察は説得力があるようなないような。蘆屋先輩は基本は無理難題なんて言うような人ではないと、短い付き合いながらもそんな認識は俺にもある。だから嵩原の言い分もまぁ、納得は出来る。

 でもなぁ、前科があるからなぁ。搾り上げるって表現に若干トラウマを刺激されつつ、なんだかんだとオカ研前までやってきた。


「会長、報告会に来ました。失礼します」


 ノックのあとに声を掛けつつ、美樹本は応答を待つ様子もなく直ぐに扉を開けて中に入る。そしてそのあとに俺たちも続いた。


「「「「「失礼します」」」」」


「失礼しまーす」


 どやどやと声を掛けながら次々にオカ研部室へ。毎度の如く蘆屋先輩がホワイトボードを後ろに出迎えてくれた。


「やぁ、皆。久しぶりだね。よく来てくれた」


 ニコリと笑って出迎えてくれる先輩はやはり美人だ。理知的でクールな年上女性と言った風貌なのに、俺の中ではもう残念美人と印象が固定されてしまって久しい。


「全員参加とは嬉しいね。忙しいだろうにこちらの同好会のために時間を取ってくれて感謝するよ」


「いえ、同好会の活動証明と知って参加した身ですから、必要とあれば協力するのは当然のことですよ」


 代表して二岡がそう答える。レポートはもう提出はしているが、課題のために内容を更に精査する必要があるというなら、まぁ、協力者としては再度集まるのも理屈の通ることだろう。


「それで会長、全員参加での報告会を行うんですよね。でも全員が座れますか?」


 美樹本が部室内を見回して訊ねた。元倉庫だったらしいオカ研部室は会議室なんかによく置いてある細長い机が真ん中にでんとあるだけでもうぎゅうぎゅうだ。

 そう言えば前は男三人は立って話聞くことになってたっけ。久しぶりに見ることになった部室は以前よりも狭くなったような……?


「うむ。その辺りは調整済みだ。一応全員が座れるようにとテーブルも増やしてみたのだよ。君たち七人、どうにかは座れるはずだ」


 手で示すのに目をやれば、細長いテーブルは二個くっつけて並べてありその四辺全てにパイプ椅子が置かれている。部屋が狭く感じたのはテーブルが増えたからか。


「皆、席に着いてくれ」


 言われて各々に腰掛ける。全員が座るためにと先輩の両隣も解放されていたが、そこは部員である美樹本と同好の士である嵩原に譲ってあとは自由に。とは言え俺と桧山でお誕生日席を埋める形に落ち着いたけど。


「さて、それでは今期上蔵高校七不思議の検証報告会を始めようか」


 キリッとした先輩の号令により、こうして報告会は開始された。





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