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高校生男子による怪異探訪  作者: 沢満
四章.七不思議
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2.オカ研の頼み

 先々月、初めてコンタクトを取ったオカ研、いや、蘆屋先輩との交流は、その後の一回以降は全て回避している。

 それというのも、その後の一回において俺はもう穿たれるってくらい根掘り葉掘りされた。圧搾機に掛けられてるのかってくらい搾り取られた。これまで俺たちが体験してきた不可思議な噂の検証、その体験談をこれでもかってほど聞かれまくったのだ。


 他人の不可思議な体験談に興味を持つというのも、オカ研という名分を抱えているならさもありなん。蘆屋先輩からして俺たちが行ってきた噂の検証というのは興味深い対象ではあるのだろう。

 あの人の未知に対する好奇心は本物だ。決して虚構だと始めから断じることなく、現象として起きたことを物理的、科学的、そして先輩の持つ超常的な見識で以て理屈を組み立てて分析する様は、むしろ一研究者然としていて素直に凄いなと思えた。多分学者の目線を先輩はもう既に宿しているんだろう。


 傍から見れば尊敬も出来そうに真面目だった。赤の他人として凄いことやってんなと眺めるくらいならばなんとも思わなかった。そう、当事者でなければ先輩のストイック通り越した執念も穏やかに見守っていられただろう。


 もうね。もうね、怖い、やだ。ペンとボイスレコーダーを両手に迫る先輩は完全不審者だった。美人も台無しだよ。

 はぁはぁ息荒げてもっともっとと取材を続けられるんだぞ。マスコミなんか目じゃない。取材を言い訳にして接触を図る不審者にしか思えなかった。


 日がとっぷり沈み、こちらが擦れた声しか出なくなった頃、漸く教師が電気点いてんのに気付いて下校を促してくれたから解放されたものの、もし気付いてもらえていなければどうなってたか。


 俺も美樹本もぐったりしているのに、一人大量のメモ抱えてほっこりしてる蘆屋先輩を見て、俺は美樹本にそっと決断を伝えた。


 オカ研、NGとさせてもらいます、と。


 それ以降、俺はオカ研とは全く関係を持たずに一月と半を過ごした。

 時折桧山が駆り出されたと雑談の中聞くこともあったが、美樹本も俺を先輩の暴走に晒してしまったという負い目があったんだろう、一度として呼び出されることもなく平穏な日常を送っていた、そのはずなのに。


「なんで今回また呼び出した美樹本この野郎……」


 最早暴言を抑えられない。ぐいぐい背中押されながら部室棟へ向かう。


「仕方ないんだよ。会長が今回は皆連れて来いって強硬姿勢取っちゃって。僕だって嫌だったよ? でも会長は一度言い出したら絶対引かないし」


 うんしょうんしょと俺を押しつつ美樹本は答える。頑固な奴が俺の回りに多過ぎる。

 桧山には腕を引っ張られ、嵩原にはニヨニヨと笑われ同道しているが、余裕あるなお前。お前だって道連れには違いないんだぞ。


「桧山はともかくなんだってお前はそんな楽しげなんだ嵩原。お前蘆屋先輩が苦手じゃなかったか?」


「あの人の未知への真摯さは俺と相容れない時もあるけど、話自体は実に興味深いんだよ。それに会長さんの持ってくる噂をこのメンバーで検証するのは中々趣深いって前回で学んだし」


「俺も皆でどっか出掛けるのは楽しいぞ!」


 含みのある発言をする嵩原とは対象的に、桧山の奴は純粋な感想を口に出しているようだ。うははなんて笑ってる。

 一番邪心なくいるのが桧山だな。その桧山の力が一番強くて逃げ出せないってのは皮肉が効いてる。


「そんなに嫌なら来る途中で逃げれば良かったんじゃないの? 真人は一番後ろについてたのに」


「逃げたら桧山に追わせるって美樹本に脅された。五十メートル走六秒台の奴に勝てるかよ」


 ちなみに俺は七秒に近い八秒台。嵩原は六秒に近い七秒台。美樹本は十秒に近い九秒台と器用に六から九に別れている。美樹本だけだったら撒けるのに。天然でパルクール染みた動きやれる運動人間に勝てるか。


 ともかく、俺の抵抗なんかなんのそのと部室棟一階、一月半前に訪れた廊下端っこのオカ研部室前まで来た。思い出される取って食われるんじゃないかっていう大興奮した変質者の姿。この扉の向こうにいるんだよな。


「ちなみにだけど、今回はなんで呼び出すのか詳細は何も聞いてないのかな?」


「全く。ただ四人で来てくれとしか懇願されなかったよ」


 嵩原の問いに美樹本はきっぱり答える。素早い解答っぷりに少々違和感を感じもしたが、それを問い質す前に美樹本は扉を開け放ってしまった。


「会長、ちゃんと四人連れて来ましたよ」


「失礼しまーす」


「失礼します」


 何時ぞやの焼き増しのように美樹本に続いて室内に入る。俺も一応小さくは挨拶をしながら足を踏み入れた。礼節は大切だと思うけど目を引くことはしたくない。


「やぁ。来てくれた……、なんだ、君たち全員が参加してくれるのかい? それは非常に助かるよ」


 前見た時と同じようにテーブルの真ん中で司令塔っぽいポーズをした先輩が俺たちを出迎える。どやどやと入室してきた俺たちを認めるなり嬉しそうに笑い掛けてくるけど、なんだか掛けられた言葉に違和感が。


「特に永野君は私が無理強いをしてしまったからもう二度と来てくれないかと思っていたのに。また顔を見せに来てくれて嬉しいよ」


 ついと後方の俺に目を合わせて本当に嬉しそうに破顔する。おやおや、これはこれは。ちょっと話が違うんじゃないかな?


「おい美樹本」


 ドスを利かせて犯人の名前を呼ぶ。確か俺たちじゃないと駄目だって先輩は我が儘言っていたはずじゃあ?


「何かな?」


「先輩の言から察するに別に俺たちを呼び出したって訳じゃねぇんじゃねぇの? うん?」


 むしろ先輩的に俺を呼ぶつもりはさらさらなかったのでは?


「そうだったかな? 確か僕含め四人の協力者を連れて来てくれって言われたんだよね。ほら、僕らのこと言ってるでしょ?」


「いや、別に君たちに限定した訳ではないよ。先にも言ったように永野君には以前に強要をしてしまった。彼が私を避けるのも無理はないと思い、今回は君たちだと指定せずに美樹本君には協力者を募るよう頼んだはずだが」


「先輩は否定してんぞ美樹本!」


 何しれっと都合のいいように改変してんだお前!


「いいでしょ! 改めて三人引っ張ってくるとか面倒なんだもん! もう一回協力してくれたんなら二回も三回も変わらないでしょ!」


「俺オカ研NGつっただろ! 先輩の要求だから、なんて嘘まで吐いて連れてくんなよ!」


「もう一月以上経つんだから解消でいいじゃん! いい加減仲直りしなよ! 仲立ちしてあげるから! だから協力して! 僕だけ怖い思いするのは納得いかない!」


「私欲じゃねぇかてめぇ!」


 ギャーギャー言い合う。なんだよ、ラスボスは蘆屋先輩かと思えば味方に敵がいやがったぞ。ゲームによくある裏切り者染みたムーブしてやがってこいつ。


「俺たちを呼んだのが聖の独断だったとして、今回の呼び出しについて詳細を聞いてないってのも嘘になるのかな?」


「美樹本君には軽くだが事情は説明したよ? それでなければ人数を指定して連れて来て欲しいなんて頼めるはずがない」


「美樹本そこも嘘吐いてたんか。そんなに俺たちと一緒が良かったのか?」


「一緒がいいと言うか道連れが欲しかったんだろうね」


 喧嘩してるってのに冷静に話し合うのな。美樹本に完全に騙された形であるはずなのになんでそんな平然としているのか。桧山の奴は怒りそうにないけど、嵩原は、あ、こいつはむしろ積極的に参加したいって言ってたか。割食ってんの俺だけか!?


「まぁまぁ、落ち着きたまえよ。とりあえず美樹本君は騙し討ちで友人を連れて来るのはよろしくない。私の頼みは特殊な事情を抱えているものが多い、なんの説明もなしに参加させるのは少々危ういと言えるよ」


「う、そ、それは、そうですけど……」


 待ったと両手を挙げて仲裁する先輩の正論に、美樹本も上手く言い返すことが出来ない。

 特殊、というかそもそもが不可思議な現象の調査っていうオカルト寄りのものだからな。オカルトというだけで苦手とする人間はそこそこいるだろうし、事情を聞かせず騙し討ちで連れて来るのは確かにトラブルを招きそうだ。


「永野君には私を忌避する理由もある。そんな彼に無理を言って我が同好会の活動に参加させるのは非道だろう。桧山君も嵩原君もそう気にはしていないようだが、そちらだって嘘を吐かれたことには変わりない。友達というなら大切にしないと駄目だよ?」


「うぐ、……あの、その、……はい。軽率でした」


 穏やかに微笑みつつあっという間に美樹本を諭したぞこの先輩。俺の中ではオカルトオタクという印象が固定化されてしまっているが、こうして年下を叱る姿は普通に理知的な先輩として見える。そう言えば先輩は美人だったと今思い出した。


「反省を向けるべき相手は私ではないよ」


「はい……。その、ごめん、皆。嘘吐いて、連れて来ちゃって。反省、してます」


 悄気返って頭を下げる。凄い。先輩が先輩らしい。いや、今気にするべきは美樹本の方だな。嵩原も桧山もあっさりと許している。元からそんな怒ってもいなかったから無理はないが、俺はそう簡単には許せんぞ。


「えっと、ごめんね、永野」


「……」


 許せん。許せんけど、視線が。嵩原桧山がじっと見てきてるし、美樹本も上目遣いでこっち見てる。その子犬みたいな目を止めろ。美形ってこういう時本当得な!


「永野君」


 うわ、美人な先輩が話し掛けてきた。


「私も謝らせて欲しい。前回は私の事情に合わせて君には無理を押し通してしまった。美樹本君からもうここには来たくないと伝えられて反省したよ。付き合わせてしまって本当に申し訳なかった」


 立ち上がって深々と頭を下げてくる。真っ当だ。本当に実に真っ当な謝罪だ。俺が夢に見たほどの不審者ムーブかました本人とはとても思えない。なんでこんな常識的な部分とあんな偏執的な部分が同居出来るのか。先輩自体が不可思議で仕方ない。


「……」


 どうしよう。先輩にこうもはっきり頭を下げられてしまっては許せないものも許すしかなくなる。俺としても一方的に関係を断ったその後ろめたさはある。一部暴走が激しいとは言え、それ以外においては非常に理性的な人物だということは短い付き合いの中でも察してはいるんだ。これ以上突っぱねた所でそれは意固地になっていると言うしかない。


 チラッと美樹本を見やる。あいつもいつの間にか頭下げてた。これじゃ俺が強要しているみたいじゃないか。くそ、ああもう仕方ない。


「……分かった。分かったよ。謝罪は受ける。もう頭を上げてくれ」


 お手上げだとため息一つ。プリプリしていたのは事実だが、こうもしっかり謝罪されては意地も通せない。許した途端室内のピンと張った空気が弛んだ。


「ありがとう、永野君。もう絶対に無理強いはしないと約束するから、どうかこれからも我がオカルト研究同好会に遊びに来て欲しい。仮ではなく、本当の部員になってくれると私も嬉しいよ」


「それはちょっと」


 俺まだ仮入部員扱いのままなの? オカルト関係にドップリ関わるのは遠慮したいんだけど。


「あの、本当にごめんね、永野」


「あー……、もう謝ってもらったからいいよ。ただ事情があって連れて来るならちゃんと話はして欲しい。騙し討ちされたら協力出来るものもしたくなくなるし」


 しょんぼり眉を下げた美樹本が再度謝ってくる。本当に困っているというなら助けに入るのは吝かじゃない。だが強要されれば気持ちに不和が生じるのは拭えない。協力してくれと言うなら始めから素直に言って欲しいものだ。


「うむ。仲良きことは麗しい。それで蟠りも解けた所で再度確認がしたいのだが、君たちは我がオカルト研究同好会の今夏の研究に協力してくれるのかな?」


 座り直した先輩がうんうん頷きながら本来の用件を口にする。元はそんな話でしたね。


「今夏の研究、ですか?」


「そうだ。毎年同好会の活動証明としてこの時期に一度学校に向けて研究発表なんぞ行っているのだよ。夏休みという長期の自由時間を使い、より綿密な研究等を実行しているのだが、今年はどうにも人材が足りてなくてね。ああ、話が長くなるし皆座ってくれ」


 許可をもらったので言われた通り座る。もう部室まで来てしまったし、今更話はなかったことに、なんて出て行くのも薄情過ぎる。

 で、事情を聞かされた訳だが、オカ研に活動証明なんてあったんだ。部活動を行っているというある種のアピールは部の存続には必要だ、なんて聞いた覚えがあるけど、それはここにも当て嵌まるのな。


「今夏の研究課題として採用した噂なのだが、それを検証するにはどうしても人数がいる。現在私を含め三人しかいない同好会では検証もままならないのだよ」


「あれ、一人増えた?」


 まさか俺とか言わんだろうな。仮、仮だから。いや仮も止めて欲しいんだよ。


「都合七人の協力が必要でね。一人は美樹本君がいるからいいとしてあと六人。私の方でもう三人には渡りを付けたのだが、あと三人がどうしても集まらなくてね。だから美樹本君にお願いして協力者を集めてもらったという訳さ。まぁ、君たちを当てにしていなかったと言えば嘘にはなるな」


 ふふと笑う先輩。最初から俺たちが連れてこられることはある程度計算していたと。先輩からしても全く面識のない連中に研究の手伝いなんて頼み難くあったのかもしれないな。そう考えるとちょっと断り辛い。


「部の発表ともなれば手を抜けないことは分かりますし、ある程度こちらの手法にも馴染みのある俺たちに白羽の矢が立つことも理解は出来ます。聖だってその辺りを考えて俺たちを連れて来たんでしょうし、協力することは吝かではありませんよ。ね、亨、真人?」


 代表者って面で嵩原が聞いてくる。まぁ、事情を聞くと先輩も純粋に手を貸して欲しいと願って声を掛けたようだし、本当に困っているなら協力くらいはやれる、かな? 前回が前回だったのでちょっと気は重たいが。


「おうよ! 俺が手伝えるなら手ぇ貸すよ?」


「……そう、だな。そう難しいことでないなら……」


 桧山に同道する形で了承してしまった。ああ、これでもう引き返せない。


「ありがとう。本当に助かるよ。何もそう難しいことも危険なこともさせる訳ではないので安心して欲しい。七人一緒に探索を実行してくれればいいだけなんだ」


 ニコニコ嬉しそうに笑う先輩。まぁ、この先輩は学者によくある猪突猛進さはあれど、マッドのような倫理観の欠如は見られないから身の危険といった心配はあまりしてない。流石に前回の二の舞とかもうないよな? よな?


「そう言えば、研究課題として選んだ噂って一体なんですか? 七人という数は決して少ないとは言えないと思いますけど、そんな人数が必要なほどに検証は手間が掛かるものなんですか?」


 ふと嵩原が疑問を口にする。ああ、具体的に何を調べるのかといった話をしていなかった。学校への提出が前提となっているんだ、そこらの心霊スポットに突貫、なんて雑なことにはならないはずだが。


「ああ。そう言えば美樹本君は内緒にしていたんだったね。今夏の我がオカルト研究同好会の学内発表テーマは『上蔵高等学校の七不思議』だ。我が学校に連綿と存在する七不思議を研究の題材にしようと思っているんだよ」


 七不思議? それはまた、随分と鉄板なテーマが出てきたものだな。




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