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聖竜王のサガ  作者: whisky
冒険の始まり
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救出

アリスの仇を討ちたい気持ちもあったが、世界を邪神より救うために命を懸けることこそ、騎士が果たすべき務めのように思えたのだ。


「二人共よく聞いてくれ。捕らえられているドラゴンの縛めを解いてやれば、彼らが戦って邪神の復活を阻止するそうだ。このミスリルの剣であれば、彼らを縛る魔法の鎖を切ることができるらしい。救援を呼びに戻った場合、その間にも邪神が復活してしまうだろう。世界が暗黒に覆われんとする瀬戸際に、騎士たる者、命を惜しむことが許されようか!」


ヘンリーの瞳には、誇りに満ちた決意の光が輝いていた。 

「ああハリー、やはりあなたこそ私がお仕えすべき騎士様なのね!どこまでもお供しますわ!」

上気したシンシアの顔を見やったダニエルは、一瞬どこか寂しげであったが、すぐに明るい声で言った。

「仕方ねえな。二人が行くっていうのに俺だけ逃げ帰る訳にも行かねえよな。やってやろうぜ。三人で世界を救おうじゃないか!」


ヘンリーは少し驚いた表情をを浮かべると、ダニエルの顔を見つめて言った。

「どうしたんだ?ダニー。お前らしくないぞ。」

「ほっとけ、馬鹿野郎!俺にもカッコくらいつけさせろ。」ダニーは口の中でつぶやくと、ヘンリーに尋ねた。

「それで作戦はあるのかい、大将。」

「そうだな、敵に気づかれないように近づいて、俺が剣で鎖をぶった切る。助けてやれば、神官と戦ってくれるようだから、俺達は援護に回ろう。」

なんの策もない、あまりと言えばあんまりな作戦に、ダニエルは思わず苦笑した。

「やれやれ、結局正攻法かよ。事がそう簡単に進めばいいけどな。やはりお前には優秀な軍師が必要なようだ。」


三人は岩陰や窪地に身を隠しながらドラゴンに近づく。

「本当にあのドラゴンは信用できるんだろうな。実は邪悪なドラゴンを正義の魔道士が退治している、なんてことはないだろうな。」

「じゃあ、ドラゴンがゾンビを使って人さらいをしていたのか?」

「それは有り得ないよなあ・・・」


「大丈夫さ。尊大ではあっても嘘を言っているようには聞こえなかった。」

「まったくお前は馬鹿正直・・・

「静かに! もうすぐだ。」


三人は中央の、最も大柄なドラゴンの陰に滑り込んだ。

間近に見ると、黄金色に輝く美しい体躯だった。両側の2頭も青銅色と白銀色に輝いていたが、祭壇を挟んだ反対側に見える3頭は真っ黒にしか見えなかった。

祭壇から竜までは30メートルほどしか離れておらず、黒魔道士の詠唱の声さえ聞こえるほどだったが、集中しているのかこちらには気づいていないようだ。


三人は、交互にドラゴンの体の陰から首を覗かせて、儀式の様子を伺った。

祭壇は巨大な楕円のテーブル状で、失踪した少女以外にも男性も含めて数十人ほどの生贄にされたと思われる人々が、背後の邪神バルガルムンドとおぼしき巨大な神像に頭を向けて、放射状に並べられていた。

犠牲者の悲惨な状況を目の当たりにした3人は怒りで打ち震えた。

ヘンリーも今にも飛び出して神官に切りかかりたい衝動に駆られたが、火を飲み込む思いで押さえ込んだ。


改めて竜の体を調べると、首の付け根に巻かれた2本の鎖が見つかった。

”この鎖を切ればいいのですか?”

”そうだ。2本とも切断して欲しい。”

しかしミスリルの剣といえども、周囲に気づかれることなく指3本くらいの太さがある金属を切断することは不可能に思えた。


「敵に気づかれることなく切断することは難しいようだ。少なくとも、この鎖を破壊するまで、あの神官の注意を逸らす必要があるな。」

「ここは俺様の出番だな。俺様がファイヤーボールを叩き込んで奴の気を引く間に、お前が鎖を切るってのはどうだ?」

先の戦いで生まれた自信が、ダニエルの態度を大きくしているようだ。

「なるほど。そいつで行くか。ではダニーにはここから二・三十メートル離れた場所で身を隠してもらって・・・」


ヘンリーがそう言いかけたとき、ドラゴンの念話が割って入った。

“我々の陰から離れてはならぬ。かの黒魔道士は、まごうことなく邪神の復活を試みるに足る力を有しており、呪文の発動速度や威力はそなたらの想像を絶する。

我らの竜鱗はミスリルと同等の防御力を有し、大抵の攻撃魔法には耐性がある。我の陰に隠れて奴の攻撃を凌ぎ、鎖を断つのだ。そして我が奴と戦う隙に、残った竜族を救出して欲しい。我ら三人で攻撃すれば、奴を滅することも可能だ。”


「おい、ハリー。また魂が飛んじまったのか?」

ダニエルが話の途中で黙り込んだヘンリーの肩を揺さぶりながら言った。

「ドラゴンによると、あいつは大魔道士と呼べる強さで、俺達が敵う相手ではないそうだ。ドラゴンは魔法への耐性も高いから、陰に隠れているようにということだ。鎖から解放さえしてやれば、ドラゴンが奴を倒してくれる。」

「なるほど。折角のご好意だから、有り難く従うことにしようぜ。俺は今から呪文の詠唱を始めるから、発動する瞬間に鎖を切断してくれ。俺の方に注意を向けさせることは、無駄ではないだろ?」


ダニエルは黄金竜の体に身を隠しながら尾の中ほどまで小走りで進み、杖の先端に火種をセットして火口ほぐちを近づけて着火すると、印を結びながら呪文の詠唱を始めた。

ヘンリーは腰を落として剣を振りかぶり、いつでも地面を這う鎖に向かって切りつけられる体勢を整えてダニエルの呪文が発動するときを待った。

ダニエルは詠唱の終わる直前に立ち上がると、杖を神官に向かって突き出した。

間髪おかずにヘンリーが剣を振り下ろす。

“ギャリーン“と大きな金属音が洞内に響き渡り、神官が驚いたようにこちらを振り返った刹那、ダニエルの魔法が発動した。

「ファイアーボール!」


杖から放たれた火球は大きさを増しながら黒魔道士めがけて飛んでいったが、彼が片手を上げて何かをつぶやくと、数メートル手前で空気の渦に当たって粉々に砕け散ってしまった。

「なに奴か?バルガルムンド神の降臨を妨げる不届き者には、神罰が下るものと知れ!」

黒魔道士が再びこちらに向かって手を上げ、三人は呪文を避けようと、ドラゴンの背後に身を投げ出した。その直後、神官の指先から放たれた稲妻はドラゴンの背を直撃し、三人は即死は免れたものの、幾分かは感電してしまった。


“大丈夫ですか?”ヘンリーはドラゴンを気遣ったが、「私にこの程度の電撃は効かぬ。」という答えに安堵した。先ほど切りつけた箇所に再度剣を振り下ろすと、狙い過たずに完全に切断する。

「おい!あの魔道士、マジで凄い実力だぜ!素材も呪文の詠唱も必要ないみたいだ。確実に親父より凄い!」

心底より驚いた様子でダニエルが叫んだ。


ヘンリーは急いで二本目の鎖を切断しようとしたが、こちらはドラゴンの体に隙間なく巻きついており、体を傷つけることなく切断することは不可能だった。

”あなたの体はミスリルの剣で切りつけても平気なのですか?”念のため、ヘンリーは尋ねてみた。

”そなたの剣はおそらく魔道帝国にて鍛えられし業物、しかも何がしかの魔力が感じられる。流石に無傷と言うわけには行かぬだろうが、案ずることは無い。私にとっては、そなたがナイフで指先を切る程度の傷、鎖さえなければ治癒魔法で即座に癒えよう。」


ヘンリーは意を決すると鎖に切りつけたが、手加減する意識が働いたのか、剣は鎖を両断できずに半ば食い込んで止まってしまった。

「くそっ、失敗した。」

舌打ちしながら抜こうとするものの、がっちり食い込んでしまって簡単には抜けない。


一方、呪文で攻撃することが困難であることを悟った黒魔道士は、別の手立てを講じることにしたようだった。儀式を中断して一瞬瞑想した後右手を振ると、驚いたことに祭壇の上に横たわっていた生贄の人間達が、ゆっくりと起き上がりだした。


「おい、あいつらは生贄にされて、死んでるんじゃなかったのか?!」

信じられない光景に、ダニエルは思わず立ち上がって叫んだ。

「違うわ!まだ生きてる。でも生けるゾンビなのよ!」

立ち上がった人影の動作は、どうみても普通ではなかった。緩慢でぎこちない動きからは、自らの意思は感じられなかった。神官に呼び起こされた二・三十体の人影がゆっくりとこちらに近づくにつれ、彼らにどれほど悲惨な運命が訪れたのかが分かった。張り付いたままの苦悶の表情からは、生贄たちに与えられた恐怖と苦痛の激烈さが窺い知れた。


「なんて酷いことを・・・ おお、神よ。彼らの魂を救いたまえ。」

祈りの言葉をつぶやいたシンシアだったが、次の瞬間、捜し求めていた顔を見つけて悲鳴を上げた。

「イアヤーッッ!アリス!どうしてあなたが・・・ 」

「オイッ!しっかりしろ!気持ちはわかるが、今はあいつらを何とかしなけりゃ、俺達も向こうの仲間入りなんだぞ!」

ダニエルは泣き崩れるシンシアの両肩を掴み、気持ちをしっかり持たせようと激しくゆさぶった。

そしてヘンリーに向かって叫ぶ。


「ハリー!そっちは未だかよ!早いとこドラゴンに助っ人してもらわないと手遅れになるぞ!」

「すまない。剣が鎖に食い込んで外れない!無理すると折れそうだ。」

「馬鹿野郎!ミスリルの剣がお前の力ごときで折れるもんか!ん? ちょっと待てよ・・・」ダニエルはリュックに手を突っ込んで何かを探した。


「本当に、どいつもこいつも手間をかけさせやがって・・・ そら、こいつを挟まっている部分に差せばイチコロだぜ。」そう言って小さな壺をヘンリーに投げて寄越した。

「おっ、油か。助かるよ。」

早速ヘンリーが油を数滴垂らすと、剣は嘘のようにすんなりと抜けた。

彼は即座に剣を振りかぶり、今度は渾身の力を込めて鎖に切りつけた。

金属を切る感覚に続いて、今までに経験したことがない不思議な手ごたえを感じて剣は止まった。


この剣を初めて手にした際に感じたものとは比較にならない強烈な悪寒を感じると、大きな衝撃を受けて後ろにはじき飛ばされた。

「どうしたんだ、ハリー!大丈夫なのか?」

ヘンリーが我に帰ると、手には未だ剣が握られており、ドラゴンの胴に開いた傷口からは赤い血がゆっくりと流れ落ちていた。


”すみません。大丈夫ですか?”

ヘンリーが立ち上がりながら謝罪すると、憂いを含んだドラゴンの声が頭に響いた。

”ハリーよ、その剣は魂を喰らう魔剣のようだ。正しくは、切りつけた相手の生体エネルギーを奪って剣自身とその所有者に与えるものだ。私の体にその刃が打ち込まれた瞬間、そなたも私からエネルギーが流れ込むのを感じたのではないか?」


”はい、大きな衝撃を感じました。しかし、先の戦いでは剣を手にしたときに悪寒を感じただけでしたが。”

”相手から奪ったエネルギーを自分のものとして利用することができれば、理論的には疲れを知らずに永遠に戦ったり、際限なく魔法を行使したりすることも可能だ。但し、この剣の場合、使用者には相手の自我や精神、つまり魂の本質が強く作用する。獣ばかりを相手にすれば、使用者の知性や理性が次第に減退するし、善人ばかりを切れば極悪人であったとしても、善性に目覚める可能性がある。倒した相手の魂に影響されることなく強く自我を保つ精神力がなければ、いつかは自我を失い、剣の欲するままに殺戮を繰り返す魔王となろう。幸いなことに、傀儡人形共は自我を破壊され、精神エネルギーは持っておらぬ。傀儡相手であらば、何の変哲もないミスリルの剣として振るうことができよう。」


そのとき、ダニエルの叫びが聞こえた。


ドラゴンをも縛める魔法の鎖。

大昔に世界を席巻しながら滅んでしまった魔道帝国の遺産です。

改めて滅びの原因やその遺産について語ることもあると思います。


さて次回は、遂に〇〇〇〇ゾンビ登場。

そして、〇〇〇〇が重大なピンチに陥ることに。


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