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高校生男子による怪異探訪  作者: 沢満
六章.鬼
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1.新学期開始

第六章《鬼》始まります。

 長かった夏休みもあっという間に終わってしまった。本日から九月。新学期が始まる。


 登校日が挟まっているので言うほど間隔の開いていない学校へと向かえば、一夏の間に変わった者、変わっていない者と様々な生徒でごった返していて、ああ、また学校が始まるんだなと少々憂鬱な気分になる。

 久しぶりに顔を合わすクラスメートとも挨拶を掛け合う前に、やだなぁとか思う自分の社交性の低さに思う所はなくもないが、そもそも交友関係もそんなに広くないんだから非常に順手であると開き直ってみることにした。わいわい騒がしいクラスの中を黙って自席まで進む。


「あ、永野。久しぶり。元気にしてた?」


 机に鞄を置いた所で美樹本に話し掛けられた。血色のいい美少年顔が軽く笑みを浮かべてこちらを見てくる。


「ああ。そっちも元気そうだな」


「今年は比較的穏やかに過ごせたからね。後半なんて全く平和だったし」


 そう答える美樹本は機嫌がいい。美樹本の語る穏やかさと言うのは嵩原に引っ張られることがなかったことを意味する。

 去年などは奴の計画した心霊スポット巡りに連れ回され続け、気付けば夏休みも過ぎ去っていたからな。今年はネタが切れたのかなんなのか知らないが、夏休み後半には呼び出しが掛かることもなく実に平穏な日々が続いたから、美樹本が生気に溢れた顔をしていたっておかしいことはない。


「やあ。二人共変わりないみたいだね」


 噂をすればなんとやら。嵩原の奴が爽やかな笑みを携えて登校してきた。半月振りくらいになるのか、日焼けのあともなく変わらぬ男前っぷりをひけらかす嵩原にクラスの女子も騒ぐ騒ぐ。


「久しぶり、嵩原。ちょっと遅めだね」


「寝過ごしでもしたか?」


「亨じゃあるまいし、久しぶりだねって朝から女の子たちと挨拶していただけだよ。夏休み中会えなかった子たちもたくさんいるからね」


 こちらのからかいなんてあっさりと躱してそう宣う。新学期からもう全力ですか。実際、クラスでも「久しぶりの嵩原君だー。目を養っておこう」なんて女子の台詞も聞こえてくるんだ、嵩原はもうそう言う生き物だと悟りのような諦観が今は胸の中に広がっていた。

 まぁ、クラスの男子はこの野郎って目を向けてはいるんだけども。


「そう言えば桧山の奴いないな」


 話題に上ったので教室を見回すも姿は見えない。大抵桧山は朝練がない時は遅刻ギリギリ登校なのでクラスでも誰よりも遅い。でもそろそろホームルームも始まろうとしている時刻だ、これ以上はペケ点けられるぞ。


「まだ来てないみたいだね」


「亨こそ寝過ごしてそうだけど。聖は一緒に登校とかしてあげないの? 聖と一緒なら遅刻だってしないだろうに」


「サッカー部の朝練やら何やらで時間がズレるからね。合わせるのも正直面倒。高校生なら自分で朝も起きないと」


「お厳しいようで」


 肩を竦めて冗談めかす。まぁ、男子高校生が男子高校生を甲斐甲斐しく世話するってのも見目がな。美樹本は過保護な方だと思うけど、それも緊急時に限っての話だ。平素は意外とドライだったりする。


 あの夏祭りからもう半月。美樹本から聞く話でも、桧山が引き摺っているといったことは聞かない。完全に吹っ切った訳でもないんだろうけど、少なくともネガティブな思考に捕らわれているような姿はないらしい。

 若干落ち着きが見られるようになったとか教師みたいな評価下していたけど、それは落ち込みとはまた別であるみたいなのは美樹本の言動から察せられた。あの体験を経て、桧山の中で何かしらの変化が起こったのだろうか。


 こっちはこっちでバイトだなんだで忙しくしていたから顔を合わせるのも久しぶりだ。桧山の変化に驚いたりするかも? あいつが落ち着きを持つとか想像も出来ないのが本音だけど。


「そろそろ拙くない?」


「チャイム鳴っちゃうね。新学期から遅刻かぁ」


「ま、間に合ったぁ!」


 美樹本が他人事のように呟き、チャイムも鳴り響くその最中に、漸く桧山の奴がガラガシャ煩く扉を開けて登場した。まだ残暑厳しいこの折、朝から汗をだくだく掻きながら教室へと滑り込む姿に男子が囃し立てる。


「おい初っ端から遅刻かよ桧山」


「久しぶりー。寝坊したのか?」


「登校路忘れた?」


 気安い声掛けの中にも酷いことを言う奴もいる。ま、からかい半分なんだろうけど。


「いやいや! 遅刻してない! 俺遅刻してない! セーフだって! 先生来てねぇもん!」


「桧山席着けー。遅刻扱いにすんぞ」


「げっ!」


 教室出入り口でバタバタする桧山を数秒遅れでやってきた担任が冷静に突っつく。うげってリアクションを取るもんだから睨まれている姿を見て男子から笑い声が上がった。


 うん。全然落ち着いてなんかないな。いつも通り騒がしい桧山を眺めながら、こうして新学期は始まった。




 始業式で午前の一部が潰れはしたが、しかし早速とばかりに平常通りの授業が行われた。授業とは言っても夏休みの宿題提出やらミニテストばっかなんだけども。


 休みボケで騒がしい授業が続く中、現在時刻は昼。ガタガタ机を寄せていつもの四人で宅を囲む。周りでもクラスメートがわいわいと各々でグループを好き勝手作っていた。


「あっついなぁ、もう」


「夏の盛りは過ぎたはずだけどまだまだ残暑ではあるからね。今年はいつまで暑さは続くのか」


 パタパタ下敷きで扇ぎながら美樹本が溢す。正午過ぎの現在、開け放たれた窓の向こうには燦々と降る強い日差しが校舎を白く染め上げているのが見える。

 暦は九月を迎えていようとも夏の暑さは中々引かない。今だってむわりと蒸した夏の空気が教室内を満たしていた。


「去年は九月終わるまで大して気温は下がらなかったか?」


「ちょっと季節がずれ込んだりしたから参考にするのもどうかなって部分はあるけど、例年だと最低でも九月半ばまでは暑い日は続きそうだね」


「まぁ、八月中の暑さに比べたらましではあるよね。三十五℃を超える中授業を受けなきゃってなったら僕学校休むよ。冗談じゃなく蒸し上がる」


「ここもクーラーとか教室に付いてたらいいんだろうけどねぇ。扇風機さえないってヤバくない?」


 弁当を広げながらグチグチとこの残暑について話し合う。単なる県立の高校に各教室クーラー導入は厳しかろうて。扇風機はどうなんだろうな。結局気温が高かったら熱風送ってんのと変わらなくないか?


「焼きそばパン争奪戦勝利! 俺はやったぞ!」


 不在だった桧山が満面の笑顔で教室に駆け込んできた。手にはパンが二つ。高らかと掲げるそこには宣言通りの焼きそばパンが握られていた。


「あ、買えたんだ。人少なかったの?」


「うんにゃ。ゴミゴミしてた。人口密度半端なかった」


「この暑い中よく争奪戦とかやるねぇ。また凄い汗掻いてるし」


 はあはあ息を軽く荒げながら近付いてきた桧山は額に玉のような汗を浮かべている。まだ折り返しだってのに一日でどんだけ汗流す気だ、こいつ。


 桧山を待っていた訳でもないが、とりあえず揃いはしたので昼食を食べ始める。こうして弁当を食べるのも実に久しぶりだ。


「午後もテストやるのかな?」


「基本教科の授業はそうなんじゃない? 体育とかだったら流石にテストはないと思うけど」


「俺体育の方がいいなー……」


「今日本当日差し強いから体育あったら僕死んでたな」


 話題は本日のミニテスト祭りについて。長期休み明けともなれば学習状態の確認という名目でテストが行われるのも理解出来ないことはないが、中間でもなんでもないのにテストが続くのも学生としては負担がある。結果? 平均超えてたらいいなといった所か。


「別に今の時期はプールだしいいんじゃないか?」


 それはそれとして美樹本の発言についつい言い返す。この時期の体育は水泳なんだからむしろ涼しかろうて。男子なんて川に飛び込むのかって感じに歓声上げて一学期は喜んでたんだけど。


「……」


「聖がベンチウォーマーだって知らない訳じゃないよね?」


 何故かむすっとして答えを返そうとしない美樹本の代わりに嵩原からツッコみが入った。いやツッコみなのかな? そう言えば美樹本、いっつもタオル被ってプールサイドにいたような……。


「……あ、泳げなかったっけか」


 ポツリと溢せばギリィと唇噛み締められた。いかん、地雷だ。と言うか本当運動方面にはてんで弱いのな。

 その分頭と顔がいいから補ってるってか。運動馬鹿の桧山とも気が合うのがなんとなく理解出来る。


「直球で言うのはどうかと思うよ?」


「お前のベンチウォーマーは直球ではないとでも?」


 俺の話題振りもよろしくはなかっただろうけど、嵩原だってカナヅチ連想させるようなことを匂わせたんだから同類ってなもんだろう。話を濁らす気があったなら絶対嵩原だったら他に上手いこと言えたはずだし。


「桧山助けて。二人が僕を苛める……」


「大丈夫だぞ、美樹本。浮き輪があれば泳げなくったって問題ないからな!」


 わざとらしく泣き付いた美樹本へ返す桧山の答えもなんか違う。根本的解決を何故図ろうとしない。


「いや、お前が教えたらいいんじゃないか、桧山? お前泳ぎも得意だろうに」


「え、あ、うん。そうだな」


 ? 流れでツッコんでみたら歯切れの悪い答えが返ってきた。あれ? 予想してた答えと違う。


「そうだね。亨ってバタフライもいけたよね? 教えてみたらいいんじゃない?」


「え? 美樹本バタフライする?」


「僕まず水に浮く所から始めないといけないんだけど。何段飛ばしするつもりなの?」


 ちょっと違和感を感じたが続く会話にそれもどこかに流れた。気の所為か? 嵩原、美樹本と話す桧山におかしな所は見当たらない。

 パッと見は元気な普段通りの桧山だ。引き摺っている様子も、あの時のような物悲しげな態度も見られない。美樹本も異常はないと言ってたんだ。多分俺の考え過ぎだろう。


「……俺もバタフライする美樹本は見たくないな」


 茶々を入れつつ会話を繋ぐ。大丈夫。特に変わりなんてない。特に騒ぎが起こることもなく、新学期はいつも通り緩やかに始まった。





お読み頂きありがとうございました。

またのんびりとした更新となりますが、お付き合い頂けたら幸いです。

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