6.夏祭りの噂
無事準備も終わり祭りの開催は午後から。濱田も帰ったことだしやることもないならもう家に帰るか。
普通ならそんな流れになるはずなのに、どうしてだか俺たち四人は何故か俺のバイト先、『喫茶路シェーヌ』で昼飯など食べさせてもらっていた。まさか雑賀さんが呼びに来るとは思わなかったんだよ……。
「パスタ美味しい!」
「チキンステーキうまい!」
「ああ……、コクがありながらも酸味と苦味のバランスが凄くいい。コーヒーも美味しいね」
カウンターに並んで座り、各々の注文した料理に舌鼓など打ちながら三人は店内のゆったりとした空気に身を浸している。夏祭り直前ということで閉店となっている店内には他に客の姿はない。俺たち四人がカウンターに並んで、その向こうに雑賀さんがニコニコ笑顔を浮かべて立っているだけだ。
商店街から脇道に逸れた、車一台通り抜けられるかな?といった細い路地の半ばほどに喫茶路シェーヌは店を構えている。外観は完全に一昔前の喫茶店といった風情。明るい色の外壁に格子の入ったガラス扉と、同じく格子状の窓が二つ三つと店の正面に並ぶ。内部も昭和時代を意識した造りになっているらしく、色の濃い木材とクリーム色の壁がマッチした落ち着いた雰囲気の店となっている。
拘りとして昼間なら敢えて照明を絞り、窓からの採光だけで店内の明かりを担わせている。立地の関係上店内はそう広くもなく、カウンターと二人掛けのテーブル席が四つ並ぶ程度のこじんまりとした広さであるため日中はそれでも充分明るい。
雑賀さん曰く、多くの客は求めない、ただここを気に入り利用してくれる人のための憩いの場所となる、それを目指してこの店を開いたとのこと。
実際に働いている立場からすると、確かにこの店の雰囲気は穏やかでゆったりとしている。路地に面する窓からは時折通り過ぎる人の姿が見られるが、そのあくせくと先を行く姿との対比で店内にいる自分はまるでどこか隔絶された世界にいるような、そんな気分になることもままあるのだ。
外の喧騒からは途絶された空間。多分、雑賀さんの狙いなのだろう。微かに聞こえるジャズの音色も合わさって、この店にいると日常の慌ただしさがどこか遠くへと感じられる。
で、普段なら常連客が二組三組くらいぽつぽついるような静かな店内に、現在は肉体労働を終えたばかりの男子高校生が搔き込む勢いで飯など食べている。
桧山はともかく、あの美樹本まで忙しなくパスタを頬張るなど余程舌に合ったか腹が減っていたか。どちらにせよ、うまいうまい言いながら食べてもらえて雑賀さん的には嬉しい限りだろうな。
「いやぁ、いい食べっぷりだねぇ。ここまで美味しそうに食べてもらえると料理人冥利に尽きるよ」
「すみません、いきなり連れ込んだりして。やっぱり料金はきちんと払いますから」
「いいの、いいの。本当ならちゃんと二日分バイト代払わないといけない所なのに、ご飯一回で賄っちゃうのはやっぱりよろしくないよ。皆さん、いっぱい食べてね。これは僕からのお礼だから」
「ありがとうございます。でも、本当にいいんですか? 永野はともかく僕らはこちらにはなんら寄与していないと思うんですけど……」
「僕も一応お祭りではお店出すからね。君たちの頑張りがあって今年も無事に開催の運びとなったんだ、だから寄与してない、なんてことはないよ。いいから食べちゃって食べちゃって。飲み物おかわりしない? 唐揚げ出す?」
「唐揚げ! 食べたい!」
「ふふふ、そうかそうか。じゃあちょっと待っててね。直ぐ揚げてくるから」
恐縮する美樹本をあっさりと躱してみせて雑賀さんは笑って厨房へと引っ込んだ。どれだけ俺たちに食わせるつもりなんだ、あの人。唐揚げとか店でも出してないようなものを今出すのか。
「この店の雰囲気と言い、提供される食べ物と言い、まさかこんな隠れ家がこっちにあったとは俺も知らなかったよ。真人はいいお店で働いてるんだね」
雑賀さんが目の前からいなくなると同時に嵩原が話し掛けてきた。ベタ褒めな評価だが、言葉の裏に何やら含む所を感じてしまうのは俺の警戒心が見せる幻か?
「ね、バイトしてることだって知らなかったもんね。いつも家帰って寝てるって聞いてたし」
「……嘘じゃないぞ。大体休日や長期休みに雇ってもらってるってだけの話だ。実際、平日は暇してる」
「へぇ。随分変則的なシフトだね。でもそれなら休日に行けば真人とも会えるのかな? この喫茶店、絶対デート向きだと思うんだよね。今度女の子と一緒に遊びにきてもいいかな?」
うわ出た。こいつらにバイトしてることを明かさなかった理由の一つがこれだ。
何が悲しくて自分があくせく働いている傍ら、野郎友だちがイチャイチャしているのを眺めていなくちゃいけないのか。冷やかしの意味もあるだろう同級生の訪問など避けたかったがためにこれまでも明かさずにおいたのに、今日のこれで全ておじゃんだ。
「……」
「お店に貢献するよ? メニューを見る限りお菓子にも力を入れているようだしね。こういった喫茶店の洋菓子なんて、見た目もお洒落だったりして女の子たちは喜ぶんだよね」
駄目だ。来る気満々だこいつ。確かに売り上げとしては美味しい相手だとは思うけど、その代わりに俺の安息は掻き消されることとなってしまう。こいつ来たら絶対この店のこととか女子の間で広まるだろ。同学校生を相手に給仕とかやりたくねぇ。
「なぁなぁ永野。バイト先が食べ物屋だと賄いとか出るって聞くけどここでも出んの? やっぱうまい?」
これからのことに軽く絶望するものの桧山は通常運転で我が道を進む。いいけどさ。食欲もあるし元気も戻ってきたようなんではしゃぐのは別にいいんだけどさ。もうちょっと俺の進退窮まった絶望感にも寄り添ってくれてもいいんじゃないのか? 俺今多分酷い表情浮かべてると思うんだけど。
それからも雑賀さんの好意に甘え、各々好きなように飲み食いをしてまったりとした昼下がりの午後を過ごす。お礼と言うのは本心ではあるのだろうけど、どうにも雑賀さん、俺の友人とやらがやって来たことに思いの外興奮している気配がある。
桧山たちに食べさせつつも学校のことやら俺とのことやら、いろいろ聞き出しているのが何よりの証拠だ。普段の雑賀さんなら聞き役に徹して静かに佇んでいるはずなのに、なんだってそう母親レベルで近況を知りたがるのか。
俺にとって針の筵でしかない時間が刻々と過ぎて行く中、ふとお囃子の音がBGMに紛れて微かに聞こえてきた。
「……ん? あれ、お祭り始まった?」
美樹本の耳にも聞こえたようで外へと顔を向ける。道路に面する窓からは午後の強い日差しが差し込み、その白光に紛れるようにして音楽が店内に流れてくる。時間を確認すればもう夏祭り開催時刻となっていた。
「もうこんな時間か」
「うわ、随分長居しちゃってごめんなさい。お祭りでお店を出されるんですよね? 僕たち直ぐにお暇しますので」
「あ、大丈夫だよ。お店とは言っても他店との持ち合わせで店番も交代制だから。僕は明日が担当なので今日はゆっくりしてて問題なし」
「とは言え長居したのも事実ですから。これ以上お店にご厄介になるのもよろしくはないでしょうし、俺たちはこれで失礼させてもらいます。皆もそれでいいかな?」
昼頃から居座ってもう午後へと差し掛かっている。かれこれ一時間以上ここにいた訳か。確かに今撤収するのが区切りとしてもいいだろう。
「うん。すみません、ご馳走様でした。本当にお料理美味しかったです」
「今日こちらのお店を知れて良かったです。今度はきちんと客として寄らせて頂きますね。ご馳走様でした」
「あの、ご飯ありがとうございました! おかげでめっちゃ腹いっぱいです! 元気出ました!」
席を立ちそれぞれお礼の言葉を雑賀さんへと掛ける。雑賀さんは一瞬残念そうな顔を浮かべたが、直ぐにまた笑顔になってそれに答える。
「喜んでもらえたなら何よりだよ。君たちはこのあとお祭りに参加するの? 今の時間なら多分人もそんなに多くはいないと思うけど」
「俺はちょっと人と約束してるんですが、それは夜からなので一旦戻ります」
「え、君なんのためにこっちに来たの?」
「聖たちが汗だらだらになって準備してるって聞いたからその冷やかし」
「それでこの暑い中電車乗り継いで来た訳? 流石にそれは悪趣味通り越して暇人の所業と言うしかないよ?」
「仲良いねー。桧山君は? 屋台とかいっぱい出てるよ」
何の気なしに雑賀さんが桧山へと訊ねる。もう既に食いしん坊キャラという印象が雑賀さんの中に確立されたようだが、このタイミングではちょっと拙い。あ、と俺と美樹本の間で瞬間緊張した空気が走る。
「あ、う、えっと」
「ん? ああ、いや、そう言えば食べ終わったばかりだもんね。直ぐに買い食いとはいかないか。変なこと聞いちゃってごめんね」
「え、えっと、その、大丈夫、です」
桧山の態度から瞬時に何か察したのか、雑賀さんは手早く己の発言を撤回させて桧山からの返答を有耶無耶にした。こういった機微に敏い所が喫茶店のマスターっぽくもある。おかげで下手に地雷を踏むことは回避された。
ただ、俺たちの方が少々対応しきれなかった。一瞬であれ強張った空気があとには残されぎこちなさが静まった店に溢れる。しまったと思うものの、その焦りさえ空気の悪化に繋がってしまう。
「うん?」
「え、えっと、俺ちょっとトイレ!」
「あ、トイレならそっちの奥。男女の区別はないからそのまま入っちゃっていいからね」
何事かと雑賀さんが疑問の声を上げる傍ら、桧山の奴が急な宣言でトイレへと駆け込んでいった。その背中を見送りながら失敗したと天を仰ぐ。
「んん? どうかしたのかい?」
「いえ、その、ちょっとあったと言いますか……」
不思議そうに訊ねてくる雑賀さんに、美樹本と軽く確認しあってから事情をさくっと話す。嵩原も濱田から大体の経緯は聞いていたようだが、昨日のやり取りを改めて語ればなるほどと頷いた。
「そんなことがあったんだね。それであの態度か」
「濱田から聞いたんじゃないのか?」
「ざっと怒らせたからその話は振るなっていう程度だね。でも怒らせたにしては今日来たんだ?」
「それは昨日途中で帰ったことを気にして……」
「でも怒ってる風でもないよね? ご飯食べてる時もむしろご機嫌でニコニコしてたし、単純に夏祭り行きたくないって訳でもないんじゃない?」
嵩原の指摘に確かにと頷く。桧山の奴、行かないと拒否る際、怒っていると言うよりもどうにも悲しそうな顔をしているのだ。嫌だから行かないではなく、何か行けない事情でもあるのではとそんな邪推が頭を過ぎる。
「何か事情があるようだね。それだと僕が訊ねたのはよろしくなかっただろうね。悪いことしちゃったな」
「いえ、気にしないでください。あくまでこちらの事情ですし、雑賀さんは悪くないですよ。気を使わせてしまってすみません」
「別にこのくらいなんでもないけど、君たちに迷惑掛けたのが申し訳ないんだよねぇ」
ばつの悪そうに頭を掻く雑賀さんに慌てて言い返す。本当、俺らが勝手に持ち込んだだけの話なのであって、雑賀さんが気に病むこともないんだけどな。
「迷惑なんてそんな。僕らこそ突然お邪魔してしまって申し訳なく思っています。それにちょっとバタバタしてる所を見せちゃって……」
「まぁ、余所様のおうちで喧嘩染みたことなんてするべきではないのは確かだね。でも参加しないって当人が決めているのは丁度良かったかもしれないね」
恐縮し返す流れが出来掛けたそこで、唐突に嵩原の奴が話の流れを変えてきた。
「ん? どういうことだ?」
「いやね、この夏祭りにも付随する噂っていうのがあってだね」
「ちょっと待とうか嵩原」
何やら語り出しそうな嵩原を美樹本が強固に止める。語り口的にいつものあれであることは簡単に予測が付くが、しかしこの場には雑賀さんまでいる。安易にオカルト的な話などさせられる訳がない。
「それはまたあとで聞くから。今聞かなくちゃいけない話でもないでしょ」
「関係あるかどうかと言ったら関係はあるよ。なんたってこのお祭りって神隠しが起きることがあるんだって」
「嵩原ぁ!」
美樹本の努力も空しくあっさりと暴露されてしまった。しかも内容的にネガキャンである。無警戒に問い返すんじゃなかったなぁ。
「え? 神隠し?」
「どうにもそんな噂が昔から語られていたみたいですね。時期を盆と合わせているでしょう? 帰ってきた死者が祭りの喧騒に紛れていて、それを目撃した家族を自分たちの世界に連れて行っちゃうとか。この時期はあの世とこの世の境も曖昧になるって言われてますしね。一説では異世界に紛れ込むともされていて、とかく昔から人がいなくなり易いなんて言われていたみたいですよ」
「へぇ、そんな噂がこのお祭りにあるんだ」
興味津々と雑賀さんは嵩原の話に聞き入ってる。そのお祭り会場の極近くにこの店はあるんだけど気にならないのだろうか。恐れた様子も馬鹿にした様子もないから内心が図り難い。
「でもこう言ったらなんだけどよくあるお話とも思えるよね。お盆に関連付けての怪談話ってよく聞くし」
「まぁ、そうですね。実際この噂だって昔の地域向け雑誌を紐解けばぱっと出て来るような話でした。多分夏場の鉄板ネタみたいな感じじゃないですかね?」
雑賀さんのあっさりとした返しを嵩原は肩を竦めて受け止める。平然とよくあるなどと評することが出来るなんて、ひょっとして雑賀さんも嵩原側の人間だったりするのか? いや、一般的な大人ならこんな対応するか。
「そ、それならここでこれ以上語ることもないよね? 所詮ただの噂なんだし」
露骨に話を終わらせようと声を上げた美樹本だが、嵩原はそんな動きを無視して更に話を続けた。
「それはそうなんだけど、でもこの噂は少し気になる点があるんだよ。なんでも、死者に対する未練があればあるほど連れて行かれ易くなるんだって」
明かされた内容に少々息が詰まる。なんとも謀ったような設定だ。
「……え、そ、そうなの?」
「そんな記述があったよ。でもまぁ、こういった神隠しものにはよくある文言だし、死者との繋がりを示すものとして未練を抱いてどうこうというのも怪談には頻出するパターンだ。何より行方不明者なんて出たら夏祭りの開催だって見送られ兼ねないから、多分これはでまかせじゃないかなって思うよ」
不穏な感じに告げてきた割りにはさくっと前言撤回してくるのなこいつ。嫌がらせかこの野郎。
「そうだねぇ、ここ数年で行方不明者が出たなんて話は聞かないしそう言うことなのかもね。とは言え僕もそんなに長くこの街に住んでる訳じゃないけどさ」
「あ、地元の方じゃなかったんですか?」
「余所から移ってきた口だよ。もう十年になるのかな? すっかりとこの土地には馴染んだけどね」
なんだと弛緩した空気が流れる中で嵩原は雑賀さんとのほほんと世間話など交わす。もうさぁ。いやいいけどさぁ。何事もなければそれが一番ではあるけどさぁ。
美樹本が話題の急な乱高下に複雑な表情を浮かべる中、当の桧山がトイレから戻ってきた。居辛そうに視線を逸らしているのがなんとも気まずい。折角腹もいっぱいになって元気も出てきていたのに、本当に下手をこいてしまった。
「えっと、それじゃ僕らはこれで。お邪魔しました」
桧山も戻ったきたことだしと暇を告げる。とは言え俺は一緒には帰らんが。
「気を付けて帰れよ」
「あれ? 永野は帰らないの?」
「せめて片付けはやっていくつもりだ。流石に雑賀さんに全部は押し付けられない」
「気にしなくていいのにー」
「俺が気にするんです」
タダ飯の上に後片付けまで任せるのは従業員としても頷けるものじゃない。
「え、だったら僕らも」
「お前たちは客だからいいんだよ。いくらなんでも従業員でもない人間を厨房には入れられない」
「そんな厳しく言わなくても大丈夫だよ。ま、お客さんに皿洗いなんてさせられないのはそうだけどね」
恐縮した様子を見せるが、こればかりは経営側の人間としてもきちんと線引きは行っていきたいことだ。俺はそんな偉い立場ではないけどバイトとして譲れない点は確かにある。
「でも……」
「気になるならお客としてお金落とすのがこのお店にとっても有難いでしょ。片付けしたって一円にもならないんだし」
「はは。確かに言葉を飾らなければそうなるねぇ。僕としてもまた食べに来てくれることの方が嬉しいかな?」
「う……。分かりました。あの、本当にありがとうございました」
「あ、ありがとうございました」
漸く納得したらしい美樹本の隣で桧山も頭を下げる。それを雑賀さんはニコニコと機嫌良く眺めている。本当にこいつらのこと気に入ったみたいだな。元から大分面倒見はいい人だったけど、こうも手放しに歓迎の態度を取るなんて常連客くらいにしか見たことないのに。
カランカランと軽やかな音を立てて出て行く三人を見送る。扉が閉じると途端に店内に静けさが戻り、いつも通りのまったりとした空気がコーヒーの香りに乗って漂ってきた。本来はこんな穏やかな雰囲気なんだよなと閉じた扉を眺めながら思う。
「さて、それじゃ片付けようか。全く真人君は頑固なんだから」
「バイトの身としてはこれ以上店主にご迷惑掛ける訳にはいきませんから」
「迷惑じゃないのに。むしろ君が友だち連れて来てくれて僕本当に嬉しかったんだよ?」
カウンターに向き合って大量の皿を片付けている最中にそんなことを言われる。思わず顔を上げれば雑賀さんが優しい目でこちらを見つめていた。
「良い子たちだね。今、学校生活楽しいんじゃない?」
にこりと微笑まれながら言われたのに視線を逸らす。なんとも答え難い質問だ。そのまま黙って食器を片付けていると小さな笑い声が聞こえた。
居たたまれない気持ちに苛まれるが、それも大量に放置された食器を前にすればどっかに消える。男子高校生の食欲って洒落にならんのよな。俺もそこそこ食べたけど、何より桧山の席の積み上がりっぷりが凄い。流石運動部? そりゃ屋台制覇とかやり出すわな。
二人でカウンター裏の厨房に運び込み片っ端から洗う。二人掛かりならそう時間も掛からない。見る見る汚れた食器が消えていく、その途中。
「な、永野いる!?」
ガランと大きなドアベルのあとに美樹本の悲鳴のような大きな声がこっちにまで届いた。雑賀さんと顔を見合わるも尋常ではない様子に直ぐにカウンターの方に顔を出す。静かな店内に息を荒げる美樹本が一人突っ立っていた。
「どうした美樹本。何か……」
「ひ、桧山が神隠しに遭っちゃうかもしれない!」
突然飛び込んできた美樹本は、そう突拍子もないことを精一杯に叫んできた。




