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高校生男子による怪異探訪  作者: 沢満
一章.縁切り
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11.ネタばらし

「大丈夫!? 二人共!?」


 地に伏す一年と片手を上に突き上げてる桧山とを交互に眺めていれば、美樹本がたーっと駆け寄って来た。

 どこに隠れていたのか美樹本の背後には二岡と能井さんが続き、皆揃って心配そうな表情を浮かべている。まあ、始めから疑わしくはあったがやはり監視されていたらしい。


「どうにかな。肉体的には傷の一つもねぇよ」


「ああ……、良かったよ。まさか凶器を取り出すほどとは思わなかったから見てて凄くハラハラした。怪我がなくて本当に良かったよ」


「その言い方はやっぱり俺のこと嵌めてやがったな? お前」


 指摘してやればあははと気まずそうに笑う。こうなりゃ全て吐き出せと迫ると、案の定俺と朝日を二人きりで会わせたのは美樹本の、というより俺以外の作戦だったらしい。


「だって永野、一人で犯人を捕まえに行きそうな感じだったからね。証拠がないと云々というのは分かるけど、かなり危ない橋だって理解してるの、君は。このまま放置は危ない、だったらいっそ早期解決を目指して僕たちの手で犯人を捕まえようって桧山の案を採用したんだよ」


 プンプン怒りながら説明してくれる。あの雑な足し算を実行しちゃったのかよ。それに驚きなんだが。


「僕は反対したんだけどね、でも皆乗り気で、永野一人で対応させるよりかは危険はないって押し負けたの。色々手を回してどうにか犯人を誘き出せるよう場を整えて、それがこの結果だね」


「人のこと散々注意しておいてお前らが何を危ないことしてるんだ。というより俺囮だったのか?」


「有り体に言えばそう。計画実行の起因は君なんだから、危険云々については同じ穴のだってこと忘れないでよ」


 非難を口にすれば鋭く切り返されてなんも言えない。つか囮って、俺だけならまだ納得いくけど朝日も巻き込まれているんだが。


「あ、春乃ちゃんにはちゃんと事前に説明済みだから。納得して参加してもらってるわよ」


 美樹本の後にやってきた二岡が驚くことを言う。え、朝日も作戦参加者なの?


「あんたはともかくとして春乃ちゃんには説明するに決まってるでしょ。必要不可欠な人材だけど、それは囮としてなんだから何も話さずに巻き込めないわ。彼女は全てを承知で加わってくれたの」


 言ってまだ俺にしがみついたままの朝日に優しく声を掛ける。そこに能井さんも加わった。


「まあ、結果は散々だったけどね。ごめんなさいね、怖い思いをさせちゃったわね。もう大丈夫だから安心して」


「春乃ちゃん大丈夫? どこも痛くない? ごめんね、中々助けに行けなくて……」


 能井さんこそ今にも泣き出しそうな声で朝日を労う。そうすればぎゅっと制服に力が掛かって、同時に小さく返答の声が聞こえた。


「……だ、大丈夫です。ごめんなさい。全部、分かってやってたのに、私、怖くて、動けなくて……」


「いいのよ。どんなことになるか完全に予想出来なかった私たちが悪いの。春乃ちゃんは立派に最後まで付き合ってくれたんだから謝らないで。本当にありがとうね」


「春乃ちゃんが謝ることなんてないよ! 怖かったよね、辛かったよね。もう大丈夫だから、もう大丈夫だからね」


 なんとも居たたまれない。朝日を巻き込むのはどうよという非難が胸の内から沸き上がってくるが、元を正せば俺が起因だ。俺はこいつらを批難出来る立場にいない。


 それでもじとりとした視線を美樹本に向けてしまうのは止められない。言葉にせずとも察したようで、美樹本は神妙な様子でコクリと頷いた。


「僕からも謝罪するね。君に危険なことをさせて本当に申し訳ない。出来るだけ穏便に済ませられるようもっと配慮すべきだったよ。君を矢面に立たせるのは間違っていた」


「俺からも謝る。俺の所為で巻き込んでしまってすまない。どうにかお前だけでもさっさと逃がすべきだった」


 美樹本に続いて俺も謝罪をしよう。事前に説明があったからとか、それは危険な目に遇わせても許される理由にはならない。事の元凶は俺に違いないし、朝日には本当に酷い役を押し付けてしまった。


「! ち、違います! 私が巻き込んでしまったのであって、先輩は何も悪くないから、だから、何かお役に立てればって……!」


 俺の謝罪に慌てたように顔を上げる。

 まだ朝日は俺に抱きついたまま、というより最早ぴったり寄り添った状況なので顔の距離が近い。身長差がある分くっつくということはないから安心ではあるが、それでも美少女の顔面が間近にくるのは心臓に悪い。

 照れ臭いけど、申し訳ない気持ちの方が強いので目は逸らさずにいられた。


「フェっ!?」


 でも朝日は違ったようで目が合うなり顔を真っ赤にして変な声まで上げる。わたわた混乱する様子を見せ、かと思えば俺にしがみついているのに気付いて慌てて離れていった。

 三歩くらい離れた位置で立ち竦み、真下に向かって俯くが生憎と耳が真っ赤なので顔色までは隠せていない。


「……まあ、そこまで悪い体験でもなかったみたいで良かったよ」


 おい美樹本。その感想はどうなんだ。

 ツッコミたいけど二岡に能井さんまで生温い笑顔浮かべてて何も言えない。必死にポーカーフェイス維持するだけで一杯一杯なんですけど。


「なんだか楽しそうで何よりだよ。トラウマになってるようだったら俺が慰めてあげようかと思ってたけど、平気そうだね」


 なんとも居心地の悪い思いをしていれば嵩原の奴が桧山と知らない男を引き連れてやって来た。

 桧山にがっちりと捕まえられている男はまずい立場にあると思っているのか顔色が悪い。よくよく見れば首元にあるネクタイの色は青。どうやら三年の先輩らしい。


「慰めるってファミレスでも奢ってくれるのか?」


「生憎と俺の慰めは女の子オンリーだよ。ま、それに奢ってもらうのは俺たちの方だからね。これが俺たちの仕事の成果です」


 言って三年男子を突き出してくる。まあこんな場面で下手人のようにして連れてきた相手だ。どういうことかなんて説明されなくたって察しは着く。


「これも手紙の差出人ね。そこの一年とは違って突撃はしないまでも、近くに隠れて様子を見ていたから捕まえてみました。やったね、三人中二人も釣れちゃった」


 わざとらしく笑顔なんて浮かべて嵩原の奴が宣う。三年男子はがっくり肩を落として抵抗する気も見せない。その態度が何よりも雄弁で、ああ本当なんだなと納得した。


「一体どうやってピンポイントで差出人を釣り上げたんだよ。確か容疑者は多過ぎて絞り込めないとか言ってなかったか?」


「そこはそれ、俺が見付けたアングラの掲示板あっただろ? あれに自分も試してみたって書き込んで、更に効果がない、近々付き合いそうとか嘘の書き込みを流して上手いこと誘い出したんだよ。手段の確認等で高確率で再度掲示板を見に来るだろうと思ってね、その結果がこれ。我ながら上手く行き過ぎて笑いが止まらないよ」


 ふふふなどと満足そうに笑う。えげつない手法に思わずうわあと声が出た。事の発端である掲示板そのものに罠を仕掛けるとか、なんて大胆で恐ろしいことを平然とやるのか。やることが煽動者のそれで正直引く。助かってはいるんだけども。こうして見事に実行犯を誘い出しているってことで頼もしくもあるんだけども。


「お前がこんな結構綱渡りな方法を実行するってことに違和感があったが、お前ちょっと欺いて呼び出すの楽しんでただろ正直。自分の罠の成果を見たい欲求も少なからずあったな」


「……ふふ」


 返事は含み笑いだった。

 おかしいとは思ったんだ。俺ならともかく、朝日も巻き込むことをフェミニストを公言している嵩原の奴が受け入れるはずがない。それなのにこうして実行したのは、早期解決を狙ってはいたんだろうけど恐らくは自分の思う通りに事を運べるか、仕掛けた罠がきちんと発動しているか、その成果を確認したい気持ちが強くあったためなんだろう。


 俺の投げ掛けに否定も肯定もしなかったのがもう答えだ。

 恐らくは俺のことが判明する前から既にこいつ罠を張っていやがったな。何時成果を上げるか、考えていた矢先に俺の退っ引きならない事情が白日の下に晒されて、それで釣り上げをついでと決行したと。絶対そうだ。

 だってこの笑い方は心の底から愉悦を感じている時のそれだ。今最高に気分がいいんだろうな、こいつ。


「勿論、二人の安全は出来るだけ守った上での作戦決行だけどね。亨に遠近両方の武器持たせて待機させたりと、これでも色々不測の事態は考えてはいたんだよ?」


 言い訳か嵩原はそう言って桧山の方へと目を向ける。つられて目を向ければやってやったぜと言わんばかりに顔を輝かせる桧山の手には木製バットが。

 そっちが使われなくてよかったと一瞬安堵したけど、ちょっと待て、まさかそれでサッカーボールかっ飛ばしてないだろうな。


「まさか遠距離用のサッカーボールの方が出番あるとは思わなかったけど、結果としてはこっちの方が穏便にすんだかな? ともあれ亨、ナイスファイトだったよ」


「二人が無事で良かった! マジで!」


 色々、本当に色々言いたいことはあるんだが、でも桧山は恐らく百パーセント善意であることは間違いなく、そして嵩原の思惑はあれど俺たちをきちんとピンチから助けてくれたのも事実。

 とりあえず桧山にだけは助けてくれたお礼を言っておこう。感謝してたら朝日も一緒に桧山にお礼を言った。そうしたらあの鈍感桧山が照れた様子なんて見せてきて、これが本物の美少女効果かと少々驚いた。


「さて、それでこの一年生なんだけど」


 美樹本の奴が地面に伸びる一年の顔を見ながら呟く。さっきからごそごそと容態を確認していたようだが、まあ顔面から倒れ込んでいたし一応は頭を攻撃されていたからな。大事に至ってないか経過くらいは確認するよな普通。俺は完全に忘れていたけど。


「どうする? とりあえず後ろ手で親指を拘束しといたけど」


 とか思っていたら違った。拘束、それも掛かる負担は少ない癖に効力は高い、マジな縛りを試していやがった。

 あれ、心配そうな顔しか見てないけどひょっとして美樹本、今結構ビキビキ来てるのか?


「どうするって」


「そうだね、自白くらいは引き出しておかないと後々面倒になるかもしれないね。とりあえず証拠の写真と自白の録音と、後は指紋なんかも一応採っておこうか」


 どうするんだと訊ねる暇なく嵩原が末恐ろしい返しをしてきた。え? どうするかってそういうこと?

 混乱して固まる間にも頭脳派二人はセッティングを進めていく。


「え、ちょ、おい」


「これは必要なことなのよ。差出人か確定させなくちゃいけないし、もしそうならこの場で蹴りをつけなくちゃいけないの」


 止めようと上げた手を二岡が訳知り顔で止めてくる。真顔で首をふるふる横に振ってるけど、本来お前はこういうのは止めに入る人間だったんじゃないのか?


「ちなみにもうそこの先輩はしっかり釘を刺されているわ。証拠もバッチリ」


「嵩原と美樹本がなんか凄かったぞ!」


 桧山のお墨付きまで、だと。視線をやった先、桧山に捕獲されたままの三年男子が顔色悪く項垂れていて、もう。


「……」


 これあれか。警察に突き出さなくても差出人は十分に報いは受けていると見ていいのだろうか。


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