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高校生男子による怪異探訪  作者: 沢満
三章.河童
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6.白河童

ちょっと短めです。

 さっきの写真とは違って非常に鮮明な画が写っている。池を真正面に捉え、全景も入っているので非常に見易い。画面全体が白く発光している以外はいい写真なのではないだろうか。桧山め、中々な腕だな。


 その全景の真ん中、池の中央の水面から何か白っぽいものがちょこんと出ている。円く紙のように白いのだが少しばかり透けているか? ピントが合ってないようにも見えるけど、問題はそれだけじゃない。


 腕が。真っ白な腕が水面から出ている。白い円形のものの少し前方、なんの揺らぎもない水面からキノコのようににょきりと生えていた。腕は宙に伸ばされていて、手はこちらへと向いている。少々遠いが、それでも真っ白な指らしきものが何かを掴むように歪に曲がっている様は見て取れた。


「……ひっ……!」


 息を呑むように小さな悲鳴が隣から漏れる。これは。こちらの方がはっきりと写っているが、画は蘆屋先輩に見せられたあの写真に酷似していた。


「写った?」


「誤認しそうな現象物体、写り込みそうな現象物体共になし。本物、かな?」


 嵩原の口にする本物と言う意味は河童と言うことか、それとも本物の心霊写真と言うことか。ともあれ、白い何かははっきりと写ってしまった。


「どうする? これだけでもう証拠は充分だと思うが」


「そそそそうだよね! 何か、何かはいるって、しょ、証明は出来た訳だし! 僕らもう充分働いたよね!」


 俺の発言に美樹本が必死に追随する。実際、持ち込まれた話が限りなく真実であることはこれで証明されただろう。この白い何かの正体が河童であるのかどうかまでは分からないが、この池に何かがいると分かれば蘆屋先輩も多少は満足するのではないかと思う。


「……いや、まだ不充分だと思う」


 しかし、そんな俺たちの見解を嵩原はあっさりと否定してみせた。隣から息を呑む気配がする。


「……ど、どうして」


「これが撮れるパターンを探りたい。池はこれまで散々に撮ってきた。だけどこの白いものが写ったのはこの二枚だけ。どうしてこれが突然撮れるようになったのか、その理由を探る必要はあると思う」


 動揺の激しい美樹本に嵩原は冷静に調査継続の理由を話す。そこまでする必要はあるのか? それこそ偶々だったりしないだろうか。


「な、なんで……?」


「まだこれが物理的な現象によって生じた変化である可能性が残っている、と言うのが一番の理由かな? あまり詳しくはないけど、こういった白い線が誤って撮れてしまうことも写真にはあるらしいんだよね。だからどういった状況ならこの写真が撮れるのか、その条件を出来るだけ絞りたい。条件さえ絞れたらそれが物理的に起こり得るものなのか簡単に判明するでしょ? 会長さんに報せるなら、それくらいは纏めておいた方がいいと思うんだよね」


 言って嵩原は肩を竦める。スラスラと小難しいことを述べてはいたが、要はまだ検証は続けないと駄目って言いたいんだな。写真が撮れた条件ねぇ。


「そ、そんなのもういいじゃん……!」


「そう言う訳にはいかないんだよ。でも、まぁ、聖は無理しなくていいよ。俺も会長さんへの報告には参加するつもりだから最悪全部任せてくれていいしね。この検証だって半分は自己興味が勝ってるから続けるだけだし」


 今にも泣き出しそうな美樹本への配慮か、と思えばお前がやりたいだけかい。嵩原としてもこんなあからさまな心霊写真の真贋を問うなんて興奮ものなのかもな。わくわくとした気配が隠しきれてない。


「えっと、まだ写真は撮らないと駄目か?」


「そう言うこと。聖にはちょっと厳しいかもしれないから手伝って。二枚共亨が撮ったものだしね」


「いいぞ! 任せろ! 俺が調べるから美樹本は無理すんなよな!」


「なんなら先帰っててもいいよ。もう暗くなってくるしね。ここ街灯なんてないから日が暮れたら真っ暗になるよ」


 そう言い置いてサクッと桧山を巻き込んだ嵩原は検証のためにと池に向き直る。あとに残るのは置いてけぼりの俺とカタカタ小さく震える美樹本だ。これ俺お目付役に残された感じか。


「……どうする? ああ言ってるし先に帰るか?」


 顔色の悪い美樹本を覗き込んでそう訊ねる。あの写真は美樹本には刺激が強過ぎたんだろうな。俺は駅まで送って、それで戻ってくればいいだろうし。


「……残る。残るよ。これは僕に出された課題なんだ。ちゃんと最後までいるよ」


 帰るかと思ったが、美樹本は根性を見せて居残ると宣言した。別にここでそんな根性を出さんでも。思えど口にはしない。美樹本のやる気を俺が台無しにするのもなんだ。


 とりあえず踵は返さずにこの場に留まる。どの道日が沈めば帰らざるを得ないんだ、あと小一時間ほど待機するか、もしくは先に嵩原たちが条件を見付けるかの違いでしかない。

 池の縁にて撮影に集中する二人を見やる。美樹本と話し合っている最中にも何回か撮影を行っていたようだが、結果はあまり芳しくないみたいだ。


「条件は分かったのか?」


 声を掛ければ揃って振り返る。嵩原はおや?なんてわざとらしく眉を持ち上げた。


「なんだ、帰らなかったの? 別にいいのに」


「……僕だけ帰る訳にはいかないから」


「いいんだぞ。俺まだ粘るつもりだし。絶対河童捕獲する!」


 三者のテンションの落差よ。なんだか桧山はこのまま日没後も残りそうな勢いだけどちゃんと一緒に帰らせないと。夜の水辺は本当に危ないしな。


「あくまであの白いのが写る条件探しだろ? 河童の捕獲はまた後日にしとけって。まずは一つ一つ……」


「んー、条件、条件というか、一応これかな?って心当たりはあるんだよね」


「え?」


 桧山に釘刺そうとしたら嵩原の奴からあっさりと答えが返ってきた。断定早くない?


「え? そうなのか? さっきから全然河童写んないぞ?」


 デジカメ抱えて桧山が主張する。教えてやってねぇのかよ。一緒に検証しているんだから情報明かしてやりゃいいのに。


 しかし早々に判明するというのはついてる。あっさりと解明させてさっさと帰りたい。


「その心当たりって言うのはなんだ?」


「今の所、河童らしき姿が撮れたのってどちらも亨が撮ったものなんだよね。フラッシュを焚いた、ね」


 ……? ああ。つまりそれが条件?


「フラッシュを焚いて撮影?」


「じゃないかなって。フラッシュなしで撮ってみたけど何も写らなかったよ。会長さんが見せた写真も、当然夜なんだからフラッシュは焚いていたと思うんだ」


「なるほど……」


「当たってるかどうかは実際に撮影してみれば分かる。亨、フラッシュ付けて池を撮ってみて」


「おう! えっと、このマーク? これ押して……、よっと!」


 池に向かった桧山がパシャリとシャッターを押す。夕日に染まる池を白い光が瞬間照らした。

 池の様子を具に観察する。写真が撮られる瞬間に異変は起きていない。水面下から何か出て来ることも水上に浮かぶものも何もなかった。写真にはただの池が写るはずだ。


「さて、何が写るかな?」


「……おっ!」


 画像を確認した桧山が声を上げる。覗き込んだ嵩原も満足げだ。こちらへとデジカメが渡って来たので俺と美樹本も画面を確認する。


 アングルの変わらない池の全景を写した写真。その池の中央、そこにはやはり白く丸いものが水上にある。当然のように腕も出ている。水面から生えた上腕が斜め上に突き出され、曲げられた肘が今度は斜め下へと伸びてその先の手が宙を掻く。先程と比べてより『手』らしく見えるのは被写体が大きくなったからか。


「確定、かな? 今度は俺が撮ってみるね」


 言うや否や嵩原はデジカメを回収して池を撮影する。焚かれたフラッシュがまたも辺りを白く染め上げる。


 撮るなり直ぐにデジカメを確認した嵩原は、一瞬硬直してから俺たちへとカメラを差し出す。画面に表示された画を見た俺たちも思わず動きを止めた。


 腕が増えていた。丸い白いものの向かって左に見えていた腕のその反対、今度は右側に白い腕が一本生えていた。左側同様に宙へと伸ばされる腕の先は、やはり何かを掴むように五本の指がばらばらに躍動している。


「増えたぞ!」


「……真ん中の白い奴が顔だとして、最初が右手で今度は左手か。指の向きは合ってるな」


 写真に見入って、ついしみじみと分析結果を口にしてしまう。こうなるともうこれは腕にしか見えない。嵩原の言っていた物理的な解釈が頭の片隅からも排除される。恐らく、これはそう言ったものではないんだろう。


「……ねぇ」


 黙り込んで画面を凝視していた美樹本が震えた声を上げた。もう涙声だ。限界かと察知したのだが、顔を見れば真っ青な顔で画面から目を逸らそうとしない。


「……これ……、これってさ、こっちに近付いて来てない……?」


 か細く溢された一言で、またも俺たちの間に衝撃が走った。



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