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高校生男子による怪異探訪  作者: 沢満
四章.七不思議
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3.上蔵高校七不思議

「七不思議?」


「へぇ……、会長さんはそれを調べるんですか」


 はてと首を傾げた桧山の隣で嵩原が愉快げに呟く。噂の検証マニアとしては食指が疼く話題ではあるだろう。


「おや、嵩原君は我が校の七不思議を知っていたかな?」


「勿論。戦前から母体を持つ歴史深い学舎ですからね。伝わる逸話も興味深く、俺たちで真偽の解明は出来ないかと以前下調べをしたことがあります」


「また何勝手に計画練ってやがるお前」


 山云々は初犯じゃねぇのかよこいつ。


「ほう。流石は嵩原君だな。一体どこまで調べ上げたんだい?」


「七不思議と銘打ってはいますが、実際にはそれ以上の数の怪談が校内では語られており、時流によって七不思議として採用される怪談にも変化が生じる……、といった具合ですかね?」


「……素晴らしい! よくぞそこまで調査の手を伸ばした! 流石嵩原君だ!」


 唐突に始まった問答の結果、蘆屋先輩が感動に打ち震えている。何これ? オカルトマニアたちの急なオフ会?


「?? どういうことだ?」


「つまりね、上蔵高等学校の七不思議ってこれと決まってずっと同じ怪談が語り継がれるんじゃなくて、幾つか校内で流布される怪談が度々交代していって七不思議として存続していくって形態のものらしいんだよ。昔の学級新聞や広報なんかを調べると語られてる七不思議が違ってたりしたんだって」


「へぇー……、つまり、八不思議とかあんの?」


「ううん、『七』っていう数字に変わりはないよ。七話という数には括って内容だけが変わるの。だから数年前には七不思議の一つとして扱われていたものが消えて、代わりにその前に七不思議入りしていた怪談が取り上げられたりする。レギュラーが入れ替わってるようなものだね」


「ああ! なるほど!」


 桧山と美樹本のやり取りで俺も理解した。くるくると中身が入れ替わるのな。それはまた変わった形式と言うか、でもよく考えれば数十年も前から一切変化なく伝えられ続けるってのもおかしな話か。場合によっちゃ校舎の建て替えなんかで怪談の該当箇所自体なくなることもあるだろうし。


「それでは嵩原君は現在の七不思議も知っているのかな?」


「当然、と言いたい所ですが、俺が知っているのは昨年のものなんです。今年になってから変化はありましたか?」


「うむ。幾つか変わっているな。何、それならそれで新鮮な気持ちで調査に当たれること請け負いだ。独自に調べてくれても構わないが、美樹本君たちに明かすことだけは止めておいてもらえないかな?」


「あれ、内緒にするんですか?」


 あ? 美樹本の解説に耳を傾けていればなんか取引が開始されていた? 思わず先輩の顔を見る。


「え? ちょっと会長?」


「お? 内緒話?」


「ふふ、君たちには申し訳ないが、調査の中には先入観を排除して当たってもらいたいものもあるのだよ。嵩原君が存じているなら都合がいい。七不思議に関する具体的な内容は当日まで秘密とさせてもらおう」


 急な流れで調査方針が決められてしまったが、情報の出し惜しみは味方の壊滅を招くこともあるから出来れば必要なものは開示した方が、って別に敵地に乗り込むでもないのでそこまで警戒する必要はないけども。でも内緒とか言われると気になる。


「え、決定なんですか? それ」


「うむ。決定だ。何、事前に知らなくても全く問題などはないさ。そもそもがこの学校の調査だよ? 敷地内には危険箇所等は特にないし、夜に彷徨くことになってもきちんと懐中電灯等の装備は持たせる。ただ校舎内を移動するだけなんだ、そう構えなくても大丈夫」


「いえ、そういうことじゃ……?」


 反論を口にした美樹本が途中で訝しげに言葉を止める。先輩、今気になることを言っていたよな。


「あの、会長。今、夜がどうこうって……」


「ん? 七不思議の調査ともなればそれはちゃんと夜間に行わなければならないだろ? 明るい内では出るものも出ないからな」


「いやいやいや……」


 何を当たり前なと言わんばかりな言い方だが、待ってくれ、まさか夜に校舎に忍び込んで云々などと言い出さないだろうな?


「あれ、俺たち夜に学校来んの?」


「夜間の校舎への侵入は禁止されていたんじゃ……?」


「そう、そうです! 立派な校則違反ですよ!? バレたら部の存続処じゃなくなりますよ! 最悪僕たち停学とかになるかも……!」


 美樹本が顔を青冷めて必死に言い募る。それは停学という処分を恐れてか、それとも夜に怪談の検証を行うという恐怖故か。一先ず胃は痛そうだ。


「ああ、いやいや、許可ならばもうきちんと取っているよ。私の方で計画書を提出し、きちんと意義のある申請として一夜だけ自由に校舎内に出入りしてもいいと学校長から許しを出してもらっている。校則違反などには当たらないから安心してくれ」


 顔の前で手を左右に振って先輩が美樹本の心配を否定する。あ、もう許可申請済み? 流石、事前の根回しには慣れていらっしゃる。


「あ、許可取っているんですね。それならよか……、良くはない……」


「おー。夜の学校とか小学校以来? なんかワクワクすんなー」


 一瞬ほっと安堵した美樹本は瞬時に肩を縮めて蹲る。大々的に夜の校舎で怪談スポットを巡るという苦行が認められたんだからな。美樹本からすれば許可があるにしろないにしろ地獄には変わりなかった。目を輝かせて遠足前の子供状態になっている桧山と比べればあまりに哀れ過ぎる。


「……公認で夜の校舎への立ち入りを認めさせた……!? 流石、会長さんですね……」


 こっちはこっちでなんか感心してる。嵩原の奴が珍しくテンション高い。


「俺も七不思議の検証のために夜間の校舎への侵入を検討したりしました。でも当直の教師の見回りもあり、見付かれば最悪停学などの重い罰則も適用されるとあって二の足を踏んでいたんです。それがまさか、公然と調べられるとは……」


「ほう。まぁ、下調べをしたと言っていたし、調査の見当くらいはつけていてもおかしくはないな。それなら規範に則り、自らにストップを掛けたことは中々に難しい判断だったことだろう。分かるぞ、嵩原君。私も極身近なこの学舎に伝わる怪談を知って尚、それを自由に検証することも出来ないとなればどれほど気が苛まれるか……。よくぞ己の好奇心を抑えてみせたな」


「会長さん……」


 オカルトマニアがなんか熱く語ってる。高尚な語り合いに見せ掛けて中身は不法侵入するか否か、校則破るか否かなんで次元としては全く高くない。

 好奇心を抑えて学校のルールに従ったことをさも英断みたいに言ってるけど普通だから。肝試ししたいからって学校の敷地に無断で立ち入る輩とそう大差ないぞ。


「そんなこと考えてたのな」


「去年の夏休みにお前たちを巻き込んで侵入してやろうと計画も立てていたんだよ。危ない橋だし結局は鍵が入手出来ないと何も調べられないから断念したんだ。だから代わりに市内の心霊スポットツアーを敢行したんだよ」


「勝手に悪事の片棒担がせようとしないでくれる?」


「お前の好奇心に俺たちを巻き込むんじゃねぇ」


 今更の主張であるがこういうのは都度都度言っていかないと。学校の怪談検証の代わりに心霊スポットツアーをねじ込んでくるような奴だから、気を張らなければ今後もどんなことに巻き込まれるか分かったもんじゃない。というか俺たちを道連れにすることを当然のように思うなよ。


「ふむ。市内の心霊スポットか。そう言えば個々には取材も申し込んだが、全員一緒には話を伺ってないな……」


 まずい、先輩のインタビュー癖が発動仕掛けてる。あっちの棚のファイルを持ってきたら強制的に開始されるぞ。


「あ、あー、それで、会長。その七不思議の検証というのはいつ頃行う予定なんですか? 僕たちも予定というものがありますし、出来れば日にちは早めに教えてもらいたいんですけど……」


 ナイス美樹本。上手く話題を振ったな。これならば先輩も答えざるを得な……、危な。ファイルの背に指が掛かってたぞ。


「ああ。それも忘れていたね。失敬。予定としては皆が参加し易いだろう日を既に押さえている。日時は終業式当日、夏休み開始のその前日だよ」


 こちらに向き直った先輩がそう宣言する。凄い直近。あと数日しかないですけど?


「わ、近っ」


「随分タイトですね」


「なんでそんな近い日に?」


 それぞれ日程の近さに驚きを見せる。こういうのってもうちょっと時間を置いておくものでは?


「先にも言ったが協力者の皆が参加し易いようにと思って決めたものだ。夏休みともなればそれぞれ予定が詰まるものだし、全員の擦り合わせだけでも煩雑となってしまう。そこで予定など入りようもないだろう日を先に指定させてもらったんだ。終業式当日であれば君たちも暇なのではないかな?」


 なるほど。敢えて夏休み前日を狙ったと。確かに休みに入ればそれぞれ予定が立てられていくから時間を合わせるのは難しくなる。

 それに比べて終業式は、余程急ぎの用事でもなければ他に予定なんて詰め込まないか。遊ぶ約束なども次の日から盛り込むよな。なんせ夏休み初日なんだし。


「私の方で声を掛けた三人も終業式当日ならば予定はないという返事をもらえたよ。君たちはどうかな?」


「……確かに、特に予定はないです」


「俺もそうですよ」


「嵩原に同じく」


「永野に同じく!」


 全員問題なし。決行までの期間が短いが、しかし事前に知っておくことも準備しておくことも特にないとなれば問題にもならない。中々に秀逸な読みだと言ってもいいのか。


「ならば全員参加でいいかな? 時間は終業式当日の夜七時半。場所は上蔵高等学校の正門前集合となる。調査に掛かる時間は最大でも二時間ほどで、遅くなるようならこちらからタクシーの手配も行おう。勿論交通費は部から出す。どうだね?」


 夜間の外出を求めるということでフォローが手厚い。そこまで根回ししたからこそ学校側からも許可が出たのかもしれないな。普通に考えて高校生を夜九時以降出歩かせることを学校が認めるとは思えないしな。


 結局特に拒否出来るような事由もなく俺たちは全員参加と相成った。先輩は協力者の名前を学校側に報告しなければならないらしく、俺たちの参加が決まった途端に書類を作成しなければならないとこの日は解散となった。また長時間のインタビューなど行われずに済んで正直ほっとした。


 終業式当日になんとも面倒な予定が入ってしまったが、前向きに考えれば夏休み前日に事が片付けられると思えば残りの日は憂いなく過ごせるとも言える。下手に時間を延ばさない分気楽ではあるだろう。あの先輩のことだから、その点も考えての提案だっかもしれないなぁ。


 検証参加者は俺たちいつもの四人とあと三人が加わるとのことだが、そちらに関してはなんの情報も得られていない。話し合い直後は聞く暇もなく、また後日美樹本が訊ねたそうだが教えてはもらえなかったとのこと。「当日を楽しみにしていたまえ」などと含みを持たされて終わり、美樹本ももやもやした感じで俺たちに報告兼愚痴なんぞ吐いてきた。協力者の選別に慎重な姿勢を見せていた先輩のことだ、おかしな人選などは決してしないと思う……、思いたいな。


 比較的常識的であるはずなのだが、どうにも突発的におかしな暴走をするという認識があるために先輩を心から信じられない己がいる。せめて話が通じる相手であればいい。オカルト方面以外は真面な人格であればもうそれで文句はない。


 多少の心配はあれどそれで何がどうなることもなく、あっという間に数日が過ぎ、そして終業式当日を迎えた。



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