表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
高校生男子による怪異探訪  作者: 沢満
二章.凍雨
19/206

1.雨に祟られる街

第二章、『凍雨』始まります。

過去話です。男四人の連む切欠となった出来事です。

 新年度が始まり俺も高校へと進学した。進学先の学校は地元にも馴染み深い県立高校。名を上蔵高等学校と言う。

 歴史と敷地面積に関しては県内でも一、二を争うほどのものであるが、偏差値的にはそこまで高くはない。受け入れ人数が数百を超えるので、そのため平均も下がるといった事情だな。学力はそこそこの俺でもどうにか滑り込み出来たので何よりと言った所。


 季節は春。新入学生として高校の門を潜り、そうして俺の高校生活はスタートした。入学式も執り行われ、ピカピカの新入生たちが緊張した面持ちで春の穏やかな陽気の中新たな一歩を踏み出す。

 そんな感じで今年もきっと様変わりしない新学期が始まる、はずであったのだが。


 季節は春だ。暖かい日差しにそこかしこで新芽が芽吹き、桜なんかも盛大に咲き散らかしている時分のはずなのに、我が地元、古戸萩市はまるで春とは縁遠い様相を醸し出している。空は暗く風は冷たく、そして冷水のような雨が切れ間なく降り続ける。

 そう、先月の終わり頃からこっち、我が街は随分と長い雨に祟られているのであった。




 寒い冬からどんどんと気温が上がり、そうしてもうそろそろ春が来るかなと、お天気キャスターなんかが画面の向こうで笑顔で告げたその頃からどうにも天候不順が続いた。

 始めはパラパラとした俄雨が断続的に降る程度だった。それが次第に時間、勢いも増していき気付けば連日連夜雨が降り続けるようになった。空には重い曇天が広がり日差しを遮るもんだから気温も上がらない。まるで冬のような寒さが暦上春を迎えている我が街を襲い続けていた。


 一体どういうことなのか。何が起こっているのか。地元のテレビ局は挙ってこの長雨を異常気象だと断じて連日取り上げてはあーでもないこーでもないと討論を続けている。

 この長雨は全国で起こっている訳ではなく、なんでだか我が街だけで引き起こされているようだから更に討論は紛糾した。こんな局地的過ぎる異常気象も珍しい、前例にないことだ、なんてどこぞの学者だかなんだかが困惑したように語る姿も見た。

 折角の新年度、新学期だというのに、どうにもケチの付けられた始まりで憂鬱な気分である。


 空には曇天が広がり冷たい雨が降っていようとも、それでも年度が明けたのならば学校は通常通りに開始される。

 世間に文字通り重い雲が垂れ込めていようとも、それが生活を直接破綻させるものでもないのなら日常というものは早々壊れたりはしない。


 何が言いたいかと言えば俺たち新入生並びに在校生は普段のままに登校していると言うことだ。異常気象だと言っても出歩けないほどの豪雨でもないのだから当然と言えば当然だ。

 これが極寒あるいは酷暑、はたまた豪雪、豪雷の類であったのなら自宅待機も認められていたのかもしれないが、たかが雨ではねぇ。冬のような寒さとは言えど、それでも十℃は越えるくらいはあるのだ、一枚上に羽織った程度で充分防寒は達成出来る。

 つまりは登下校にはなんら支障はないと言える訳だ。傘が手放せないと言うだけで。


 入学式から数日。本日の雨模様はしとしとと言った所。騒々しく出勤して行った母親のあとに家を出て空を見上げる。暗いながらも、薄ら雲の向こうの明るさが透けて見える灰色の天井を眺めて学校へと向かう。


 道中では疎らな通行人と色取り取りの傘が暗い景色で目立っている。異常な長雨ということで、最近はこの陰鬱な空気を振り払いたいとせめて傘だけでも明るい色を選ぶ人間が増えているのだと言う。

 実際、こうやって外を歩いていれば小学生の集団や中高生、まだ二十代だと思われる社会人なんかにその傾向は強く出ているように思える。皆黄色や赤にピンク、白の強い空色など、傘の色ばかりが変に明るく灰色の景色の中で浮いているようだ。


 そこかしこに水溜まりがある通りを行く。切れ間のない雨とは言え、降っている範囲が一市なためにまだ排水機能がパンクするほどではない。道路脇に付いている排水溝にはスルスルと水が飲み込まれている。

 幸い街にある川はいずれもきちんと増水対策が施されている。元々降水量も然程多くはなく、短時間で一気に降られたならともかく、これまでの時間単位での降水量ならば暫くは氾濫等を心配はしなくていいと市の方から発表もされた。


 どうにか小康状態の維持は出来ているようだ。それでも、徐々に募る不安は全く無視出来るものではない。

 今はまだ皆冷静に長雨に対応は出来ている。でも、このまま変わらず降り続ければどうなるか。溜まった水は流さないといずれ決壊してしまうもんだ。時間との勝負。そんな分の悪い賭けがその内成立してしまいそうで、そっとため息を吐いた。





 暗い登校路を進み学校へと辿り着けば流石に人も多いし賑やかしい。

 入学を果たして間もない学校内は普段よりも騒がしく感じられる。皆教室だ廊下だで顔を突き合わせてはコミュニケーションを取るのに躍起になっているのだ。

 それは新たなコミュニティの形成を行うにはこの時期が一番大切で、そして築けなければぼっち生活が始まるともなればそれは必死にもなることだろう。


 俺も本当なら愛想良く振る舞って仲のいい奴を一人二人と作っていかなくちゃならないんだけど、どうにもそんな気にもならない。

 まぁ、元々コミュ障で、中学時代もそんな広い交友関係なんざ作って来られなかった人間なんだから、そんな高校デビューをした訳でもないのに大々的に友達作りなんて出来るはずもないんだよなぁ言ってて悲しくなってきた。


 やる気が出ないというのは雨も関係している。長雨に対する不安もあるが、何よりもこの四月上旬から五月へと続く時期は昼寝に最適な季節なんだ。

 日差しは柔らかく体を温めてくれるし風もあまり湿気を孕んでいなくて気持ちがいい。どっかそこらの木陰にでも避難し、ふうと力を抜いて眠ることの気持ち良さと言ったら。


 一年に一度しか楽しむことの出来ない至福の時間がよく分からない異常気象で台無しにされるのだ。そりゃちょっとやさぐれもするというもの。

 中学では校内に様々な昼寝スポットを発見し暇があれば昼寝に勤しんでいたというのに、高校ではそれも難しいのかと重い雨を降らす空を睨み付ける。勿論、睨んだ程度で晴れ間なんて出るはずもないが。


「ねえ、知ってる? この雨ってさ……」


「俺の聞いた話だと……」


「テレビでもさ、偉い先生っていうのが……」


 ちょっと耳を傾ければ教室内からもこの雨に関する話が漏れ聞こえて来る。

 今皆が共有する大きなトピックスなんてこの天気以外にはないからな。つい数日前に初めましてをした人間同士であーでもないこーでもないと言葉を交わしているのだが、皮肉にもこれ以上ない共通の話題なためか順調に仲を深めていっている生徒が散見される。

 会話に困った時には天気の話をするものだと聞いたことがあるが、現状はその天気の話が最大の話題性を持っているというのだからなんとも皮肉だ。


 雨について語り合う声はきっと学校中、いや、この街中から聞こえてくることだろう。そう言えるほどに皆不審に長く続く雨を気にしている。

 当然のことなのだが、そうやって噂する姿が俺にはちょっとだけ煩わしく感じられてしまう。それもあって他人の輪に入っていけないと言うのは果たして言い訳になるのか。

 ともあれ、さわさわ、ひそひそと落ち着きなく語る周囲の声に、こちらも釣られて落ち着きをなくしながらもこうして一日は過ぎていった。





 雨音を聞きながら授業が終わり、そして放課後。昼寝も出来ないために抱えたストレスを俺はいつもこの時に出来るだけ晴らせるよう頑張っている。


 やることは実直と俺の趣味を兼ね備えたもの、そう、校内昼寝スポットの探索だ。


 天気は悪く気温も冬に近いような低さであるから、さすがにこんな状況で昼寝なんざしようとは思わない。

 だが、天気が回復した暁には俺は《趣味:昼寝》を再開させるつもりは満々なんだ。その時のために今の内から校内査定を行うのは決して無駄なことではないだろう。

 いずれ再開出来るだろう昼寝に思いを馳せるだけでも溜まったストレスゲージがコココッと下がる。俺の精神衛生上にもこの放課後の探索は絶対に必要だと言い切れた。


 そんな訳で本日も校内探索の開始だ。無駄に広い敷地なためにどこにどんな建物があるかを把握するだけでもそれなりに時間が掛かる。これは言い換えればそれだけ昼寝に適したスポットが校内には存在するとも指摘出来るのだ。いいぞ、テンション上がってきた。


 本日はこの本校舎を全体的に見ていこう。二年三年の階を一年が歩くのは悪目立ちしそうだからまずは一年の階を重点的に調べるか。

 我が学校は一年に三階を割り当てているので階段を下りる際にちらっと他の階の様子は探れる。本格的に探索をしたいなら時間を見計らう必要があるだろうな。


 放課後、まだ人でごった返す中を歩いて行く。廊下にはそこらで生徒が二、三人で集まりだらだら会話に興じて居る姿がよく見られた。雨の中を帰るのが億劫に感じて留まる奴もいれば、運動着を着て筋トレに励んでいる姿もある。

 雨が続いているからな。運動部なんかは外での活動に思いっ切り制限課せられて仕方なく校舎で細々と活動しているんだろう。不満溜まってそうだなぁ。俺には関係ないけど。


「また雨……」


「いくらなんでも降り過ぎなんじゃ……」


 校内を歩けば嫌でも天気についての話が耳に飛び込んでくる。朝も昼も放課後でさえも生徒の口に上るのはこの天気に関してばかりだ。

 鬱々と止まない雨を見上げ溜め息を吐くその気持ちは分からなくもないが、だがそればかりを話題としていて飽きたりなどしないものなのか。もっと建設的な話をすればいいのに。屋上にはどうやって忍び込めばいいのかとか。


 まぁ、こちらが気にしたとして何にもならない。俺は俺で昼寝に向いた場所を見出すまでよ。

 本校舎は教室数が多いから空き教室の類が狙い目だ。古い造りの校舎は鍵にガタが来ている物も中にはあると思われる。そういう半ば放置されているものは教師からの注意も及んでいないことがよくあるので秘密裏に利用するのに向いているのだ。中学でもそんな場所ばかり見付けてはちょっとした休憩所として利用していたので実績がある。


「――ねぇ、知ってる? この雨ってね、誰かが降らせてるんだって」


 三階の探索中、ふと目をやった窓の向こう側、向かいの校舎の庇に意識が向いた。庇というのも結構な死角ポイントではあるんだよな。教師の意表を突けるというか。その癖日差しの当たり方は悪くないから、昼寝スポットの候補に組み込んでもいいのではないか?


 そんな感じに窓の向こうをじっと見つめていれば、背後からまたこの雨に関する噂話が聞こえてきた。

 学生とは兎角噂話が好きなものだ。誰の口にも上る現在最大の話題性を持つということもあり、長雨に関する信憑性のない噂は後を絶たずに人の口に上り続けている。やれこれは化学製品の影響だ、やれ龍神様が怒っているだ。

 ジャンルを問わないでまかせが横行するのはそれだけ多くの人間の関心を浚っているからと言えるのだが、それにしたって見境のない噂話など辟易するばかりだ。


「あー、なんか聞いたことあるな。なんだっけ、雨雲の下の男だっけ?」


「そうそう。分厚い雨雲の中心、最も激しく雨が降るそこに男が一人立ってるんだって。氷みたいに冷たい雨が降る中、傘も差していないのに男は濡れることもなく況して寒がる素振りも見せないでぼうっと立っているんだとか。その男が雨を降らせる元凶だって話」


「何それ、怪談? 雨を降らせるってそいつ人間なの? 雨女ならぬ雨男ってこと? 雨降らせるのって河童かなんかだっけ?」


「え? じゃあこの長雨は河童の呪いかなんかなの? なんで河童に呪われなくちゃいけないのよ」


「いや男だって言ってんじゃん。誰も妖怪の所為とか言ってないって」


 ぐだぐだな会話だなと思いつつ意識の大半は庇に向いている。庇は出入り口の上という、上下からの視線の遮断には滅法強いながらも真横からは防御のぼの字もないのがネックだな。

 そもそもこちらの窓から簡単に発見が出来た時点で隠れた昼寝スポットとは言えないか。残念だがこれは見送りだなぁ。


 そう評価を下しその場を移動する。結果としては残念なものだったが、しかしこの着眼点は悪くはないのではなかろうか。

 これまで昼寝スポットには完全な屋内か屋外しか候補を見出して来なかった。だがさっきの庇を発見したことにより半屋外もありじゃね?という新たな評価基準が俺の中で生まれた。

 ちょっとした建物の影やベランダ、そんな外の空気も同時に吸える、けど外部からの視線も遮れるといった場所も昼寝には向いているのではないだろうか。この新たな発見、吟味してみる価値はあるだろうな。


 新たな方針に俄然やる気を漲らせて探索を続行する。こうなれば探索範囲は更に広がることになるだろう。

 明日からまた頑張ろうと校舎の外に目を向けて、そこでふと暗い空と打ち付ける雨に先程の噂話が脳内に蘇った。男だか河童だか知らないが、そいつは果たして雨を降らせて何を望むのか。恨み、いや呪いだったか、それなら街を混乱させることが狙いだったりするのだろうか。


 なんか噂話を真実として捉えているけども、長雨の原因は未だ判明していないからな。オカルトな理由付けでも飛び付く人間はきっと一定数いるんだろう。人間というのは、心霊だとか妖怪だとかそう言った存在そのものを恐怖するのではなく、結局は理解出来ないものを恐怖するものだからな。


 ともあれ何が原因であろうとも一介の高校生じゃ出来ることなんざ高が知れる。

 なんの能力も持たない人間はただ空を仰いで祈るばかりよ。その内変な宗教団体が台頭して雨を変に信仰したりしないだろうな。ちょっと嫌な予感がしてきたぞ。


 雨が降り続ける限り、きっと騒動は引き起こされるんだろうよ。曇天の空を眺め、はぁと一つ溜め息を溢した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ