表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖竜王のサガ  作者: whisky
冒険の始まり
8/200

邪神復活

天幕は一人用のものだったので、皆で横になって休養することはできなかった。

ダニエルは、ヘンリーの治療が第一だから魔力回復に努めるべき、と説得してシンシアを寝かしつけた。「怪我しているのに外で寝かせて悪いな。」と謝るダニエルに、当然だろうとヘンリーが返す。

二人は外で見張りをしながら交代で睡眠を取ったが、心配されたヘンリーの発熱も大した事はなく、静かに時は過ぎていった。


若さの賜物か、翌朝には皆、満足のいく状態まで回復しており、これなら今日の冒険にも安心して臨めることだろう。

改めて治癒呪文ヒールをかけてもらって傷が完治したヘンリーは、昨夜使ったミスリルの剣を手にすると、体の具合を確認するかのように剣術の型をなぞらえて振る。

そして、ひとしきりの型を試し終えると、持ち主であるドワーフの遺骸の元に赴いた。


「ドワーフの勇者よ。しばしこの名剣をお借りするが、許されよ。あなた方を石棺にお戻しすべきところですが、我らは先を急がねばならない身、このまま出立することをお許しいただきたい。」

そう言うと、鞘を遺骸から静かに外して剣を収めた。

シンシアが祈祷を行い、他の二人も頭を垂れて祈りを捧げる。


今日も念話は通じず、昨日の状況から悪い予想ばかりが脳裏に浮かんだが、二人にはそのような不安を微塵も感じさせないように努めて明るく語りかけた。

「さあ、目的地は近い。元気を出して進もう。」



霊廟の先は細い一本道になっており、最早ドワーフの王国の圏外なのか、舗装等もない単なる自然の洞窟だった。

更なる罠や魔物の出現も予想されるため、ヘンリー達一行は慎重に進む。

幸いなことに何事も起こることなく一時間程進んだ頃、突然、眼前に巨大な空間が現れた。諸所に松明が燃えているおかげで、全体の様子が不十分ではあるものの見渡すことができる。


二・三百メートル程先には一際多くの松明が輝く場所があり、どうやら巨大な祭壇らしきものが築かれているようだった。祭壇の背後には、翼のある蛇か竜と悪魔が合体したような姿をした、高さが10メートルはありそうな像が屹立している。

その辺りは天井が無く開口しているのか空が見えており、陽光が直接差し込んでいる訳ではなく薄暗かったものの、何が行われているのかを眺望することができた。


動く者は儀式を行っているらしいローブを纏った一人の人影のみ。

祭壇から数十メートル離れた周囲には、奥の方にはいくつかの黒っぽい小山と、手前の方には眩しく光を反射して輝く三つの小山があった。


「やったぞ。どうやらここが終点のようだ。さて、どうしたものかな。」

岩陰に身を潜めながら、これからの行動を話し合おうとするが、他の二人は興奮が隠せない様子だった。

「すげえな、奴が邪悪な黒魔道士なのか?」

「どう見ても邪教の儀式じゃないの!」


「おいおい、ここまできてお気楽なものだ。」

どこか嬉しそうな二人の様子にヘンリーが呆れていると、ふいに頭の中に念話が響いた。

”ああ、ハリー。来てくれたのですね。”

昨日新たに感じた念話の主のようだ。

「静かにしろ。念話が聞こえるんだ。」ヘンリーは二人に注意すると意識を集中させた。


”応答がなかったので心配していました。大丈夫なのですか?”

”黒魔術の儀式が進み、我々の意識は薄れ、離れたところに思念を飛ばすことが難しくなったのだ。もう時間が無い。このままでは邪神バルガルムンドが復活し、世界のことわりは破壊され、全ての生命は邪神の生贄となるであろう。”

今度は聞きなれた念話が脳裏に響いた。


”邪神バルガルムンド!?何者です、それは!?ただの黒魔術の儀式ではなかったのですか?”

思いもよらない邪神という言葉に、ヘンリーがあわてて問い返す。


”先ずはそなたらに詫びを申さねばなるまい。邪神の名を告げた場合、そなたらの助力が得られぬ可能性を恐れたのだ。邪神が復活すれば、世界は暗黒の時代を迎え、崩壊し始めるだろう。なんとしても阻止しなければならないのだ。”


事の重大さと、あまりにも達成が困難な目的に、ヘンリーは慌てて反論する。

”私達のような若輩者に、そんな重大な使命が果たせる道理もありません。申し訳ありませんが、仲間の命を危険にさらす訳にはいかない!”


“今、ここで!バルガルムンドの復活を阻止できなければ、早晩お前たちは皆、死に絶えることとなろう。それにハリー、我らがそなたに期待したのには理由がある。”

皆死に絶えると言われては、このまま立ち去ることも難しく思え、強烈な焦燥感と絶望に襲われた。

今すぐ全てを放り出して逃げ出したいところだが、ヘンリーに染み付いた騎士道精神が、大切な仲間の存在が、それを許さない。


”今更何を言われてもという気分ですが、一応伺いましょうか。”

”ハリー、そなたから特別な波動を感じたのだ。不思議には思わないのか?なぜそなたにだけ我らの念話が届くのか。”

”なるほど・・・ では、あなた方は、私になにか特別な力があるとでも?私達に勝算があるとお考えなのでしょうか?”

”そなたの力が今この状況を打開するために役立つか否かは別として、勝算はあると言えよう。”


想像を絶する話の展開にすっかり困惑し、正常な判断を行える自信は到底持てなかった。しかし、手をこまねいて何もしないという選択が許される状況でないことだけは分る。

こうなった上は相手の話を聞いて少しでも情報を集め、最善と思える判断を下せるよう努力する他ないだろう。


”あなた方はいずこに居られるのか?

全ては、お会いしてあなた方の正体を明らかにしていただいた上で、その勝算とやらをお聞きしてからです。”


”我らは、祭壇の近くに捕らわれている。”

ヘンリーが祭壇の方向に目を凝らすと、輝く小山の一つから上に伸びるものがあった。

こちらからは逆光なので、シルエットしか判別できない。

ヘンリーは、人外の生き物についての知識がありそうなダニエルに尋ねた。

「おい、ダニー。あれは何だと思う?あの光る塊から伸びているものさ。何かの首みたいだが。」


「まさか!」シンシアが鋭く声を上げた。

「あれはドラゴンではなくて?教会の書庫にあった本の挿絵と同じよ。でも、本当に存在するなんて。」

同意したダニエルも続いて叫ぶ。

「どうしてそんなものがここにいるんだ!?あんな怪物に効く魔法なんて、俺達みたいな駆け出しが持ってる訳ないだろ!」


ヘンリーが念話で確認する。

”あなた方はドラゴンなのですか?”

”そうだ。我々は竜族だ。邪神バルガルムンドの復活を企む黒魔道師バランドールの卑劣な罠に落ち、捕らえられた。かの者は、邪神を再び現世うつしよに降臨させるための‘依り代’を創り出すために、我々の生命エネルギーと精神エネルギーを欲しておる。”


「みんな落ち着け。あのドラゴンが声の主で、どうやら邪神復活の生贄にされようとしているみたいだ。」

二人は、ドラゴンという強大な魔物の出現に加え邪神復活という言葉にすっかり動転し、何も考えることができなくなってしまった。

短くはなかった沈黙が流れた後、ようやく少し思考力を取り戻したシンシアが静かに尋ねた。

「アリスもそこにいるのね?」

「分からない。尋ねてみよう。」


”ご無礼は承知で、あなたのことは竜の王と呼ばせていただきます。竜の王よ、人間の生贄も一緒でしょうか?”

”残念なことではあるが、捕らえられていた人間達は既に、生けるゾンビと変わり果てた。我々を精神支配するための魔力を補充するために、黒魔道士によって精神エネルギーを吸い尽くされたのだ。”


最悪の結果に、ヘンリーは大きな失望と怒りを覚える。


”竜族6人のエネルギーを注入すれば、邪神が降臨するための依り代は完成するのだが、既に3人の竜族が犠牲となった。ハリーよ。事体は切迫しておるのだ。”


「シンシア、気を強くもって聞いてくれ。人間は全て生贄として、生けるゾンビにされてしまったそうだ。すまない、俺にもう少し力があれば・・・」

「ああ、かわいそうなアリス。ゾンビにされてしまったなんて。」

シンシアは、必死で嗚咽が漏れそうになる口元を抑えながら続けた。

「決してハリーのせいではないわ。私達はできるだけのことはやったのよ。でも邪神の復活なんて、神様が断じてお許しにならないわ!アリス達の魂に平安をもたらして神の御許に送ってあげるためにも、邪悪な企みを阻止しなければ。そうでしょ?ハリー、ダニー!」


「なあ、シンシア。気持ちは痛いほどわかるけど、竜に黒魔道士、その上邪神だぜ?俺達なんかが挑んだところで、ネズミが狼に喧嘩を売るようなもんだ。まず間違いなく一瞬でお陀仏さ。悪いことは言わないから、救援を呼びに戻ろう。ハリー、お前からも言ってやれよ。どんなに崇高な目的があったとしても、果たせずに死んじまうなら、それは無駄死にってもんだ。力ずくでも連れて返ろうぜ。」


二人のやり取りを聞きながらも、ヘンリーは冷静にどのように対処することが最善なのかを考えていた。

そして竜の王に語りかけた。

”勝算があるとおっしゃいましたが、邪神の復活を阻止することは本当にできるのですか?そもそも、あなたがたは優れた能力をお持ちであるのに、なぜ手を拱いているのです?”


”我々は、いにしえの魔道帝国で創り出された竜を縛める魔法の鎖の効力によって、この場より動けぬのだ。

邪神の復活を阻止する方法は三つある。第一は邪神復活の儀式を行っている神官を倒すことだが、失礼ながらそなた達の力では不可能であろう。第二は、邪神の復活に欠かせない私達残りの3人のエネルギーを渡さないこと。最も確実であるのは命を絶つことだが、それもそなた達の武器や魔法では不可能だ。唯一可能性があるのは、そなたが我々の縛めを解き自由にすること。我らの力をもってすれば、かの魔道士に対抗することは可能だ。”


“どうすればあなた方を解放することができるのでしょうか?”

“我々を縛める魔法の鎖は、そなたが所持するミスリルの剣であれば断つことが可能だ。”


ヘンリーは決断した。


次は、いよいよドラゴン救出作戦?の始まりです。

まだまだ黒魔道士との対決には至りませんが、ご容赦ください。


一応、結末までの構想は完了しており、設定も山盛り作ってあります。

3人の運命も決めております。

信長公記や太閤記みたいな感じを目指しているので、基本ヘンリーが成長し頂点に立つ様子を物語るものです。

まあ、信長にうつけ時代があり、秀吉に草履取時代があったように、ヘンリーも騎士見習から徐々にのし上がっていきます。

序盤はなかなか盛り上がらないかもしれませんが、温かく見守っていただければ幸いです。

徐々に敵味方共、登場人物も増えていきますので、どうぞお楽しみに。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ