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高校生男子による怪異探訪  作者: 沢満
五章.夏祭り
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5.夏祭り当日

 翌日。本日から夏祭りが開催される。今日と明日の二日間だが、本日は午前が準備に充てられていて開催は午後からとなる。そう、開催前の準備だと朝から呼び出されているのだ。


「それじゃよろしくね、真人君」


「はい……」


「あの! ちゃんと時給出すから! お手伝い分の時給払うから頑張って!」


「いや、流石に店と直接関係ないことで給料もらうのはちょっと……」


 本日も快晴。気温も三十℃を超えるという予報がテレビでもされた。昨日の疲れもあって朝からもう憂鬱。だからと言って雑賀さんの前でぐだぐだするのはよろしくなかったかもしれない。時給発生は固辞して昼飯を奢ってもらうことでどうにか落ち着かせた。


 んで、準備の方だがもう設営等はほぼ終了している。屋台やら出店やらは大体セッティングが終わってるし商店街の中の装いはぱっと見て祭りのそれだ。屋台や出店のカラフルな屋根に真っ赤な提灯が頭上に連なって夏っぽい配色となっている。


 あと残っている仕事と言えばそれぞれの店の搬入やら参加店の進捗確認、それから最終的な設営確認や電気、ガスの配線配管確認くらいか。俺ら単純労働者に求められるのは搬入作業だ。材料やら鉄板といった備品などの運び込みで朝から重労働課せられる訳である、バイト代出せや商店街!


 そんな怨嗟も頭の中で叫びつつ集合地点に行けば、そこには美樹本と、そして桧山の奴が並んで立っていた。


「……」


「おはよう、永野」


「お、おう」


 美樹本が朝らしく爽やかな挨拶してくる。昨日の今日なんでどんな顔すればいいか分からないこちらなど無視する構えだ。まさか桧山を無理矢理引っ張ってきてないだろうな。


「えっと、桧山、昨日はその、悪かったな。なんか押し付けたみたいで」


「……」


 とりあえず謝っておかないとと思って声を掛けたが、桧山からは芳しい反応が返ってこない。そこまで怒ってる?と思ったけど、どちらかと言えば桧山の方が気まずそう?


「昨日ね、家に帰ったあと、おばさんからしこたま怒られたらしいんだ。「勝手に友達と手伝い放って帰ってくるなんて何事だ!」って。それで昨日の埋め合わせじゃないけど今日も手伝いに駆り出されたんだ。僕もどうか付き合ってやって欲しいって頼まれた」


「……昨日はごめん……。三人に押し付けて帰ったりして……」


 スパルタだなぁ、桧山の母親も。つまりは美樹本が連れ出した訳ではなく、むしろ連れて行ってくれと頼まれてここにいるのか。桧山のしょんぼりも昨日の自分の行動故のものらしい。確かに、よくよく見ればしゅんと肩を落とす姿は反省している時のそれである。


「いや、こっちのことは気にしないでいい。嫌がっているのに気付かなかったのが悪いんだ」


「うん。僕も当たり前に夏祭りに行くもんだと思ってたから、ごめんね、桧山。おばさんはああ言ってたけど、どうしても嫌ならお手伝いを休んでもいいからね。元よりこれって強制でもなんでもないんだし」


 美樹本こそが母親みたいな台詞言ってるな。過保護だなーとその言い分を内心で評しながらも口を挟んだりはしない。どうにも昨日の今にも泣き出しそうな顔が頭の中に残っていて、それが気になってつい引け腰になってしまう。

 桧山の奴は鈍いのか打たれ強いのかは判断が難しいが、普段から肉体的にも精神的にも大分タフなために泣き顔なんか見たこともなかった。そもそもがあまり落ち込みもしない人間だ。それが昨日のあれである。あまり過保護に扱うのもどうかと頭の片隅で呟く自分もいるのだが、更に自省している姿を見せられては普段のような雑な扱いも憚られる。


 まぁ、美樹本の言う通り手伝いは強制でもないしまして報酬が出る訳でもない。サボった所で俺たちが黙っている限りは問題もないだろう。なので休んでも平気だろうと思ったのだが。


 美樹本の提案に暫し考えを巡らせた桧山は、だけどふるふる首を振って拒否を示した。


「俺だけ休むのも、なんかやだ。二人は手伝いすんだろ?」


「ああ、うん。そうだね」


「頼まれたからな。ここで帰りますとは残念だが出来ない」


 俺は日頃お世話になってる雑賀さんからの頼みだから断るという選択は取れない。美樹本は、多分桧山の代わりとか考えているんじゃないだろうか。桧山を手伝いに参加させない代わりに自分がその分働けば四方にも言い訳が立つとか考えてそう。美樹本は生真面目が服着てるような所あるし。


「だったら、俺もやる。二人だけに働かせんのは狡い」


「そこまで気にしなくても……」


 美樹本は消極的に反対するが桧山は聞き入れない。それだけ昨日途中で帰ったことを気にしている? 労るのも大切だろうが、ただでさえ気落ちしている最中に余計に気掛かりを増やすのもよろしくはないよな。どんな形であれ、能動的になれるというならやりたいようにさせた方が桧山の心情的にもいい影響を与えると思える。


「やる気があるならそれに越したことはないだろう。今日は力仕事が中心になるし、それなら桧山が手伝ってくれると凄く助かる」


「あ、そうだね。確かにその通りだ。僕らよりも桧山の方が力は上だしね」


「商店街のおっさん共は恐らく遠慮なしに俺ら若い奴を扱き使うと思う。なので頼りにしてるぞ、桧山。体力的にも一番活躍出来るのはお前だろうからな」


「……うん!」


 露骨に持ち上げてやれば桧山は笑顔を浮かべて了承してきた。ここ数日でも一番元気な返事だ。これで多少気分も上向きになったらいいな。実際、機材の搬入なんて重労働を桧山抜かしてやりたくはないからな。


 桧山のやる気も盛り上がった所で集合と大きく声を上げられる。何はともあれ今日の午後には夏祭りも始まるんだ、雑賀さんのためにも精々たくさん人が来てくれるよう、頑張ってもう一働きするか。




 機材だ、材料だ、次々運び込まれる荷物を指示に従ってえっちら運ぶ。通りに立ち並ぶ出店や屋台も大分形が整ってきたな。朝は箱だけが並んでいるようでまだまだ準備中って印象が残っていたが、今ではもうお囃子が聞こえないだけでTHE.祭りといった風情が通りを占めている。


 搬入も大体終わった。これは偏に桧山の活躍が素晴らしかったがためだ。昨日の鈍さはなんだったのかというほど本日の桧山はキビキビとよく働いた。おっさん共の容赦ない指示出しにも食らい付き、一人ででかい段ボールをせっせか運ぶ姿は登校日以前の見慣れた姿そのもの。ちょっとは元気も出てきたかね? ガスボンベ運ぶのに早々にバテてしまって休憩しながら眺めた光景にそんな感想を抱く。


「うーっし、お疲れ! 無事準備完了だ!」


 運営を代表しておっさんが高らかに宣言をかます頃にはもう昼を回ろうとしていた。気温も上がってきていてそろそろ三十℃超えようかって頃合いだったので丁度よく終えられたと思う。いくら日差しが和らげられているとは言え、じりじりとした熱波を肌に感じながら力仕事などやりたくもない。客用にと設置されたベンチで、いつの間にか合流していた濱田も含めて四人で座り込んだ。


 手伝ってくれた礼と屋台の一つから冷えたラムネ一本渡されたのだが割りには合わない。それでもたっぷり汗を掻いたあとだ、速攻でビー玉落として呷る。炭酸のパチパチ感と冷えたジュースが喉を通り過ぎる感触が爽快だ。


「~~っはー! 生き返る! ああー、もう疲れたー!」


 うがーと濱田の奴が盛大に声を上げる。それには甚だ同意なので頷きだけで答えてやる。夏場の力仕事は帰宅部には過酷過ぎた。


「疲れた……」


「お疲れ、美樹本」


「桧山いてくれて本当良かった……」


 同じく文系、オカ研って文系だよな?な美樹本も半死半生といった具合に力なく座ってる。最大腕力値の低い美樹本もなんだかんだ細々と指示受けていたらしくお疲れな様子だ。労りの言葉を掛ける桧山にゾンビみたいな声で答えてる。


「いや、マジで助かったわ。お前本当肉体労働系強いのな。桧山いなかったらまだ時間掛かってたろ、これ」


「……それはそうだろうな。俺らが一往復してる間に二、三回往復してたの見たからな。その全部が俺らに降り掛かっていたのかと考えると冗談抜きにゾッとする」


「夏祭りを開催するのも中々大変なんだね……。これならただシャトルランやる方が楽だよ……」


 シャトルランと比べるのはどうかと思うけどな? でも美樹本の言い分も理解出来る。荷物抱えての移動って凄く足腰にくるわ。


 そんな感じに休みながらもぐだぐだ会話を続ける俺たちだが、奮戦してきた結果、今の俺らは皆Tシャツの色が変わるほど汗びっしょりな暑苦しい様相となっている。そんな男子高校生が四人も並んでベンチに座っているのだ、傍から見たらきっとむさ苦しいことこの上ないだろう。内二人は見目がいいとしても、安易に近付こうと考えるような人間はいないはず。


「やぁ。お疲れみたいだね、四人共」


 いないはずなんだけど、気にせずに近寄ってくる敢えて空気読まない人間がいた。


「え、嵩原?」


「うわ、嵩原」


「ご挨拶だね、真人」


 この段階で見掛けることはないと思っていた嵩原が目の前に現れたので思わず。この暑い日に黒色のポロシャツなど着込みながらも顔面は涼やかそのもの。止めろよ、目の前に立たれたら嫌でも汗みずくな俺らと対比されるだろうが。


「嵩原!? お前、まさか今日の祭りに出るつもりか!?」


 こんな真っ昼間からなんでこんなとこに来た、などと訊ねようとするよりも早く濱田が切り込んだ。勢いと鬼気迫る表情からまるで歓迎していないように見えるが、でもそう言えば昨日作戦を聞かされていたっけ。


「ああ。そうしよっかなーって思ってるけど?」


「~~! ありがとうございます!」


 シニカルな笑みなど浮かべて答える嵩原に濱田は全力で頭を下げた。嵩原としてはいちゃもん付けてくるかもと軽くジャブ放ったつもりなんだろうが、向こうに攻撃意思がなかったばかりに空ぶったな。珍しくきょとんといった顔をする嵩原に美樹本が説明する。


「濱田君はね、この夏の思い出のために夏祭りでナンパしようって計画立ててたの。で、嵩原が来てくれるなら女の子も一杯集まってナンパの成功率も上がるんじゃないかって画策していた訳」


「……ああ。そう言うこと」


 残念なものを見る目で濱田を眺める美樹本の簡単な解説に嵩原も事態を飲み込めたようだ。改めて纏められると情けなくも欲望に忠実な男子高校生らしい作戦とも思えた。


「その論法なら俺だけじゃなく聖や亨も参加した方がいいってことになるね」


 薄く笑みなど浮かべてそんな突っ込みを入れてくるも、それは昨日盛大な地雷として炸裂したばかりのネタだ。嵩原は事情を知らないとは言えここでまた蒸し返されるのもよろしくない。折角桧山もちょっと元気出てきた所なのに。


「いや、ちょっと待って嵩原」


「……俺、祭りには行かない」


 案の定桧山からは頑なとした答えが返る。美樹本が止める暇もない。表情を窺えばまた気落ちしているようにしょんぼり眉尻が下がってた。


「あれ? 確か毎年楽しみにしてるって……」


「ま、まぁ、気分が乗らない時なんてよくあるしな。別に祭りは強制参加でもないし!」


 嵩原の言を遮って濱田はベンチから立ち上がると、その勢いでがっと肩を組むなりひそひそ内緒話を始める。濱田が密着する際、嵩原の奴露骨に眉を顰めていた。気持ちは分かるが、ま、事情を聞かせるためだろうから我慢して欲しい。


 そして暫しごにょごにょやり合ったあと、すっと離れて戻ってきた。濱田のやり遂げた顔とは対照的に触れ合っていた箇所の服を抓んでパタパタやる嵩原の渋面が面白い。


「ま! そう言うことだ。是非とも祭りには参加してくれよ嵩原君よ」


「元より女の子と約束してるから来るつもりではあるけど、でも約束外の子は対応しきれないよ? 相手の子に悪いしね」


「大丈夫! 元々お前を出しに使うだけで一人一人相手させようなんて思ってないから! 俺らの狙いはお前を一目だけでも見ようって考えるミーハーな子たちに絞ってんのよ。そう言う子なら目的達成したならその流れで遊んでくれるはず!」


「頗る下衆な発想だな」


 美樹本のツッコみが冷たい。堂々と商店街で若気の至りを叫ぶ濱田は、続いてこうしてはいられないと慌てて身支度を整え出した。


「嵩原の参加は確定となった。直ぐに情報拡散させて女の子たちの耳に入るようにしないと。他の連中にも連絡回して、あとは俺もナンパのために準備しないと。今日の日のために色々用意しといたんだよね! 諦めずに金はたいて良かったー! じゃ、俺もう行くから! お疲れ様でしたー!」


 ルンルンな様子でしゅたっと片手上げて濱田は商店街の横道へと消えていった。奴曰くのナンパのための諸準備とやらに移るのだろう。先程までの草臥れた様子が微塵も窺えない後ろ姿を何も言えずに見送った。


「……」


「……男子高校生の性衝動に伴う熱意って半端ないとは耳にするよね」


「冷静に解析するのは止めて差し上げろ」


「濱田元気だなぁ」


 桧山も思わずぼやくほどには呆気に取られた濱田の転身ぶりに、残された俺たちの間には暫し微妙な空気が漂ったのだった。





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